当社サイトでは、サイト機能の有効化やパフォーマンス測定、ソーシャルメディア機能のご提供、関連性の高いコンテンツ表示といった目的でCookieを使用しています。クリックして先に進むと、当社のCookieの使用を許可したことになります。Cookieを無効にする方法を含め、当社のCookieの使用については、こちらをお読みください。

AIブームの本命は「UI革命」にある…AIは私たちの社会、生活にどのような変革をもたらすのか?

2024.05.23(最終更新日:2024.05.23)

読了時間目安 10

シェアする

AIを使った新しい技術やサービスに関するニュースが毎日のように流れる今、実は私たちの社会や生活にどう関わってくるのかピンとこない人も少なくないのでは? まさに“AIブーム”と呼べる状況ですが、中国をはじめとする国際的なテック事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏はその本質は「ユーザーインターフェースの大転換」にあると言います。一体、どういうことなのか中国の事例を交えて紹介します。

AIによって私たちの生活はどう変わるのか?

簡単な指示を与えるだけでハイクオリティな動画が作られ、画像を読み込ませるとその画像に何が映っているのか解説してくれる、あるいは分厚い本の要約をあっという間に作りあげる……次々と発表されるAIの新機能に驚く一方で、自分の生活や仕事がどう変わるのか、具体的なイメージがどうもわかないという人は多いのではないでしょうか。

これはAIには限らず、新技術の台頭ではよくある話です。新しい技術が注目を集め、「なにかすごいことが起きそうだぞ」と騒がれ、しかし現実社会での活用はいまいち進まず幻滅される。ほとぼりが冷めたころにその技術は次第に社会に普及していく(ただし、最初に想定されたのとはちょっと別の形になっているかもしれません)。俗に「ハイプサイクル」と言われますが、多くの新技術は誕生から普及にかけてこのような展開をたどります。

というわけで今のAIブームにも必ず幻滅期があり、期待していたような形では普及しない可能性は大きいでしょう。ただ、現時点でかなり確度が高い、AIの定着を予測するならば、それは「ユーザーインターフェースの大転換」ではないでしょうか。

今や仕事にも生活にも欠かせない存在となったコンピューターですが、キーボードからマウス、そして持ち運べるコンピューターであるスマートフォンではタッチパネルとユーザーインターフェース(ユーザーと製品やサービスの接点)は大きく転換してきました。AIによって、チャット型の文字入力や音声入力というユーザーインターフェースに変わることが予想されています。

声で動かす「人・車・家」

この転換で世界をリードしているのが中国です。もっとも象徴的なのが自動車。どれだけ大きなディスプレイを搭載しているかを競っているのが中国車のトレンドですが、ゲームや動画視聴だけではなく、エアコンのオンオフ、電動座席の移動、車内の照明などのタッチパネルから操作できる機能が増えています。そして、ディスプレイを触らなくても同じことが音声操作でできるようになっています。

いや、車の中だけではありません。中国スマートフォンメーカー大手のシャオミは3月28日、初の自動車を発表しました。発売1週間で予約は10万台を突破するなど爆発的な売れ行きです。その売りの一つが「人車家エコシステム」。人間が持つスマートフォン、車の音声AIアシスタント、そして自宅のスマートスピーカーがシームレスに連携します。家のスマートスピーカーに「車のエアコンを入れておいて」と話しかけると、出発前に車内が冷えている。逆に車の中から「家の防犯カメラの映像を見せて」と話しかけるだけで、車内ディスプレイに映像が映し出されるといった機能が備わっています。

車とスマートホームという二つの分野を抑えているのはシャオミ以外ではファーウェイぐらいですが、音声入力で車をコントロールする機能は多くの自動車メーカーが積極的に取り入れています。そのソフトウェア・ベンダーとして注目を集めるのがシャオアイス(小冰)社。AIチャットボット「りんな」のコア技術を開発したことで、日本でも知られています。もともとはマイクロソフト・サーチテクノロジー・センター・アジアの一事業でしたが、2020年に独立します。現在はAIチャットボット・ソリューションを企業向けに販売する事業を進めていますが、広州汽車や長城汽車、北京汽車など自動車メーカーから多くの契約を獲得しています。

