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全国の売り手と買い手をマッチング!スマホアプリで水産業の流通に革新を起こす株式会社ウーオの取り組みとは?

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2023.08.24(最終更新日:2023.08.24)

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鮮魚の産直専門マーケットプレイス「UUUO(ウーオ)」など、DXの先端技術を使った画期的な流通サービスで注目を集めている株式会社ウーオ。「日本の水産業にとって、新しい流通をつくる」をミッションに掲げ、広島を拠点にスタートした同社の水産業におけるテクノロジーは近年、日本だけでなく世界へと広がっている。

このサービスはわずかな時間で生まれたものではなく、自社の鮮魚販売や、徹底したリサーチ、人脈も経験値もゼロからの営業活動など、ウーオの7年間にわたる泥臭い取り組みの結晶と言えるものだ。
水産業を取り巻く課題を見つつ、現状を打破するために起業したウーオの活動を紹介するとともに、代表取締役社長の板倉一智さんの現在までの道のりを追いかけたい。

スマホアプリがもたらす、水産業界に新しい流通

――早速ですが、株式会社ウーオが運営する「UUUO」について教えてください。

UUUOは、水産物の取引がアプリ上で行えるマーケットプレイス型の法人向けサービスです。出品者は、産直市場の漁師や仲買。一方の買い手は、消費地市場における荷受けや中卸、更にその先のスーパーや飲食店の仕入れ担当者に利用されています。

(画像提供:株式会社ウーオ)

――アプリひとつで、全国各地の水産物売買が可能とは非常に画期的ですね。

販売も仕入れも、スマートフォンだけで行います。仕組みはとてもシンプルです。出品者はスマートフォンで写真を撮り商品画像をアップ。加えて、魚の種類や価格、産地、漁法、水揚げ日、一尾あたりの重量や鮮度といった、仕入れに必要な情報を入力します。天然鮮魚以外にも、冷凍品や加工品、養殖魚も出品されています。買い手は、それらの情報を見て欲しい商品を判断して購入するシンプルなシステムです。人気の商品は、出品後1~2秒で売れていきます。買い付け依頼も可能です。

――アプリを導入する一番のメリットを教えてください。

産地にとっては新たな販路が広がり、 消費地市場にとっては新たな仕入れ先が広がることです。水産流通は、情報の偏りがかなり大きい業界です。魚が余っている場所と足りていない場所が、毎日のように全国で発生しています。これまで、産地側も購入者側も、限定した相手との取引しかできていませんでした。しかし、UUUOにアクセスすることで、産地は全国各地に営業をかけられますし、買い手は多様な産地と繋がることができます。

――UUUOに次ぐアプリ、「atohama(アトハマ)」についても教えてください。

こちらは水産卸売企業向けのスマートフォンアプリです。消費者が多く供給が安定している消費地市場には、卸売と小売を仲介する荷受けと仲卸と呼ばれる業種の方たちがいます。従来の売買は、電話やFAXが主流でした。その複雑でアナログなやり取りをデジタルに置き換え、受発注をスマホを使ってスムーズにするサービスです。

(画像提供:株式会社ウーオ)

――2023年5月に、UUUOとatohamaが連動されました。その狙いは?

業務効率化だけでなく、UUUOとatohama、それぞれのユーザーが繋がることを可能にしました。例えばこれまで、豊洲市場の荷受は豊洲の仲卸に売ることしかできませんでしたが、UUUOとatohamaの在庫情報を連動することによって、豊洲以外の仲卸に売ることを可能にしました。既存の取引先だけでなく、UUUOに登録している購入希望者に対してもアプローチができ、売上の向上が期待できます。

生まれ故郷で見た漁業の衰退から水産業再生に挑戦

――水産業界へのDX導入は、とても先鋭的な試みだと思います。なぜ、このようなサービスを立ち上げたのでしょうか?

僕は鳥取県の岩美町出身です。元々、親族や幼馴染の多くが漁師という環境に生まれ、実家から徒歩5分の場所に、松葉ガニの漁獲高が日本一の網代漁港があり、海も魚も身近な環境で育ちました。都内の大学卒業後は、新卒で大手物流会社に入社し、水産業には縁遠い仕事をしていて。しかし、地元に帰る度に、船数の減少や、かつての活気を失った漁港を目の当たりにしてきました。どうにか地元の水産業を再生ができないかという思いから、「水産業のマーケットプレイスプラットフォームがあれば、需給の最適化が図れる」と仮説を立て、2016年、一人で起業しました。

――地元の衰退と漁師さんの声を間近に感じられたのですね。実際、漁師さんが抱えていた問題とは何だったのでしょうか?

