当社サイトでは、サイト機能の有効化やパフォーマンス測定、ソーシャルメディア機能のご提供、関連性の高いコンテンツ表示といった目的でCookieを使用しています。クリックして先に進むと、当社のCookieの使用を許可したことになります。Cookieを無効にする方法を含め、当社のCookieの使用については、こちらをお読みください。

採便で自分の健康状態が分かる!「健腸ナビ」で一歩進んだ健康を

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.07.11(最終更新日:2023.07.11)

読了時間目安 18

シェアする

近年、脳と腸の状態が密接に関係することを表す「脳腸相関」という言葉が注目されている。身体の健康だけでなく、メンタルの不調も腸や腸内細菌の存在が大きく関わっているというから驚きだ。

腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)(※)を調べることで、病気の予防・改善のための研究を行うシンバイオシス・ソリューションズ株式会社が、新しい検査サービスをリリースした。その名も「健腸ナビ」。
このサービスでは、自分の腸内細菌叢から病気リスクなどを分析できる。その方法は、専用のキットを使って採取した便を、シンバイオシス・ソリューションズの研究所へ郵送し、現在の生活習慣や体調に関するアンケートに回答するだけ。1ヶ月後には現在の腸内細菌叢の構成や推定される病気のリスク、さらにそのリスクを減らすための食品の提案などがまとめられたWEBレポートが届くという。

今回は、「健腸ナビ」広報担当の村上藍子さんと、研究に携わる大熊佳奈さんにお話を伺った。

※腸に生息している細菌全体のこと。腸内フローラとも呼ばれる

世界初の手法で、腸内細菌叢から病気のリスクを推定

ーまず、腸内細菌叢の検査・分析サービスの開発に取り組んだきっかけを教えてください。

村上:私たちは元々、シンバイオシス・ソリューションズの親会社である日本農業フロンティア開発機構で理化学研究所の「辨野(べんの)特別研究室」との共同研究に携わっていました。辨野先生は腸内細菌界において著名で、全国各地で講演活動をしながら「21世紀は腸の時代」と腸の健康を唱えてきました。

以前から腸内細菌叢と病気の関係については世界中で研究が行われていましたが、弊社でもそれらの関連を明らかにし、健康・医療ソリューションを提供することで、病気に苦しむ方や未病の段階で気づいていない方を救えるのではないかと。全国から集めた2万3000もの日本人の被験者の便検体とアンケート情報を解析して、データベース化することにしました。
「このデータベースにはきっと、人々の健康に関するすごい情報が含まれているはずだ!」と研究員みんなでデータ分析に取り組んでいましたが、腸内細菌は非常に種類が多く、腸内細菌同士の相互作用もあることから分析は難航し、単純な分析ではなかなか相互関係が見えてこなかったんですね。

そこから数年にわたって試行錯誤を重ねた結果、腸内細菌叢と病気の関連をモデル化してリスク分析できる新たな手法の開発に成功し、先に医療機関向けのサービスとして「SYMGRAM®」を開始。その後、医療機関だけでなく医療機関の受診に抵抗がある人や、健康診断を受ける時間がない人などでも自分の体調の変化や維持に意識を持てるよう、自宅で気軽に検査ができるようなサービスが必要だと感じて、個人向けの「健腸ナビ」をリリースしました。

ー腸内細菌叢と病気の関連性を明らかにすることが、健康づくりに大きく寄与すると。腸内細菌叢の構成から病気のリスクを推定するには、具体的にどのような分析が行われているのでしょうか?

