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年10兆個のポイ捨てがない世界へ。ゴミ拾いSNS「ピリカ」の挑戦。

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2022.07.19(最終更新日:2022.09.14)

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2011年に京都大学の研究室で誕生した「株式会社ピリカ」。ゴミ拾いSNS「ピリカ」の開発・運営をはじめ、路上のポイ捨てゴミや河川のマイクロプラスチックの調査サービスなどを手がける。

「地球上では、年間およそ10兆個のごみがポイ捨てされていると考えています」と話すのは、株式会社ピリカの代表取締役である小嶌不二夫(こじま ふじお)氏。大学院時代に経験した世界一周旅行が大きな契機となり、帰国後「ピリカ」のアプリを開発、そして起業に至った。

ピリカが手がけるサービスの革新性とは? ピリカはなぜ環境問題やごみ問題という壮大な課題に挑戦し続けるのだろう?小嶌氏に話を伺った。

ゴミ拾いを記録・発信し、見える化

——「ピリカ」をダウンロードしてみると、自分の住む街でゴミを拾っている人がこんなにもいるのかと驚きました。ピリカはどんな人に、どんな目的で使われていますか?

ゴミ拾いをする個人の方に加えて、企業や自治体も導入してくれています。これまでピリカを使って清掃活動に参加した人は113カ国、200万人以上。「ピリカ」で拾われたゴミはざっくりと見積もっておよそ2.4億個(2022年6月時点)です。

ゴミ拾い自体は孤独な作業ですが、ピリカは拾ったゴミを写真に撮って投稿することのできるSNSなので、拾ったあとにコミュニケーションが楽しめます。ほかのSNSと違うところは、ピリカは初投稿にも数十件の「ありがとう」(「いいね!」と同様の機能)がつくこと。たとえばTwitterに登録したばかりでフォロワーがまだいないとき、ほとんど反応はないですよね。しかしピリカを使っている人は、初めてゴミを拾ってくれた人が大好きで「ぜひ続けてほしい」と思っています。なので、初投稿は特に「ありがとう」やコメントがたくさんつくんですね。そもそも全員がゴミを拾う人なので、同じ目的意識を持つ安心感もあり、コミュニケーションが生まれやすくなっているのだと思います。

ピリカのアプリ画面

繋がりを求めて利用する人がいる一方、自分がどこでどれだけゴミを拾ったかという記録用にピリカを使っている人もいます。「私の投稿にはコメント不要です」とプロフィールに書いて、黙々とゴミ拾いをしている人もいて、それはそれで嬉しいなと感じています。ほかには、ゴミ拾いが単調にならないように意識的に楽しさを見出そうと、ゴミを拾うと俳句を一句つぶやく人も。俳句のバリエーションが尽きてしまったのか、その後拾わなくなってしまったんですが(笑)、ユーザーさんがどんな人なのかウォッチするのはいつも楽しいです。創業初期はユーザーが少なかったこともあり、ほとんどのユーザーと知り合いというくらいの感覚でしたが、今は数百万人の方々が参加してくれるプラットフォームへと成長し、一人一人を追いきれないほどになりました。

——自治体や企業の方々はどんな目的で「ピリカ」を導入するのでしょうか?

自治体の場合は、「環境課」や「環境政策課」といった地域の清掃活動や環境活動を担う課の人が声をかけてくださいます。たとえば、〇〇市クリーンアップキャンペーンなど、ボランティアによる地域の清掃活動を行っていたり、ポイ捨てを抑制するために街中にポスターを貼ったりゴミ箱を設置したりということを、長年やってこられている方々ですね。しかし、「本当に街がきれいになっているか」「実際にどれだけの人が参加してきたのか」をデータとして把握してこなかったことが課題だったそうで。「ずっと続けてきたし、いいことだからやらないと」という感覚があったんです。ここ数年で、その状況を変えていきたいというフェーズに入った自治体が増えました。ゴミの量を視覚化・定量化し、またゴミ拾いの参加者やゴミの分布を把握するなど、実績を「見える化」するニーズが高まっているところに、ピリカが活かされています。

