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航空会社が「ととのい」を加速する?!“サウナテック”が変える未来が熱い

2023.08.07(最終更新日:2023.08.07)

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もはや一過性のブームではない「サウナ」。関連の雑誌や書籍が次々と刊行され、かつて中年世代の巣窟だったサウナはどこに行っても若い世代を中心とする「サウナー」であふれかえっています。

実際、検索キーワードの人気や注目度合いが分かるGoogleトレンドで日本国内における「サウナ」の人気度の動向を見ると、2019年頃から人気度が高まり始めた後、2022年4月〜2023年6月までほぼ一貫して右肩上りとなっています。
特に2022年6月から2023年6月の1年は人気度が80から最高値の100と極めて高水準で推移しており、サウナの人気度合いがブームの域を超えて世の中に定着し始めている様子が伺えます。

基本的に生まれたままの姿で楽しむサウナは、究極のアナログ体験。そんなサウナとテクノロジーを掛け合わせて「ととのい」を加速させる”サウナテック”が生まれようとしています。

仕掛け人は、日本航空(JAL)です。いったいどんな未来が待っているのでしょうか?航空会社×サウナ×テクノロジーという意外な組み合わせをサウナー3年目の筆者が深掘りしました。

サウナにおける「ととのい」とは?

サウナにおける「ととのい」の定義はさまざまですが、筆者が考える「ととのい」とは、サウナで熱した体を水風呂や水シャワーで一気にクールダウンしたのちに、外気浴で椅子に座ったり横になったりしている間に感じられる、極めて幸福度の高い状態のことです。

サウナ→水風呂→外気浴を何度か繰り返す中で、穏やかで安らかな気持ちになったり、頭が冴えてすっきりしたり、空気が美味しく感じられたりと、サウナの醍醐味として多くのサウナーが追求している感覚です。

“自分のペースでととのいたいサウナー”のペインポイント

(岡本さんはJALのサウナ部幹事長を務める生粋のサウナー)

この「ととのい」にいたるまでのサウナーの悩みをテクノロジーの力で解決してととのいを加速させようと、航空会社のJALが乗り出しました。

その悩みとは、サウナの混み具合が分からないことです。

読者の皆さんのほとんどは「サウナの混み具合…?そんなのサウナの中に入って確かめればいいじゃない?」と思うかもしれません。

「サウナの混み具合の把握はサウナーにとってそんなに簡単なことではないのです!」と強調するのは、JALイノベーションラボアシスタントマネージャーの岡本昂之さん。今回のサウナテックに関するサービスを発案した事業統括者で、JALサウナ部の幹事長を務める生粋のサウナーです。

そのサウナーぶりは伊達ではなく、好きが高じてサウナ旅行商品「JALサ旅」やオリジナルサウナグッズまで企画してしまった猛者。筆者が岡本さんに取材で初めて会った時の最初の会話も「ホームサウナはどこですか?」でした。

JALサ旅について:
https://www.jal.co.jp/jp/ja/other/sauna/

「例えば、せっかくサウナに行ったのに扉を開けたら座れる場所が見つからず満室というのは、ととのいを追求するサウナーにとっては大きなマイナス体験です。すでにサウナにいる人にとっても扉が開けられたことでせっかくの熱気が外に逃げてしまうというストレスが生じます」と岡本さん。

「この積み重ねがととのいを損ね、果てにはそのサウナを使うこと自体を諦めてしまうことになりかねません。サウナの混雑状況が分からないことは、サウナーにとって大きなペインポイント(悩みの種)なのです!」と力説します。

サウナーのととのいをJALが加速させる

サウナ室内の混雑状況が把握できることは、サウナーにとっては単純ながらも真のととのいに向けた大きな大きな一歩。

そんなサウナーの宿願をテクノロジーで実現するとともに、サウナを運営する温浴施設のオペレーションに貢献するプロダクトサービスが「TOKYO SAUNIST(トーキョー・サウニスト)」です。

JALとビジネスインキュベーションファームのアクティア株式会社(東京都中央区)が共同開発したもので、高精度センサー技術でサウナの入退室をリアルタイムで正確に把握し、サウナの混雑状況の見える化を実現します。