大熊:2万3000の被験者の便検体から腸内細菌のDNAを取り出して解析したデータと、被験者が患っている疾病などのアンケートデータを元に、病気にかかっている人の腸内細菌叢の特徴を分析し、その関連性を研究してきました。ひとつの腸内細菌が特定の疾病に関わっているということはなく、その複雑な生態系や腸内細菌叢の構造と病気を繋げてモデル化する「構造方程式モデリング」という手法を使っています。

(提供:シンバイオシス・ソリューションズ様)

この手法では、病気と腸内細菌を一対一の関係で結ぶのではなく、共通する働きをもつ腸内細菌をひとまとめにして「腸内細菌叢因子」という概念にし、複雑な腸内細菌叢と病気の関係を視覚的にわかりやすくモデル化します。すると、どの腸内細菌がどういった関係で病気に関与しているのかがわかり、それを元にさらに複雑な計算をして、最終的に病気のリスクを推定しています。

村上:「健腸ナビ」のWEBレポートでは、このように腸内細菌叢からリスクのある病気をチェックできます。

たとえば、過敏性腸症候群が現在「治療中」で、腸内細菌叢を見ると「リスク高」と出た場合、腸内細菌叢が病気の原因の一つになっている可能性が高く、おすすめ食品を摂ることで、症状の改善・緩和に役立つ可能性があるとわかります。
そのほか、2型糖尿病が「罹患中」なのに「リスク低」という結果が出た場合は、病気の原因が腸内細菌叢以外にあると考えられます。たとえば遺伝的要因などが挙げられ、こうした判断のひとつの指標にもなると思います。

大熊:弊社で開発した病気のリスク推定の手法は特許を取得していて、かつ先日論文も国際学術誌に掲載されたので、科学的に根拠をもって皆さまにご提供できるんです。



ーーWEBレポート画面が見やすいですね! この手法を用いれば、どんな病気でもリスク解析をすることは可能なんでしょうか?

大熊:データさえ集まれば病気を限定することなく解析できますね。弊社のデータベースには約1400種類の病気の情報が集まっていて、その中から男女それぞれ約80種類の病気について腸内細菌との関係を研究しています。腸内細菌との関連が認められた病気のうち、男性26種類、女性27種類の病気のリスクが「健腸ナビ」で分析できます。

1400種類の病気の中には怪我など腸内細菌叢とは関係がない外的要因が原因である病気もあるので、それらを精査した上で情報をご提供していますね。

提案する食品で、認知症やうつ病の改善に効果が!

ーーうつや花粉症などは腸内細菌叢とは関係ないように思えますが、それらのリスクも推定できるのはなぜですか?

大熊:少し前から「脳腸相関」という言葉が聞かれるようになったと思いますが、腸の健康は脳の健康に関与することがわかってきています。位置が離れているので一見繋がっているのが 不思議に思えますが、腸内細菌叢に異常が生じると、腸内細菌が産生する物質や腸内細菌の成分が腸のバリアを透過して血流に移行し、それらが脳に届くことで影響を及ぼすと考えられています。

身体が健康であれば、仮に悪い腸内細菌がいたとしても腸壁にダメージを与える可能性が低いのですが、生活習慣の乱れなどで腸内細菌叢に異常が生じると腸のバリア機能が低下して、脳に作用する働きを持った物質が届くと、認知症やうつ病に繋がることもあります。炎症系に作用する物質であれば、アトピーや花粉症に影響するケースもありますね。ひとつの腸内細菌の影響ということはなく、複数の腸内細菌が作用して病気に関係していく仕組みです。

ですが逆に考えれば、腸内細菌は良い物質を脳に届けることもできるということ。腸内細菌叢は摂取する食品で変化するので、食生活の見直しによって認知症やうつ病の改善を期待できることもわかってきているんです。

ーー健康を維持するも悪くするも紙一重だからこそ、毎日何を食べるかがとても重要なんですね。

村上:はい。そうした食生活の改善に気軽に取り組んでいただくために、「健腸ナビ」ではただ分析するだけで終わらせず、リスクが高い病気を踏まえて腸内細菌叢のコントロールに効果的な食品のご提案をしています。

ーーたとえば、同じく過敏性腸症候群のリスクが高いと推定されている人が二人いても、もともと持っている腸内細菌が異なれば、推奨する食品も変わるのでしょうか?

村上:おっしゃる通りです。レポートではリスクが中または高と分析された病気について、おすすめ食品が緑または黒の文字で示されますが、緑字で書かれている食品はその方がコントロールできる菌を持っているということ。そのため、現在の腸内細菌叢の構成を踏まえて特におすすめであることを示しています。 また、今回の結果を踏まえ、おすすめ度が高い食品を一覧にしてお示ししています。



ーー今の腸内細菌叢にあわせた、オーダーメイドの提案ですね。実際におすすめの食品を摂ることで、すぐに体調の変化などを感じられるのでしょうか?

