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家中の家電を1つにつなぐ「スマートホーム」、市場規模は2030年に2倍

2023.08.01(最終更新日:2023.08.01)

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家電であふれる現代の住宅は、リモコンだらけ、配線だらけになりがちです。しかし、スマートホームサービスを導入すれば、手元のスマートフォンやスマートスピーカーで一括操作できるようになります。外出先からエントランスの開閉、居室内の照明、空調、ロボット掃除機などを遠隔操作できるため、鍵の開けっぱなしや電気のつけっぱなしなどの「うっかりミス」も防げます。

日本がこの分野で米国や中国などの海外に比べて遅れを取っていた理由の1つに、メーカーごとに機能やアプリが細分化されているために互換性がなく、統合サービスを生み出すことが難しかった点が挙げられます。しかし、最近では日本でも統合サービスが登場し始めており、調査会社のシード・プランニングによる調査では、2030年度には住宅導入数が2020年度の2倍に当たる1120万戸に増えると予測されています。住宅のスマート化で私たちの暮らしはどう変わるのか、その魅力に迫ります。

三菱地所が手掛けるスマートホームサービス「HOMETACT」

「おはよう」。スマートスピーカーに向かって声をかけると、部屋の明かりがつき、カーテンがゆっくりと開き始めた。ラジカセからお気に入りの音楽が流れ、コーヒーメーカーから抽出音が聞こえてくる。「行ってきます」と言うと、照明が消え、掃除ロボットが動き始める。家を出るとドアのカギも自動で閉まる。「ただいま」と帰ってくれば、照明やエアコンなどが適度の明るさや温度に調整され、風呂を沸かし始める──。

東京・赤坂にある三菱地所の施設では、同社のスマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」を体験することができます。三菱地所が開発した専用システムなどと、住宅設備メーカーのLIXIL、給湯器メーカーのリンナイ、大阪ガス、掃除ロボットの米アイロボットなど国内外23社が連携。自分の声やスマホで、自宅の電気機器やドアを一括操作できるサービスを提供しています。

スマートホームを体験できる三菱地所の施設(東京・赤坂)

外出先からもアプリ1つで家電を一括操作

従来、外出先で住宅内の電気機器をスマホで操作するには、それぞれのメーカー専用のアプリが必要でした。各家電を動かすためにたくさんのアプリを立ち上げるのは面倒で、スマートホームの普及を妨げる要因にもなっていました。しかし、ホームタクトでは、自社サービスの機能の一定の条件を満たす外部企業にAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を開放することで、連携メーカーの機器を一括で操作することが可能となっています。

ホームタクトアプリ画像

三菱地所の住宅業務企画部、橘嘉宏(たちばな よしひろ)統括は、「デベロッパーがスマートホームを主導して展開するのは日本では初めてだ」と強調。「不動産会社がさまざまな電機メーカーと連携することにより、利用者が機能や料金面で最も適切な家電を選んでカスタマイズすることができる」とこのサービスのメリットを説明しています。

通常、電機メーカーなどが運営するスマートホームでは、自社製品で家電を統一することが多く、その分、各家電の相性が良いという利点がある一方で、利用者の家電選択の幅が狭まるというデメリットもあるのです。

働き社会加速の中、家庭の負荷を軽減

スマートホームのメリットの1つは、日常のさまざまな仕事の時間を短縮できることです。忙しい朝の家事を自動化したり、掃除をロボットに任せたりすることで日常生活の細かな負荷を軽減できます。

総務省統計局や厚生労働省などのデータによると、国内の共働き世帯は2021年に1980年の2倍超となる約1200万世帯に増加しています。少子化を背景とした生産年齢人口の減少も加速しており、共働きの傾向はさらに強まる見通しです。スマートホームの普及は、忙しくなる一方の家庭の負荷を減らし、仕事と余暇の両立に貢献することが期待されています。

スマートホームが普及すれば、住宅の省エネ化や温暖化対策も進みます。エアコンの時間設定や温度調整、人感センサーや日照センサーで家電や家具の制御などが可能になり、無駄なエネルギーを消費しづらくなるためです。人がいない時には、玄関や部屋の照明、エアコン、テレビなどを自動的にオフにする設定が可能です。スマートロックやスマートセンサーなどを活用することで、鍵の閉め忘れを防止したり、不審者をセンサーが検知してスマホに異常を知らせてくれたりもします。

スマートホームは2027年度に880万戸、2030年度に1120万戸まで増加と予測

スマートホーム事業には、三菱地所のほか、大和ハウス工業やケーブルテレビ事業を手掛けるイッツ・コミュニケーションズ(イッツコム、東京・世田谷)など多くの日本企業が参入しています。調査会社のシード・プランニング(東京・文京)は、2019年度に360万戸だったスマートホームは、2027年度に880万戸、2030年度には1120万戸に増加すると予測しています。累計の市場規模も2019年度の4320億円から2027年度には1兆560億円、2030年度には1兆3440億円に膨らむ見込みです。

株式会社シード・プランニングの情報をもとに筆者作成

同社によると、スマートホームの導入コストやランニングコストは10年前に比べて3分の1程度まで減少したといいます。技術の進歩により、スマートホームに使う電池や部品などの単価が下がったためです。これにより、ランニングコストは月1000円程度にとどまるとされています。

杉本昭彦主任研究員は「少子化で人口が減少する中、付加価値の低い住宅は売れ残り、付加価値の高い住宅の需要が増える。不動産業者が開発するマンションにスマートホームを導入する事例は今後も増えていく」と指摘。また「スマートホームといっても、必ずしもフル装備ではなく、顧客の必要なものだけを選択できる方式のものが普及するだろう」と分析しています。

セキュリティ強化や個人情報保護など課題も

スマートホームにはセキュリティ強化に関する課題も存在します。2016年には、あらゆるモノがネットにつながる「IoT機器」をターゲットとした「Mirai(ミライ)」と呼ばれるウイルスが世界中で拡散。このウイルスは、パソコンやサーバーだけでなく、ウェブカメラやスマート家電などのIoT機器を、別の標的へのサイバー攻撃に悪用する「踏み台」として利用したのです。パソコンやスマートフォンなどの端末に比べ、ウェブカメラやDVDレコーダー、家電などのIoT機器はセキュリティ対策が甘いとされ、より厳しい対策が急務となっています。
 
スマートホームの家電で収集される個人のプライバシー情報の保護も重要です。電子情報技術産業協会(JEITA)は今年3月、スマートホームに関連する機器が収集するデータの取り扱いなどに関する企業向けの指針を策定。「スマートホーム市場が本格普及期に入ると、個人の生活領域に関連する膨大なスマートホーム IoT データが収集・利活用されることによって、プライバシーの侵害が起きるリスクも高まっていく」と指摘しました。

同指針では、IoTデータの収集について事前に利用者からの同意を取ったり、どんなデータを取り扱うのかリストにして示したりすることの必要性を示しました。利用目的についての説明も、利用者が理解できるよう記載することも重要としています。利用者に起こり得る様々なリスクや課題を一つひとつ確実に解決していくことが、スマートホーム普及のカギの1つとなりそうです。

[プロフィール]
日高広太郎

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属。その後、小売店など企業担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープ。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミットなど多くの国際会議で日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップ。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年に東証一部(当時)上場のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。年間のメディア掲載数を就任前の80倍超、月別、四半期別には100倍超に増加させる。2022年に広報コンサルティング会社を設立、代表に就任。著書に「B to B広報 最強の攻略術」(すばる舎)などがある。