VR・AR技術によって自宅にいながらの美術館巡りが可能に?
美術館や博物館も例外ではありません。例えば、VR技術を使うことで自宅にいながらにしてスマホやPCの画面越しに館内を見て回れる、そんなサービスを提供している美術館や博物館はすでに数多くあります。スマホを片手にソファに寝転びながら、いつでもどこでも美術館めぐりができるというわけです。
AR技術は、目の前の作品にさらに情報を追加したり、インタラクティブな体験を付け加えたり、あるいは目の前に作品があるかのように仮想的に表示したりといった使われ方をします。例えば、実際に美術館や博物館に足を運んだとき、位置に合わせて自動的に展示物の解説が流れたり、展示物にスマホをかざしたとき、その画面にAR技術で詳しい説明を表示したりといった活用が進んでいます。
また、歴史的な建造物や恐竜の化石なら、そこにありし日の姿を再現したCGを重ねたりすることで、鑑賞をより豊かな体験にしてくれます。こうしたAR技術の活用は商業施設の案内やテーマパークのアトラクションなどでも用いられていて、今後ますます増えるでしょう。
GoogleMapのストリートビューから入館できる!「Google Arts & Culture」
具体的な例を紹介しましょう。「Google Arts & Culture」は、世界の芸術と文化をオンラインで提供するサービスです。コレクション、テーマ、アーティスト、素材と技法といったジャンルごとに作品を探すことができ、膨大なコンテンツと詳しい解説で、いくらでも時間を費やせてしまいそうなサービスです。
美術館とのその収蔵物の検索もできます。例えば「国立西洋美術館」を検索すると、「ストーリー」としてオンライン展示されている作品を見て詳しい解説を読んだり、コレクションとして常設公開されている作品を見たりできます。作品を大きく拡大して細部まで見ることもできます。
そして美術館によりますが、館内をGoogleMapのストリートビューで見て回ることもできます。例えばGoogleMap上で国立西洋美術館を拡大すると、その内部にストリートビューのルートが表示されていて、そこから見ることができます。ストリートビューの操作と同様、自由に移動したり、作品を拡大・縮小して見ることができます。作品に付いているボタンをクリックすると詳しい解説が表示され、高画質で表示することもできます。
また、スマホアプリの「Google Arts & Culture」を使うと、AR機能を使った体験もできます。アプリで作品を検索すると、作品によっては「AR(拡張現実)で見る」というアイコンが表示されます。ここをタップして、表示される指示に従ってスマホを操作するとカメラが起動して、その作品がカメラの映像の上にARで重ねて表示されるのです。
スマホの画面上になりますが、自宅の部屋で行えば、まるでその作品を部屋に飾っているような感覚が味わえます。スマホを近づけて細部まで見ることもでき、まるで、実際に美術館を訪れて絵に顔を近づけて見ているような感覚で鑑賞できます。
VR美術館「Japanese Artistic Creation Museum」
「Japanese Artistic Creation Museum」は架空の美術館をバーチャル空間上に作り上げたフルモデリングバーチャル美術館です。とある架空の美術館をコンセプトにしています。全20部屋+個展会場という架空の美術館のなかで、常設展と期間限定の個展を楽しむことができます。
人気の展覧会は入場まで何時間も待たなくてはならなかったり、ようやく入館できても、人が多すぎてなかなか作品に近づけない…、長く足を止めると周りの人に迷惑がかかりそうで作品に集中できない…などの問題がありました。バーチャル空間なら自由気ままに、動線や周囲を気にすることなく、自分のペースで作品を楽しむことができます。また、美術館内をめぐるのにはなかなか労力が必要です。小さい子どもやシニア層、身体に疾患や障害のある方も、ゆっくり腰を据えて、また、横になりながらも楽しむことができます。
オンライン美術館「HASARD(アザー)」
「HASARD(アザー)」は、「好きな音楽を聞きながら、食事をしながら、お好きな形、お好きな時間で、新しいアートの楽しみ方」を提供することを目的に提供されています。パリの「ルーブル美術館」やニューヨークの「メトロポリタン美術館」をはじめ、「オルセー美術館」「ロンドンナショナルギャラリー」など世界の有名ミュージアムの企画展を独自のキュレーションで楽しむことができます。無料ですが展示チケットがダウンロードできるという遊び心に溢れており、鑑賞した企画展の記録としてコレクションするという楽しみ方もできます。
特筆すべきは「Moving Paintings-動く絵画-」というコンテンツです。クロード・モネが描く人物の背景の植物や雲がアニメーションとして動き、絵画のなかに吹かれる風や気温、かぐわしい匂いまで感じられそうです。同じくモネの「アルジャントゥイユの橋」では橋のたもとに描かれる川が流れ静止画に描かれていない世界への想像力を掻き立てます。
一方でグスタフ・クリムトの絵画では、象徴的なゴールドの装飾による背景や人物がまとう衣服の柄などがアニメーションとして動き、クリムト独自の特徴的なパターンを静止画とは別の視点から鑑賞することができます。
今後VR美術館がますます増えていくうえで、こうしたコンテンツはユーザーがプラットフォームを選択する際の重要な材料となっていくでしょう。
まとめ
VR技術やAR技術は鑑賞する側だけでなく、施設を運用する側にも様々なメリットをもたらします。例えば、館内をVRで公開することは “現地を訪れて実物を見てみたい”“実際に訪れたらどんな体験ができるのだろう”と興味を抱かせて、新たな来館者を呼び込むことにつながります。顧客に、バーチャルツアーで下見の機会を提供できるのです。
また、AR技術で展示物にスマホをかざしたときに外国語の説明が表示されるようにすれば、アフターコロナで再び活気づいてきたインバウンド需要に応える一助になります。展示物にAR技術による体験型コンテンツを重ねれば、“現地に行って体験したい”と新たな来館者を呼び込むことにつながります。
エンドユーザーにとってはアート体験をより楽しませてくれるものとして、美術館や博物館にとっては作品の理解をより深めてもらい、集客に繋げられるものとして、ますます普及していくでしょう。
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編集/福永奈津美
文/湯浅 英夫
1970年、新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。学生時代よりジャズの演奏活動を行いつつ、パソコン雑誌編集部の編集アシスタント業務を経て、1997年頃よりフリーランスのライターとしても活動。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆している。音楽の守備範囲はジャズから古いソウル、ロック、AOR、MPBまで雑食。ジャズと楽器には少しうるさい。独身