代々漁業に従事していても、子どもには他の職業を勧める親も多いと聞きます。漁業では稼げないことが大きな理由の一つです。魚価の向上が見込めない現状に原油高が伴って燃料費や資材が高騰。苦しい状況が続いています。その昔、漁師は事故や命のリスクはあるけれど、20代中盤には、いい車に乗れ、いい家を建てられる、いわゆるお金が稼げる職業でした。今は、全くそんな状況ではありません。夏は暑く、冬は寒い環境下で働き、大型漁船になると1週間家を空ける。命懸けのリスクが伴うにも関わらず稼げない仕事に、誰が就きたいと思うでしょうか。そうやって日本各地で、どんどん後継者がいなくなっています。後継者の減少は、生産者の減少とイコールで、魚を採る人がいなくなれば、日本の食卓に魚が並ばなくなってしまいます。

自社出荷拠点「UUUO Base」で鮮魚販売に取り組む

――水産業界と聞くと、新規参入しづらいイメージがあります。どう乗り越えられましたか?

起業したはいいものの、やはり水産業の実経験がないとダメで。そこでまず初めに立ち上げたのが、自社の出荷拠点「UUUO Base」です。2018年から2022年まで地元の鳥取港に拠点を構え、水産仲買事業を展開していました。漁業を営む家系に生まれたことが功を奏し、なかなか取れないといわれる買参権も取得できました。もちろん、地元の人からすればライバル社が増えるわけですから、スタート時の周囲の視線は冷たかったです。実績が何もない中、これから始めるUUUOのシステム構想を丁寧に説明してまわりましたね。一人ひとりに「魚を今よりも高く売りたい。そのために僕らは、インターネットを使って今後新しい売り先を見つけていけるサービスを作ろうと思っている」ととにかく伝えていきました。そうすることで、徐々に理解が得られるようになりましたね。

(画像提供:株式会社ウーオ)

――「UUUO Base」での経験は価値あるものになりましたか?

漁業の経験がなかった僕たちにとって、圧倒的な強みになったと思います。水産業の知見と事業解像度が上がったのは、何事にも変え難い経験となり、事業の土壌ができました。実際に現地に入って体を動かすことで、水産業の構造がわかり、自分たちで事業開発ができ、最短でサービスのトライアルを実践できましたね。


――その経験が今のUUUOを作ったといっても過言ではないと。

もちろんです。先も話したように、生産者と買い手のやり取りは、電話かFAXです。現場では毎朝、一社ごとに入荷情報を案内するのがとても大変で、常にヒューマンエラーが起こっていました。僕たち出荷拠点ではLINEを使ってテキストで情報を送る方法もとりましたが、それでもミスが起こります。その大変さを実際に経験し、現場で感じた課題をそのままアプリに落とし込んでいきましたね。

利用者が儲からなければウーオの事業は意味がない

――現在、事業は拡大中ですね。社内環境やスタッフさんについて教えてください。

広島に本社を構えていますが、2023年4月に東京に支社を構えました。東京の開発部門はフルリモートにしています。正社員数は19人ですが業務委託やアルバイトを含めると、約35人のメンバーが揃っています。


―やはり水産業に興味があって入社した方が多いのでしょうか?

水産業自体に興味があるというよりも、水産業に関する課題を解決したいと思うメンバーが集まっています。めちゃくちゃ魚が好きな社員がいますね。魚が好きすぎて新卒から勤めていた銀行を辞めて入社してくれました。他に大手IT企業出身のメンバーもいます。いろんな業界から集まってきてくれているので頼もしいです。

――あえて広島に本社を置いた理由はありますか?

結婚を機に、妻の出身地である広島に越してきたのが広島とのご縁です。地元の鳥取に会社を構えるか、それとも東京かと検討しましたが、最終的に広島に落ち着きました。 広島は地方都市なので、東京に比べると人件費やオフィスの家賃が安く済みます。ランニングコストを考えると、地方にもメリットはあると思ったんです。人材獲得の面で考えても、広島レベルの中堅都市は有利です。


――アプリ利用者からの反応はいかがですか?

北は北海道、南は鹿児島まで、100社以上の産地事業者と取引があります。購入者としての事業者数は350社になりました。
日々嬉しい反応をいただいていますが例えば、奈良県のスーパーさんの場合、「大幅な業務効率化が図れた」という声をいただきました。奈良県には海がなく、UUUOを使う前は大阪まで魚を仕入れに鮮魚担当者が足を運んでいたそうです。UUUOの導入で、わざわざ現地に赴かずとも鮮魚の仕入れが可能になったと聞いています。加えて、これまで取り扱っていなかった魚をUUUOで仕入れることにより、売り場の拡大に繋がったという利用者さんもおられます。産地側からは、これまで売れなかった魚が売れるようになったという反応が多いですね。売れなかったのは需要がないからではなく、売れる販路を知らなかったというだけなんです。


――UUUOを使った利用者さんの売上状況はいかがでしょうか?

UUUO上で取引しているトップ10の企業で、売上が上昇しています。来年度の目標を軌道修正し、魚の仕入れに特化したいという声も届いていますね。UUUOは、水産業界を助ける仕組みになっているので、関わる皆さんが儲からないと、僕らの事業は意味がないと思っています。

広島本社には所々に水産業の現場で使われる道具が並んでいる

水産業に関わる全員がUUUOにアクセスする世界に

――これまでで一番苦労されたことは何でしょうか?

