株式投資型クラウドファンディングとは?
そもそも「クラウドファンディング」とはフィンテックの一種で、会社などの組織や個人がインターネット上で不特定多数から必要な資金を集める仕組みです。
なかでも、株式型CFは、スタートアップ企業の資金調達手段を多様にする目的で2015年に創設された制度です。スタートアップ企業が自社の株式を発行することで、個人から少額の出資を受けられる仕組みとなっています。
株式型CFを利用するスタートアップ企業は、一年間で1億円未満までの資金を個人投資家から調達することができます。数ヵ月間と比較的短期間で調達できるほか、会社のファンを株主として獲得できるというメリットもあります。
個人投資家にとっては、投資先企業が成長して、株式公開(IPO)や売却(M&A)などのイグジットに至った場合に、大きな値上がり益を期待できます。かつて、こうした「エンジェル投資」には企業の情報やまとまった資金が必要で、一部の富裕層や資産家以外は手を出しにくいものでした。
ところが、この株式型CFの仕組みにより、一般層の「エンジェル投資」へのハードルがぐっと低くなりました。株式型CFの仕組みを運営するプラットフォームが、企業の事業内容やリスクなどを紹介し、おおむね10万円程度から投資を受け付ける役割を担っているからです。
日本証券業協会の統計によると、制度開始以来の株式型CFによる全累計調達額は、2022年に100億円を突破しました。2022年単年では、取扱件数が164件、調達額は約25億円にのぼっています。
さまざまな業種が株式型CFを活用
具体的には、どのような企業に投資をすることができるのでしょうか。株式型CFプラットフォームのひとつ、「イークラウド」での過去のプロジェクト例を見てみましょう。
日本発のクラウドサービスで世界のゲーム市場に挑む技術者集団「Game Server Services」
企業概要:これまでゲームを開発するたびに制作されていたゲームサーバーを、クラウドサービス化。サーバーを「作るもの」から「使うもの」へ変えることで、ゲーム開発者の生産性向上とゲームの品質向上を目指します。株式型CFを通してゲーム業界で働く人や、エンジニアなどが株主になり、業界関係者を巻き込んだ資金調達に成功しました。
調達時期:2021年2月
調達金額:約6,400万円
詳細:https://ecrowd.co.jp/projects/3
次世代の椅子型モビリティで新しい移動体験に挑むロボティクスエンジニア集団「LIFEHUB」
企業概要:「人類の身体的な制約からの解放」というビジョンのもと、既存の車椅子に代わる次世代型モビリティ(乗り物)を開発。資金調達により、立ったりしゃがんだりできる二輪起立構造を実装した椅子型モビリティの製造・販売を目指しています。
調達時期:2022年9月
調達金額:約4,600万円
詳細:https://ecrowd.co.jp/projects/13
タンパク質合成の特許技術で世界に進出!食と医療の課題解決に挑むバイオベンチャー「NUProtein」
企業概要:主に培養肉や再生医療の分野に向けて、人工タンパク質を安く、早く、安全に大量生産する技術を提供。まず2021年10月に資金調達を行い、海外向けの事業開発や、中核技術であるタンパク質の合成技術の改良を実施しました。さらに2023年1月に、2回目の資金調達を行いました。
調達時期:2021年10月・2023年1月
調達金額:合計約9,900万円
詳細:https://ecrowd.co.jp/projects/13
株式型CFは業種を問わずさまざまなスタートアップ企業と個人投資家を、資金調達という形で繋ぐことができます。プロジェクトの募集ページでは、事業領域や、経営者の人となり、解決したい社会課題などが解説されており、幅広い観点でスタートアップ企業を知ることができます。
中長期目線で企業を応援
株式型CFで「エンジェル投資」をする個人の多くは、投資先企業を「応援したい」と考えているようです。個人投資家に実施したアンケート調査では、回答者の6割以上が、「中長期目線で成長を応援したい」と回答。3割超が「将来の値上がり益に期待」と回答しました。(複数回答形式、イークラウド調べ)
個人投資家にとってスタートアップ企業への投資は、リスクの大きいハイリスク・ハイリターンな投資といえます。「将来的な値上がり益」といった金銭的メリットへの期待ももちろんありますが、ほかの投資商品と比べて「儲かるかどうか」だけでなく「応援したいかどうか」を大事にする個人投資家が多く存在していることが分かります。
