「うちれぴ」には3つの機能がある
「うちれぴ」には、大きく分けて3つの機能があります。
1. 今ある食材の把握(電子レシートサービスとの連携)
2. レシピ提供(食品メーカーとの連携)
3. 自動調理(調理家電との連携)
特徴的なのは、レシピ提供機能にとどまらず食材選びから調理まで「ごはん作り」のすべての過程をサポートしようとしていること、「ごはん作り」を通じて家族のコミュニケーションを促進しようとしていること、他の企業の技術・サービス等と連携している「プラットフォーム」のような役割を備えていることです。
【保坂氏】
「コロナ禍で家でごはんを食べるシーンが増えました。家庭での食事は家族の重要なコミュニケーションであるはずです。しかし、実際には、『パートナーがまったく手伝わない』とか『作っても家族から感謝されないし興味も持たれない』という話をよく聞きます。
そこで、家族みんなが『ごはん作り』を通じてコミュニケーションできる機能があったらいいなと考えました。
また、レシピを決めることはあくまでも、『ごはん作り』の一過程にすぎません。それだけでなく、上流の『買い物』から下流の『調理』まで一気通貫につなげることで、家族の誰もが料理に関われるようになるしくみを目指しています。」
今ある食材を把握する機能
第一の機能は、今ある食材を把握する機能です。東芝テックが開発・運営し、東芝データが運営を支援している電子レシートサービス「スマートレシートⓇ」と連携させることにより、購入した食材を把握することができます。
まず、「スマートレシート」に対応している店舗で買い物をすれば、購入した食材を「うちれぴ」で把握することができます(【図表1】左・中央)。
次に、「うちれぴ」ホーム画面の「スマートレシート」タブから「食材で絞り込む」を押せば、食材の一覧が表示されます(【図表1】中央)。
そして、そのなかから使いたい食材を選択すれば、レシピが提案されます(【図表1】右)。
保坂氏によると、当初はまったく別の形を考えていたとのことです。
【保坂氏】
「『スマートレシート』との連携は2022年12月に開始しました。『スマートレシート』と連携すれば、ユーザーが何もしなくてもスーパーで買ったものを把握できます。ここから、うちれぴで「今日のごはん」にレシピが登録されると、当該レシピの使用食材を削除することで、今家にある食材を自動的に管理・把握することができます。
当初は、冷蔵庫の中をスマホで撮影し、AIによる画像解析でどんな食材があるか判定してレシピを提案することを考えていました。
しかし、これは技術的に非常に困難を極めました。冷蔵庫の構造がメーカーによっても違う、中身の置き方が家庭によってバラバラ、似た形や色の野菜が判別できないなどの難点があり、AIの学習機能をもってしても、精度を担保するのがたいへん難しいことがわかりました。
『ごはん作り』を通じて家族のコミュニケーションを促進するという『うちれぴ』のコンセプトからすると、そこは本質ではないと割り切ることにしました。現状、実現しうる手段を最大限活用しようということです。
『買ってきた食材』と『調理に使用した食材』の差分が『家庭の在庫』になっているという前提に立てば、『スマートレシート』のような電子レシートサービスとの連携が合理的です。」
レシピ提供機能
第二の機能は、レシピ提供機能です。
「うちれぴ」では、30社を超える食品メーカーから2万超のレシピの提供を受け、掲載しています。そのなかからさまざまな条件で検索し、レシピを選ぶことができます。
【保坂氏】
「レシピをどのように調達するかということを考えたとき、『投稿型』はどうしてもクオリティーのばらつきが大きくなります。そこで目をつけたのが、食品メーカーが自社サイトで掲載しているレシピ集です。
それらのレシピは食材や調味料の特性をよく理解した担当者が作成しており、質が高いものです。しかしその反面、そういったレシピが世に広く知れ渡っているとはいえません。
そこで、『うちれぴ』でそれらのレシピを掲載し紹介すれば、食品メーカーの側でもPRにつながるというメリットが大きいのではないかと考えました。交渉したら果たしてその通りで、多くの食品メーカーからご協力いただくことができました。」