ハンドルから手を離せないという車の特性上から音声入力が車と相性が良いのは当然ですが、パソコンやスマートフォンでもチャットと音声入力が今後、存在感を高めることになりそうです。中国では生成AIサービスを公開するためには、政府に登記する必要があります。2024年4月時点で117ものAIが登記されているのですが、その中にはファーウェイ、シャオミ、OPPO、Vivo、Honorといったスマートフォンメーカーの名前がずらり。現在発売されているAIスマートフォンは翻訳や文字起こし、写真の加工などのAIを使った便利な機能が搭載されているということを意味しています。音声アシスタントもありますが、できることはかなり限られています。今年後半から来年にかけて出てくる新製品ではタッチパネルを操作しなくとも、かなり複雑な処理をAIがやってくれるようになると予想されています。

AIとのおしゃべりが仕事に

各種サービスにも音声入力AIというインターフェイスが導入されていきます。中国のAI登記を見ると、金融サービスや旅行予約サイト、不動産仲介企業なども並んでいます。

不動産仲介業者の貝殻找房(ベイクジャオファン)はデジタル店員の役割を果たすチャットボットの開発に取り組んでいるとのこと。

「どういう条件の部屋をお探しですか?」
「会社から30分以内」
「間取りは?」
「部屋は2LDK以上。近くにコンビニがないと嫌だ」

といった、不動産仲介業者とお話しながらめぼしい物件を探していくような作業を、スマホのAIチャット相手にやるようなサービスが開発されているとのこと。

これはAIがお客さんの相手をしてくれるというサービスですが、もう一歩進んで仕事のためにAIと対話するものもあります。配車アプリのDiDiは「出張で**に行くのだけど、手配よろしく」というだけで、移動手段からホテルまで全部プランを作って予約までしてくれるというAIを目標に開発しています。

また、中国検索大手バイドゥはチャット型AIを企業向けソリューションにも組み込んでいます。工場向け製品のデモを見ましたが、

「今月の生産量を表示して」
(グラフ表示)
「目標より遅れているけど、その理由は?」
(雨が多く作業が遅れた)
「年間計画達成のための改善策は?」
(人員を追加する必要あり)
「今までの内容をまとめて、人員追加の稟議書を作成して」

と、チャットだけで仕事を進めていく様子がアピールされていました。他にも新製品開発にあたって、「必要な材料は?」「類似製品は?」「その売上は?」などど、これまたチャットで仕事を進めていけるのだとか。さすがに現時点でこのデモどおりにうまくいくことはないと思いますが、コンピューターを操作するユーザーインターフェースの転換という点ではなるほどとうなずけるものでした。

UI革命でコンピューターがもっと簡単に

ChatGPTのような、さまざまな問題に対応できる汎用型の大規模なAIは開発に必要な資金も技術力もきわめて膨大で、簡単にできるものではありません。一方で、限られた分野での限定的な仕事をこなすAIの開発難度はそう高いものではありません。中国でも大企業や有力スタートアップによる汎用型のAI開発が続く一方で、より小規模なAIが数の上では中心となりつつあります。

日本でもこうしたAIの開発が進むことは間違いありません。世界的大企業がくり広げる最先端AIの開発競争に日本企業が追いつくのは難しくとも、各種のサービスや生活シーンに導入できるニッチなAIの開発は十分に可能だからです。AIがもたらすユーザーインターフェース転換は日本への到来もさほど遠くはないのではないと期待しています。

ユーザーインターフェースの歴史を振り返ると、転換のたびに操作のハードルが下がっていることがわかります。プログラミングが必須の時代にはまず勉強から始めないといけませんでしたが、マウスを使ったグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)ではぽちぽちしているうちになんとなく使えるようになったという人が大半に。タッチパネルのスマートフォンはさらに直感的です。チャットと音声入力の時代になると、より多くの人がコンピューターの機能を使えるようになりますし、すでに使っている人もより難しくて使いづらかった機能やサービスを使えるようになるのではないでしょうか。

<プロフィール>

高口 康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。