大変だったと思うことは、もう何百回もあるので、苦労した認識はありません。強いて言えば、起業初期段階が大変でした。知見もない、教えてくれる先輩がいるわけでもない、経験もない、ゼロからのスタートでしたから。セリの方法もわからないのに、見様見真似で必死にくらいついていました。それに起業した当初は、全部一人こなしていました。資金調達や買参権の取得、お客さんの開拓も全部僕一人です。当時の記憶はあまりありません(笑)。とにかくがむしゃらでした。

(画像提供:株式会社ウーオ)

――そこまで泥臭く活動する原動力は?

やると決めたからでしょうね。僕は、常にチャレンジするタイプです。何事も、動かないと進まないじゃないですか。議論だけでは話は進みません。アクションを起こすことが重要だと思っています。


――ただ儲けようという気持ちではなく、板倉さんからは水産業に対しての大きな愛を感じます。

水産業をどうにかしたいと思って起業した会社です。自分たちの原点である、「水産業を再生し、水産業にとってはならない会社をつくっていく」という思いを大事にしています。もちろんこれまで辛いこともありましたが、それも全て良い経験です。7年前の自分と今の自分を比べると、ぐんと成長していますね。大変なことがあればあるほど、人は学ぶものです。

――会社の目標値を100%とすると、今は何%ですか?

まだ1%です。僕たちは、水産業に関わる人たち全員がUUUOにアクセスする世の中を実現させたいので、今はまだスタート地点です。
漁師という仕事は、明日の収入が見えません。獲った魚が売れなければ、お金になりません。しかし、魚の需給をUUUOによって知ることができれば、漁師さんは無駄に仕事をする必要がなくなります。需要の最適化は、持続可能な水産業を作れるんです。僕は、UUUOで皆が幸せになれる未来図を描いています。

美味しい魚が日々の食卓に並ぶ幸せな未来予想図

――今後の事業と展望を教えてください。

直近の目標は、購入ユーザー数を増やしていくことです。今年から飲食店へ流通も始めたところです。さらに、海外の輸入事業者が日本の産直を利用できる「UUUO importer」もリリースし、現在タイとカンボジアで展開しており、これから北米へ広げる調整をしている段階です。水産業は日本だけに留まらず、全世界に経済圏があります。当社のサービスを、国内だけでなく海外でも広く展開していきたいですね。


――板倉さんが考えるUUUOがもたらす未来はどんなものでしょうか?

スーパーに並んでいる魚の中には、あまり鮮度のよくない商品もあります。何度も言いますが、その理由は需給が最適化されていないからなんです。僕たちのサービスを通じて、最終的には消費者が近所のスーパーでも産地で食べるような美味しい魚を適正価格で購入でき、普段の食卓にそれが並ぶ光景が当たり前になるといいですね。


――港町にいくと、新鮮な海鮮丼が食べたくなりますよね。その体験を、家や身近な飲食店で実現できると…?

そうです。僕はよく、朝食に自宅で刺身定食を食べます。それは単純に手に入る魚が美味しいからです。魚が獲れる地方へ旅行に行くと、美味しい魚を食べたくなりませんか? それと似たような体験を、生活圏内でできたらいいですよね。僕たちが掲げたビジョン「すべての町を、美味しい港町に。」に相応する世界観が、日本だけでなく世界中に広がっていくといいなと思っています。

(編集後記)
昨今、農作物の収穫体験などのイベントを通して、農業はずいぶんと私たちの身近な存在になってきました。しかし水産業は、漁業関係者が近くにいない限り、その実情を知らないという人も多いでしょう。かく言う私もその一人。スーパーに並ぶ魚が、いつ、どこの産地で誰が獲ったものかを知る余地もありません。「水産業界の流通にDX?」と頭にハテナを浮かべながら伺ったウーオ広島本社。水産業界の基本的な仕組みや、漁師さんが抱える苦難などを教えてもらいながら、漁業大国日本を構成する全ての人々に感謝の気持ちが湧いてきました。そして、広島にいながら先進的な仕事ができる自社の強み、板倉社長の熱のこもった言葉に、圧倒されるばかり。今回の取材で口をついた「新鮮かつストーリーを持つUUUOを使った仕入れは、ブランドになると思うんですよ」という自信たっぷりの言葉にも、驚きはありません。板倉さんが開拓した水産流通で「すべての町を、美味しい港町に。」が世界中で実現する未来は、そう遠くないことでしょう。

[プロフィール]
板倉一智
鳥取県出身。実家から徒歩10分の場所に港があり、親族や幼馴染の多くが漁業従事者。新卒で大手物流企業へ就職。帰省のたびに漁船の減少など水産業の衰退を目の当たりにする。これまでの水産流通をデジタルに変換することで情報の非対称性が解決され産地消費地ともに新たな流通をつくることを目指し起業。


(執筆:大須賀あい、写真:浅野 堅一、編集:金澤李花子)