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デジタルの力で次世代に繋がりやすい農業を。株式会社ベジ・アビオの最強タッグに迫る

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2022.09.28(最終更新日:2022.09.30)

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普段何気なくスーパーで目にする野菜や米、果物といった農作物。
私たちの生活を食の面から支えている日本の農業は、高齢化の進行による担い手の減少など、さまざまな問題を抱えている。特に地方の人材不足は深刻な状況で、こうした労働力不足による耕作放棄地が増加している現状がある。

この問題を解決するための方法の一つとして、ロボット、AI、IoT等の先端技術を活用し、超省力・高品質生産を実現する取り組みである、“スマート農業”に今注目が集まっている。

新潟県新潟市には、このスマート農業を駆使して「勘や経験に頼らない、次世代も担える農業」を実行している会社がある。社名は「株式会社ベジ・アビオ」。創業者の田中さんと、それを引き継いだ26歳の社長・山﨑さんが二人三脚でタッグを組み、日本の農業が直面している農業人口の減少や高齢化という大きな課題に取り組んでいるそうだ。
今回は株式会社ベジ・アビオ社長の山﨑さんと、田中さんにそれぞれにお話を伺い、農業が直面する現状やスマート農業を導入した理由、農業の未来について語ってもらった。
二人が農業にかける思いとは?

26歳社長とベテラン研究者のタッグで、得意分野を活かしながらトマト作りに取り組む

──はじめに、株式会社ベジ・アビオという会社について教えてください。

山﨑:株式会社ベジ・アビオは、新潟県の農業が直面している農業人口の減少や高齢化といった課題に取り組むために、スマート農業を活用したビジネスモデルを構築することで、クリーンな働き方を実現しながら、オリジナルブランドであるフルーツトマト「とマとマとマと」という高付加価値な農作物を生産しています。現在栽培管理を担当している田中が立ち上げた会社ですが、2022年2月に私が社長に就任し、現在は二人三脚でフルーツトマト作りに取り組んでいます。

──山﨑さんは26歳という若さで田中さんから株式会社ベジ・アビオを引き継ぎ受け継ぎ、社長となったそうですね。どのような経緯で田中さんと社長を交代されたのでしょうか?

山﨑:それをお話するためには、私のパーソナルな部分からお話する必要があるかもしれません(笑)。というのも私には、小さい頃から漠然と「社長になる」という夢があったんです。昔から目立ちたがり屋で、学年委員長や生徒会長といったリーダーになることが多く、大学在学中もビジネスコンテストなどに応募しては、なにか事業ができないかと模索していました。その思いは就職活動中も消えることはなく、会社を牽引するリーダーとして、誰かの役に立ちたいという気持ちが強くありました。私の父も祖父も社長をしていたので、そういう存在に憧れがあったのかもしれませんね。

トマトの帽子を被り「とまちゃん」として自らをキャラ付けしている。帽子は自作したそう

──なるほど。ただ、社長になりたいと思っても、いきなりなれる職ではありませんよね?

山﨑:そうですね。企業の社長になるためには資金力も、マネジメントの経験も必要になってきます。そうした中で、就職活動をしていると、新潟県内の大手企業であるNSGグループが「経営者育成コース」という、まさに将来社長になるための採用をしていることを知りました。これはジョブローテーションをしながら実践的なスキルを身につけ、ビジネスアイディアを実現していくという採用の形で、はじめて知ったとき、私の夢に一番の近い道だと思ったんです。

──実践的な経験を積みながら、将来的に社長になる夢を支援してくれる会社だったんですね。

山﨑:NSGグループに入社し、2年間グループ内の企業で営業として携わったのち、ベンチャーで、自分で裁量を持って働きたいと希望し、新しく配属されたのがNSGグループが出資し、当時田中が社長を務めていた株式会社ベジ・アビオでした。最初の2年間は営業や企画といった、農作業以外の仕事を担当し、経営や農作業は創業者の田中が担当していました。ただ、田中と話していく中で、田中は「より栽培管理に集中したい」、私は「営業や企画をしながら、ゆくゆくは経営にも携わりたい」と、お互いの思いと得意分野を活かしながらトマト作りに取り組めるのではないかとのことに気づき、「社長をやってみないか」というお声がけをいただいたんです。そこで、2022年に社長を交代し、現在に至ります。

スマート農業で新しい農業のビジネスモデルを実現し、地方の農業課題を解決する

──日本の農業というと、担い手不足や高齢化など、課題が山積しているイメージがあります。山﨑さんがベジ・アビオに配属されたとき、農業という事業はどのように見えていたのでしょうか?

