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AIに「仕事を奪われる」ではなく、AIが「新たな仕事を生み出す」時代へ

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.03.10(最終更新日:2023.03.28)

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着々と実用化が進むAI技術

人間の仕事は、いずれAI(人工知能)に奪われていく。近年のAIやITテクノロジーの著しい進化を見れば、そう危惧してしまうのも無理はないでしょう。

AIによって奪われる仕事、消えていく職業は何かといったテーマは度々メディアでも取り沙汰されています。(参考:【2023年最新版】AIを導入してもなくならない8つの職業とは?/)コンビニの無人レジやファミレスの配膳ロボットは、今後ますます導入が進む可能性があります。アメリカのサンフランシスコではすでに無人の完全自動タクシーが街を走っています。

昨年末にインターネット上で無料公開された対話AI「ChatGPT」の登場は、AI化が進んだ未来にぐっと近づく、大きな一歩のように思います。「ChatGPT」は疑問やキーワードを入力すれば、自然なコンテクストで適切な回答を返してくれるのです。従来の類似サービスより、人対人の会話コミュニケーションにおける再現性の高いプロダクトだと言えます。

この対話AIは、質問者に知識や情報を教えてくれるだけでなく、英文の校正や、論文の構成。さらに歌詞やフィクションの作成など、クリエイティブな作業も7カバーできます。いずれはGoogle検索に取って代わる、新たなインターフェースになる可能性を秘めています。

そのポテンシャルを証明するかのように、年明け早々、米マイクロソフトが「ChatGPT」を保有するAI研究団体「OpenAI」に100億ドル(約1.3兆円)を追加投資する方向で交渉中との報道がされました。マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏が、AIを自社製品に取り込み、進化させようとしていることはテック企業のみならず他の企業にも参考になる動きです。

人間の仕事はAIによって一方的に奪われ続けるのか?

このように最近のトピックスをざっと見渡すだけでも、単純作業や一般事務が今後はAIに置き換えられていく可能性は極めて高いことが見て取れます。

では、人間の仕事はAIによって一方的に奪われ続けるだけなのでしょうか? 

もちろん答えはNOです。なぜならいつの時代も、消えるものがあれば、必ず新たに誕生するものもあるからです。ビジネスパーソンが注視すべきは、AIや新たなテクノロジーによって淘汰されていくものではなく、それによって新たに生まれる領域を見極めることに他なりません。

端的に言えば、今後は知的労働がより高度化していくことが予測されます。

例えば、一昔前には「AIがもっと進化すれば、医師は不要になるだろう」という言説がまことしやかに囁かれていました。確かに、MRI画像の読影であれば、医師よりもビッグデータを解析した画像診断AIのほうが精度の高い診断をくだせるでしょう。

患者のその日の顔色や音声のトーンも、生体データを解析すれば、より正確に読み取れるようになるはずです。眼球の動きをトラッキングできるメガネ型端末が実用化されれば、脳の機能のはたらきやアルツハイマー症候群の兆候などもつかめるようになるでしょう。診断や医療行為のパーツが今後一つひとつ自動化されていくことは見込まれています。

けれども、それらを使いこなし、統合的に判断する医療従事者の役割は、やはり必要とされます。人間同士だからこそ与えられる安心感やコミュニケーションの価値は失われることなく、AI診断は普及し、AIの診断結果を使いこなせる医療従事者の需要がより高まっていくと考えられます。

今後はAIを使いこなせる人材が必要に

エンタテインメントの世界も同様です。設定を「ChatGPT」に入力してあらすじを考えてもらい、画像生成AIに描かせた絵と組み合わせたマンガ作品がすでにインターネット上ではいくつか出回っています。

マンガはいわばシナリオと作画の総合芸術ですが、これまではシナリオと作画の両方、もしくはどちらかの才能がなければ成り立たない職業でした。ところが、AIを使えばこれらの障壁が一気に低くなることが証明されたのです。

それでも、物語の源泉となるお題は人間が出すことは変わりませんから、AIをツールとして活用できる創作者が今後は続々と現れていくのではないでしょうか。少なくとも、創作という行為の裾野が格段に広がったことは間違いありません。

将棋の世界においては、すでに多くの棋士がAIを駆使して対局を分析しています。史上最年少で五冠を達成した棋士・藤井聡太氏は、AIソフトを使った研究を自らの棋力に取り入れています。周知のとおり華々しい活躍を見せています。

