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「溺れそうな人」を自動検知!プールや海での不幸な水難事故を防ぐ、最新AI技術に迫る

2024.04.01(最終更新日:2024.04.01)

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多くの人が水辺のレジャーやスポーツの時間を楽しむ一方で、毎年多くの水難事故が発生しています。しかし、近年ではAIの技術が進化し、水難事故の防止に大きな役割を担いつつあります。中央大学の研究開発機構が開発した最新技術は、プールや海辺での安全管理や水難事故を効果的に防ぐ手段として注目を集めました。そこで今回は、水難事故防止のAI活用の現状と、今後のさらなる技術の応用を紹介します。

人による監視だけでは限界がある

水辺での楽しい時間を一瞬にして奪ってしまうのが水難事故です。では、なぜ溺れている人に気付くことが難しいのでしょうか。その理由の1つには、溺水事故の多くは静かに起きるという特徴にあります。

溺れている人は、大きな声を出して助けを呼ぶイメージがあると思いますが、多くの事例から、実際は呼吸をするのに精一杯で声をあげる余裕がないことがわかっています。音を立てることなく、無言で沈んでしまうことがほとんどなのです。そのため、「近くにいればすぐに気付ける」「普段の様子と違えばすぐに気付ける」と安易に考えるのは非常に危険です。

また、子どもが溺れるケースでは、遊んでいるようにしか見えなかったり、保護者がほかのことに集中していたりしていたことなどが、気付くタイミングが遅れる理由といわれています。

ライフセーバーや監視員の目があれば安全かというと、そうとも限りません。人による監視だけで溺れている人を即座に見つけ出すことは、困難を伴います。水難事故を防ぐためには監視員の存在は重要ですが、真上から見ないと溺れていることがわからず、発見が遅れてしまうことも。

また、プールの場合、プールサイドから見ると水面が揺れているため、顔がゆがんで見え、監視員からは笑っているように映ることもあるようです。海では1人のライフセーバーが1,000人以上の海水浴客を監視することもあり得るため、溺れている人に気付くことは容易ではありません。

水辺でのレジャーを楽しむためには、周囲の状況を注意深く監視し、正しい知識を持ってライフジャケットなどの準備をすることが大切です。そうはいっても、楽しい時間に一瞬も気を緩めずに注意力を保ち続けることは難しいでしょう。

AIによるプールの見守りシステムを開発

人による監視だけで水難事故を防ぐことは困難ななか、水難事故の防止や救助に役立つ新たなAI技術が開発されています。

溺れる「前」にAIが検知

注目されているのが、中央大学研究開発機構の石川仁憲機構教授などの研究グループが開発した技術。この技術では人が溺れる前の特徴的な動きや、経験豊富なライフセーバーから得たリスクの高い状況などをAIが学習しています。

プールに設置されたカメラの映像をAIがリアルタイムで分析し、溺れる可能性がある人を検知すると監視員のスマートウォッチに自動で通知。それによって迅速な救助を実現しました。

さらに過去の事故データから学習することで、遊具の下に人が入る、浮き輪がひっくり返るなど、水難事故につながる状況も検知できます。これにより、溺れる事故を未然に防ぐだけでなく、事故が起きる原因を事前に把握して予防策を講じることも可能になります。

顔認証とAIで溺れた人を検知する最新監視カメラ

監視カメラメーカーのダイワ通信株式会社と、フィットネスクラブを運営する株式会社エイムは「Face Discovery」を共同で開発。昨年から実証実験を開始しました。

プールの入り口に設置した顔認証端末で利用者を識別し、プールエリアに設置された防犯カメラで一定時間顔を認識できない利用者が出現した場合、監視員に通知されるシステムです。ゴーグルや帽子を着用するプール利用者を正確に把握できるようにするなど、水難事故を防止するための改善が進められています。

現在は室内プールから実証実験が始められていますが、今後は学校や公共の屋外プールにも広まることが期待されます。これらのシステムが監視員の補助的役割を担ってくれることで、プールの安全性が向上していくのではないでしょうか。

AIが「離岸流」をリアルタイムで検知して早期救助につなげる

水難事故を防ぐためにAIが活用されているのはプールだけではありません。こちらも中央大学研究開発機構の石川仁憲機構教授らによって、離岸流が原因による水難事故を予防する技術が開発されています。

離岸流とは、岸に打ち寄せた海水が沖へ戻ろうとして発生する強い潮の流れのことです。白波が立っていない一見穏やかで安全そうな場所でも離岸流は発生し、海で溺れる原因の半数近くを離岸流が占めています。離岸流は秒速2m(早歩きくらいの速さ)で流されるため、水泳選手でも流れに逆らって岸に戻ることは困難。そこで、このような危険な状況を把握する「海辺のみまもりシステム」が開発されました。

海辺のみまもりシステムでは、カメラが1秒間に3枚ほどの画像を撮影。AIがリアルタイムでこれらのデータを解析し、離岸流の発生を検知します。離岸流を検知し、海水浴客が沖に流されていることがわかると自動でライフセーバーのスマートウォッチに救助を要請。早期の救助救命を可能にしています。

同システムの効果は実証済みで、沖に流されて溺れ始めた海水浴客を検知してから、50秒以内に救助を行うことに成功しました。人は溺れ始めてから40~60秒で沈むといわれているので、早期救助のために大きな役割を担うことが期待されます。

海辺のみまもりシステムは、千葉県御宿中央(2019年~)、宮崎県青島(2020年~)、福井県若狭和田(2021年~)、神奈川県由比ガ浜(2022年~)などで導入されています。千葉県と宮崎県合わせて、2ヵ月で2,500件以上離岸流の通報があり、水難事故防止に大きな効果を発揮しています。なお、離岸流発生エリアへの人の立ち入り検知の適合率は95.5%を誇っています。

福井県若狭和田ビーチでは、4台のカメラで離岸流の発生を検知。ライフセーバーに通報するとともに、離岸流や沖向きの風の発生をSNSやデジタルサイネージを通じて海水浴客にも伝えています。

また、海辺のみまもりシステムが設置されているビーチでは、アプリをダウンロードすることで海岸の状況や離岸流、オフショア※の発生を知ることが可能です。ライフセーバーだけでなく海水浴客も状況を知ることで、誰もが水難事故防止に関わることができます。

※ 岸から海に向かって吹く風のこと

人の「大丈夫だろう」を補うAI

慣れ親しんだ場所では、「ここでは水難事故が発生したことがない」「ここは安全な場所だから大丈夫だろう」などの先入観がありますが、AIは客観的な視点で危険を知らせてくれます。実際に千葉県の御宿ビーチでは、過去に離岸流がほとんどないとされる場所でもAIが離岸流を検知したそうです。

AI技術による水難事故防止は、監視員やライフセーバーなど人の監視だけでは難しいところまでカバーしてくれる、命を守る手段として重要なものになっています。

今後も技術の進化が期待されるAIの活用により、水難事故の発生をさらに減らすための取り組みが進められていくでしょう。


吉田康介(フリーライター)