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ウェアラブルデバイスが医療現場の進化を加速させる?高血圧、糖尿病など慢性疾患の「診療の質向上」へ

2023.09.26(最終更新日:2023.09.26)

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近年、さまざまな情報がデータ化されて共有されている中で、生体情報もデータ化して活用する動きが広がっています。スマートフォンなどの「持ち運ぶデバイス」ではなく、「身体に装着するデバイス」であるウェアラブルデバイスは、医療現場でも注目され、活用されています。この記事では、医療現場におけるウェアラブルデバイスの活用について、現役医師が解説します。

日常生活におけるウェアラブルデバイスの浸透

昨今、様々なウェアラブルデバイスが私たちの生活の中へ浸透しています。ウェアラブルデバイスとはその名の通り、「ウェアラブル(wearable)=身に着けることのできる」+「デバイス(device)=機器」であり、手首や腕などに装着することができる小型のコンピューターを指します。代表的なウェアラブルデバイスとしてはスマートウォッチが挙げられ、たくさんのメーカーが用途に応じた製品を販売しています。今や、スマートフォンやスマートウォッチさえあれば、財布を持たずに買い物や外食することも可能な時代となりました。

スマートウォッチで「生体情報を管理」

昨今のスマートウォッチには様々な機能が搭載されています。日常生活における便利な機能には、メールのチェックや、タスクおよびスケジュールの管理、電子マネーでの支払いなどがあります。ヘルスケアに関する機能も充実しており、歩数計、移動距離、消費カロリー、体温、心拍数、酸素飽和度などの様々な生体情報も知ることが可能で、デバイスによっては睡眠の質、血圧、血糖値も測定できるようです。また、これらの健康に関する情報(PHR:Personal Health Recordとも言う)をスマートフォンのアプリで一括管理することもでき、こうした機能の進化は医療現場への活用も期待されています。

現状の医療現場はアナログ

医療現場においても、ICTを活用することで医療の質の向上が期待できるわけですが、残念ながら一般の病院や診療所ではICTが普及しているとは言い難い状況です。患者さんを診察する際には身長、体重、血圧、心拍数、体温、酸素飽和度などを必要に応じて測定し、その情報を診療録(電子カルテや紙カルテ)に記載します。しかし、そうした記録はその医療機関の中でしか見ることができないことがほとんどであり、患者さんが複数の医療機関を通院する場合でも、すでにある有用な情報を医療機関同士で共有することができないのが現状です。

慢性疾患の診療の質向上、高血圧の診療にも

従来では1ヶ月に1回程度、医療機関を受診した際にしか測定していなかった様々な情報を、ウェアラブルデバイスを用いることにより、日常的に測定、管理することが可能となっています。患者さんがどの医療機関を受診しても、それらの情報を活用することが可能です。また、ウェアラブルデバイスの活用により、慢性疾患における診療の質の向上にも大きく繋がります。

その中の一つが、高血圧です。高血圧は心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患や心不全などの重篤な疾患の原因となるため適切に治療することが必要となります。高血圧の診療において、患者さんの血圧を知ることはとても重要です。

高血圧を治療する際には、医療機関を受診する際に血圧を測ります(診察室血圧と言います)が、診察室で測定する血圧は、患者さんの家庭で測る血圧(家庭血圧)と数値が異なる場合があります。高血圧治療ガイドラインなどでは、血圧コントロールの際に診察室血圧より家庭血圧を優先してコントロールすることが推奨されています。

しかし、家庭血圧を知るためには、通常は自宅で血圧測定器を使って都度計測する必要があり、1日に1~2回程度しか測定できません。しかも思い通りの数値が出ないと何度も測定し直すこともあり、手書きで記載された血圧ノートの信憑性にも問題があります。

その点、血圧測定が可能なスマートウォッチを用いれば、わざわざ血圧測定器を使用する必要もないですし、1日を通した血圧を知ることができます。測定された値がそのままアプリに記録されるため、私たち医師はアプリを見せていただくだけで、その患者さんの1日の血圧の推移を知ることができます。

ウェアラブルデバイスで測定された血圧の精度に関しての課題はありますが、1日の中での血圧の大きな推移を知ることができるのは非常に有用であると思います。

糖尿病患者の日々の負担を軽減

糖尿病についても、ウェアラブルデバイスの活用が期待されます。糖尿病は年々増えてきており、失明に至る糖尿病性網膜症や、人工透析が必要となる糖尿病性腎症などの重篤な合併症の原因となるため治療は必須です。

糖尿病の診療においても血糖値を測定することはとても重要ですが、以前は指先に針を刺し、血糖測定器を用いて測ることしかできませんでした。特にインスリン治療を受けている患者さんの場合、血糖値を測定することがとても重要で、自己血糖測定(SMBG)と言って、ご自身で指先に針を刺し、1日に複数回血糖値を測定することが必要となります。ですが、この自己血糖測定では針を刺す痛みを伴いますし、患者さんにとっては負担が大きく、1日のうち血糖値を測定する回数にも限りがあります。

この問題を解消してくれるのが持続グルコースモニタリング(CGM)です。CGMは、皮下に刺した細いセンサーにより皮下の間質液中の糖濃度(間質グルコース値)を連続的に測定する医療機器のことです。これにより、1日の血糖値変動を正確に把握できます。2017年頃よりCGMを行うためのウェアラブルデバイスが使用可能となり、近年では一般的な検査となってきました。

現在は、腕に細い電極の付いたパッチを装着し、2週間連続して血糖値(正確には皮下のグルコース濃度)を自分で測定することが可能です。従来の血糖測定と異なり、その都度針で刺す必要もありませんし、パッチを装着するのも簡便かつ痛みもほとんど感じません。パッチを装着したまま運動や入浴も可能です。スマートフォンやスマートウォッチに、自動で血糖値が記録されるため、従来では不可能であった就寝中の血糖値の測定も可能となりました。これは糖尿病治療において重要な副作用である「低血糖」の検出において非常に有用です。

持病のない人の「健康寿命の延伸」にも期待

現在は医療機関で得られた情報を中心に診療が行われることが一般的であり、その情報は患者さんの日常生活におけるごく一部のものでしかなく、更には該当の医療機関でしかその情報は知ることができないという大きな問題点がありました。

現在の医療現場においてウェアラブルデバイスはまだまだ活用しきれているとは言えませんが、これらをうまく活用することで、診療の質の向上につながることは間違いなく、多くの医療従事者がそのことを認識しています。また、持病の無い方々でもウェアラブルデバイスを活用し、健康に関心を持つことにより、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防や、健康寿命の延伸につながることも期待できます。これからのウェアラブルデバイスの更なる進歩に目が離せません。



[プロフィール]
岡田 有史
総合内科専門医 日本スポーツ協会公認スポーツドクター

弘前大学医学部および同大学院卒。2012年より父より岡田医院(京都府木津川市)を継承し、地域医療のために従事。大学から始めたテニスが徐々に趣味の領域を超え、2018年よりプロテニス選手のスポンサーを開始。2020年に日本スポーツ協会公認スポーツドクターを取得し、資格を活かすため株式会社next geneを設立。現在は地域のために診療を行いつつ、アスリートのパフォーマンス向上のために活動している。