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輪の中心で運動・合唱を先導し、一人暮らしの高齢者を見守る…「介護の現場」で働く最新ロボットたちの実力

2024.03.06(最終更新日:2024.03.06)

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工場や物流倉庫、飲食店など、今日では私たちの身の回りのさまざまな場所でロボットが活躍していますが、いまとくにロボットの普及が待ち望まれているのが「介護」の現場です。「介護離職」がもはや社会問題となっている日本では、今後も人口の高齢化に伴う要介護者の増加が見込まれており、介護者の負担を軽減するためのロボットの開発は急務といえます。本稿では、介護の領域ですでに活用が始まっている商品・サービスの事例をみながら、ロボットが介護のどのような課題を解決できるのかについて考えます。

介護施設におけるロボットへの「2つの期待」

介護施設では、ロボットの導入によって負担の軽減が期待できる作業が大きく分けて2つあります。

1つが、入浴や移動(移乗介護)など、要介護者を抱えたり、物理的に支えたりする力作業です。介護スタッフにかかる身体的負担を減らすために、着用型パワーアシストスーツが一部で導入されています。

作業で力をかけると、それをパワーアシストスーツに搭載されたセンサーが感知して、駆動装置(電動アクチュエータ)や人工筋肉が作動し、腕や足、腰や背中などの筋肉にかかる負担を軽減してくれる効果が期待できます。これは介護の現場だけでなく、重いものを持ち上げたり運んだりする作業が多い物流倉庫や工場でも導入が進んでいます。

介護施設での課題は、物流倉庫のそれとは異なり、長時間の力作業を繰り返しているわけではなく、ほかのさまざまな作業の流れの1つとして力作業があるため、移乗作業のときだけパワーアシストスーツを着用するのでは時間と労力がかかってしまうことです。そこで、常に着用していても苦にならず、移乗作業のときに支援してくれる製品の開発が急ピッチで進められています。

ロボットの活躍が期待されるもう1つの分野が、要介護者の心を癒し、要介護者と会話をし、レクリエーションを支援する領域です。

心を癒すもっともシンプルな例として、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)が開発したアザラシ型メンタルコミットロボット『パロ』を紹介します。メンタルコミットロボットとはエンタテインメントロボットの一種で、本物の動物と同様に人と触れ合って、人の心を元気づけたり、一方的にでも話しかけることでコミュニケーションを活性化したり、ストレスを軽減したりといった効果が期待できるロボットです。

アザラシ型のメンタルコミットロボットのパロ(出典:ヴイストン)

パロの外観はアザラシの赤ちゃんを模したぬいぐるみのようですが、駆動装置が内蔵されており、瞬きをし、首や手足などを動かす愛らしいロボットです。人は、動物との触れあいで楽しさや癒しを感じることが知られていますが(アニマル・セラピー)、ペットを飼育するのが困難な介護施設では20年以上も前からセラピー用にパロが導入されています。

2002年にはとくに海外でアニマル・セラピーと同様の効果があると評価され「もっともセラピー効果があるロボット」としてギネスに認定されています。パロは人の言葉を喋りませんが、撫でたり、様子を眺めたり、話しかけたりするだけで安らぎを感じます。

言葉は話さないものの、約50語の単語を認識できるため、名前を付けるとその呼びかけに反応するようになります。なお、犬や猫ではなく、あえてアザラシのデザインを採用したのは、犬や猫など身近にみる動物の場合、本物と比較し、リアル感を求めてしまうため。アザラシはペットほど身近ではなく、映像や水族館で馴染みのある動物ということで、ちょうど良い位置づけにあるのだといいます。

大和ハウス工業や知能システムなど、多くの企業がパロを販売している。充電中は可愛らしくおしゃぶりを咥えているような姿に(筆者撮影)

会話やレクリエーションを担当する人型ロボット

レクの時間、輪の中心で健康体操を行うロボット『PALRO』(出典:富士ソフト)

このほか、介護施設で活用されているロボットの例としては、身長約120cmの人型ロボット『ペッパー(Pepper)』(ソフトバンクロボティクス)や、デスクトップサイズの人型ロボット『PALRO(パルロ)』(富士ソフト)などが挙げられます。いずれも要介護者と会話し、レクリエーション(レク)の時間に健康体操やダンス、ゲームをすることができます。

多くの介護施設では、要介護者の健康寿命延伸をめざし、レクの時間が毎日設けられており、体操や合唱などが実施されていますが、その内容を考えたり、中心で見本となる体操をしたりというのは介護スタッフの仕事。スタッフが要介護者につきっきりで支援している施設も少なくありません。

