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眠るためにバーチャル空間へ…〈睡眠改善〉〈ストレス解消〉の効果も期待される「VR睡眠」の世界

2023.12.22(最終更新日:2023.12.22)

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「VR睡眠」をご存知でしょうか?

「VR睡眠」とは、VR(仮想現実)空間で眠るという体験です。メタバースの概念が普及する前から存在していた文化であり、たいていのユーザーはVRヘッドセット(HMD)を装着し、VR空間にログインして睡眠を取ります。ユーザーは現実世界とは異なる環境でリラックスし、眠りにつくことができるのです。またVR空間での睡眠は、友人や他のユーザーとのソーシャルな交流を深める機会を提供し、新しい形のコミュニティを形成しています。さらにこのようなVR睡眠の体験は、メンタルヘルスの改善やストレスの軽減にも役立つとされているのです。この新しい睡眠体験について迫っていきましょう。

バーチャル空間での「睡眠体験」とは

VR睡眠はVR空間で睡眠をとることを意味し、多くの場合、VRヘッドセット(HMD)を装着したまま眠ることになります。それにより、仲の良い友人や恋人と同じ空間で眠ることで何とも言えない幸福感に包まれたり、修学旅行のときのような高揚感に浸りながら眠りについたり……VR空間の多様な世界のなかで、毎日違う場所で眠っているような体験を楽しむことができます。

「VRChat」というソーシャルVRプラットフォームには、VR睡眠のための専用「睡眠ルーム」が存在します。これらのルームは、リラックスや睡眠のためのバーチャル空間として設計されており、不眠症や孤独を感じる人たちに人気です。見知らぬ人同士でも安全にリラックスできる環境であり、ビーチやキャンプ場、ホテルの部屋などさまざまなテーマで作られています。音楽も多様で、穏やかなビートから自然の音、静寂まで様々です。

VR睡眠の大きなメリットは、一人で自宅にいながらも、VR空間内で友人や恋人と共に眠れることです。現実世界のお泊まり会のような体験をVR空間で再現でき、時間や場所を気にする必要がありません。さらに、目覚めた時に誰かがそばにいる安心感を得られるため、一人で眠るのが寂しい人には特におすすめです。

VR睡眠は「睡眠改善」に効果があるのか

多くの研究によると、現代人の睡眠不足の一因としてスマートフォンの使用が挙げられています。スマートフォンや他の電子機器からの光は、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を抑制し、睡眠の質を低下させることが知られています。

一方で、VRをリラクゼーション手法として利用することで、睡眠を促進し、睡眠の質を向上させる可能性があります。特に、不眠症の症状を持つ10代の若者たちにおいて、VRの利用が睡眠改善に効果があることが期待されています。

SRIインターナショナルの神経科学者、マッシミリアーノ・デ・ザンボッティ博士は、VRが不眠症治療に効果を発揮する主な理由として、自分の置かれている環境をコントロールできるという感覚により、入眠に欠かせない安心感を得られること挙げています。VRはリアルな環境とのつながりを維持しつつ、安心感を提供してくれるので、この問題を解決する手段となるというのです。

ただし、VR環境でも不快な体験がある場合、リラックスして眠ることが困難になる可能性があります。たとえば睡眠ルームに入った際に、ロボットのアバターが無機質な声で話しかけてくるような状況では、リラックスしにくくなるかもしれません。VR空間での睡眠体験は、実際のリラクゼーション効果に大きく影響されるため、VRの睡眠環境を選ぶ際は慎重に行う必要があります。

睡眠中の動きと「VR機器」の制限

VR睡眠は、睡眠改善の効果が期待できますが、一方で、VR機器の形状が睡眠に適していない場合があることを理解することは重要です。

まず、VRヘッドセットの大きさや重さは、長時間の使用による疲労感や不快感を引き起こす可能性があります。また、ヘッドセットが個々の顔の形やサイズに合わせて調整できない場合、装着時の快適さが損なわれることがあります。

さらに、VR機器は頭部に装着されるため、睡眠中の寝返りや頭部の動きが制限されることもあります。特に睡眠中に頭を動かすことが多い人にとって、快適な睡眠環境にならない可能性があるでしょう。

これらの問題を解決するためには、個人に合ったサイズや重さのVRヘッドセットの選択、顔に合わせて調整できる機能を備えたヘッドセットの選択が重要です。また、自分の寝相や動きに合わせたVR機器の使い方を工夫することが大切です。

VR睡眠の「実践体験」筆者の試みと感想

筆者もVRChat内で友人と一緒にVR睡眠を試してみました。VRヘッドセットを装着したまま眠るという体験です。このVR睡眠を二度試みましたが、いずれもHMDを装着した状態では寝返りを打つのが難しく、快適に寝付くことができませんでした。筆者は普段、横向きやうつ伏せで寝るため、VRヘッドセットの装着感が気になり、長時間寝付けないことがストレスになることが原因でした。ただし仰向けでじっと眠ることができる人にとっては、この体験が楽しめるかもしれません。

VR睡眠の感覚は、友人や恋人との電話で話しながら寝落ちする経験に似ていると感じました。このように、VR睡眠は一般的な睡眠とは異なる体験を提供し、新しいリラクゼーションの方法として魅力的かもしれませんが、向いている人、向いていない人が分かれるかもしれません。

VR睡眠を実践している人からは「睡眠の質が向上した」という感想のほか、「コミュニケーションの手段としても有効」という声も聞こえてきます。

VR睡眠は非日常的な体験を提供するものの、慣れるまでは快適に眠ることが難しい場合もあります。それでも、一度試してみる価値はあるでしょう。ぜひとも、VR睡眠を活用した新しいコミュニケーションを体験してみてはいかがでしょうか。


筆者プロフィール
齊藤大将
株式会社シュタインズ代表取締役。
情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究に従事。
現在はテクノロジー×教育の事業や研究開発を進める。個人制作で仮想空間に学校や美術館を創作。