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“世界初の完全無人レストラン”から8年。進化を遂げた、ロボットレストランの現在

2023.08.15(最終更新日:2023.08.15)

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ロボットが調理から配膳まで行うレストラン

無人レストランとはあらゆる対応をオートメーション化して、無人でのオペレーションを可能にしたレストランのことです。ロボットが調理して、配膳まで行う————そんなSFのような世界が、いまや現実になりつつあります。

その先駆けとなったのは、2015年8月にサンフランシスコでオープンした“世界初の完全無人レストラン”を謳った「eatsa(イーツァ)」でした。一体どんなレストランなのでしょうか。

“世界初の完全無人レストラン”「eatsa」

“世界初の完全無人レストラン”を謳った「eatsa」はサラダ専門店です。メニューは、メインのサラダボウルにサイドメニューのチップスとドリンクというシンプルなもの。タッチパネル式のセルフ注文機、またはスマートフォンの専用アプリで注文すると、あとは完成を待つだけとなります。

料理が完成すると店内に設置された液晶ディスプレイに注文者の名前が表示されます。注文者は名前が表示されると受け取り口に進みます。受け取り口はちょうどコインロッカーのような形態をしており、1つ1つのボックスに透明な扉がついています。ロッカーの扉を2回タップすると扉が開き、商品を受け取れる仕組みです。

人間のスタッフは、厨房スタッフと料理を受け取ってロッカーに入れるスタッフのみ。支払いはクレジットカード決済のみが可能で、レシートはメールで届くため、利用者が店舗スタッフを目にすることはありません。

“世界初” から8年――進化する無人レストラン

「eatsa(イーツァ)」の開店から8年、その後、無人レストランはどのように進化を遂げているのでしょうか。世界の事例を紹介していきましょう。

調理から厨房のクリーニングまでロボットがこなす「Spyce(スパイス)」

「eatsa」は人間が調理を担当していましたが、2018年5月、ロボットが調理を行うレストランが登場します。マサチューセッツ工科大学の卒業生でエンジニアの4人がボストンにオープンした「Spyce」です。

豆や穀物などを使ったヘルシーな料理が看板メニューで、店名の由来でもある多種多様なスパイスで料理をカスタマイズできます。メニューはプロの料理人の監修を受けたボウル料理、7種類です。

お客さんがタッチパネルで注文すると、ロボットが調理を開始します。まず鍋に料理が投下され、加熱しながら鍋が回転。料理を待つ間、利用者はその様子を眺めて楽しむことができ、まるで未来を舞台にしたテーマパークのようです。

調理、食器への盛り付けのみならず、調理後の厨房のクリーニングまでロボットが担当します。ただ、全自動化というわけではなく、盛り付けの最後の仕上げのみ人間のスタッフが行います。

オープンから51日間で3.5万人が来店!中国の大人気ロボットレストラン「京東X未来レストラン」

これまで紹介した2店舗は調理から配膳までの段階に人間の介入がありましたが、ついに2018年11月、調理から配膳までをロボットが行う最新型のロボットレストラン「京東X未来レストラン」が中国天津市の天津エコシティ内にオープンしました。

料理の注文・決算はアプリ上で完結し、調理から配膳までをロボットで行う最新型レストランが中国天津市の天津エコシティ内にオープンしました。その名も「京東X未来レストラン」です。

テーブルに設置されたQRコードをスマートフォンで読み込み、アプリ上で注文を完了すると、ロボットが調理を開始します。

調理ロボットが作ることのできるレパートリーは、中国八大料理である四川料理、湖南料理、広東料理、福建料理、江蘇料理、浙江料理、安徽料理、山東料理を網羅しており、なんと40種類にも及ぶレシピがプログラミングされています。料理が完成すると配膳ロボットがテーブルへと運んでくれる分業システムです。

配膳ロボットには、自律走行を支えるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)という技術が導入されており、障害物をよけながら最短ルートで料理を注文者のもとへ届けることができます。

「京東X未来レストラン」は、オープンから51日間で3.5万人の来店者を突破し大盛況。ですが本店舗がロボットレストランならではの本領を発揮するのはオープンから一定期間過ぎた後です。蓄積された顧客のビックデータから必要な食材を分析・決定し、最適化されたオペレーションで料理を提供することができるようになるのです。データを蓄積していくことで、サービスを進化させ続けることが可能です。

北京冬季五輪では天井を配膳ロボットが往来する姿が話題に

中国といえば、2022年に行われた北京冬季オリンピック・パラリンピックでは、大会の報道関係者が準備作業を行うメインメディアセンターに、ロボットレストランのシステムが登場しました。

調理から配膳までオートメーション化されており、天上に張り巡らされた通路を配膳ロボットが行き来して、注文した人が座るテーブルの頭上まで到着すると、クレーンゲームのように料理を降ろして、注文者のもとへ届けるシステムです。

この他にも同大会では、さまざまなロボットが活躍しています。バーテンさながらにシェーカーを降り、器用にカクテルをグラスに注ぐロボットも。ロボットたちの懸命なはたらきは世界中の報道関係者から注目を集めました。

ロボットが連携する日本の無人レストラン「AI_SCAPE(アイ・スケープ)」

これまで世界の無人レストランを見てきましたが、日本ではどうなっているのでしょうか。代表的なものの1つとして、羽田空港に隣接する複合施設「羽田イノベーションシティ」内に、2022年4月にオープンしたロボットレストラン「AI_SCAPE(アイ・スケープ)」があります。

ロボットたちが連携プレーで調理、配膳、下膳までを行い、利用者が店に入って食事を終えて出るまで、基本的にすべてのサービスをロボットが提供しているレストランです。一方で、利用者のサポートやトラブル対応のため、人間のスタッフが常駐しているため安心です。

キッチン内では3台のロボットが調理を担当し、料理が完成すると配膳ロボットが受け取ってキッチンの出口まで運びます。キッチンから客席まで料理を運ぶホール担当は、川崎重工業の人型ロボットNyokkey(ニョッキ―)です。Nyokkeyはセンサーで場所を感知し、周囲の人の安全を考慮しながら、目的地まで移動することができます。

ロボット同士が連携して作業を行う様子は店内のライブカメラから確認でき、健気なはたらきぶりを見守ることができます。

料理だけでなく、癒しも提供するロボットたち

来店者へのきめ細やかなサポートや、トラブル発生時の対応のため、人間のスタッフの必要性は軽視できません。しかし、「AI_SCAPE」の例のように、調理から配膳までの工程をすべてロボットが行う店舗も登場し、完全無人レストランはすでに実現していると言えるのではないでしょうか。

また、完全無人ではなくロボットとの協働を目指すレストランも増えています。ガストやバーミヤンなどを運営するすかいらーくグループでは近年、BellaBot(ベラボット)という猫型の配膳ロボットが活躍しています。

ランチやディナーで賑わうピークタイムの配膳をロボットが担当することで、人間スタッフのタスクを減らし、心理的にも余裕が生まれ、サービスの向上に繋がっています。また、BellaBotの可愛らしい雰囲気は人々を癒し、来店客からスタッフにまで愛されており、顧客満足度の向上にも、一役買っています。


少子高齢化による人手不足や、アフターコロナが生み出すさまざまなニーズにより、無人レストランは今後さらに需要が増すでしょう。5年後、10年後には、完全無人レストランは当たり前のように私たちの生活に溶け込んでいるかもしれません。

[プロフィール]
丹羽篤志

企画から執筆・編集まで多彩なメディアのコンテンツ制作に携わる編集プロダクション・かみゆに所属。得意ジャンルは日本史、世界史、美術・アート、エンタテインメント、トレンド情報など。