長時間労働で知られるエンジニア職も、今後は労働時間ではなく、「他の人が解けない難問を解ける人材」にこそ価値がより出てくるでしょう。労働という行為そのものの価値が、「1日8時間労働」という時間の長さではなく、「AIを活用してより高度な難問を解ける」ことに比重が変わっていくはずです。

AIに仕事を奪われるのではありません。
人間の能力を拡張する技術として、AIを利用していく術を、私たちは考えていくべきでしょう。

そうした視点でAIや最新テクノロジーに向き合えば、見える世界は変わります。AIの台頭によって自身が身を置く業界に新たに誕生する価値は何か、どこに新たなニーズがあるのか、AIが解析した結果をどうコミュニケーションに活用させられるか…。頭脳労働の高度化によって、人間がすべき仕事のレベルが上がる、と解釈するのが妥当でしょう。

「プロ野球の動画コンテンツ」という新たな試み

新しい技術によって誕生した取り組みの一例として、パ・リーグのNFT(非代替トークン)事業があります。

スポーツ業界といえば最先端テクノロジーとは縁遠いイメージがあるかもしれませんが、程遠いように見えるがゆえに、意外な組み合わせが価値を生む可能性も秘めています。

プロ野球パ・リーグ6球団の共同出資会社「パシフィックリーグマーケティング(PLM)」はメルカリと連携して、2021年からNFT事業を展開しています。

PLMが提供する「パ・リーグ Exciting Moments β(エキサイティング・モーメンツ・ベータ)」は、パ・リーグ6球団の試合映像から名場面やメモリアルシーンを捉えた動画コンテンツを数量限定で販売することで、その動画を自分だけのコレクションとできるサービスです。「あの名場面の特別な瞬間を動画で保有したい」という気持ちは、スポーツファンなら容易に理解できるでしょう。

現在はまだ販売がメインですが、2022年には期間限定で、動画コンテンツを購入した人に抽選で公式戦の始球式投球権を付与する試みも行われています。

近い将来は球場やスタジアム内にNFT保有者限定エリアを設けるなどの取り組みも行われるかもしれません。新型コロナウイルスの影響で一時は観客者数を制限しなければならなかったスポーツ業界にとって、新たな収入源となる可能性があります。

コンサル業はAIキュレーターに置き換わる?

知的労働者とAI、スポーツとNFTのように、掛け合わせることで新たな付加価値を見出していくビジネスは今後も着実に増えていくはずです。「まさかあの業界が?」と思われるような、デジタルテクノロジーやAIと縁遠そうに見える場所にこそ、ビジネスの需要は眠っています。

新しい技術ですから、もちろん最初からトントン拍子では進まなかったり、見当違いな組み合わせを作ってしまったりする事例が多発するのが普通でしょう。その意味では、新たな職業として、最先端のテクノロジーやAI技術を深く理解したうえで、各企業に適切にアテンドし、ビジネスチャンスと結びつける“テクノロジーキュレーター”のような役割を果たす人材が今後は需要が高まっていくかもしれません。

ゴールドラッシュで大儲けしたのは砂金を掘り当てた人たちではなく、彼らにつるはしやショベルを売った人たちでした。砂金=最先端のテクノロジーと捉えれば、同じ構図が繰り返されていきます。

AIや最先端テクノロジーを上手く利用することで、自分たちの可能性をどう広げられるのか。それを見出し、行動した人にこそ、ビジネスのチャンスは巡ってくるはずです。

[プロフィール]

山本康正
パシフィックリーグマーケティング株式会社
テクノロジーアドバイザー

1981年、大阪府生まれ。東京大学大学院で修士号取得後、三菱東京UFJ 銀行(現・三菱UFJ 銀行)米州本部に就職。 その後、ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。卒業後にグーグル株式会社(Google Japan)に入社。大企業の幹部に対し、テクノロジーを活用したビジネスモデル変革等のデジタルトランスフォーメーションを支援する。現在はベンチャー投資家として活躍。日本企業やコーポレートベンチャーキャピタルへの助言なども行う。京都大学経営管理大学院客員教授。プロ野球のパ・リーグをデジタル技術等で支援するパシフィックリーグマーケティング株式会社にて、テクノロジーアドバイザー。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社現代新書)、『2025年を制覇する破壊的企業』(SB新書)など多数。