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「アマゾン薬局」の日本進出も後押し…「電子処方箋」運用開始、生活のなにが変わる?

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.03.08(最終更新日:2023.03.28)

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2023年1月26日から、全国で「電子処方箋」 の運用が始まります。医療・薬局業界のデジタル化推進のひとつですが、そもそも電子処方箋とはどのようなものなのでしょうか?また、従来の紙の処方箋とはどのように異なり、私たちの生活にどのような影響をおよぼすのでしょうか?詳しく解説します。

引換番号だけで薬を処方してもらえる

電子処方箋は、いままで紙でやりとりをしていた処方箋を電子化して、オンラインで運用し、病院と調剤薬局のあいだで共有するシステムです。昨秋から全国4地域のモデル地区で先行導入され、1月26日から全国的な運用をスタートしました。運用開始により、患者が電子処方箋に対応している医療機関を受診し、電子処方箋による処方箋発行を希望する場合には、発行してもらえるようになります。

電子処方箋発行の流れを説明します。まず、医師は、電子カルテに入力した処方箋の情報を、電子処方箋管理サービスのサーバーに登録します。患者はマイナ保険証か、いままでの健康保険証を持って、電子処方箋の発行を伝えると、電子処方箋を入手できるようになりました。その後、電子処方箋に対応している調剤薬局で電子処方箋を提出できます。紙の処方箋を持ち歩かなくても済むので紛失も避けられます。

「重複投薬」や「併用禁忌」を防ぐというメリットも

電子処方箋といっても、「紙の処方箋とあまり変わらないのでは?」と疑問を感じる人もいるかもしれません。しかし今後、電子処方箋に対応する病院や調剤薬局が増えてくると、メリットは徐々に大きくなっていくと思われます。

電子化の意義は、ほぼリアルタイムで患者への処方情報が一元化されることにあります。これにより、薬の重複や、一緒に飲んではいけない薬が処方されることを避けることが可能になります。さらに電子処方箋システムでは、重複や併用禁止の処方を自動的にチェックしてくれる機能、医師の処方内容によっては注意を呼び掛けるメッセージが表示される機能も実装されています。

現状、処方箋は病院ごとに発行されているため、別の病院に行くと薬の服用歴が共有されていません。そのため、違う病院で似たような薬を処方されてしまう、飲み合わせの悪いものを処方される可能性があります。重複投薬や併用禁忌(絶対に一緒に飲んではいけない組み合わせの薬を併用すること)を防ぐために、「おくすり手帳」があるのですが、忘れてしまったり、紛失してしまいそのたびに再発行したりしている人も多いのではないでしょうか。

飲み合わせのよくない薬を併用すると、薬が効きにくくなってしまったり、副反応が強まったりして、場合によっては命に関わることもあります。

電子処方箋のシステムでは、患者が複数の病院にかかっていても各院で処方された薬のデータがほぼリアルタイムで一元化され、重複投薬や併用禁忌のチェックが必ず行われることになっています。医療機関は患者の同意のもと、他院の処方データも閲覧が可能なので、より安全性の高い適切な処方が期待できるようになると考えられています。

電子処方箋は、調剤薬局側にもメリットがあります。現状、薬局では患者から処方箋を受け取ると、データをレセプトコンピューターに入力し直しています。電子処方箋では入力が不要になるため、薬剤師の作業効率化、誤入力によるトラブルを予防できます。また、処方箋は過去3年分を保管しなければならない決まりとなっているため、紙の処方箋の保管スペースも悩みの種となっていますが、この悩みも解消に向かうと予測されます。電子処方箋は今後、調剤薬局におけるDXの要となっていくでしょう。

ちなみに、医師や薬剤師は業務端末で患者の過去の処方履歴を確認できますが、患者自身が閲覧したい場合、「マイナポータル」にアクセスすると、約3ヵ月分の自分の処方データをスマホやPCで確認することが可能です。興味のある方は一度、覗いてみてください。

課題はあるが…「アマゾン薬局」の日本進出により電子処方箋運用の後押しも

患者はもちろん、病院や調剤薬局側にもメリットが多い「電子処方箋」。しかし、課題もあります。

まず、「マイナンバーカード」の普及です。電子処方箋を利用する時は、今回の場合は病院の窓口で、健康保険証として利用できるように登録したマイナンバーカードを使用し、本人確認を行います。マイナンバーカードを所持していない患者でも従来の健康保険証があれば、電子処方箋の活用は可能ですが、従来の健康保険証では過去の診療情報や処方内容まで、医師や薬剤師が確認することができません。

直近の報道ではマイナンバーカードの普及率はまだ67.3%程度(※1)と報じられていますが、国や政府が積極的に普及に取り組んでおり、さらなる普及率の向上を期待しています。

もうひとつの課題は、電子処方箋に対応可能な医療機関が全国で154カ所(※2)と少ないことです。電子処方箋を運用するためには、申請手続きや機器の導入、システム改修などが必要です。また、新しい仕組みを覚えて業務に落とし込まなければなりません。しかし、病院も薬局も、労力の面でも費用の面でも、大がかりな新システムの導入にまでなかなか手が回らないというのが実情なのです。

そのようななか、米・アマゾン(以下、アマゾン)が、処方薬の販売に参入すると報道されています。(※3)通称、「アマゾン薬局」と呼ばれるこのサービス。アマゾン側からの公式発表はまだありませんが、処方薬を流通させるためのプラットフォームを構築するのではないかと言われています。

アマゾン薬局の日本進出は電子処方箋の運用開始が大きな契機になっていることは間違いありません。アマゾンが参入することになれば、ユーザー側からのニーズが高まることで病院や薬局は対応せざるを得ないでしょう。電子処方箋の運用が一気に進む可能性もあると予測しています。

診療から薬の受け取りまで自宅でできる時代へ

新型コロナウイルス感染症の流行以降、スマートフォンやパソコンを使った、オンライン診療が広く行われるようになりました。コロナ禍における特例措置だった「初診からのオンライン診療」も今後も継続される見込みで、さらなる普及が予測されます。

また、調剤薬局による「オンライン服薬指導」も2020年9月から解禁されています。
これによって、薬局に足を運ばなくても、スマートフォンやパソコンの画面越しに薬剤師から服薬指導を受けることが可能になりました。調剤された薬を宅配してもらえば、必要な薬を受け取ることができます。

今後は、「オンライン診療」と「オンライン服薬指導」、そして「電子処方箋」を組み合わせることにより、自宅にいながら受診から処方薬の受け取りまで完了できる時代を迎えることになるでしょう。

いままで、病院で受診する際の待ち時間、調剤薬局で薬を受け取るまでの長い待ち時間にストレスを感じていた人も多いのではないでしょうか。電子処方箋をはじめとする、医療・薬局DXの流れは、私たち利用者にとって、大きな恩恵になることだけは間違いないといえます。

[プロフィール]

新上 幸二
株式会社アクシス 取締役
東京大学医学部健康科学・看護学科を卒業した後、会計系コンサルティングファームに入社。以後、スタートアップ企業、インターネット関連企業の企業役員を歴任。2021年6月、アクシスルートホールディングス株式会社入社。2022年5月より現職。営業部門の管掌および新規事業に従事。