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画像:PIXTA(高輪ゲートウェイ駅に設置された無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」)

「無人決済店舗」の躍進。ファミマやローソンなど日本大手企業の最新事情

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.04.05(最終更新日:2023.04.05)

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Amazon Goが「無人店舗」の歴史を変えた

「無人店舗」とは、常駐している店員がいない中で、商品を手に取り会計を行うまでの一連の流れを「顧客のみ」で行う形態の店舗のことです。野菜の路上販売など、店舗形態としては割と古くからあるものですが、代金を支払わずに持ち逃げする行為も見受けられるなど成り立ちにくい商売でもあります。

こうした課題の解決策の1つがお馴染みの「自販機」です。日本では飲料自販機をはじめ、お菓子やアイスなどの食品自販機を広く見かけますが、欧米などではホテルやオフィス、商業施設などで、小売店を設置する代わりに、食品から日用品までさまざまなものを自販機で販売しています。ただ、自販機には取り扱う商品の数や種類が限られるという問題があり、必ずしも顧客のニーズを満たせるとは限りません。とはいえ、コンビニのようにそれなりの面積を持った店舗スペースを確保し、販売のために人員を張り付けるにはコスト的な問題があります。

こうしたビジネススタイルの折衷案とも呼べるのが、ここ数年急速に盛り上がりつつある「無人コンビニ」の存在です。英語圏では「Automated Store」あるいは「Cashierless Store」と呼ばれ、2018年に米シアトルで正式運用が開始された「Amazon Go」を皮切りに、世界中でAmazon Goのフォロワーと呼ぶべきさまざまな店舗が登場しています。

米サンフランシスコのAmazon Go店舗(筆者提供)

Amazon Goが革新的だったのは、これまでの小売店で当たり前だったレジでの「Checkout(会計)」という行為を、最新のAI技術を駆使して完全に無くしてしまった点にあります。

顧客は入店時からの行動をカメラで追跡され、店内でどの商品を取得したのか、また商品を棚に戻したのかといった行為が記録され、現在手に持っている、あるいはカバンに入れている商品の内容がすべて把握されています。つまり、顧客が興味を持ち、購入した商品の登録がすべて自動化されているのです。

そしてAmazon Goでは、すでにクレジットカードが紐付けされているAmazonアカウントの登録されたモバイルアプリを提示するか、あるいはクレジットカードを入り口の読み取り機に挿入してから入店します。そのため、退店時にレジがなくても、店内で記録された商品情報を基にカード請求を行えばよいため、お金を取り損ねることもありません。買い物を終えた顧客が出口まで来たら、そのまま出してしまって問題ないのです。

先ほど「無人コンビニ」と書きましたが、Amazon Goも完全なる無人で運営されているわけではなく、商品の補充や店内の監視にスタッフが張り付いていたり、弁当(とはいっても米国なのでサンドイッチなどですが)のような生鮮食品を加工するスタッフも中で働いていたりします。そのため、正しくは「レジなし店舗(Cashierless Store)」というのかもしれません。

日本国内で増えつつある「無人コンビニ」は、「無人決済店舗」という名称が付けられています。この「無人決済店舗」について、まず技術面から見ていきます。

ファミリーマート 岩槻駅東口/S店の外観。「無人決済店舗」と銘打たれている(筆者提供)

AIが基本だが、工夫は各社それぞれ

以後、この種の店舗の名称は「無人決済店舗」で統一していきますが、共通する特徴としてまず挙げられるのが、店内に設置されたカメラの数です。例えば20平方メートル以下の比較的狭い店舗でも、天井に据え付けられたカメラ数は大体10-20台ほど。店舗サイズが大きくなれば、それに応じて店内をくまなくカバーするためにカメラの台数が増えます。カメラは顧客が店内に入った瞬間から追跡をし始め、常に死角のない形でその人物の行動を把握します。

また、カメラは本人の位置のみならず、手の動きなども把握しており、こうした情報を基に「どの商品が手に取られたか」が判別されるのです。このカメラによる追跡映像を基に行動分析をするのが、AIの役割です。ただ、カメラ自体は天井に設置されているため、角度によっては映像分析だけでは「棚のどの段の商品を手に取ったか」の判別が難しいことがあります。そこでAmazon Goでは棚に「重量センサー」を設けて、カメラによる行動追跡との対で商品の取得状況を判断するようにしています。これにより、カメラだけでは際どい部分も、重量センサーの情報を基に正確に判断できるようになっています。

シアトルのAmazon Go 1号店における天井の様子。カメラが所狭しと並んでいる(筆者提供)

これが昨今話題になっている「無人決済店舗」の基本的な仕組みです。分かれば非常にシンプルですが、高速で正確な画像解析技術が必要なこともあり、いざ実用化しようとなると難易度は高いです。

Amazon Goも一般に広く展開されるレベルになると処理が追いつかず、店内への入店人数は厳しく制限されていたという話も聞いています。1年間、改良に改良を加えて実用レベルにまで持ち込みましたが、もう1つの課題は「コスト」でした。膨大な計算を行うためのサーバの運用費や準備費に加えて、カメラと重量センサーの機材コストもあり、初期導入費用が1店舗あたり億単位という試算もありました。こうした課題があったからこそ、フォロワーと呼ばれる同種の技術を持つ他社が、様々なかたちでこの分野に参入する余地があったともいえます。

例えば、日本のカインズで実験店舗を展開しているシリコンバレーのテック系スタートアップ企業AiFiは、重量センサーを用いずにカメラのみでこの仕組みを実現しています。コスト削減の意味もありますが、この方式のメリットとしては商品の識別に重量センサーや棚を必要としないため、さまざまな形状やサイズ、重量の商品を自由に取り扱うことができるという点にあります。