次に、チャット形式の「ごはんトーク機能」を使えば、家族の希望を聞くことや、夕食のメニューの共有や、帰宅時間の報告、買い物の相談もできます(【図表2】)。
さらに、「うちれぴ帳」の機能もあります。これは、その料理を食べたときの思い出や家族の感想を記録するレシピ集で、家族の好みや定番レシピの情報が積み重なっていきます(【図表3】)。
【保坂氏】
「『ごはんトーク』を通じて、作り手だけではなく、家族みんなが関わることができ、コミュニケーションの促進につながります。
また、『うちれぴ帳』は、ごはんに対する家族の評価が蓄積されるだけでなく、思い出の記録にもなります。その記録自体が家族のコミュニケーションのネタになります。」
調理家電との連携で自動調理
第三の機能は、調理家電との連携です。家電メーカー・シャープ株式会社のアプリ「COCORO KITCHEN」と連携することができます。
「COCORO KITCHEN」は、クラウドの人工知能がシャープ製の「ヘルシオ」「ホットクック」等の調理家電にレシピを提供するアプリです。
「うちれぴ」では「COCORO KITCHEN」を通じてシャープ製の調理家電にレシピを送信することができるのです。
「うちれぴ」の検索画面を開き(【図表4】左)、「シャープ調理家電レシピ」のタグで検索してレシピを探し出し(【図表4】中央)、「COCORO KITCHEN」へメニュー送信します(【図表4】右)。
あとは、「COCORO KITCHEN」から調理家電へとレシピを送信すれば、その通りに調理してくれます(【図表5】)。
今後の課題
このように、「うちれぴ」は「食材の買い物」→「メニュー選び」→「調理」という「ごはん作り」の一連の流れを効率化するとともに、家族のコミュニケーションの増進につなげることを目的としたアプリです。
しかし、ユーザー数が7万人に達している一方で、今後、さらに多くの人に利用してもらううえでは課題が残っています。
【保坂氏】
「ユーザーは7万人に到達しましたが、今後、『家族で使うとこんなにいいことがありますよ』ということをもっと広めていく必要があります。
また、プラットフォームとしての機能を充実させることによって、ユーザーにとってますます使いやすいサービスにしていきたいと考えています。
まず、食材を把握する機能は現状、「スマートレシート」との連携に限られています。
今後、「スマートレシート」を普及させていくのはもちろんですが、「スマートレシート」以外のサービスとの連携も広げていく手段もありえます。たとえば、家計簿アプリやネットスーパーは直接連携することができるのではないかと考えています。
そうすることによって、『今あるもので作る』『作ろうとする料理のため足りない食材だけを買い足す』ということがスムーズに行えるようになります。また、フードロスの削減にもつなげたいとも考えています。
ビジネスモデルとして確立していくことも課題です。現状は、食品メーカーとの共同プロモーションにより売上を上げていますが、今後は『うちれぴ』の理念・サービス内容と親和性のある広告、たとえば食品メーカーの新商品の広告等を掲載することも考えています。また、現在は完全無料ですが、今後、機能がさらに充実していけば、一部機能を有料化できないかも検討したいと思います。
さらに、フードロス削減や、ごはん作りに家族みんなが協力することを通じてのジェンダーレス推進といった、社会課題の解決への貢献につなげていきたいとも考えています。」
「うちれぴ」のプロジェクトが成し遂げようとしている、「ごはん作りの効率化」に留まらず家族の「食」体験として捉えてこれまでにない新たな価値を創出するサービス実現の試みは始まったばかりです。今後、プラットフォームとしての機能が進化し、いっそう世に周知されていくことで、あらゆる人にとっての「食卓」のあり方自体を大きく変えていく可能性があるといえます。
*「スマートレシート®」は東芝テック株式会社の登録商標です。
(文=出岡大作)