JALの研究開発拠点であるJALイノベーションラボにモックアップがあると知った筆者。早速訪ねました。

ラボのど真ん中に設置された、TOKYO SAUNISTを設置したサウナ室のモックアップ。取材もこの中で行いました。

ガラス張りの会議スペースを改造し、実際のサウナ室の雰囲気を完全に再現しています。実際に火は入っていませんが、気分は完全にサウナです(笑)。

本物のサウナのような造りで、すのこの天然木の香りに癒されます。温度・湿度計や砂時計、肌を直接叩くことで発汗や血行を促す白樺の葉をブーケ状に束ねた「ヴィヒタ」もあります。

サウナ室のモックの外では社員の皆さんが普通に働いています。

サウナストーブ上に鎮座するこのかわいいマスコットのサウナストーンは、フィンランドで有名なサウナの妖精・トントゥです。

TOKYO SAUNISTの仕組みは実にシンプル。サウナ室に入退室すると人数がカウントされて混雑の目安表示が変化します。

(サウナ室の外に表示する、混雑状況を示すディスプレイ)
(定員4人という設定のサウナ室に2人が入ると表示が「あと2人」に。目安も「空いている」から「比較的空いている」に変わりました)

サウナの混雑状況はサウナの入口などに設置したタブレットやモニターに表示。入退室を含む利用動向のデータはアナリティクス(分析基盤)にまとめてサウナ運営者に提供されます。

サウナ入退室の人流ビッグデータにより、混雑の平準化や混雑予測などに役立つ分析を行う環境を構築することができるという仕組みです。

(TOKYO SAUNISTニュースリリースより ※画像クリックで外部へリンクします)

今年2023年の秋にはTOKYO SAUNISTを設置するサウナの入室状況がスマホでわかるサウナー向けスマホアプリもローンチする予定です。

JAL公式YouTubeチャンネルでもTOKYO SAUNISTについて紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=r8_XSDTkrEs

サウナという“極限環境での入退室カウント”を支えるテクノロジー

(サウナでととのった後のような素敵な笑顔の久保田さん)

「ちょっと待った!入退室数の管理・カウントシステムなんてどこにでもあるじゃないか!」とお感じになった読者の皆様、もう少しだけお待ちください…!

「サウナという過酷で制約のある極限環境での入退室カウントというのは実はものすごく大変なことで、テクノロジーを活かすことで初めて解決できる課題なのです」と語るのは、TOKYO SAUNISTの事業開発を担当するJALイノベーションラボの久保田直悠さんです。

「サウナの中に入っている人を数えるには①温度②湿度③何も身に纏っていないサウナーという3つの大きなハードルを乗り越える必要があります」と久保田さんは指摘します。

まずは温度。「施設やサウナの形態によりますが、サウナの室内は摂氏80度〜110度の高温ですし、サウナ室を出た浴室内も30度以上であることが多く、通常の計器やセンサーはすぐに故障してしまいます。センサーの設置位置を工夫するとともに耐熱技術を駆使した機器が必要です」(久保田さん)

そして湿度。「浴室内は湿度100%に近い状態で、通常の機器ではやはりすぐに壊れてしまいます。防湿対策を万全にする必要があります」(同)

そして、一番のハードルが何も身に纏っていないサウナー。「裸の人間ですから当然カメラはダメです。そもそもカメラだとレンズがすぐに曇ってしまって使い物になりません。人間のプライバシーを侵害するような計測をする機器は全部ダメです」と久保田さん。トリプルコンボでなかなかに難易度が高いですね…。

これらの課題を解決するため、JALとアクティアのメンバーは国内外で機器を探し求め、最終的に耐熱・防湿性に極めて優れたドイツ・SICK社製のセンサーに巡り合うことができました。

さらに3次元状に光を照射して人の動きを正確に把握することができる「3D-LiDAR」と呼ばれる技術を活用し、最後の関門であるプライバシー保護を実現しました。

(テルマー湯に設置されたTOKYO SAUNIST:写真提供=JAL)