カインズはホームセンターのチェーン店であるため、取り扱い商品はコンビニにあるような小物ばかりでなく、住宅設備に関する商品もあり、重量センサーなしの無人決済店舗の方が実装しやすいと考えたそうです。

また、Amazon Goも、同社が取り扱う「Just Walk Out」の仕組みがコスト高であることを認識しており、現在では重量センサーを用いないカメラのみの簡易で安価なシステムを開発し、外販を始めています。

カインズ本社のMobile Store。AiFiの技術を基にしている(筆者提供)

日本文化に合わせたシステム導入の取り組み

コンビニチェーンという業態は、もともと米国にあった「7-Eleven」のライセンスを得て「セブン-イレブン」が日本に展開されたという経緯からも分かるように、どちらかといえば舶来ものだったとも言えます。ただ、現在では日本で普及したコンビニが独自の進化を辿り、業務内容も多様化しています。そのため、「無人決済店舗」の仕組みが米国からやってきたとしても、そのまま実装すると日本のコンビニ事情には合わないケースも当然出てくるでしょう。

その典型的なものが「決済」です。前述のように、Amazon Goではクレジットカードまたはデビットカードを利用したキャッシュレス決済が前提となっています。ところが、日本のコンビニにおけるキャッシュレス決済比率はまだ3割程度で、残りはすべて現金です。そのため、同じ仕組みをそのまま導入すると、残り7割の顧客を取り逃がしてしまうことになりかねません。

TOUCH TO GO(TTG)は、ファミリーマートと提携し、「無人決済店舗」を日本全国に拡大しているJR東日本系列の企業が展開する店舗です。TTGでは、入店時は特に認証などを行わずにすべての顧客を招き入れ、退店する直前にレジを設置し、現金やクレジットカード、電子マネーなど、複数の手段で支払いが行えるようにしています。

店内の行動で、手に取った商品はすべて把握できているので、レジにはそれら商品の一覧が表示され、あとは支払うだけです。来る者は拒まず、去る前に支払ってという訳ですね。

高輪ゲートウェイ駅にあるTOUCH TO GOの店舗(筆者提供)

他にも、日本で無人決済店舗を実装する上で考慮しなければならないのは、商習慣的事情です。ローソンでは富士通と共同で米Zippinの技術をライセンスした「Lawson Go」という「無人決済店舗」を展開していますが、この店舗展開にあたって富士通は、Zippinに対していくつか日本向けの機能強化を要求しています。

その1つは「商品の小まめな入れ替えへの対応」です。棚の商品の入れ替えがほとんど発生しない米国に対し、日本では季節限定商品など小まめに棚の配置や商品の入れ替わりが発生するため、こうした作業が楽に行えるよう改良が加えられています。

このほか、日本のコンビニでは他国と比べてホットスナックや冷凍食品などバラエティ豊かな商品を取りそろえていますが、こうした高温や低温商品を従来の重量センサーとそのまま組み合わせることは難しいため、前述のTTGは専用に開発したセンサーを取り付け対応しています。

三菱食品本社内に設置されたLawson Goの店舗(筆者提供)

また、TTGの場合、この仕組みがうまくはまるのは「普通のコンビニを出店するには売上が足りないが、ニーズはある程度ある」という商圏の場合であると現状では考えています。コンビニで一番のコストとなるのは人件費なので、「売上が少なくても、少ない人数で店舗をまわせば利益は確保できる」というのがTTGのビジネスモデルとなります。

「少ない人数」と言ったように、店舗自体は無人ではなく、監視の人員が1人張り付いていますし、商品の補充などで人手が必要になります。商圏を広げようとすると人件費や流通の問題が必ず絡むため、技術的問題というよりも、採算性の問題で一気に広げるのは難しいというのが現状で見えている課題といえます。

西欧・北欧で広まりつつある「無人決済店舗」

日本以外に視野を広げてみても、実験店舗と呼べるものは世界中で展開が始まっていますが、先行する米国のAmazon Goと、英国の「Amazon Fresh」という別ブランドで展開されている店舗を除けば、まだこれからといったところです。

今年2023年1月に米ニューヨークで開催されたNRF Retail's Big ShowのMicrosoftブースに展示されていたZabka nanoの体験店舗(筆者撮影)

しかし、たとえばポーランド発Zabkaグループの無人決済店舗「Zabka nano」と「Zappka」は、比較的大規模な展開を実現しています。前述したAiFiを技術の基としており、昨年2022年秋時点で同国内に50店舗以上がオープンしており、特にZabka nanoは、北欧・西欧では珍しい「24時間365日利用できる店舗」という触れ込みで実装されています。労働規制が厳しくコンビニ業態の少ない西欧や、働き手の少なさなどから人員を確保しづらい北欧においてZabkaグループが推進する「無人決済店舗」の仕組みは注目されています。

「技術で課題を解決する」という点で、「無人決済店舗」は世界中で徐々に受け入れられつつあります。今後の展開が非常に楽しみな分野です。

[プロフィール]

鈴木 淳也(すずき・じゅんや)
モバイル決済ジャーナリスト/IT ジャーナリスト。国内 SIer、アスキー(現 KADOKAWA)、@IT(現アイティメディア)を経て 2002 年の渡米を機に独立。以後フリーランスとしてシリコンバレーの IT 情報発信を行う。現在は「NFC とモバイル決済」を中心に世界中の事例やトレンド取材を続けている。近著に「決済の黒船 Apple Pay(日経 BP 刊/16 年)」がある。