大熊さん:過去の弊社の研究では、腸内細菌叢から見たおすすめの食品を摂取して、だいたい2週間から1ヶ月程度でうつ症状の改善が見られるという結果が出ています。何年も病院に通ってほとんど改善しなかったのに、おすすめの食品を食べるようになったら症状がすごく良くなったと。

病院の先生は「今までの治療は何だったのか......」とショックを受ける方もいらっしゃって。もちろん効果の感じ方には個人差がありますが、自分に合った食品を摂取すれば何かしらの体調の変化は得られることがわかっています。

分析の精度に手応え。ユーザーからは「命拾いした」の声も

ーおふたりは、以前から腸内細菌叢にまつわる研究を続けていらしたんですか?

村上:私が腸内細菌叢の研究に携わったのは、この会社に入社してからです。大学は農学部で、畜産科学などを学んでいたので全然違う分野でしたね。その後、食品系の会社で開発の業務をしていて、食から健康に繋げるという分野にはずっと興味がありました。

大熊:私は薬科大学を卒業後に、医学部で修士をとっているので、人の健康やQOLを上げるための基礎研究に触れる機会はとても多かったと思います。未知のものを発見することに興味を持っていましたが、大学の研究だとやはり研究して終わってしまったり、メカニズムがわかったとしても人に応用するのは難しかったりして。このままだと世の中の役に立っている意識を持つのは難しいと思い、もう少しユーザーさまに近い仕事をしたくて今の会社にご縁をいただきました。

村上:もともとは私も大熊と一緒に、腸内細菌叢の検査・分析サービスに関わる基礎的な研究や開発業務に携わっていましたが、今は大熊が研究の方に、私はプロダクト開発の方に分かれて必要に応じて連携しながら進めています。人数は少ないですが、技術力があるメンバーが集まっていますね。

ーー今回の「健腸ナビ」をサービスとしてリリースする上で、難しかったことはなんでしょうか?

大熊:腸内細菌叢は様々な相互作用をしており、病気と腸内細菌の関係も病気ごとに異なっていてとても複雑なため、一筋縄ではいきません。膨大な研究データをユーザーが求める情報として提供する方法を考えるのに苦労しました。

また、研究結果が想定通り正しくレポートに表れるか確認するという作業はかなり膨大でしたね......。数人で作業を分担していて、数百という項目を確認しました。間違いがあるとユーザーに不確かな情報を与えてしまうことになるので、かなり慎重に確認のテストを行うようにしています。このシステムの開発だけで約半年、社内での検討も含めるとリリースまでに1年以上かかりましたね。

(ユーザーが郵送したキットは、和光市にある研究所で一人ずつ慎重に検査機器にかけられる)

村上:このWEBレポートなどのシステム構築は外部に委託しているのですが、私自身システムに関することには知識がなかったので、慣れないやりとりが大変でしたね。レポートの見た目について、「ちょっとデザインに強い印象がある」とか「もうちょっと優しい色にしてほしい」といった要望も細かくさせてもらって、今の形になりました。

「健腸ナビ」は一般の方向けなので、言葉の表現も「疾病に罹患する」ではなく「病気にかかる」など柔らかい言葉に置き換えるなど、細かい検討を重ねています。

ーー公式サイトやWEBレポートを見ていると、まさに皆さんの細やかな配慮やこだわりを感じます。サービスを実際に使用したユーザーからはどんな声が届いていますか?