開発にあたってTOKYO SAUNISTは、サウナーに絶大な人気を誇る新宿・歌舞伎町の日帰り温泉施設「テルマー湯」で実際に機器を設置して実証実験を行いました。

「どんなにテクノロジーを駆使しても、最後はやっぱり人間が現場で確認しないと見えないことがたくさんあります」と岡本さんは実感を込めて語ります。

例えば、サウナで熱波師によるアウフグース(熱波)の直後に扉が開いている時間が長いと、扉近くのセンサーが誤作動して正常なカウントができなくなるということがテルマー湯での実証実験の現場で判明したそうです。

(のれんの上にある丸い物体がドイツ製のセンサー。のれんの長さを調節することでサウナの高熱からセンサーを守る)

「どうしたものかと悩んでいましたが、“のれん”が熱気を上手に遮ってセンサーを守ってくれることにその現場で気づいたんです」と岡本さん。

そこで、扉が開いた時に熱をうまく遮るようのれんの長さを改良することでセンサーの誤作動を改善できました。現場に足を運ぶことの大切さを表すエピソードですね。

(サウナの話をしている時のお二人、とっても生き生きとしています)

「サウナの口コミサイトでもすでに『これを待っていた!』などと話題になっているんです。来週もテルマー湯で終日、機器がきちんと動いているかモニタリングしてきます」と話すお二人。なんだかウキウキしているように見えてしまうのは、場所がサウナだから??

サウナテックがととのいを変える未来

(TOKYO SAUNIST説明資料より)

TOKYO SAUNISTは岡本さんが2022年7月頃に発案しました。テクノロジーでサウナの満足度の鍵を握る“ラストワンマイル”のペインポイントを解消しようと2カ月ほどでプロトタイプ(試作品)を開発。その後のビジネスモデルの構築やサウナ施設への提案を経てわずか半年でプロダクトの発表までこぎつけました。

(共同リリース)JALとアクティア、サウナ×テクノロジーを軸とした新サービス「TOKYO SAUNIST」を共同でリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000792.000030684.html

「サウナーとして感じていた自分の原体験ドリブンで愚直に真っ直ぐに突き進んだことが、このTOKYO SAUNISTにつながっていると確信しています」と岡本さんは語ります。

基本的なビジネスモデルは、サウナを運営する温浴施設向けのサブスクリプション(課金)型のBtoBモデルです。

サウナの混雑状況の見える化をサウナ施設の一つの売りにしつつ、混雑状況のデータ蓄積により人員配置やオペレーションの最適化を検討する際の重要な判断材料を提供することで、温浴施設の経営への貢献を図ります。

さらに、サウナの混雑状況を表示するサイネージやアプリにデジタル広告を配信することで、温浴施設の付帯収益につなげる仕組みもまもなくカットオーバーします。

(帰り際に周辺のおすすめサウナをお二人に聞くと、2秒で即答でした。さすがです…!)

「サウナ施設の収益向上はもちろんのこと、取り組みを通じて生まれるサウナ全体の魅力向上によって、『サ旅』などの自社旅行商品や航空機の利用といったシナジーも中長期的には生まれるはずです」と岡本さん。

航空事業だけではない多様性のある企業にJALが大きく変化しようとしている姿もTOKYO SAUNISTからは垣間見えます。

現在最終的なシステム開発を進めるTOKYO SAUNIST。初年度は37施設での導入を目指しているとのことです。

「どうして37施設かって?それはもちろんサウナ(37)だからですよ…!」と岡本さん。どこまでもサウナ愛に満ちあふれるサウナテックが、ととのいを変える未来が見えた気がしました。ああ!サウナに行きたい!

TOKYO SAUNIST公式サイト:https://www.tokyo-saunist.com/
初期費用やセンサー機器が無料になるキャンペーン:https://www.tokyo-saunist.com/?p=3699
※初期導入37施設限定

[ライタープロフィール]
日影耕造(ひかげ・こうぞう)

編集者・カメラマン・ライター。新聞記者として10年間勤務した後、アプリ開発を手がけるIT企業のインハウスエディターとして多様なテキストコンテンツの生成を担っている。副業として執筆や撮影を多数手掛けており、企画から取材、撮影、編集、SNS運用まで幅広く対応している。趣味はクラシックギターと焚き火。ホームサウナはスパメッツァおおたか。