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「かくれジミ」、シミと肝斑の違い分析まで!10年前とは一変…AI・最新技術を駆使した美容医療のいま【医師が解説】

2023.05.19(最終更新日:2023.05.19)

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日常生活のなかでテクノロジーの進化を感じる場面が増えました。美容医療の現場でもその進化には目覚ましいものがあることを知っていますか? AIや最新技術の力を借りることで、10年前と比べると、よりリーズナブルな価格で、より効果の高い施術を受けられるようになりました。今回は、美容医療におけるテクノロジーの進化と今後の展望について、美容皮膚科医でレジーナクリニックグループの総院長を務めている木村真聡氏が解説します。

美容医療業界でテクノロジーの進歩が目覚ましいワケ

近年、日本国内で脱毛やプチ整形などが流行し、エステサロンや美容クリニックの情報をいつでも手軽に得られるようになりました。美容医療がこれほど身近になった理由について、「韓国ブームやSNSの普及の影響が大きい」と木村氏は語ります。

「10年前の日本では美容医療の垣根が高く、クリニックにこっそり通う傾向がありました。ところが、韓国ブームやSNSの普及で日本人の美容に対する価値観は大きく変わり、身体の健康維持をするのと同様に、『肌もメンテナンスをしていつまでも若々しく美しくありたい』、『プチ整形程度なら身だしなみのひとつである』いう考えが普及していきました」

また、「テクノロジーの進化」によってより安価に治療や施術ができるようになったことも背景にあります。

「美容医療で使われる機器は、市場に出始めたタイミングではとても高価なため、治療費も高額になります。しかし、年月を経て複数のメーカーで同様の機器が開発されるようになると、価格も治療費も下がります。さらに、パワーの弱い美容サロン用や家庭用機器が出現することで、より安価なものを選べるようになります」

性能のいい機器が出回るメリットは、これだけではありません。

「機器の性能がよくなることで、治療時間がより短時間になり、人件費なども抑えられます。たとえば、10年以上前は医療レーザーによる全身脱毛を1回するのに5~6時間かかりましたが、現在は医療機器の進化により1時間半程度で済みます」

また、AIを用いた画像診断技術の向上によって、的確な診断ができるようになったそうです。

「肉眼では見えない将来的なシミがわかるなど、膨大なデータベースの蓄積と画像技術によって治療の指針を立てやすくなりました。「診断+治療」のワンセットが医療。診断を誤って不適切な治療をすると、症状を悪化させ完治まで時間がかかってしまうことがあります。正確な診断ができれば、治療方針も立てやすくなり、治療の精度も上がります」

ただ、美容医療の分野でAIなどのテクノロジーはまだ進化の途中。ヨーロッパやアメリカを中心に技術開発が進み、日本はそれに追随しているのが現状です。

「商品化に向けて、国内でも急ピッチで研究が進んでいます。最近では、ホクロが良性のものか悪性のガンなのかAIで画像診断できるようになりました。のびしろは大いにあります」

進化の陰で、トラブルも…

一方、美容医療が手軽になったゆえに、トラブルも増えています。特に、高密度の超音波を照射してシワやたるみを改善する「ハイフ」と呼ばれる機器について、相談件数が増えています。2023年3月には、消費者庁消費者安全調査委員会がトラブルについての調査結果を公表しました。

「いままでは外科手術のほか、ラジオ波を利用した機器などで皮下組織まで熱を届け、皮膚を引き締めていました。しかし、ハイフを使用することで、皮下組織のさらに下にある筋肉まで熱が届くため、外科手術に近い効果が期待できます。

近年は美容サロンにとどまらず、業務用の機器を借りて自分自身で施術する「セルフエステ」を利用する人も増えています。そこで熱のコントロールを誤ってヤケドをしたり、解剖学の知識がない人が施術を行うことで神経に熱を当ててしまい、しびれなどの神経障害を起こしてしまったり……トラブルとなるケースが見受けられます」

これは、機器について法律で明確な基準が定められていないこともトラブルの原因のひとつです。

「危険を伴う可能性がある機器に関しては、エステサロンや家庭用で使われるものは基本的にパワーが弱くなっています。しかし、安価に製造された機器のなかには粗悪品があり、医療用並みにパワーが出てしまうものがあるのも事実です。

また、国内では法整備が追いついていないため、責任を問うのが難しい現状にあります。これまでも、脱毛用レーザーでヤケドトラブルが多発したのち、2001年に医療用とそれ以外で棲みわけがされるようになりました。ハイフについても、今後法整備が進んでいくことを期待します」