そこで、毎日新しいレクの内容を考えたり、輪の中心で体操や合唱を先導したりする作業をロボットに任せて、必要な要介護者だけをスタッフが見守ることで負担を減らし、空いた時間でスタッフはほかの重要な作業を行うといった効率化が図られています。

また、会話によるコミュニケーションは認知症の予防効果などが期待できるため重要ですが、同じ会話や質問が何度も続くなど、会話業務もスタッフには負担となるケースもあります。

しかし、ロボットなら同じ会話を要介護者が繰り返しても苦には感じません。

ロボットは昭和初期の話など、要介護者が楽しめる話題を持ちかけたり、当時の街の写真や風景の絵などを画面に写したりして会話を進める手法を取り入れていますが、これは要介護者にとって昔のことを思い出そうとすることが脳の活性化につながるという説もあるためです。

なお、会話ロボットは最新の大規模言語モデル「ChatGPT」によって会話能力が格段に向上しています。

24年2月には、ソフトバンクロボティクスがPepperの介護向けモデル(Pepper for Care)を対象に「ChatGPT」に対応して会話アプリをリリースしたことを発表しています。具体的にアップデートしたのは、介護施設向けに独自開発したゲームで、歌や体操など豊富な種類のレクリエーションを提供する『まいにちロボレク』と、顔認証によって個人に特化したリハビリを提供する『まいにちロボリハ』です。

アップデートによって、一人ひとりに合わせて、より高精度で自然な会話ができるようになります。脳の健康維持や将来の認知症リスクを低下するとともに、施設スタッフは要介護者との会話をPepperに任せ、ほかの業務に専念できるようになることが期待されています。

一人暮らしの高齢者をロボットとオペレータ、家族が連携して見守る

ロボット、オペレータ、家族が連携して一人暮らしの父母を見守るサービス『あのね』。セコムとDeNAが提供している (出典:セコム/DeNA)

高齢社会では、介護施設だけでなく、一人暮らしの高齢者をどう見守るかという課題も見逃せません。

23年4月、警備会社のセコムと、「エンタメ×社会課題」を事業の主軸とするDeNAは共同で、ロボットを用いてシニアの孤独を解消するサービス『あのね』の提供を開始しました。セコムとDeNAがシステムを開発し、DeNAのオペレータセンターと24時間365日体制で連携しています。

同サービスに使用されるのは、ユカイ工学株式会社の小型のコミュニケーションロボット『BOCCO emo』(ボッコ エモ)。もっとも想定されるユースケースは、離れて暮らす高齢の父母にコミュニケーションロボットをプレゼントして、ロボットとオペレータ、家族が連携して見守ろうというものです。

ユカイ工学のコミュニケーションロボットのBOCCO emo。使いやすさを考慮してボタンには操作内容が大きな文字でかかれている (筆者撮影)

会話が減りがちな高齢者に対し、まずはロボットが挨拶することで会話を促し、加えて服薬管理や各種リマインダーをロボットと連携したシステムが支援して自動で行います。

さらに、ロボットはオペレータセンターとつながっているため、ロボットの挨拶に利用者から言葉が返ってきた場合はコミュニケーターが内容に応じて返信します。また、会話についてもスタッフがロボットを通じて遠隔で行えるため、困りごとなどの相談にも心の通った言葉を届けられます。

『あのね』のロボットと利用者の会話例。ロボットは音声で読み上げる。最終の「手動メッセージ」はオペレータによるもの (出典:セコム/DeNA)

プライバシーへの配慮から、ロボットにカメラはあえて搭載していませんが、BOCCO emoにはスマートフォンなどと同様に通信用SIMカードがセットされているため、ロボットを通して家族との通話も楽しめます。Wi-Fi環境は不要であり、ロボットが配送されたらすぐに使い始められる点も便利です。

セコムとDeNAは報道関係者向けの発表会で「高齢化の進展に伴い、一人暮らしの高齢者の数は年々増え続けています。独居高齢者の約半数は2~3日に1回以下しか会話をしていないというデータが内閣府『高齢者の健康に関する調査』(平成29年度)にあり、孤立が続くと認知機能や身体機能の低下をはじめとしたリスクにつながる恐れがあることから、早期の対策ソリューションが必要と考えました。いつも誰かとつながっている安心を感じていただきながら、孤独の解消を図り、リスクの低減をめざします」と語りました。

一人暮らしの高齢者を見守るだけでなく、認知症予防・健康寿命延伸のためにも、ロボットやICTが活用されているのです。


<著者>
神崎洋治

TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。
1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。
「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。