また、新型コロナウィルスの影響でピリカの広がりは加速しています。コロナ禍で集団での清掃活動が難しくなり、個人やグループなど分散型で行うゴミ拾いが求められているからです。清掃活動のイベント数は減っているかもしれませんが、2020年以降、結果的にピリカで清掃活動に参加する人の数は増加傾向にあり、自治体の導入数も増えました。

企業の場合も、CSRや社会貢献の一環として事業所や店舗周辺の清掃活動を行うケースが見られますが、その清掃活動の実態がわからないという課題がありました。
「ピリカ」が企業の清掃活動を見える化することで、「うちって年間数千人がゴミ拾いに参加していたんだ」「こんなにたくさんの量のゴミを拾っていたんだ」と利用企業から驚かれます。計測することで、とても有意義な活動だったということに気づくんですね。植林など新しい環境活動を始める前に、清掃活動を見える化して発信することに価値を感じていただいてます。

さらに、地元の顔となるような企業が清掃活動を発信していくことで、周りの企業も感化されて清掃活動を始めるという連鎖も。結果的に地域で回収されるゴミの数が増えて、街がきれいになっていきます。これまでは、良い意味で地域の清掃活動を「ひけらかさない」企業が多かったのですが、きちんと発信することが会社のためにも社会のためにもなるということをお伝えすることで、「ピリカ」を活用してくれる企業が増えました。

「ピリカ」開発のヒントは、世界一周旅行から

——小嶌さんが「ピリカ」を立ち上げた経緯を教えてください。「科学技術の力であらゆる環境問題を解決する」ということを掲げられていますが、環境問題をテーマにしたきっかけはなんでしょうか?


幼少期に「地球の環境問題」というシリーズ本を読んで環境問題に興味を持ち、「将来はこれを自分で解決してみたい」と思っていたんです。大学院に進んで、環境を取り巻く世界の事情をみてみようと世界一周旅行に出かけたんですが、南米のブラジルを訪れたときに環境問題への意識が変わりました。森林伐採を見るためにジャングルの奥地に入ったんですが、そこで現地の人と話して気づいたことがあって。当然ですが、アマゾンの奥地は360度が森なんですね。そこで村人が「この一角くらいはサッカーコートにしたい」と言ったんです。もし自分がここの住人だったら、同じことを考えるだろうと僕も思いました。

日本では「森林伐採は悪いこと」というイメージがあると思いますが、現地の立場に立ってみると木を切ることは当然だし、むしろ生活の糧として木は切らないといけません。旅を通して、立場によって環境問題への考え方は変わるということに気づきました。

世界一周旅行@ブラジル

——ゴミ拾いSNS「ピリカ」のアイディアは、旅中に思いついたそうですね。

南米、アフリカ、ヨーロッパ、中東、アジアという順番で巡ったのですが、インドやアフリカの国々など途上国では環境問題が深刻で。水は水の色をしていなくて真っ黒な水が流れ、そこからガスが発生しているような川も多く見ました。大気汚染がひどく、外を歩けない場所も。一方、きれいな街でもポイ捨てゴミは必ずあるということにも気づきました。

——なぜそのアイディアに行き着いたのですか?

深刻な環境問題がここにありますよ、という情報がわかりやすく見える形で示されれば、その解決のためにお金や時間を使っている人の行動がより効率化されるんじゃないかと思って。ヒントを得たのは、旅の途中に見かけた「犯罪マップ」です。治安が悪い場所がわかるようヒートマップで示されていて、この道を通るのはやめておこうとか、このあたりに宿泊するのはやめておこうという判断ができますよね。ゴミ拾いに置き換えてみると、商店街でゴミ拾いをしている人が一定数いるとして、もし近くにもっと汚い場所があるということがわかれば、ルートを変えてくれるかもしれないと思ったのです。地図上にピンを刺してデータを視覚化することで人の行動が変わるということは、日本ではまだあまり知られていないことでしたが、海外にはすでに多くの事例がありました。

