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客席を持たない飲食店「ゴーストレストラン」。食産業の変革時代に生まれた新業態の未来とは

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2022.06.24(最終更新日:2022.09.13)

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電話やネットを通した注文に応じ、複数の店舗の商品を提供する、デリバリー専門の飲食業態「ゴーストレストラン」。イートインスペースを持たなくても食事を提供することができるこの営業形態はコロナ禍も相まって、急増している。

そんなゴーストレストラン界を牽引する存在である「株式会社ゴーストレストラン研究所」が、出光興産のサービスステーション(以下、SS)の敷地内にキッチンカーを設置。2021年11月1日〜12月7日、フードのテイクアウトとデリバリーの提供という取り組みを実施した。

まさに変革のときを迎えている食産業。「日常食のアップデート」を掲げ、一つのキッチンで複数ジャンルの飲食を提供するデリバリー専門店「ゴーストキッチンズ」を運営する株式会社ゴーストレストラン研究所 代表取締役の吉見悠紀氏に、ゴーストレストラン研究所の取り組みや食産業全体の課題、その未来に至るまでを聞いた。

食産業という巨大マーケットの流れを変える

──吉見さんは2019年1月に株式会社ゴーストレストラン研究所を設立するまでに、広告代理店を経て、マレーシアへの食材輸出の会社を立ち上げたのち、地方創生やシェフマネジメント、食のPRなどの事業を手掛けていました。一貫して「食」に関連する事業を行っている印象を受けますが、もともと食の業界に興味があったのでしょうか?

最初から食に興味があったわけじゃなく、出会いは偶然でした。勤めていた広告代理店を退社し、友人と会社を立ち上げることにしたんです。何をしようかと考えたときに、漠然と日本のコンテンツをアジアに繋げるようなことをしたいと思いました。
それで、当時、インドネシア、シンガポール、マレーシアを1ヶ月半ほど周っていたんです。会社を立ち上げるにも何をするのかまったく決めていなくて、おもしろいチャンスに出会えそうな国に行こうと思い、この3カ国を訪れました。そしてマレーシアで、日本食を輸入している会社と出会ったんです。それが、食の世界に関わる最初のきっかけでした。

──そこからどのように食に関わっていったのでしょうか?

帰国したあと、その会社とともに、日本から海外に食を輸出する仕事をしました。そのビジネスは3年ほどで終えたのですが、食の世界に対しての興味は尽きませんでした。食の輸出入は物流の中では一番川下に位置していると思うんですが、今度は食産業の川上にいる生産者さんについて、知りたくなりました。それからは趣味の延長のように、いろんな生産者さんをお伺いしていました。

──食産業の全貌を見て、何を感じましたか?

川上の人と川下の人で、情報共有がうまくいっていないのではと感じました。生産者さんは自分たちが作った食材を、現場のレストランがどのように使っているのかを知らなかったりして。この情報共有はとても重要なことで、生産者側がいいと思って作ったものであっても、飲食店側は求めていなかった、ということにもなりかねない。だからお互いに求めているものやできることを知れば、生産性があがってくるのではないか、とも考えていました。

──食産業の流れを俯瞰して見ることによって、課題点を感じたんですね。

そうですね。輸出会社のあとに地方創生やシェフマネジメント、食のPRに携わっていたのですが、外食産業の現場にいるときにも、また違った食産業の課題が見えてきました。外食産業の労働環境は、決して働きやすいと言えるものではありません。業界のトップシェフといわれている方でも、早朝から深夜まで仕入れや仕込みをしながら、お客様の対応などもしています。長期的な目で見ると、生産性という面でのサスティナビリティに対して不安を感じていました。そこで、株式会社ゴーストレストラン研究所を設立することで、川上から川下まで、そして現場での環境を改善することができるのではないかと考えました。

──なるほど。さまざまな食産業の課題が見えてきたことをきっかけに、「ゴーストキッチンズ」を展開するような変革者としての道が始まるんですね。

変革者と言われると大それた感じがしてしまいます。僕は食産業を劇的に変えるようなことはしていなくて、「もう少しこうした方がいいんじゃないか?」「こんな未来になりそうだな」と、日々の生活で感じたことをそのまま行動に移しているだけなんです。その流れのなかで、僕は食を通して何ができるのかを考えています。この考え方は今もずっと持ち続けていますね。

──当時、吉見さんが考えていたビジョンについてもう少し掘り下げていきたいと思います。当時の吉見さんから、食産業はどう見えていましたか?