山﨑:農業が抱える問題は薄々感じていたのですが、実際に従事して、さまざまな農家の方と触れ合っていく中で、その問題を痛感しましたね。私が感じた一番の問題は、マネタイズの仕組みがないということ。流通システムに問題があるのか、農作業が効率化されていないのか、高付加価値な農作物を作るのが難しいのか、あるいは全部なのか。原因はたくさんあると思いますが、このマネタイズ面がクリアされないと新しいシステムを入れるのも大変ですし、「農業は大変」というイメージもついてしまい、担い手が少なくなってしまう。負のスパイラルに陥っているなと感じました。

株式会社ベジ・アビオの看板商品「とマとマとマと」

山﨑:ただ、マイナス面だけではなく、プラス面もいくつかありました。まず、うちのトマトを食べたときに、今までで食べたトマトの中で一番おいしかったこと。これだけおいしい商品があるのなら、もっとたくさん売れて、マネタイズができるのではないかと思ったんですよね。さらに、創業者の田中がこれまで研究を続けてきたスマート農業ならば、品質を担保しながら、効率的で省力的な農業のビジネスモデルを作ることができ、ベジ・アビオが地方の農業課題を解決するモデルケースになれるのではないかと強く感じました。それと同時に、私なら若手ならではの発信の仕方で、農作物をより高付加価値なものにすることができるのではないかと考えました。

「私ってちゃんと社会の役に立っているんだ」という反応をダイレクトに感じられる農業の可能性

──若手ならではの発信の仕方、というのはどのようなことでしょうか。

山﨑:私が目立ちたがり屋なのもありますが、今はトマトの被り物を被って自分自身を「とまちゃん」とキャラ付けしながら、イベントへの出店やメディアへの露出をしています。おかげさまでイベントに出店するごとに、お声がけいただき、親しみを持って弊社の「とマとマとマと」を覚えてもらえている実感があります。
また、TwitterやInstagram、PodcastといったSNSを活かして発信することで、これまでリーチできなかった層にもアプローチしています。
直接顔がみえるイベントに参加したり、SNSの反応を見たりしていると、自分が作ったものへの反応がダイレクトに返ってくるんですよね。そうした声は実際に商品を開発する際にも役立てています。

──社長として、そして若手就農者として、山﨑さんが今、農業に可能性を感じていることを教えてください。

山﨑:農業には課題がたくさんありますが、とても未来のある分野だと思います。一つはDX化が進み、高付加価値な商品を生み出せる土壌があるということ。AIやIoT機器が発達していくにつれ、クリーンな働き方を実現できますし、ネットを駆使して自分ならではの売り方が実現できます。

また、携わった商品に対して充実感を持ちやすいのも農業の良いところですね。責任のある仕事ですが、「私ってちゃんと社会の役に立っているんだ」という顧客からの反応をダイレクトに感じられるんですよね。そういう感覚を持ちやすいのが農業の良いところであり、今後若手が楽しく働ける領域なのかなと感じています。

若い方も就農できるように、過酷じゃない、クリーンな農業法人を作る必要があった

ハウスの真ん中には、データを集めるための機器が設置されている

──ここからは創業者であり、山﨑さんとタッグを組む田中さんにもお話を聞いていきたいと思います。ベジ・アビオが取り組むスマート農業はどのようなものなのでしょうか?

田中:弊社では「勘や経験に頼らず、次世代も担える農業」を実現するために、栽培施設内の温度や日照量、灌水量などの環境を自動制御でコントロールしながら、収集したデータの分析・活用をすることでスマート農業に取り組んでいます。また、弊社ならではの農法としてはナノサイズの穴が空いた「アイメックフィルム」という特殊なフィルムを用いた栽培を行うことで、味が濃縮された、濃くて甘いトマトの生育をしています。

──株式会社ベジ・アビオを設立する際、なぜスマート農業を導入しようと思ったのでしょうか?

田中:山﨑も感じていたように、農業にはたくさんの課題があります。大きい問題でいうと二つ。まずは担い手の問題です。農業者の全国平均年齢は農林水産省のデータでは令和3年現在で67歳。人口の比率でいってもその年代にピークがあります。平均年齢ですでに定年退職をされている方の年齢を上回っていますから、10年後には間違いなく担い手が激減してしまいますよね。私がこの農業法人を立ち上げる際、この担い手問題をどうにかしてクリアできないか、ということを考えていました。ですので、若い方も就農できるように、過酷じゃない、クリーンな農業法人を作る必要がありました。

