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未来の職場はバーチャル?メタバース時代の「新たな働き方」と自己表現のかたち

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.10.10(最終更新日:2023.10.10)

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メタバースへの関心が高まる中で、新たな働き方として「メタバースで働くこと」に対する期待も高まっています。メタバースは、アバターを通じたオンラインでの活動を可能にし、これまでにない働き方を生み出し、個人の特性に適した働き方を提供できる可能性があります。

筆者自身も、VRChatというメタバースプラットフォームで「私立VRC学園」という仮想学校を設立し、授業を開講したり、メタバース内に美術館を創設し展示会を主催したりするなど、数々のイベントを企画・運営してきました。そこでは、単なる交流に留まらず、イベントの企画や運営、メタバース上での案内や指導などの役割も発生します。

これらの経験を通じて、「メタバース内での新しい働き方」について多くの示唆を得ることができました。新しい働き方の可能性が広がるメタバースの世界で、私たちの未来はどのように変わっていくのでしょうか。

メタバース内における新たな職業の可能性

筆者自身が取り組んだメタバース内の学校「私立VRC学園」やVR美術館においても、講師や案内役が存在しています。メタバース内での授業や案内業務は、現実世界で行われている教育やガイド業務と大きな違いはなく、今後ますます広がる可能性を感じています。

現在、メタバース内での職業はまだ一般的ではありませんが、様々なイベントの数は増加しており、イベント運営や顧客対応を行う人材の需要も高まっています。VRChatで定期的に行われる「Vket」や、サンリオの「SANRIO Virtual Festival」など、企業や個人がメタバースでのイベント開催を当たり前のように行っており、メタバース内でのイベントスタッフのアルバイトも定期的に募集されています。また、姫宮VIGサービスが手がける店舗型VRChat体験サービス「スグバース」では、仮想空間内でバーチャルアテンダントから案内を受けることができます。バーチャルアテンダントという仕事も、これまでにない新しいワークスタイルです。

メタバース内で英語を教える筆者とその友人たち

この時代に求められるのは、メタバース内での接客スキルや円滑なコミュニケーション能力を備えた人材です。メタバースは、IT知識や新しいデバイスの取り扱いに精通していない人々にとっては、操作が難しかったり、メタバース内での適切な行動が分からなかったりするため、参入障壁が高いと言えます。このため、メタバース初心者を案内するコミュニティなども存在しており、多くの新規参入者がメタバースでの楽しみ方を教えてもらったり、メタバースに広がるワールドの案内を受けています。今後、メタバース内のイベントスタッフはますます需要が高まっていくでしょう。

アバターを使ったコミュニケーションスキル

メタバースでは、アバターを使用してコミュニケーションを取ることが必要となります。メタバースでは自分の本来の外見に左右されることなく、アバターを介して他の人々と交流できます。このため、日々開催されている様々なイベントにも、イベントスタッフや講師、ライブ配信など、基本的に誰もが同じように参加できるのがメタバースの特徴です。

ただし、アバターを使用したコミュニケーションには慣れやテクニックが必要です。外見と実際の中身が異なる相手と、スムーズな対話や案内、講義などを行うのは初めは誰にとっても難しいことかもしれません。

したがって、アバターを介した円滑なコミュニケーションができるスキルは今後ますます価値が高まるでしょう。関連する例として、Vtuber(バーチャルユーチューバー)として活動する人々がアバターを使用してYouTubeで配信するケースは、いまや日常となりました。現実の自己とは異なるアバターを使用する場合、コミュニケーションスキルやアプローチに違いが生じます。

メタバースでも同じ考え方が適用されます。メタバースでは「まさに目の前に人がいる感覚」を得ることができますが、あくまでアバターを通した他者との接触です。またVtuberとは異なり、メタバースでは会話相手もアバターを使用しているため、アバター同士でのコミュニケーションスキルが必要です。さらに、通信環境の影響による会話のラグや、操作方法、音声の調整などをスムーズに行うための豊富なIT知識も必要となってきます。

筆者の齊藤大将と画家の植村友哉氏で行っているメタバース展示会イベントの様子。プロの画家である植村友哉氏が作品の解説を毎週行っている。

アバターだからこそ広がる自己表現のかたち

現在、メタバースへの参加にはアバターが不可欠です。そして、メタバース内では国籍、性別、年齢など、さまざまな背景を持つ人々が、アバターを通じて交流しています。

言い換えれば、メタバース内でのコミュニケーションは、障がいの有無や性別、年齢など外見から生じる情報が相手に伝わりにくくなるため、余計な差別や偏見がリアルワールドと比較して発生しにくくなります。これは、自身の外見に自信を持たない人や障がいを抱える人々にとって、精神的な負担を軽減する可能性が高いと言えるでしょう。メタバースがもたらす新たな価値として、多様性を尊重したコミュニケーションの場を提供していることが挙げられます。
 
アバターは性別が異なるものから動物、ロボットなど、自分の好みに合わせて簡単に切り替えることができます。アバターを使用する人々の中には、現実世界の自分とは異なる性格や人格を表現する人も多く存在します。これは、私たちが複数のアイデンティティを持つことを許容する感覚に近いと筆者は捉えています。メタバースは、自分の内に存在する異なるアイデンティティを表現する場として活用できるのです。

アバターを通じて自分の代理を形作り、環境を自己のコントロール下においてコミュニケーションをとることは、メタバースが提供する特長的な要素です。この方法を通じて、不安や知覚の異常をある程度コントロールすることが可能であり、他者と安全にコミュニケーションを取りながら、リアルな臨場感を保つことが可能となります。

これらの特長により、メタバースは国籍、性別、年齢などをある程度無視できるため、新たな働き方の可能性が広がります。さらに、自宅からでもメタバース内での接客や案内が可能であり、現実世界では難しい状況にあったとしても、メタバースを通じてやりたいことを実現できる可能性があるのです。

筆者主催の交流イベント

メタバースは夢の実現を可能にする場所

まだまだメタバースに入ったことがない人が大半であるため、「メタバースで働く」ということにイメージが湧かない人が多いでしょう。しかし、メタバースでの働き方は、革命的な変化をもたらす可能性に満ちています。

アバターを通じたコミュニケーションが中心となれば、現実世界での制約や差別が少なくなります。多様なアイデンティティを表現できるため、自己実現の場として大いに期待されています。これは現実世界の課題解決にも繋がるでしょう。

すでに、メタバース内での働き方も発展しており、イベント運営や顧客対応、教育、ライブ配信など多くの職種で活躍の場が広がっています。ただし、アバターを介したコミュニケーションは新たなスキルを要求し、より複雑なIT知識が要求されていることも事実です。そのため、円滑なコミュニケーションスキルとITスキルの両方が今後ますます重要とされる時代になっていきます。これはメタバースへの参入障壁を高くしている要因の一つと言えるかもしれません。

現実世界では難しい状況下で働きたい人々にとって、メタバースは夢の実現を可能にする場所として存在感を増しています。今後もメタバースの発展に伴い、新たな働き方やキャリアの可能性が広がることでしょう。より多くの人がメタバースで新しいキャリアと楽しい人生をスタートすれば、我々の想像を超えた未来が待っているかもしれません。

[プロフィール]

齊藤大将

株式会社シュタインズ代表取締役。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。

エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究に従事。現在はテクノロジー×教育の事業や研究開発を進める。個人制作で仮想空間に学校や美術館を創作。また、CNETコラムニストとしてエストニアとVRに関する二つの連載を持つ。