まず食産業は、マーケットとしてすごく大きいと感じていました。金額に換算すると自動車産業にも匹敵するほどの規模です。ただ、自動車産業と違う点は、食産業は単価が圧倒的に低いことです。だからこそ先ほど述べた、生産性のサスティナビリティに対して課題を感じたことに繋がってくるのですが、そこを変えることができたらチャンスになるだろうなと考えていました。あとは、UberEatsの登場により、食産業の流れは大きく変わってくるだろうなと。

これはどの業界にも共通して言えることなのですが、商圏全体を捉えるときの考え方として、「情報の流れ」「人の流れ」「物の流れ」という3つの大きな要因があります。UberEatsはこの中で言うと、「物の流れ」を変えてくれました。そして、コロナ禍になり、さらにこの3つの要因は大きく変わっていきました。この変換期にゴーストレストランが活躍できるのはないか、と当時はぼんやりと思っていましたね。

──ここ数年で食産業の形が大きく変わっていきましたよね。その変化の波に乗るうえで、吉見さんが重きを置くポイントはどこにありましたか?

食産業の価値は大きく二つあると思っています。一つは、おいしさを追い求めるということ。おいしさの追求は、すごく文化的なことだと思っています。日常とは違う刺激を脳が欲していて、そこに応える味を見つける。ただ、ビジネスとしてそこに挑戦するのは大変かなと感じました。すでにそこは飽和状態で競争も激しいし、ゴールがないので苦しいのではと感じたので。

──もう一つの価値というのは?

もう一つは、日常的に身体へのエネルギーとして補給する食のことです。「明日を生きるために毎日食べるもの」、このレベルを底上げすることができれば、日々の生活レベルも上げられるのではないかと思いました。日常食のアップデートというのはゴーストレストラン研究所のミッションとしても掲げていることです。

地域の健康度を上げる拠点・ゴーストレストラン研究所

「二日酔い食堂」の鮭塩焼き茶漬け

──株式会社ゴーストレストラン研究所についてお伺いしていきたいと思います。まずは、ゴーストレストランがどういった業態なのか教えてください。

ゴーストレストランという業態は、デリバリー専門の飲食店のことを指します。出前自体は昔からあるものですが、それは受注から配達、金銭の精算までを店舗が全て行うものでした。UberEatsのようなシステムができてからは、そういったことをすべてやってくれるので、お店はキッチンさえあれば誰でも出前ができるようになります。そこで、ゴーストレストランのようなデリバリー専門の店舗が生まれるわけです。UberEatsなどのアプリ上ではお店として表示されるのですが、実際に行ってみると客席もなく、複数の店舗の料理を作るキッチンがあるだけです。だから、この業態には「ゴーストレストラン」だったり、「ダークキッチン」という名称がついているんです。

──なるほど。その中でもゴーストレストラン研究所の特徴は、どのようなところにあるでしょうか?

一つは取り扱う料理のジャンルを絞らないということです。たとえば中華料理屋さんがあったとしたら、そこは中華料理一本で売り上げを立てなければいけません。でも、ジャンルを絞らなければキッチン一つでいくつものブランドの飲食店を受け持つことができるんです。弊社は現在20以上のブランドを受け持っています。今の時代はDX化が進み、家にいながらにしてなんでも手に入るように見えますが、最寄駅の近くにない飲食店はデリバリーの配達範囲からは外れるので、頼むことができません。そういったことは意外といくらでもあるんです。その埋めきれていないニーズに対して、しっかりと提供してあげるためにも、ジャンルは絞らないようにしています。

「さらだのあるせいかつ」のメキシカンサラダ

もう一つは、日常食に寄り添っていることです。健康が重要視される時代になってきたこともありますが、食は生きていく上では欠かせない存在で、毎日摂取するものです。ですから、身体づくりを安心して任せてもらえる存在になれるよう意識しています。具体的には「料理に含まれている食材が多品目である」こと。あとは、「旬と鮮度」を意識しています。街全体の健康を上げる拠点に、僕たちがなれればと考えていますね。

──ゴーストレストラン研究所が運営している「ゴーストキッチンズ」は、現在フランチャイズ展開をしています。フランチャイズの利点やおもしろさは、どこにあると感じていますか?

