ハミングするだけ!? 誰でも簡単に作曲できる、音楽の自動生成ソフト
現在、誰でも無料で作曲ができるソフトは数多く開発されています。たとえば「Humtap(ハムタップ)」は、人がハミングした声に楽器やアレンジを加えて曲を生成してくれるソフト。楽器不要で作曲が容易にできるほか、スマホのカメラロールからビデオや写真をアップロードして、思い出に音楽を追加することも可能です。
「Mubert(ミューバート)」は単語や文章で楽曲のイメージだけを伝えると、それを基に曲を自動生成。単語・文章を入力しなくても、ジャンルや利用目的・楽曲時間を指定すれば曲を作ってくれます。「Mubert」は日本語対応になっていないため、テキストは英語で入力する必要がありますが、翻訳ソフトなどを使用すれば問題なく使えます。
大学でも開発されている、賢すぎる作曲ソフト
京都大学では歌詞を入力するだけで作曲してくれる「CREEVO(クリーボ)」を開発。おまかせ作曲」と「デザイン作曲」の2つから選択して作曲ができます。「おまかせ作曲」は歌詞を入力すると自動で3タイプの曲を生成し、そのなかからお気に入りが選べる仕様。「デザイン作曲」は歌詞以外に楽器の種類やテンポ、コード進行などの詳細設定ができ、よりユーザーの希望に沿った楽曲が生成できます。
「CREEVO」はAIの学習方法としてよく知られる、ディープラーニング(数多くのデータを読み込ませる深層学習技術)を基本に開発されました。
東京大学では作曲家の模倣を目指した「Orpheus(オルフェウス)」というソフトが開発されています。「Orpheus」はディープラーニングではなく、音楽理論を確率モデルに組み込んだ設計。音大の学生が学ぶような音楽体系や、コード進行と旋律の関係を学習させるなどして開発されました。
「Orpheus」は自動作詞機能や二重奏機能もついており、楽譜の生成やダウンロードも可能となっています。
大阪大学では人間の脳波情報をベースに作曲するAIを開発。東京大学や京都大学のようにAIに勉強させるのではなく、一個人の脳情報から自動作曲をおこなうソフトです。脳波センサーはヘッドフォンと一体化した形状で、装着するだけで詳細な設定をせずとも勝手に作曲してくれます。感情モデルと合致した作曲ルールを形成するという独自の作曲方法で、将来的には「常に潜在能力を活性化させる独自の音楽」の作曲が期待されています。
「作曲」というと、素人にはなかなかハードルの高い特別なものでした。しかしこれらのソフトを使用することで、誰でも簡単に作曲ができる時代がやってきたのです。
AI作曲の普及によって起こる問題点
AIの機能は作曲以外に歌声の生成も可能となっています。2023年4月、TikTokerの@ghostwriterが、カナダ出身のラッパーであるドレイクとザ・ウィークエンドの声をAIで生成。楽曲「Heart on My Sleeve」を配信したところ、世界で何百万回も再生される事態に陥りました。配信者はUMG(ユニバーサル・ミュージック・グループ)から著作権の侵害を訴えられますが、「これは始まりに過ぎない」と発言。
Spotifyではこの事態を受け、AIを使用した楽曲の大量削除をおこなうなど大問題に発展しました。現在、この楽曲はあらゆる音楽ストリーミングサービスから削除されており視聴することはできません。
ちなみに現状はAIのみで作曲した楽曲に著作権はありませんが、人間の手を加えた楽曲に関しては著作権が認められています。ただ「どのくらい手を加えたのか」という具体的な規定はないため、これからも難しい問題になり得るといえるでしょう。
いろいろとクリアすべき問題はあるにせよ、もしAIで生成した楽曲が「新しい音楽のジャンル」となれば話は別かもしれません。アレンジや編曲を加えて別物の楽曲に仕立て上げる「リミックス」はほぼ原曲のコピーですが、オリジナル曲として世間に認められています。
AI作曲によって「みんなで1つの曲を作る」ことが可能に
AI作曲は「みんなで1つの曲を作る」ことも可能にしました。
2026年に三重県桑名市で開校予定の「私立多度学園」では、AIで作曲した校歌を採用することが決定しています。理研革新知能統合研究センターと情報経営イノベーション専門職大学が共同開発した、「超校歌~AIがつくるみんなの校歌」というソフトを用いて作曲されたというこちらの校歌。子供たちや保護者から校歌に入れたいキーワードを募って共同で作曲されました。もし自分の応募したキーワードが校歌に入っていたら、作詞家・作曲家の気持ちが味わえるかもしれません。
プロのクリエイターと高校生18人がタッグを組み、モーツァルトの新曲が作られたことも音楽の新しい可能性を感じさせます。「もしモーツァルトが生きていたらどんな新曲を作ったのか」というコンセプトのもと、Googleの開発したAI作曲ソフト「Magenta」を使用してアルバムが作成されました。歌詞はモーツァルトが生前に書いた手紙と最新のヒット曲をAIに学ばせて生成したそうです。故人の新曲をAIを用いて作曲する――。ひと昔前なら考えられないことでした。
AIは「ツール」として新しい音楽の世界を楽しむ
音楽業界でもAIを使った新しい試みがなされています。
2023年11月2日には、ビートルズの新曲「Now and Then」がAI技術によって現代に蘇りました。1980年にジョン・レノンが亡くなり、その後ダコタ・ハウスで録音されたデモテープがオノ・ヨーコからポールへ託されました。しかし1990年代当時の技術では、ピアノ音にかき消されたジョンの音声を抽出することは不可能だったといいます。AIの発達によってジョンの声だけを拾い再編集できるようになり、4人そろっての歌声が収められた新曲はファンを歓喜させました。
また、ルクセンブルクのスタートアップ企業が開発した「AIVA(エイヴァ)」も有名なAI作曲ソフトです。AIによって作曲した曲がルクセンブルクの国家創立記念日の祝賀会で披露されました。「AIVA」の創業者ピエール・バロー氏が「AIはツールであり、それを活用するのが人間」と断言しているように、AIをうまく利用することで文字どおり「音楽」を楽しむことができればそれ以上のことはないでしょう。
いまは亡き、昭和の名歌手の歌声を「歌声合成技術」を使って蘇らせることも可能になりました。生前の話し声や歌声を収録した音源から、伴奏音除去技術を用いてより高品質な音をAIに学ばせることができるのです。
なかには、こうした歌声のAI生成を「故人への冒とくだ」と感じる人もいます。AIと音楽が共存するうえで倫理観も欠かせない問題となってくるのは必然です。特別な能力を必要とせずとも、誰もが作曲できるようになった時代だからこそ、守らなければいけないものをより一層強く意識することが重要なのではないでしょうか。
[プロフィール]
吉田康介
フリーライター