エアコンのランニングコストは本当に高いのか
夏の暑い季節、部屋の温度を下げたいときに使える冷房機器はエアコンほぼ一択ですが、冬に部屋を暖める暖房機器は、石油・ガスストーブや電気ストーブ、オイルヒーターなどさまざまな選択肢があります。
そのためエアコンは設置しているけれど、暖房機器としては使っていないという人も多いようです。
実際、日本マーケティング調査機構が行った「暖房器具に関する一般調査(2021年11月)」※によると、暖房機器を使用する際にエアコンをもっとも使用していると回答したのは、45.75%。暖房機器のなかではもっとも高い使用率ですが、エアコン所有率が9割を超えていることを考えると、意外と低いと考えることもできます。
※日本マーケティング調査機構「暖房器具に関する一般調査(2021年11月)」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001081.000033417.html
なぜエアコンを暖房機器として使わない人が多いのでしょうか。
寒冷地のためエアコンでは暖房能力が足りないなど、さまざまな理由が考えられますが、富士通ゼネラルが行った「エアコンの暖房・クリーニングに関する意識調査(2023年10月)」※によると、「暖房費(ランニングコスト)が高いと思う暖房機器」として44.9%がエアコンを挙げています。
これは、2位の「石油ストーブ・石油ファンヒーター」(17.9%)を2倍以上も上回る圧倒的1位であることから、「エアコン暖房は電気代が高いから」という理由で敬遠している人が多いことがうかがえます。
※富士通ゼネラル「エアコンの暖房・クリーニングに関する意識調査(2023年10月)」
https://www.fujitsu-general.com/shared/jp/pdf-fcjp-news-23-Y08-35-04.pdf
7倍の熱エネルギーを生み出すヒートポンプ
ところで、エアコン暖房の電気代は本当に高いのでしょうか。たしかに夏に冷房機器として使用したときに比べると電気代が大きく跳ね上がるため、高いと感じるかもしれませんが、その要因は外気温と設定温度の差にあります。
エアコンは、設定温度まで空気を暖めたり冷やしたりしているため、たとえば外気温が35℃の夏に設定温度を28℃にすれば、その差の7℃分を冷やすことになります。これに対し、外気温7℃の冬に設定温度を22℃にした場合、15℃分の差を埋めなければならないため、暖房運転のほうが消費電力量が多くなるのです。
それでもエアコンは、もっとも熱効率が良い暖房機器とされています。
というのも電気ストーブは、1の電気エネルギーから1の熱エネルギーしか生み出せませんが、エアコンに搭載されたヒートポンプは、1の電気エネルギーと空気中の熱(大気熱)を活用することで、最大7の熱エネルギーを生み出すことができるのです。
逆にいえばエアコンは、電気ストーブの7分の1のエネルギーで熱を生み出すことができる“省エネ暖房”ということができます。
そうはいっても、気になるのが電気代です。
エアコンは、家庭の電気代の30%以上を占めている上、ここ数年は電気代の高騰が続いています。さらにカーボンニュートラル(脱炭素)の観点からも、エアコンには、より高い省エネ性が求められているのです。
各メーカーが独自機能で省エネ性を進化
経済産業省はさらなる省エネ化を推進するため、22年5月31日に、家庭用壁掛形エアコンの冷房時エネルギー消費効率を、現在の基準エネルギー消費効率(省エネ基準)より13.8%から34.7%改善させる「新省エネ基準」を発表しました。
達成の目標年度は27年で、目標をクリアできた製品には家電量販店などで緑色の「統一省エネラベル」を掲示することができます。この目標基準値は、「APF(通年エネルギー消費効率)値」と呼ばれる数字で表示されます。
たとえば、冷房能力2.2kWhエアコンのAPF値は、従来の「5.8」から「6.6」へと13.8%、冷房能力4.0kWhエアコンのAPF値は、従来の「4.9」から「6.6」と34.7%アップしました。各メーカーはこの目標基準値をクリアするため、インバータやヒートポンプなどを改良するなど進化を重ねています。
三菱電機は、部屋の空気を吸い込み、ファンと熱交換器の形状を従来と大きく異なる形状にすることで、より効率的な冷暖房を可能とし、FZシリーズにおいては6年連続で省エネナンバーワンを実現しました。
またパナソニックは、室外機の熱を再利用する「エネチャージシステム」を世界で初めて搭載。従来は大気中に放出していたコンプレッサーから生まれる熱を再利用することで、冷房時は設定温度キープや除湿に、暖房時は霜取り対策に使用し、消費電力を抑えています。
またダイキンは、エアコンの運転時間のうち、運転開始直後の20%に大きな電力を使用し、その後80%は安定した状態を維持することに着目。安定時に節電を重視した運転を行う「節電自動運転」を搭載することで、安定時の消費電力約20%の削減を可能にしています。
エアコン暖房の電気代を抑えるアイデアと機能
さらにエアコン暖房は、使い方を意識することでも節電が可能です。
重要なのは、エアコンのフィルターをこまめにお手入れすること。フィルターが目詰まりすると空気を十分に取り込めず、ムダな電力を消費してしまいます。
パナソニックによると、フィルターを1年間掃除しなかった場合、こまめに掃除した場合に比べて25%の電力がムダになるといいます。近年は、フィルター自動お掃除機能を搭載したエアコンも増えており、お手入れが面倒な人にはおすすめです。
またサーキュレーターを併用することで温度ムラを抑え、暖房効率を上げることができます。
暖房使用時は暖かい空気が天井に溜まり、足元や生活空間の温度が上がりにくくなるため、サーキュレーターで天井に溜まった暖気を攪拌して熱ムラを解消すれば、エアコンの設定温度を下げられる場合があります。設定温度を1℃下げることで電気代を10%抑えられるとされています。
近年のエアコンのなかには、気流をかき混ぜるサーキュレーション機能を搭載したものもあります。
さらに加湿をして体感温度を上げるという方法もあります。人は同じ温度下でも、湿度が高いほうが皮膚から逃げる熱が抑えられ、体感温度が高く感じる性質があります。体感温度が上がれば設定温度を下げられるため、上と同様の理由から節電につながります。
なおパナソニックやダイキンのエアコンには、給水なしで加湿できる機能も搭載されています。
内閣府の「消費動向調査※」によると、エアコンの平均使用年数は13.2年ですが、メーカー側は標準使用期間を10年と設定しているところが多く、10年を超えると修理できなくなるケースがあります。
とくに古いエアコンの中には新省エネ基準に適合しておらず、電気代が高いものもありますので、最新機種に買い換えることで快適性と電気代の安さを実感できるかもしれません。
※内閣府「消費動向調査」
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/honbun202103.pdf
〈著者〉
田中真紀子
家電ライター。早稲田大学卒業後、損害保険会社を経て、地域情報紙に転職。
その後フリーとなり、住まいや家事など暮らしにまつわる記事を幅広く執筆。
出産を経て、子育てと仕事の両立に悩む中、家事をラクにしてくれる白物家電、エステに行けなくても自宅美容できる美容家電に魅了され、家電専門ライターに。現在は雑誌、webにて執筆するほか、専門家として記事監修、企業コンサルタント、アドバイザー業務もこなし、テレビ・ラジオ出演も多数こなす。これまで執筆や監修に携わった家電数は1000近くに及び、自宅でも常に多数の最新家電を使用しながら、生活者目線で情報を発信している。
公式サイト:https://makiko-beautifullife.com/