反対に、イークラウドで株式型CFによる資金調達を実施したスタートアップ企業からは次のような反応がありました。
「社会的意義があり足の長い事業なので、個人投資家のほうが評価をして心意気を買ってくれると感じた」
「説得力のある成長カーブを描ける、次のラウンドのタイミングまでを支えてくれる手法だと思った」
「株式型CFを通じて得た株主から、大幅な事業進捗に繋がる提携先を紹介してもらえた。積極的に株主と連携したい」
こうした反応から、起業家が特に感じている株式型CFならではのメリットは、「中長期で応援してくれる株主を獲得できる」点であることが分かります。
特に研究開発系の事業をしているスタートアップ企業は、事業を収益化するまでに長い時間や多くの費用が必要なので、資金調達に課題を感じている場合が多くあります。
従来の資金調達方法では、スタートアップ企業にとっては厳しい一定の条件が課されることもあります。株式型CFでは長い目で成長を応援することを前提に、個人から資金を集められる仕組みなので、より自社の成長スピードに合った資金調達手段であると考えられています。
また、株式型CFは資金調達した後にもその面白さがあります。貴重な資金を投じた株主としては、その企業の成長が、自分の投資家としての成功に繋がります。そのため、前出のアンケートへの回答のひとつのように、株主側が次のビジネスに繋がる提携先などを紹介をしてくれたり、株主自身がインフルエンサーとなってサービスを広げてくれたりする可能性もあります。
すでに、海外ではこのようなファンマーケティングなどの目的から株式型CFを活用する例が増えてきています。
「1億円の壁」その先に見える社会
ここまで株式型CFの基本的な説明や事例について紹介してきました。米国・英国ではすでに、株式型CFとしては大型の資金調達事例も多く出ており、日本でもさらなる盛り上がりが期待できそうです。
国内の株式型CF業界にとって今後注目の議論は、スタートアップ企業が一度に調達できる金額の上限規制についてです。
株式型CFでは、投資先のスタートアップ企業が破綻した場合などに、投資家の数や損失額を限定するといった観点から、1年間に調達可能な金額を1億円未満とすることが、関連法令で定められています。
政府の「スタートアップ企業育成5ヵ年計画」でもこの1億円規制などについて「必要な見直しを図る」と明記されていますが、上限額がどの程度拡大されるかや、拡大できる場合の条件などは、関係省庁内の今後の議論にゆだねられそうです。
海外における株式投資型CFの調達上限額は、米国で6.5億円程度、英国で11億円程度(1ドル=130円で換算)。その金額の規模から、海外では、より事業のフェーズが進んだスタートアップ企業も株式型CFを活用する例が増えてきています。
日本でも1億円以上の調達が見込めるようになれば、より成熟したスタートアップ企業が株式型CFを利用する可能性が高まります。
個人投資家側も、すでに身近なサービスを提供している、名前を聞いたことがあるといったスタートアップ企業に投資できる機会が増えそうです。
日本は海外に比べ、個人の金融資産に占める現預金の比率が高く、政府が「貯蓄から投資へ」という文脈でさまざまな施策を検討しています。
こうしたなか、株式型CFにおける上限額の規制を緩和し、より多くの資金を唯一無二の技術やこれまでにない新しいアイディアをもつ起業家に提供することは、未来の経済・社会にとって非常に意義のあることではないでしょうか。
[プロフィール]
イークラウド株式会社
株式投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「イークラウド」を運営。これまで限定的だったベンチャー投資に関する情報と機会を一般投資家へ提供し、起業家へは銀行・VCなどとは異なる新たな資金調達の手段を提供する。イークラウドを通じた平均調達額、調達成功率はともに業界No.1。(2023年1月時点、イークラウド調べ。)
https://ecrowd.co.jp/
波多江 直彦
2006年にサイバーエージェントへ入社し、広告代理部門、スマホメディア、オークション事業立ち上げ、子会社役員等を経て、サイバーエージェント・ベンチャーズで投資事業に従事。その後XTech Venturesにてパートナーとして、VR・SaaS・モビリティ・HRTech・シェアリングエコノミー・サブスクリプションサービスなどへの投資実行を担当。ベンチャー投資の世界をプロだけでなく、個人投資家にも開かれたものにすべく、2018年7月にイークラウド株式会社を創業。慶應義塾大学法学部卒。