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プロジェクト始動から4年…国土交通省が主導する「PLATEAU」の活用事例とは?

2024.03.28(最終更新日:2024.03.28)

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スマートシティや街づくりのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるため、現実の地図や建物のデータを使ってサイバー空間に再現する3D都市モデルを作るプロジェクト「PLATEAU」(プラトー)をご存じでしょうか? 2020年度から国土交通省が主導してスタートした国家的なプロジェクトです。

例えば、竹中工務店、日立製作所、gluonは、3社共同で、超高齢化や労働人口の減少を背景に期待されている「屋内外でのパーソナルモビリティの自律走行」の実用化を見据え、自律走行の開発と走行の実証実験のために、実在の街を仮想空間に作るデジタルツイン構築に本格的に取り組むことを発表。そこにPLATEAUの3D都市モデルを活用しています。

また、国交省はアイデアコンテストも積極的に開催。昨年度に続き、2023年度の最終審査会を2024年2月24日に開催しました。

PLATEAUプロジェクト始動から4年がたった今、どのような活用事例があるのか、その最前線を解説します。

デジタルツインの重要性と一般活用事例

なぜ国交省が3D都市データを無償で提供してまで、現実の都市をサイバー空間に再現するデジタルツインの活用を推進するのか、疑問に感じている人も多いかもしれません。ICT関連のニュースの見出しに「メタバース」や「デジタルツイン」というキーワードをよく目にするようになりましたが、実はその重要性や将来性に気づいている人はまだ多くはありません。3D都市モデルと様々なデータを組み合わせて活用することで都市スケールでのシミュレーションやアナライズ(分析)が可能になるのです。

モビリティの自動運転に3D都市モデルを活用

例えば、今後の社会には自動運転バスや自動運転タクシー、デリバリーロボットの普及が期待されていることは広く知られているところですが、自動運転を制御するAIシステムの精度を向上するのに重要なのは実在の街や道路での走行を練習するためのトレーニングです。

仮に新宿から渋谷までの自動運転バスをトレーニングする場合、人間が、実在の街中で運転してカメラ映像やセンサー情報を収集しながらAI向けの走行学習用データを作成しますが、朝と夜では街の様子は異なりますし、人の流れ、自動車や自転車の交通量も異なります。また、あらゆる天候条件を考えると無数のパターンが必要になります。これには膨大な時間とコストがかかります。そして、どんな場合に事故が起こるのかを経験させたり、事故を回避させたりするテストも行う必要がありますが、実在の人や自転車、他の車両を対象に実験してみる、というわけにはいきません。

そこで有効になるのが新宿から渋谷エリアの3D都市データを基に構築したデジタルツインです。実際と同じ3D都市の中で自動運転バスやデリバリーロボットが安全に走行し、どんなときに事故が起こるのかをシミュレーションします。時間帯や天候、路上駐車や工事、人や自転車が飛び出すなど多くのケースを想定して、仮想空間上で24時間さまざまなシミュレーションを繰り返すことで、AIは安定した運転を学習し、上達するのです。

リアルの都市空間をデジタル上で構築し、デジタル上のシミュレーションやコンテンツをリアル空間へフィードバックする相互連携によって大きなメリットが生まれる(出典:アクセンチュア)

電波のシミュレーションや分析に活用

これまで、電波は目に見えないため、スマートフォンの電波やローカル5G、Wi-Fiなど、電波が届くエリアや減衰の調査は実際に人が地域やシチュエーションによってその都度、測定して行っていました。5Gや今後、さらに高い周波数を使って展開していく「Beyond 5G」や「6G」では、電波の直進性が高く、障害物に弱いため、研究者や開発者にも電波到達エリアの実際は予測できません。こんなケースにもデジタルツインは有効です。現在は基地局から電波の方向や届く範囲を可視化し、回折、障害物など、計算上のデータを仮想空間に反映することで、実在する3D空間の都市モデル上で通信速度や減衰の度合いなど、高精度のシミュレーションができるようになってきました。これによって、基地局をどこに設置すれば効率的か、人流によって電波干渉や減衰、遅延がどの程度影響するかを机上で推定できます。

PLATEAUのデータ活用例

モビリティの自律走行モデル開発

冒頭で紹介した、竹中工務店、日立製作所、gluonによるパーソナルモビリティのPLATEAUの3D都市データを活用した自律走行のAIモデルの開発には東京大学生産技術研究所やOsaka Metroなども協力しており、その意義の高さを表しています。

PLATEAUの3D都市データを活用して、最初はひとつの都市で安定した走行AIモデルを開発し、モビリティの実用化が成功すれば、PLATEAUが提供する都市データで地域を拡大したり、その他の都市に比較的短時間で展開したりすることができるでしょう。

「都市空間の統合デジタルツインの構築」イメージ(出典:PLATEAU公式サイト)
デジタルツイン(右画面)を基にしたパーソナルモビリティ運用の実証実験(左画面)の様子 (出典:PLATEAU公式サイト)
パーソナルモビリティ運用システム(出典:PLATEAU公式サイト)

大型工事車両の交通シミュレーション

なお、竹中工務店は「工事車両の交通シミュレーション」(工事車両の交通シミュレーター)も開発しました。工事車両や工事関係者の通勤車両によって、工事現場付近の交通渋滞が発生する場合があります。また、地域住民が抱く安全や騒音に対する不安や、それらに起因するトラブルを避けるために、周辺への影響を考慮しつつ、建設工事のスケジュール遅延防止のために人員や資材を工事現場へ計画通りに工事車両を搬入する最適な経路をシミュレーションします。

