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果物・野菜の熟度が1秒で明らかに?技術革新がもたらす「食品ロス問題」解決への希望

2023.08.01(最終更新日:2023.08.01)

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食料廃棄は深刻な社会課題であり、その解決に向けて世界中で様々な取り組みが行われています。近年では各企業が技術開発に注力し、より効果的な手法が模索されています。日本では、パナソニックホールディングスや東芝グループが最新技術を駆使し、独自の取り組みを行っています。こうした技術の進歩が、食品ロス削減に貢献する可能性が高まっているのです。

世界を取り巻く食品ロスの現状

飢餓は一部の国で依然として深刻な課題となっていますが、先進国ではむしろ食糧の過剰供給が問題視されており、多くの食糧が廃棄されている現状にあります。食べ残しや売れ残り、賞味期限が迫った食品など、まだ食べられる状態の食品が廃棄され続けてきました。

この問題は「食品ロス」と呼ばれ、FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によれば、世界全体で年間約13億トンもの食糧が廃棄されています。これは、世界の食糧生産量の1/3に相当します。

日本でも年間約612万トンもの食料が破棄されており、この量はじつに東京ドーム5つ分に相当します。これは国民一人あたりが毎日茶碗1杯分の食糧を捨てている計算になります。

日本における食品ロス問題には、大きく2つの要因があります。まず一つは、スーパーやコンビニなどの小売店や飲食店での売れ残りや食べ残し、売り物として規格外となり廃棄された食品です。これらは事業系食品ロスと呼ばれ、約328万トンが計上されています。もう一つは家庭における料理の作りすぎや買っても使わずに捨ててしまうケースなどで、これを家庭系食品ロスと呼び、約284万トンも計上されています。

じつは開発途上国でも、飢餓と並行して食品ロスが存在していることをご存じでしょうか。開発途上国では、育てた作物が技術的に収穫できない、インフラの不備により市場に出る前に腐ってしまうなど、先進国とは異なる理由があります。

世界の人口約77億人のうち8億人以上が十分な量の食糧を得られず、栄養不足で苦しんでいます。一方で、日本を含めた先進国では、余った食糧を大量に捨てている現状があります。

国連の世界人口推計2019年版によれば、2050年には、世界人口は現在よりも20億人増えると予測されています。世界の人口増加に伴い、食糧不足の問題は間違いなく加速するでしょう。この危機的状況は、開発途上国だけでなく、やがて先進国にも波及することは確実です。このような現状を打破するべく、各企業による技術を駆使した取り組みが始まっています。

日本企業が打ち出した最新技術による食品ロス削減の可能性

2023年3月末、パナソニックホールディングスは冷凍させた食品を乾燥させる「常圧凍結乾燥技術」を発表。「未来の食プロジェクト」と名付けられたこの技術開発プロジェクトは、京都大学などとの共同実験で行われました。

この技術は、食品の鮮度を保ちながら乾燥を制御することが可能です。出来上がった乾燥食品は常温で長期保存ができ、また従来の乾燥技術では実現困難だった食品の豊かな風味や食感を保持します。

パナソニックホールディングスでは、この技術を用いて「料理を科学する」をテーマに掲げる料理作家のフードラボ・KYOTO SNT LAB.メンバーの中村元計氏、才木充氏、髙橋拓児氏とも協働。常圧凍結乾燥技術の新たな価値創造に取り組みました。

この技術は今後、和食の海外展開や、機内食、宇宙食、災害食などへの展開が期待できるほか、これまで廃棄されてきた規格外の青果物や未利用魚などを乾燥食品に加工することで、食品ロス削減にも貢献することが期待されています。

見た目も鮮やかな色をした苺は、乾燥させても風味が豊か(写真提供:パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社)

常圧凍結乾燥技術によって、フリーズドライでは従来実現が難しかったしっとりとした食感も再現できるようになりました。管理面においても、従来のフリーズドライでは必要だった真空状態と複雑な管理技術が不要となりました。

食品にもよりますが、常温保存が1カ月可能となる場合もあり、このような特長から、食品ロス削減への期待も高まっています。

さらに、「未来の食プロジェクト」では、その一環として、レトルト食品にこの技術を活用・販売することもすでに決まっています。第一弾となる今回は、常圧凍結乾燥技術を用いた乾燥食品のプロトタイプとして「鰻の炊き込みご飯」「雑炊」「ぜんざい」の3品を完成させました。なお、「鰻の炊き込みご飯」は、家電と食のサブスクリプション「foodable」で限定販売を予定しているとのことです。

器に入れて湯を注げば、たちまち雑炊が出来上がる(パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社)

東芝グループは、今年1月、サッポロホールディングスらと協力して、フードロス削減のためのスマートフォンアプリを開発しました。このアプリでは、電子レシートサービスを利用して、購入した食品のデータをアプリに登録します。すると、アプリが登録データを分析し、フードロスを防ぐためのレシピや食生活の提案をしてくれます。提案が実行されると、連携するスーパーでポイントがもらえる仕組みです。

東芝グループは、すでに100名のモニターによる実験を実施。同社の担当者によると、モニター参加者からは食品の廃棄量が減ったという声がたくさん届いているといいます。今後、このサービスは本格的に一般ユーザーに提供される予定であり、家庭での食品廃棄問題の解決に貢献することが期待されています。

世界が取り組むフードロスへの動き

今年1月、米ラスベガスでテクノロジー見本市「CES 2023」が開催されました。そのなかで注目を集めたのは、オランダのOne Thirdという企業です。同社は、出荷した農作物のロス削減に向けたセンシング機器を披露しました。このセンシング機器は、赤外線センサーを使用して収穫した野菜や果物の熟度を推定するシステムを装備しています。

これまで、熟度の進んだ野菜や果物を出荷した場合、近くの店舗では販売できても、遠方に届ける際には輸送中に商品として販売できなくなってしまう、というケースが多くありました。見た目だけでは判断が難しいため、この問題に対するロス削減は難航していました。

しかし、この機器を使うことで、わずか1秒でその食材の熟度が数値化されます。つまり、熟度の高い食材を近い店舗へ、逆に熟度の低い食材を遠方の店舗へ送ることが可能となり、商品が店頭に並ぶ期間を延ばすことが可能となります。商品が長く店頭に並ぶことで、より多くの人々に利用され、食品ロス削減に貢献できるのが狙いです。

現在、この機器が対応できる食材はアボカド、イチゴ、トマト、ブルーベリーであり、マンゴーやバナナ、モモ、ブドウに対応した機器も開発中とのことでした。

飲食店の食品ロス削減に向けたシステムも開発されています。同じくオランダの企業であるOrbiskが開発した技術です。

ゴミ箱の上方に設置されたセンサーユニットによる画像認識技術により、捨てられた食材の種類や量などを識別できるというもの。さらに、食器から捨てられた場合は客の食べ残し、まな板から捨てられた場合は調理時のロスなど、破棄された場所やシーンも判別できるといいます。


このシステムによって集計されたデータを活用することで、食材の仕入れ量の調整が可能となり、食品ロスを削減することができます。すでに欧州では、約60店舗の飲食店で導入されており、その成果が反映される日も近いでしょう。

文/山河宗太
OFFICE-SANGA代表