このゴーストレストラン業態の特徴として、お客様が同一ブランドの他店舗に行く可能性が極めて低いということが挙げられます。デリバリーの配達範囲は、そこに住んでいる、もしくは働いている方がほとんどです。ですから、各店舗の商品クオリティを均一に揃えることにコストをかける必要は、実はあまりないんです。
逆に、フランチャイズ先の人がすごく技術を持っていて、プラスの要素を足してくれると、結果的にその地域で提供している食のクオリティは上がります。そうしてその地域や店舗によって違いが出ると、よりおもしろいお店になるのではないかと感じています。改めて、自由度が高くて魅力のある業界だと感じていますね。

──やりがいを感じるのは、どんなところでしょうか。

長く利用していただける方が増えてきたのは嬉しいです。オーダーが入ると、何回目のご注文なのかが表示され、それが40回目や80回目というのを見ると、生活の一部として僕たちの提供しているものが溶け込んでいることを実感できます。日常食にフォーカスをしている会社なので、使い続けてくれるということが何よりの喜びです。

激動の食産業の中でも変わらず、人々の日常へ寄り添うということ

──今後の事業展開について教えてください。

コロナがきっかけとなってデリバリー業界は飛躍的に成長しましたが、そのフェーズはいったん終わったのかなと感じています。ここからもう一段階、変わっていかなければいけないときだと思っていて、今はそこを模索していますね。

──現段階で見えている道筋はありますか?

あくまでも今感じていることになってしまうのですが、一つは半径3キロの配達エリアをデジタルの力を使って攻めることで、何かが生まれるのではないかと思っています。配達範囲は店舗から半径3キロ以内なのですが、最初はその状態にかなりやりづらさを感じていました。エリアを絞ってその範囲だけに情報を届けようとすると、デジタルだとすごく難しいんです。ネット広告は今の時代すぐに打てるのですが、地域を限定すると、看板を出すかチラシを配るかというアナログな方法になってしまうんです。でもそのように限られたアプローチが最近は時代に逆行していておもしろいなと。ここにデジタルを上手く掛け合わせていくことが、今後大事になってくるのかなと考えています。そもそも食自体はデジタル化ができるものではないですし、アナログとデジタルの組み合わせはほかの誰も挑戦していないポイントだと思っています。

もう一つは、キッチンの活用ですね。食産業はどうしてもランチとディナーに需要が集中します。でも他の時間は空いているという現状があります。このキッチンが稼働していない時間にデリバリーを構えることによって、同じ面積を使いながらも、より収益を上げることができると考えています。以前とあるホテルさんと一緒にこの取り組みを実施したところ、結果的にすごくいいものになりました。営業時間にコミットしつつ、一つのキッチンの価値を上げることができたと思います。

──コロナ禍をきっかけに大きく変わったように感じていた食産業ですが、今も進化をし続けているんですね。

たしかに変わり続けてはいますが、ゴーストレストラン研究所のコンセプトは変わらずに大切にしていきたいです。地域の台所として、繰り返し利用していただける日常食を提供し続けます。そのためには、健康を意識することと、地域の方が求めているものを提供すること、この二つに尽きると思います。飲食店のDX化はまだまだ進化していくと思うので、また新たな付加価値を作って、豊かな食を提供していきたいと考えています。

「ゴーストキッチンズ」のブランドはこちら

編集部コメント

「日常食のアップデート」をミッションに掲げ、おいしく、そして健康な食事をデリバリーすることで、“地域の台所”になっているゴーストレストラン研究所。
特徴的なのは、20を超えるブランドを擁しているため、さまざまなシーンで利用できるところです。
例えば、仕事終わりに疲れた体を癒やすようなスープのブランド『すーぷのある生活』や、栄養が偏りがちなときに食べたいサラダのブランド『さらだのあるせいかつ』、逆に「今日はジャンクなものを食べたい」というときにぴったりなブランド『NY飯!チキンオーバーライス』など。
ゴーストレストラン研究所にはユニークかつ普段遣いできるブランドが数多くあります。
実はインタビューを担当した私も、以前お酒を飲みすぎた次の日に、しじみ出汁で作った"しじみ出汁茶漬け"を提供している『二日酔い食堂』を利用したことがありました。当時はゴーストレストラン研究所のブランドとは知らずに、「こんな珍しいお店があるのか」という印象でしたが、今回の取材を通じて、ゴーストレストラン研究所が地域の様々なライフスタイルに寄り添うために提供しているものなんだということを実感しました。

[プロフィール]

吉見悠紀●よしみ・ゆうき

株式会社ゴーストレストラン研究所
代表取締役

立教大学卒業後、大手広告代理店をスピンアウトし、食材の輸出業を開始。その後も、地方創生やシェフのマネジメントで「食」とかかわり、2018年にフードデリバリー専門店「Ghost Kitchens」を起業する。デジタルトランスフォーメーション(DX)で、外食産業の生産性を上げるというミッションを追いかけている。

(文:高山諒 写真:飯山福子 編集:金澤李花子)

※写真撮影時のみマスクを外して撮影しています。