アイメックフィルムによって養液の吸収量を制限されたトマトは根からの吸水力を上げるため、自らの力で実の中の栄養素、旨味、甘みの濃度を濃くする

田中:さらに、新潟は米が有名ですが、稲作に頼りすぎているという問題もありました。どういうことかというと、稲作は環境による影響を受けやすく収穫量が安定しづらいんです。例えば、稲作で有名な秋田県や山形県は、県としてこの問題に取り組んでいて、米農家が*施設園芸に取り組むといった、複合経営を推奨していました。他の県がそうして生産額をキープしている中で、新潟県の農家の生産額は下がり続けています。私は新潟県も施設園芸を取り入れて通年で作れるような農業にシフトしていかないと先がないなと感じていました。担い手問題と、安定的に生産するという二つの大きな課題に取り組むために、全国のさまざまな農家に足を運び、あらゆる農法を知っていく中で、新潟県でもスマート農業を導入した農業法人を立ち上げようと思いました。

*施設園芸:ガラス室やビニールハウスを利用して野菜などの園芸作物(野菜類・花き・果樹)を栽培することで、天候や外気温の影響を減らして比較的安定した生産ができる農業形態の1つ。

自分の持っていない部分をたくさん持っている若手に任せることで、良い方向に向かっている

トマトの生育環境は、随時更新されるシステムを使って、パソコンで把握することができる

──田中さんは現在栽培管理をされていますが、現場ではどのようなことをされているのでしょうか。

田中:現場での収穫作業や、日々のデータを見ながら生産量を上げるためのトライアンドエラーを重ねています。基本的に、与える肥料や水の量、温度、湿度など計測できるものは24時間365日、データを記録します。それにより、ハウスまで行かなくともPC上でいつでもトマトの状態を確認することができ、前の年との比較ができるんです。データのストックを作っていくことで、効率化を進めているところです。
まずは、生産量を底上げするため、葉っぱ1枚ずつの光合成の活性度を高められるよう肥料を調整しながら入れたり、葉っぱの剪定具合を調整したり、あるいはLEDの試験をしたりと、研究するべきことがたくさんあります。
一方で、収穫作業に関してはまだ人による作業が中心。収穫や日々の手入れには人的リソースを割く必要があります。今後の研究課題ですね。

──スマート農業といっても、すべて機械で行うわけではないのですね。

田中:そうですね。すべて自動になれば良いのですが、まだまだ人の調整が不可欠です。弊社の「とマとマとマと」はおかげさまで評判が良く、さまざまなところから「うちにも卸してほしい」といった声をいただくのですが、生産量が追いつかないという課題を抱えています。そこで私は栽培管理に集中して、どうやったら生産量を上げられるのかを試行錯誤しています。

──田中さんが立ち上げた農業法人を山崎さんが社長として引き継ぐということは大きな変化だったのでは?

田中:そうですね。私としては彼女が社長になったことで、確実に会社が良い方向に向かっていると実感しています。彼女は私が持っていない部分をたくさん持っているんですよね。とにかくアクティブに営業を回ったり、私にはできない若手ならではの発想力で商品の開発やPRをしている。これまで私一人でもがいていた経営も、彼女がいることで上手く回るようになりました。また、山﨑のように若い人が自分の等身大の意見で発信することで、ベジ・アビオのビジョンの一つである「若い方の就農」にもつながるのではと期待しています。

今は、研究という自分の領域に集中できていて、収穫量を増やし、品質も良くなっている実感があります。これからもお互いの得意領域に集中して、農業を盛り上げていきたいですね。

編集部コメント

農業従事者の高齢化や後継者不足、食料自給率の低下など農業には課題がたくさんありますが、そこに真っ向から挑むベジ・アビオのお二人。お互いの得意分野を活かしながら農業の未来を築いていく若き社長とベテランのお話には、トマトで新潟を、そして日本を変えていくという熱量を感じました。現在、AIやドローン、IoTといった最先端技術の進歩によって、変革が起きている農業。日本の農業がいま抱えている問題を解決するための方法の一つが、スマート農業。私たちの食の未来を左右するスマート農業には今後も目が離せません。

[プロフィール]

山﨑瑶樹●やまざきたまき
高校卒業後、新潟大学経済学部で経営学を学ぶ。「30歳までに社長になる」という目標を掲げ、NSGホールディングスに入社。出向先としてスマート農業と若手就農を促進する株式会社ベジ・アビオに出会う。最新の農業技術と農業の課題を知り、さらにおいしいトマトに魅せられ、さらなる事業拡大のため自ら代表に志願、2022年に26歳で代表に就任する。現在は経営や営業担当として、甘くておいしいトマト作りと農業の発信に努めている。

田中一幸●たなかかずゆき
株式会社ベジ・アビオ創業者。新潟県の農業に問題意識を持ち、新潟県ではほとんど導入されていなかったスマート農業に取り組む。環境の自動制御やデータ収集による分析と活用を行い、「勘や経験に頼らない、次世代も担える農業」を目指している。現在は栽培管理の担当として、生産量を上げるため研究を重ねている。

(文:高山諒 写真:飯山福子/大島彩 編集:金澤李花子)