10年前の常識とは一変…AI・最新技術を駆使した美容医療のいま

およそ10年前とは大きく事情が変わっている美容医療。AIなどの最新技術は、美容医療にどのように活用されているのでしょうか。

「高機能肌診断器」はシミの“予備軍”まで解析可能

美容医療において効果的な治療をするためには、「正確な診断」が不可欠です。「VISIA(ビジア)」をはじめとする高機能肌診断器は、肌のキメや毛穴、シミなどについて1万人を超えるデータベースと比較し、自分の肌の状態を客観視することができます。

「VISIA」は白人、黒人、アジア人と多様な人種のデータが蓄積され、最新のものは男性のデータも追加。撮影ポジションがずれても解析誤差を防止できるなど、年々進化を続けています。肉眼で見えるシミだけでなく、将来的にシミになりそうな“予備軍”まで解析できるため、早めのアプローチが可能になりました。

「シミは紫外線によるものだけでなく、女性ホルモンの乱れが大きな要因とされる肝斑(かんぱん)やアザの場合もあります。最新の高機能肌診断器は、肉眼で見えない部分までカバーしてくれます」

紫外線によるシミと肝斑は見わけが難しい場合があり、治療法を誤ると悪化させてしまうこともあるといいます。

「紫外線によるシミは、強い出力のレーザーを照射することで取り除きます。ところが、肝斑にそのような出力でレーザーを照射すると、逆に黒ずむ恐れがあります。診断の精度が上がれば、治療のリスクも最小限に抑えられ、1人ひとりに合ったよりよい治療を提供できるようになるのです」

シミ治療に使うレーザーのテクノロジーも進化を続けています。シミは、紫外線に反応し肌の細胞内部でメラニンが生成されることで表出しますが、最新のレーザーはこのメラニンに反応し、熱でメラニンを破壊してシミを除去することが可能です。

「以前は「Qスイッチレーザー」が主流でしたが、現在は「ピコレーザー」のほうが副作用が少なく好まれています。Qスイッチレーザーとピコレーザーの違いは、レーザーを肌に当てている時間の差です。

Qスイッチレーザーがナノセカンド台であるに対し、ピコレーザーは1/1,000も短いピコセカンド台という短さ。照射時間が少ないため肌を傷つけるリスクが大幅に減り、治療する際に肌をテープで保護する必要もありません。また、治療後の色素沈着を起こす人も劇的に減りました。体感的には、7~8割の患者さんに起きていた副作用が、1~2割に減りましたね。高いテクノロジーを持った機器の開発で、より安全で効果の高い美容医療が実現しつつあります」

技術×再生医療の応用で「自ら美肌」に

手軽に肌を美しく見せたいという顧客の願いを受け、メイク用品の進化も目覚ましいものがあります。花王が開発した「ファインファイバー技術」は、極細の繊維を肌に直接吹き付けることで、肌の表面に極薄の膜を生成。肌を完全に密閉せずに透湿性を保つことができ、メイク崩れしにくいことから、大きな注目を集めています。

他方、美容医療でいま注目されているのが、皮膚を再生させる因子が豊富な「ヒト幹細胞培養上清液」という物質。

「これらを点滴や注射で肌に導入することで、コラーゲンをはじめとした健康な肌の維持に欠かせない栄養素を、自らの力で再生できるようになります。形成外科分野では、ヤケド跡の治療時などに『シート状の人工皮膚を肌に貼りつける』という方法が活用されていますが、美容目的ではまだ行われていません。今後は最新機器と再生医療を組み合わせ、より効果的な肌治療が期待できそうですね」

より安心安全で効果の高い美容医療へ

こうしていまも研究開発が進む美容医療業界は、ほんの数年先には想像を超えた進化を遂げている可能性があります。ただし、テクノロジーだけが発達しても先述したようなトラブルが減少するとはいえません。進化に合わせ、治療や施術を行う医師も技術や知見をアップデートする必要があるでしょう。また、利用する側のリテラシーも高めていくことが重要です。

「法整備はもちろん必要ですが、グレーな部分をかいくぐる業者が消えることはありません。ネットなどを通して発信される情報を鵜呑みにせず、副作用のリスクはあるのか、ほかにどんな治療法があるのか、信頼できる情報源なのか、など利用する側も主体性を持って正しい情報を選ぶ力が不可欠です」

テクノロジー、施術者、利用者……この3者がそれぞれ“進化”することで、より安価で安心安全に、美しさを手に入れられる未来が見えてきます。


[プロフィール]

木村 真聡
美容皮膚科医。大阪大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院や一般病院勤務を経て美容医療の道へ。美容皮膚科医として10年以上のキャリアを持ち、医療脱毛や美容皮膚治療を専門とする「レジーナクリニック」グループの総院長を務める。