さらに、ほかにもそのアイディアに行き着いた理由があります。当時、iPhone3Gを持って世界を旅していたんですが、旅の途中で自分が撮った写真の位置情報が記録され、地図上にピンが刺さっていく機能が付いていました。アフリカあたりでその機能を知って、気づいたらピンが世界を半周していて。おもしろいと感じましたし、せっかく行っても写真を撮っていないからピンが刺さっていないことをもったいなく感じました。
そうしてゲーム性や面白さを加味すれば、ゴミの場所や写真などの情報を送ってもらうことができるのではないかと思ったんですよね。

自然界に流出するゴミ問題を解決する

——ゴミ拾いSNS「ピリカ」に続き、ごみ分布調査サービス「タカノメ」や マイクロプラスチック調査サービス「アルバトロス」を展開されています。このサービスについて教えてください。

ピリカをはじめて3年目にチーム内で「ピリカがやっていることは、本当に意味があるのか?」という話になったんです。ゴミは回収されていますが、それによって地球上のゴミが減っているかどうかはわかりませんでした。意味のないことを何年もやっていたらすごく悲しいじゃないですか。なので、自分たちで意味があるかどうかが判断できる指標を作りたいなと思いました。

調べていくうちにわかったことは、路上のポイ捨てゴミの分野ではそもそも調査というものがほぼ行われてないということでした。焼却場に運ばれるゴミの量は測られているのですが、路上にポイ捨てされるゴミの数や量のデータはなかったんです。
そこで、自分たちで新しい調査方法や指標を作ろうと開発したのが「タカノメ」でした。
まずは歴史上、重力や熱量といった「単位」がどのように生まれたかを調べたり、ゴミを計測するのに近い調査方法をリサーチしました。そこで気づいたことが、昆虫の数を測る調査が参考になりそうだということ。その調査方法とは調査地域のなかでいくつかのルートを決め、そのルート上を道なりに歩いてその最中に見つけた昆虫の数をひたすら数えていくシンプルなものです。ルートや角度を変えてたくさん回ることで、誤差が吸収されていきます。

「タカノメ」も最初は目視でゴミの数を数えていましたが、視力や集中力などの個人差で誤差が生まれることに気づき、スマートフォンのカメラで撮影した動画を分析するようになりました。動画は人間が目視で確認したり、AIが分析することでゴミの数や落ちている場所を明らかにします。歩いて撮影する場合と、自動車で撮影する場合があり、調査範囲の広い自動車は完全にAIが分析しています。

タカノメの使用イメージ。ゴミの位置、ゴミの種類が動画上で表示される
調査中の車に貼られているマグネットシート

——「タカノメ」はどんな方が導入しているのでしょうか?

「タカノメ」は主に自治体や企業のみなさんにお使いいただいています。まずはゴミがどこに落ちているかという分布がわかるので、どのエリアから優先的に清掃予算を割り当てるかを決めたり、ポイ捨て防止キャンペーンの前後で数値を測ったりすることでその効果を測定するのに活用いただいています。


——マイクロプラスチック調査サービスの「アルバトロス」はどのようなサービスなのでしょうか?

河川や港湾などを調査することで、マイクロプラスチックの流出メカニズムや解決策を探る調査サービスです。マイクロプラスチックとは5mm以下の細かなプラスチックの破片のこと。小さいので生物の体に取り込まれやすく、東京湾を泳ぐイワシのおよそ8割のお腹の中にマイクロプラスチックが含まれていると言われています。

「ピリカ」や「タカノメ」で陸の調査が進むなか、「まちだけきれいになってもしょうがない」と自然界に流出するゴミの問題を解決したいと思うようになりました。自然界にゴミが流れ出す一番の経路は川だと考え、水に沈めて使う小型の調査機を自社で開発しました。

「アルバトロス」は地域のマイクロプラスチック流出量や細かな破片から元の製品がなんだったのかを推測できます。またその破片が流れてきたルートを推定します。なので、マイクロプラスチックの流出対策の検討・検証のために自治体や環境団体などが利用しています。2021年には国連環境計画と一緒にメコン川流域の5箇所で調査を実施するなど、海外でも展開しています。

「アルバトロス」サービスの調査機

——今後、ゴミ問題を取り巻く国際的な動きや社会の変化はどうなっていくと思いますか?

