運転席やハンドルのない自動運転車両をホンダとGMらが共同開発
23年10月28日~11月5日に開催された「ジャパンモビリティショー2023」で、ホンダ(本田技研工業)のブースに展示された運転席のない完全無人のタクシーサービス専用車両『クルーズ・オリジン』は多くの注目を集めました。
『クルーズ・オリジン』は対面式の6人乗りで、とても広い車内空間では自家用車のようなプライベート感を実現。家族や友人たちとの会話や、ビジネスパーソンの移動時間の有効活用を両立するデザインが意識されています。
完全無人のタクシーサービスでは、スマートフォンのアプリで乗りたい場所を指定するとユーザーを迎えにきてくれる上、目的地に到着するまですべて自動運転、決済もアプリ上で行います。
公道での自動運転タクシー営業運転…実は日本が「世界初」
実は、自動運転技術を使用したタクシーの公道での営業運転を世界で初めて実現したのは日本です。18年8月27日~9月8日のことでした。
法律上、車両には運転士が乗車していましたが、ZMPと日の丸交通(協賛/協力:三菱地所、協力:森ビル)が手動運転と自動運転を切り替えて、片道1,500円で六本木ヒルズと大手町ファイナンシャルシティグランキューブ間を運行しました。
筆者も実際に乗車しましたが、このときにはすでに予約から決済、車両のドア開閉もすべてスマホで行えるシステムが開発されていました。
バスとはまるで異なる、無人の自動運転タクシー実現の難しさ
「六本木から大手町の固定ルートのみ」の運行をタクシーと呼んでいいかどうかは別として、車両は交通量の多い都会でも、ほとんどの区間において自動で走行し、車線変更や右左折も運転士の手を借りることなく行いました。
手動で運転したのは、ほかの車が予期せぬ場所で斜めに停まったり、違法に二重停車している車両が車線を塞いだりしたときだけでした。
実はこの点こそ、自動運転バスと比較した際の「無人の自動運転タクシー」ならではの難しさです。
完全自動運転を実現するには、AIが交通ルートと道路状況を予め十分に学習し、さらには歩行者やほかの自転車の動きなど、突発的な状況変化に適切に対応して安全に走行しなくてはなりません。固定のルートを走るバスと、目的地までさまざまなルートを走行するタクシーでは、運用の困難度がまるで異なるのです。
路上駐車しているクルマは、自動運転システムにとっての難題です。路上駐車の状況は都度異なるため、走行できる範囲や人が飛び出す危険性も毎回異なります。
そのため、自動運転の実証実験を行う場合には、自動運転走行ルートの路側帯にコーンを置いたり、地域住民に協力を呼びかけたりして、路上駐車を防止することもあります。自動運転タクシーや自家用車に、運転士が同乗しない「レベル5」の完全自動運転システムを実現する困難の一端が想像できるのではないでしょうか。
安全性には課題も…「高齢社会」の移動手段として期待される自動運転タクシー
事実、すでに自動運転タクシーが実用化されている米国や中国でも、その安全性は「完璧」とはいえません。
ホンダの発表からわずか数日後の10月24日にはカリフォルニア州陸運局がサンフランシスコで完全自動運転タクシー事業を運用するGMクルーズに対し、運転手なしでの運行許可の停止を発表しています。冒頭に紹介した通り、GMクルーズは26年初頭に東京で自動運転タクシーサービスを提供する発表をしたメンバーの1社です。
この運行許可停止の背景には、同社の自動運転タクシーが、サンフランシスコ市街地でほかの車にはねられて道路に倒れていた女性の上に乗り上げて停止してしまったり、緊急走行中の消防車と衝突したりという事故を起こしたことや、同社がそうした事故について不正確な情報を報告していたことが挙げられます。
ただ、陸運局は同社が安全性と正確性を満たせば、再度運行許可を発行するとしています。
日本では、運輸・物流業界の運転士不足が顕在化すると危惧される「2024年問題」の到来を目前に控え、タクシーやバス、トラック等の自動運転サービスの実用化・普及には大きな期待がかけられています。
とくにタクシーやバスは、高齢社会ではとても重要な移動手段であり、自動運転の早期実現が期待されています。バスとタクシーでは自動運転サービスの運用の難易度が異なりますが、状況に合わせて実績を積み上げ、安全性を実証していくことが求められています。
<著者>
神崎洋治
TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。