見た目の改善以外にもメリットがある歯列矯正
歯列矯正を考える一番の理由は、歯並びを整えて口元の見た目を良くすることでしょう。確かに、口元の見た目は顔全体の印象に大きな影響を与えるほか、歯並びの悪さを気にして人前で口を開けて笑うことができなかったり、笑う時には必ず手で口元を隠してしまったり。歯並びを整えたことでそのコンプレックスから解放され、性格まで明るくなる人もいるといいます。
また、欧米では歯並びが悪いままだと、恋愛やビジネスなどで不利になることがあるともいわれています。さらに、歯列矯正には、口の中や全身の病気の予防にもつながるというメリットもあります。歯並びが悪いと、歯と歯や、歯と歯茎の間に食べ物が詰まりやすかったり、残りやすかったりすることに加えて、歯磨きをしても汚れが取れづらいことから虫歯や歯周病になりやすくなります。結果として歯を失ってしまったり、歯周病が糖尿病を悪化させたりするなど全身の健康にも悪影響を与えることもわかっています。
近年、急速に普及しているマウスピース矯正
従来の歯列矯正では、歯の表側に装着した金属製のブラケットとワイヤーで力をかけて歯を動かし、歯並びを整える方法が主流でした。歯に銀色のブラケットやワイヤーをつけている人を見かけるのは珍しいことではありませんが、その見た目が理由で歯列矯正を諦めていた人もいるでしょう。
その問題を解決できるとして、近年急速に普及しているのがマウスピース矯正です。マウスピース矯正では、歯に金属のブラケットやワイヤーを装着する代わりに、歯が少しずつ動くように設計された、3Dプリンターで作られたマウスピースを装着します。これを1〜2週間ごとに交換していくことで、歯並びを整えていきます。
このマウスピース型装置は、透明の樹脂で作られていることから周りの人に気づかれにくく、食事の時などには取り外しができます。そのため食べ物が挟まったり、詰まったりすることもなく、さらに普段どおりに歯磨きもでき、虫歯や歯周病になりにくいなどのメリットがあります。
しかし、マウスピース矯正も一般的に100万円前後の費用がかかるほか、治療が終わるまでに半年から数年の期間が必要。さらに1〜2ヵ月に1回程度の定期通院も必要で、ワイヤーブラケットによる歯列矯正と同じく、少なからず煩わしさがあるのも事実です。
矯正に対するハードルを下げる「オンライン矯正」
これまで述べてきたように歯列矯正にはさまざまなハードルがありますが、これに対しより気軽に歯列矯正が受けられるようにと考えられたものが「オンライン矯正」です。オンライン矯正は、基本的にマウスピース矯正ですが、自宅に送られてきたマウスピース型装置を決められた順番どおりに自分で交換しながら歯列矯正を進めていくことで、これまでにはなかったメリットが得られるようになりました。
通院が最低1回ですむ
一般的な歯列矯正では、治療期間中、1ヵ月~数ヵ月に1回程度の定期通院で、治療の進み具合のチェックや装置の調整などをしてもらう必要があります。しかしオンライン矯正では、初診時に口の中の状況や適応可能な歯並びであるかのチェックを受けたのち、デジタル口腔内スキャナーで歯型を採るので、その後は基本的に通院の必要はありません。
マウスピース型の装置は、定期的に宅配便などで自宅に送られてくるので、決められたタイミングで新しいものに交換していきます。さらに、矯正中は2週間ごとに自分の口の中の写真をスマートフォンなどで撮影しオンラインで送付。専門の歯科医師が矯正の進み具合などをチェックしています。
費用が比較的リーズナブルである
オンライン矯正では、全体的に歯を動かすような場合で65万円程度、部分的に動かす場合には30万円前後と、従来の歯列矯正やマウスピース矯正に比べてかなりリーズナブルな設定になっています。
低コストの実現にはいくつかの理由がありますが、一番大きいのはマウスピース型装置のコストダウンがあげられます。
オンライン矯正の一つである「hanaravi」の場合、治療計画と歯のスキャンデータに基づいてマウスピースのパターンを生成する3DCAD、データの自動補正ツール、歯型を製作する3Dプリンター、マウスピースを製作する真空整形機、マウスピースを切り出すミリングマシンと、全工程の機械化と自動製造技術によって原価の低減を図っています。また、通院するたびに装置を調整する処置費がいらないことなども費用を低く抑えられている理由です。
オンラインでいつでも相談が可能
通常の歯列矯正で歯科医師に相談ができるのは基本的に通院した時だけです。しかしオンライン矯正であれば、何か困ったことがあった場合には24時間、SNSを通じて相談が可能。必要な時にはビデオ通話や通院での受診も可能です。
オンライン矯正の注意点は?
メリットが多いオンライン矯正ですが、いくつかの注意点もあります。
基本的に自己管理が必要
マウスピース矯正では、その効果はマウスピースの装着時間に影響され、一般的に1日20時間以上の装着が必要だとされています。しかしマウスピースの交換スケジュールは基本的に自己管理であり、うっかり装着や交換を忘れていた、といった事態がオンライン矯正では起きやすくなります。そのため、SNSなどで毎日の装着時間のチェックやマウスピースの交換時期を教えてくれる仕組みを持つものもあります。
適応症例が限られる
オンライン矯正で対応できるのは、基本的に軽〜中程度の歯列矯正です。そのため、歯がきれいに並ぶスペースを確保するために抜歯が必要なケースや、歯のねじれが強い、歯を大きく移動させる必要がある、骨格的な不整が大きい、などの場合にはオンライン矯正では対応できないことがほとんどです。
対応する歯科医院が少ない
先に書いた通り、オンライン矯正といえども初回には実際に歯科医院を訪れて、口の中のチェックやデジタルスキャナーによる歯型の採取などの診察を受ける必要があります。しかし、それらはどこの歯科医院でも受けられるわけではありません。現在、対応している提携の歯科医院は、どの業者でも都内や関西などに数える程度。遠方に住んでいる人にはハードルが高く、今後のサービス拡大に期待がかかります。
冒頭でも述べたように、歯並びを整えることには見た目を良くすることはもちろん、健康維持にも寄与するなど、メリットは少なくありません。そして、オンライン矯正は、ここまで見てきたようにいくつかの注意点があるものの、これまでハードルの高さを感じさせた歯列矯正を、かなり身近なものにしてくれるといえるでしょう。
[プロフィール]
関根 昭彦
医療ライター。大手医薬品メーカーでの医療機器エンジニアや医薬品MRなどを経て、フリーランスに。