バーゼル条約*1 のような、「ゴミの処理を他の国に押し付けてはいけません」と定めたものなど、さまざまな国際条約があるのですが、海洋ゴミなど自然界へ流出するゴミを抑制していくための条約はまだあまりありません。国によっては独自に定めているところもあります。


今後はゴミ問題が気候変動と似た形を辿るのではないかなと。国が意欲的な目標を設定し、かつ企業がその達成を求められるということはゴミ問題にもこれからやってくる流れかと思います。ESG投資*2 が広がり、企業はゴミ問題の目標も達成しなければ投資が抑制されるという未来がくるかもしれません。
今は「いいことをしている」という認識が強いかもしれませんが、企業や自治体がゴミ問題や環境問題に「当たり前に」取り組まなくてはならなくなる。そのときにピリカが取り組むゴミの定量化や可視化が社会に役立てばと思っています。

*1
経済産業省|バーゼル条約・バーゼル法

*2
従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと(引用:経済産業省|ESG投資とは

ピリカを通じて年間5000万個のゴミが拾われていますが、地球上にポイ捨てされているゴミは年間10兆個と推定されています。ポイ捨てゴミの総量からすると、僕らがやっていることは微々たるものです。しかし、僕らは最後にはテクノロジーの力で解決できると信じています。いつか拾われるゴミの数がゴミの総量を逆転することを目指し、活動を続けていきます。



リンク:ゴミ拾いSNSピリカ

編集部コメント

ピリカのアプリをダウンロードして驚いたのは、自分の住む街に清掃活動をしている人がたくさんいるということ。ごみが拾われた場所やどれくらいの量が回収されたかが地図上に表示され、しかも拾った人がどんな人なのかがわかるのが面白く、思わず見入ってしまいます。

小嶌さんに取材をしているときに、投稿を促すピリカの工夫についてお聞きしました。ピリカのプロトタイプを作っていた頃、開発に協力してくれた大学院のご友人が「環境配慮行動」の論文を書いており、それがピリカのSNS機能のヒントになったそうです。

クーラーの設定温度を下げる、洗面所で節水するなど、環境によいとされている行動を環境配慮行動というそうですが、それを起こさせるにはどうすればいいかというのが研究テーマ。その研究で見出されたことは、人は自分にとって心理的に身近な人の行動を真似やすいということでした。さらに、赤の他人であっても距離的に近い人の活動に影響を受けやすいという傾向も分かりました。

ごみ拾いを中心にした前向きであたたかなコミュニティがピリカによって生まれ、その輪はどんどん広がっています。その輪に入るかは自分次第。私自身もごみ拾いを自分ごとにして取り組んでいきたいと強く思いました。

[プロフィール]

小嶌 不二夫●こじま・ふじお

1987年富山生まれ、神戸育ち。大阪府大(機械工学)卒。京大院(エネルギー科学)を半年で休学し、世界を放浪。道中に訪れた全ての国で大きな問題となりつつあった「ごみの自然界流出問題」の解決を目指し、2011年11月に株式会社ピリカを創業。ピリカはアイヌ語で「美しい」を意味する。世界中から1.8億個のごみを回収したごみ拾いSNS「ピリカ」、AIごみ分布調査システム「タカノメ」、マイクロプラスチック調査装置「アルバトロス」等の新規製品を生み出し、全てを事業化。ごみの自然界流出問題の根本解決に取り組む。2013年にeco summit in Berlinで金賞、2021年に環境スタートアップ大臣賞を受賞。

(文:橋本安奈 写真:大島彩 編集:金澤李花子)