「工事車両の交通シミュレーション」工事車両が回避すべきルートを3次元環境でシミュレーションし、地域住民に配慮した最短・最適なルートを導出(出典:アクセンチュア)
車両集中日の各車両通行ルートから交通影響箇所を特定(出典:PLATEAU公式サイト)

観光振興のためのAR案内、店舗案内などに

観光振興のために、店舗や観光地をARやVRで解説したり、案内したりするスマホアプリを開発したいという地方自治体や観光協会、商店街もあります。こうしたアプリの開発も実際の街と連動したものを作るには建物の情報を含む地図データや位置情報などが必要になりますが、PLATEAUが提供する3D都市データを活用すればローコストで開発に着手することができます。

国交省がPLATEAUを実施している背景には、これら企業や自治体が新技術の開発コストを削減し、開発期間(開発のための工数)を短縮し、実用化を後押ししたいという考えもあります。これは「まちづくりのDX」による大きなメリットのひとつです。

PLATEAUの概要と意義

PLATEAUでは2021年度、全国56都市をオープンデータ化。さらに2022年度は新たに全国71都市の3D都市モデルのオープンデータを追加しました。どこの都市が提供されているかはPLATEAUの「Open Data」ページで確認することができます。

PLATEAU自体のホームページは国交省のサイト内に設置され、情報や都市データの提供が行われています。初めて3D都市モデルを使う技術者の活用方法を解説するPLATEAU技術チュートリアルも用意されています。さらにはユースケース(活用事例)も細かく紹介されています。

例えば、保険会社による、交通事故発生リスクのAI評価・可視化による事故の未然防止、災害シミュレーションやARを活用した災害リスク可視化ツール、高度な浸水シミュレーションなどの災害対策関連、防犯設備設置計画支援ツール、ドローン自律飛行や最適ルートのナビゲーション、市民参加型まちづくりの促進ツールなどが掲載されています。

横浜で実施された「オープントップバスと組み合わせたXR観光バスツアー」(観光庁/京浜急行電鉄/シナスタジア/ネイキッド)に『PLATEAUの3D都市データが活用されています。

京急のオープントップバス横浜 NAKED XR TOURのイメージ(出典:PLATEAU公式サイト)
未来のみなとみらいの街並みをイメージしたシーン(出典:PLATEAU公式サイト)

また、「空間認識技術を活用したAR観光ガイド」(JTB/JTB総合研究所/凸版印刷)は画像から現在の位置を推定するARガイドアプリを2021年に開発しました。画像から現在の位置を推定するVPS技術に3D都市モデルのデータを用いています。JTBは「観光産業などにおいて地域経済のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援したい」としています。

「空間認識技術を活用したAR観光ガイド」のイメージ(出典:PLATEAU公式サイト)

なお、PLATEAUには全国の3D都市モデルの整備を促進する「スマートシティ官民連携プラットフォームの分科会」として設置されていて、地方自治体96団体と民間企業112団体の約200団体が参画しています。

PLATEAUのアイデアコンテストを毎年開催

国交省はPLATEAUによるイノベーションを推進するため、アイデアコンテストも積極的に開催しています。第1回目の2022年度に引き続き、第2回目の開催となる、2023年度「PLATEAU AWARD 2023」最終審査会を2024年2月24日に開催。グランプリには、PLATEAUの3D都市モデルを汎用的なプログラミング言語「Python」で手軽に扱うためのライブラリとコーディング環境を構築する「PlateauKit + PlateauLab」(小関 健太郎さん)が選ばれ、賞金100万円が授与されました。

「PLATEAU AWARD 2023」でグランプリを受賞した小関健太郎さん。本業は東京大学で哲学の研究をしている(博士/哲学、修士/工学)。(出典:著者 「PLATEAU AWARD 2023」最終審査会より)

ちなみに、2022年度のグランプリには、特定の都市や観光名所など、実在の街を「デジタルスノードーム」に入れる「snow city」(シマエナガさん)が選出されています。

「PLATEAU AWARD 2022」でグランプリを受賞したデジタルスノードーム「snow city」(出典:著者 「PLATEAU AWARD 2022」最終審査会より)

合計2回のコンテストを通じて、ゲームやエンタテインメント性の高い作品も多く見られました。一方で、大林組はPLATEAUの3D都市データを活用したドローン運用の情報プラットフォームを構築。将来、街を多数の物流ドローンが飛び交う未来を想定し、ドローンの飛行経路計画(国交省のドローン情報基盤システム「DIPS」連携)や飛行規制領域の3D表示、飛行申請の情報共有、複数のドローンが交錯して飛行する場合に事故を避ける飛行ルートの策定などを行うことかできるものを提案し、「データ活用賞」を受賞しました。

高まるPLATEAUの存在意義

「5Gの最大の功績は、モバイルでもバーチャルとフィジカル(リアル)を連携できるようになったこと」とも言われています。あらゆる産業に活用できるデジタルツインの運用はすでに本格的に始まりつつあります。その上で、デジタルツインの活用を容易にし、実用化を促進する国交省PLATEAUの存在意義はとても大きいと感じています。



<著者>
神崎洋治
TRISEC International代表取締役

ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。