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あの有名絵画が実は…百発百中の真贋鑑定も可能に!? AIが防ぐ「贋作流通」

2024.01.24(最終更新日:2024.01.24)

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世界中で出回るコピー品。その種類は、絵画やトレーディングカード、ファッションブランドグッズなどあらゆるジャンルにおよびます。なかには贋作と知らず高価な値がつくことも。鑑定精度の高さがより一層強く求められるなか、現状のAI真贋鑑定サービスはどの程度の精度なのでしょうか? また、今後贋作の流通をAIの技術で防ぐことはできるのでしょうか?

絵画からトレーディングカードまで…さまざまな分野で活躍するAI真贋鑑定

ピーテル・パウル・ルーベンスは、「キリスト降架」や「パリスの審判」など、数々の名画を残した17世紀を代表する画家です。英国の「ナショナル・ギャラリー」には彼が描いたとされる「サムソンとデリラ」が所蔵され、10億円の値がついていました。しかし2021年、AIがこの名画を鑑定したところ「91.78%の確率で本物ではない」と判定されたのです。

今回AI鑑定をおこなったのは、スイスにあるArt Recognition社。これまでにルーベンス作と判明している148作品をスキャンし、AIに学習させました。AIが真贋を判定するポイントは、真作との筆致の特徴の一致です。「サムソンとデリラ」はほかの作品と筆致が一致しないとして本物ではないと判断されましたが、じつはこのAIを使った判定には疑問を呈する声もあります。

ルーベンスは、生涯でおよそ2,000作を残した多作の画家です。彼は工房を作り、弟子や助手との共同作業で作品を制作していました。そのためルーベンス本人が最初から最後まで一貫して描いた作品は少なく、どこかの段階で弟子や助手の手が加わっているものがほとんどです。もし「サムソンとデリラ」の下絵をルーベンスが描き、仕上げを弟子がおこなっていたとしたら…それは贋作といえるのでしょうか?

また、現在問題になっているのが「トレーディングカード」の贋作です。大人気カードゲーム「ポケモンカード」には1枚1億円もの値がつくケースもあるほど、高額で取引されています。ポケモンカードの贋作については、2023年7月に贋作を買取店に売却したとして逮捕者が出ました。

しかしそうとは気づかれず、市場に出回っている偽物も多数存在します。こうした流れを受けて、株式会社コレクテストは「VSS鑑定(ヴァリュースカウターサービス)」を提供。トレーディングカードの真贋鑑定をおこなうと同時に、カードのインターネット上の現在価格を明示してくれます。

VSS鑑定にはAI画像認証が用いられ、AI学習させた大量の画像データを元に客観的な鑑定を可能としています。ただし、すべてをAIのみで真贋鑑定するわけではありません。AIの鑑定に加えて、専門スタッフ3名のチェックを入れることで高精度の鑑定を実現しています。

ファッション業界における真贋鑑定の現在

昔から偽物が多く出回り、本物そっくりの「スーパーコピー」などが流通する高級ブランド品を含むファッション業界では、手軽なAI真贋鑑定サービスが活用されています。「FAKE BUSTERS」の「クイック鑑定」はユーザーが鑑定して欲しい商品をスマホで写真に撮り、送信するだけで48時間以内に鑑定結果が送られてくるというもの。

「クイック鑑定」はAIと鑑定チームによる鑑定を組み合わせ、高い精度を誇るのが特徴です。ただし鑑定証明書は発行してもらえず、鑑定結果についての保証はありません。確実な鑑定と保証を求めるなら、現物を郵送して鑑定してもらう「コンプリート鑑定」を依頼する必要があります。

フリマアプリにもAI真贋鑑定が搭載されているものがあります。スニーカーやストリートファッションに特化したフリマアプリ「UNSTREET」は、出品者の商品画像をAIが5秒で鑑定。あらかじめ学習した正規品のデータと商品画像を照合し、パスしたものだけが出品できます。さらに落札商品には取引が開始される前に、鑑定士による鑑定を実施。AIと鑑定士による2重チェックで、偽物が手元に届くリスクが限りなく少なくなります。

Eコマース業界が急成長するなか、コピー品が多く出回る中国では商品の真贋や権利の保護が問題視されています。高級品を購入する際に鑑定をすることが当たり前になるにつれ、鑑定士が不足する事態に。こうした背景から、AI真贋鑑定技術の開発が急ピッチで進んでいます。

たとえば、「図霊深視(TURING SENSE)」が提供する「図霊鑑定(TURING AI)」は、フリマアプリの「閑魚(Xianyu)」や決済サービス「支付宝(Alipay)」、オークションサイト、高級品専門のEコマースプラットフォームなどさまざまなプラットフォームに実装されているAI鑑定です。「図霊鑑定(TURING AI)」は2億点以上もの画像データを学習し、99%の高い鑑定精度を誇ります。

AI真贋鑑定は贋作の流通を食い止めることができるのか?

手を替え品を替え現れる「贋作」の流通を、AI技術で食い止めることは可能なのでしょうか。AIが鑑定をおこなうには、真作のデータを学習する必要があります。学習するデータが多ければ多いほど精度が向上するため、サンプル数が少ない場合は精度が落ちることは否めません。

トレーディングカードやブランド品など、世界に膨大な数の商品が流通しているものであればサンプル数を増やし精度を高めることは可能です。さらに専門の鑑定士のチェックを組み合わせることで100%に近い鑑定結果が出せるでしょう。実際に多くのAI真贋鑑定は高い鑑定精度を持ちながら、一部は人の目や感覚による鑑定にも頼っているのが現状です。トレーディングカード鑑定の「VSS鑑定」はその代表的なものといえます。

なかには現時点ですでに「完全AI鑑定」を謳うサービスもあり、今後ますますその精度の高さを各社が競い合っていくでしょう。

すべてをAIが担うことができれば鑑定にかかる時間が短縮され、アプリやWebでの真贋鑑定が加速すると考えられます。とくにフリマアプリへの出品や、買取店での利用拡大が期待できます。

しかし「サムソンとデリラ」の例のように、絵画の分野では現存するサンプル数が不足していることが多々あります。本来AIに画像を認識させるには何万ものデータが必要なため、数百のサンプルでは正確に学習することはできません。

サンプル数不足の問題を解決するためには、サンプルの取得方法や学習方法の工夫が必要です。

たとえばレンブラントの絵画解析で使われた方法では、1枚の絵画をAIが学習しやすいサイズや形に分割することでサンプル数を増やしました。また日本絵画の流派を特定するためには、一度学習したAIにさらにデータを上乗せし、再学習させる方法が採られました。

これは「ファインチューニング」という手法で、すでに「型」を知っている状態で再度同じ内容を学習し理解を深めるというもの。このように、絵画の分野でもさまざまな工夫のもと、AI真贋鑑定の精度は日々向上しています。

AI真贋鑑定の普及により、ファッションやホビー業界では買取時や購入時に偽物を見抜くことが可能になりました。また、アート業界では過去の作品に対する鑑定方法が日々研究され、AIによって贋作が暴かれることも増えています。AIの進化によって、贋作が市場から姿を消す未来が期待できるのではないでしょうか。



吉田康介(フリーライター)