村上:レポートで大腸がんのリスクが高いと出て、怖くなって医療機関で大腸検査を受けたら、実際にポリープが見つかったという方がいらっしゃいました。前立腺がんのリスクが高く出て、病院でマーカー検査をしてみたら治療が必要なレベルだったというケースもありました。それぞれ、手術や治療をして「命拾いした」というお声をいただいています。私たちとしても、ここまで高い精度で情報提供できていることがわかって、実際にお役に立てていることが嬉しいですね。

おすすめの食品のご提案に関しても、アトピーでずっと薬を使ってきた方から、検査を受けたのをきっかけに一度薬を止めて、意識的におすすめの食品を摂ってみたらすごく良くなったという声も届いています。

大熊:正直なところ、疾病リスクを推定した結果が本当に当たるのか、社内で私が一番疑っていたかもしれません(笑)。疾病リスクの推定やおすすめ食品の選定には統計学の技術や科学的根拠を用いるので、「健腸ナビ」に自信は持っていたのですが、ユーザーの声を聞いて「本当に効果があるんだな」と改めて実感しています。

検体を増やすことでサービスの精度向上を目指したい

ーー最後に、「健腸ナビ」のこれからを含めて、今後の展望を教えてください。

村上:検体数が多ければ多いほど精度高く分析できるようになりますし、分析できる病気も増えていくと思うので、そういった面でどんどん進化させていきたいですね。私個人として一番関心が高いのは「認知症」で、サービスを通じて早期発見のきっかけになったり、症状の改善に繋がったりすれば、社会貢献にもなるのではないかなと。

「健腸ナビ」はいろいろな使い方ができるので、ご自身に合う使い方をしていただけたらと考えています。たとえば、女性の中には乳がんや子宮系の病気などの検査で、病院に行くのに抵抗があるという方もいらっしゃいますが、一度全身スキャンのような形で「健腸ナビ」を使っていただいて、リスクが高いと出た項目を後日検診するという使い方もできます。近年うつで休職される方の割合も増えているので、社員の健康管理のための福利厚生として企業様に導入いただくこともおすすめしていきたいと思います。

大熊:私のチームの目標は、論文発表と特許取得、「健腸ナビ」の精度向上ですね。常に精度を上げるだけでなく、日々進化する統計解析の技術や腸内細菌叢にまつわる新しい発見を取り入れながら、ユーザーが求めているような最新の情報をお届けできるようにしていくことが必要だなと。

その上で、研究成果が科学的に認められているという事実は、皆さんにより安心して「健腸ナビ」を購入いただくための大切なエビデンスになります。コロナ禍で「エビデンス」という言葉が流行りましたが、やはり科学的根拠をきちんとお伝えするための努力をしていく必要性を感じているので、今まで以上のペースで進めていきたいですね。

編集部コメント

健康維持やQOLの向上にも一役買ってくれるという、腸内細菌叢。「食べたものが自分をつくる」ということを強く実感するとともに、腸内細菌叢への無限の可能性を感じた取材でした。社会問題にも取り上げられる認知症や不妊、うつなどに関しても、日々の食から変えていける可能性があるという事実は、多くの人にとって希望になるのではないでしょうか。今後『健腸ナビ』のように自宅にいながら気軽に、医療機関と同じ精度の検査・分析をしてくれるサービスが充実していくことは、人生100年時代や超高齢化社会と呼ばれるこれからの健康づくりにおいて、心強いなと思います。今は特に自覚症状がなくとも、まずは自分の腸内にどんな細菌がいるのかを知るところから始めてみたいですね。

[プロフィール]

村上藍子
2016年、シンバイオシス・ソリューションズの親会社である一般社団法人日本農業フロンティア開発機構に入社。当初は農作物の生育環境と成分との関係に関する研究や、腸内細菌と食品(成分)の文献調査などに携わっていたが、シンバイオシス・ソリューションズでの腸内細菌叢の検査・分析サービス事業化にともないプロダクト開発に従事。「食と健康」をテーマに、多くの人の健やかな未来に貢献していきたいと考える。

大熊佳奈
2016年、一般社団法人日本農業フロンティア開発機構に入社。シンバイオシス・ソリューションズ株式会社では、大学病院やクリニックとの共同研究、企業からの受託研究を行っている。研究の成果を「健腸ナビ」に応用する開発業務も担当。安心して「健腸ナビ」をご利用いただけるよう、科学的根拠を持って情報を提供するように心がけている。

(文:むらやまあき、写真:飯山福子、編集:金澤李花子)