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日本の未来を切り拓け!AI活用社会を生き抜く子供たちのための「STEM教育」

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2023.12.05(最終更新日:2023.12.05)

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世界各国で加速度的に進められている、AI開発やロボット開発。AI活用社会に向けて早急に考えなければいけないのが、IT・グローバル社会に適応できる子供たちの教育です。現在、「STEM教育」は世界各国で盛んにおこなわれていますが、日本は一足出遅れたと言わざるを得ません。そこで本記事では、日本におけるSTEM教育の現状の問題点と今後について解説します。

そもそも「STEM教育」とは?

STEM教育とは、理工学系分野の学習を総合的・横断的に学ばせる教育のこと。「STEM」は下記の頭文字を取った名称です。

Science(科学)
Technology(技術)
Engineering(工学)
Mathematics(数学)

それぞれの分野の垣根を越えて横断的に学ぶことが特徴のひとつに挙げられます。

「Science(科学)」は物理学や自然科学を含むもので、観察や実験を通してその法則性を見出す学問。データ解析などから問題の発見や解決能力を養います。

「Technology(技術)」は科学を利用したものづくりの学びです。プログラミングやソフトウェア開発履修により、未来のエンジニア不足の解消も期待されています。

「Engineering(工学)」は工業・産業における新製品や技術を研究する学問で、ロボット設計など実践的な学習が主体です。

「Mathematics(数学)」は数量を論理的に表したり使いこなしたりできる技術を習得します。

STEM教育はさまざまな社会問題と掛け合わせて枝分かれしているのも特徴です。たとえば「eSTEM教育」は、環境問題(Environmental education)を掛け合わせた教育です。異常気象などの自然環境からIT社会におけるネット環境まで、さまざまな観点から問題点を見つけて解決する力を育成します。

特に注目されているのが「ART(芸術)」と「Arts(教養)」の「A」を加えた「STEAM教育」でしょう。理工学系分野のSTEM教育に「創造性」や「デザイン性」を加味したものが「STEAM教育」。AIには難しいとされる人間の創造性や感性を発達させることを目的としています。理工学系のスキルに人間の持つクリエイティブ性を加えることで、自由な発想や問題解決に向けた柔軟性も養われます。

海外では国家戦略として「STEAM教育」を推進

バラク・オバマ氏の提唱で世界トップレベルのSTEM教育が進められているのがアメリカです。STEM教育の発祥国であるアメリカは、「2020年までに初等中等教育でSTEM教育を指導できる教員を10万人育成すること」や「高等学校卒業までにSTEM教育の経験者を50%増加させること」などの目標を掲げてきました。アメリカではSTEM教育を単なる教育のひとつという扱いではなく、国家戦略のひとつとして支援しています。

アメリカには大学卒業後に学生ビザで1年間の企業研修が受けられるOPT(Optional Practical Training)という制度があります。OPT期間は最大1年が基本ですが、大学や大学院でSTEM教育またはそれに準ずる科目を履修していると、最大3年まで延長できます。

また国が設立した「High Tech High」は、STEM教育に特化した学校です。授業料が無料で、教科書や成績表もない自由で革新的なスタイルを確立しています。

「A」を加えた「STEAM教育」に、さらに「ロボット工学(Robot)」の「R」を加えた「STREAM教育」もアメリカが力を入れている教育のひとつです。ロボットの設計から運用までこなせる能力開発を目指しています。

シンガポールでは2019年時点で防衛費がおよそ19%に対し、教育費が約16%と、自国の防衛費とほぼ同等額の予算を教育費に充てています。

STEM教育の推進と国力を上げるために設立された「シンガポールサイエンスセンター(国立博物館)」は世界的にも有名です。シンガポールサイエンスセンターでは、科学に関する1,000近くの体験型アクティビティに参加することができます。5階建てビルの高さを持つシアターで、まるで生きているかのようなマンモスを観られるなど、子供が科学を楽しく学べる施設となっています。

シンガポールは日本と同じように小・中・高校と学校教育がありますが、義務教育は小学校までです。中学校へ進学するには国が定めた卒業試験を受けなければなりません。日本と異なり、小学校卒業時点で自分の学力と向き合わざるを得ない状況にあるのです。子供たちの学力が世界トップレベル※1なのは、こうした学校制度が背景にあるのかもしれません。

中国でも政府主導でSTEM教育に力を入れています。2017年には義務教育課程でSTEM教育を必修化し、翌2018年にはこの先10年のSTEM教育計画がまとめられました。2023年11月にフランス・パリで開催された「国連科学文化機関(ユネスコ)」の総会で、中国・上海市に「ユネスコ国際STEM教育(科学・技術・工学・数学)研究所」が設立されることが決定しています。

世界各国と比較して遅れを取っている日本のSTEM教育の現状

日本におけるSTEM教育はまだ黎明期といってもいいでしょう。2019年に中央教育審議会諮問においてSTEM教育が提唱され、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されました。中学校では2021年より技術家庭の授業におけるプログラミング授業の内容拡充、2022年からは高校の授業科目に「情報Ⅰ」が新設されています。

しかし先述したように、アメリカをはじめとした世界各国では10年ほど前からSTEM教育に力を入れています。日本は世界水準の教育と比較するとかなり遅れを取っているといえます。文科省では生徒1人1台のデジタル機器支給を目的としたGIGAスクール構想を提唱しましたが、まだ普及し始めたばかりです。

日本ではSTEM教育ができる指導者も少ないことから、国立埼玉大学でSTEM教育者を育成するための「STEM教育開発センター」を設置。また理数系に力を入れる高校が援助金を受け取れる「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」といった制度も推進して底上げを図っています。

しかし、そもそも日本の学校の授業形態はSTEM教育の概念と正反対といえるのではないでしょうか。STEM教育の基本は「さまざまな学問を横断的に学ぶ」「実践力の重視」「アクティブラーニング(能動的学習)」の3つが基本形です。現在の日本の学校では教科ごとに区切って学び、教室で一斉に同じことを学ぶ受動的な授業が主流。実践的というよりも知識を詰め込む授業が多いといえます。STEM教育の「個」を基本とした教育方法とは程遠いイメージです。

日本の子供たちは海外の子供と比較して、理系学習に苦手意識を持つ割合が多いそうです※2。それは「好奇心」から学んでいるのではなく、「テストで点を取るため」の知識重視の学習だからかもしれません。

中国ではMake blockというメーカーが、金属パーツを組み合わせてロボットを制作できるツールを子供向けに開発しています。制作しながら自然とプログラミングについて学べるので、子供たちも楽しみながらテクノロジーを履修できます。

またGEMS(Great Explorations in Math and Science)という科学・数学の参加体験型プログラムは世界的に実践されています。日本にもGEMSセンターは開設されており、巨大なシャボン玉を作ったり、宇宙からきた不思議な物質を調べたり、体験型の学びのワークショップが開かれています。

STEM教育でなにより大切なのは、学びに対しての「好奇心」を育てることだといえるでしょう。そのためには日本の学校の「画一的に学ぶ」スタイルから、「個々を重視した学び」への転換が求められているのかもしれません。


<著者>
吉田康介(フリーライター)