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農的活動をIoTデバイスでサポート。プランティオ代表が語る、「農」のこれから

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2022.12.27(最終更新日:2022.12.27)

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昨今、観葉植物やベランダでの家庭菜園を楽しむ人が増えつつあるそうだ。コロナ禍の影響で自宅で過ごす時間が増える中、成長する植物や野菜は日々の移り変わりを教えてくれる存在…とはいえ、農作業に縁遠い都市で生活を送る者にとって、種植えから収穫までの一連のプロセスを楽しめる人は少ないだろう。自宅に大きな庭があるわけでもなく、農作業の知識に乏しいとなると、さらにその継続性からは遠ざかってしまう。

都市生活者の農体験への関心は高まりつつある一方で、全国における農業従事者は年々減っており、2022年にはその数が100万人を切った。農林水産省は2030年度までの目標として食料自給率*1 を45%としているが、2021年度には38%をマークしており、なかなか目標の数値には届かないのが現状だ。つまり、国外で生産された食糧に依存している状態が長く続き、野菜類も含めた国内の食糧生産だけでは1億3000万人の食卓を支えきれていないのだ。*2

そうした現状を踏まえて、紹介したいのが、シェア型のIoTコミュニティファームの運営、さらには野菜栽培用のIoTデバイスを開発する「PLANTIO(以下、プランティオ)」だ。この企業が開発したアプリ「grow GO」は「grow connect」という自社開発デバイスと連動し、プランターで育てている野菜の手入れに関するアドバイスを、生育状態に合わせてリアルタイムでユーザーに通知。さらに、そのシステムを都市部にあるシェア型コミュニティ農園に実装することで、農園を所有するメンバー間でコミュニケーションを取りながら一緒に野菜を栽培することができるという。プランティオ代表・芹澤孝悦さんにお話を伺ってみると、そこには「農」のパラダイムシフトが待ち構えていた。


*1(カロリーベース総合)食料自給率:基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標

祖父が開発したプランターと、IoTで世界中と繋がる開発

──まずは、プランティオが開発した「growCONNECT」について教えてください。

「growCONNECT」は土に挿すと、内蔵されたセンサーが日照量・土壌水分量・土壌温度などを計測し、データをもとに植物ごとの栽培に対してアドバイスをしてくれるデバイスです。種撒きの時期や剪定、収穫までフォローでき、栽培時の画像データや計測データをアーカイブすることもできます。

──このデバイスとアプリが連動していて、ネクストアクションに適切な時期や気温になると、通知がくる仕組みになっているんですね。

アプリは「grow GO」という名前でローンチしています。そして、この「grow CONNECT」と「grow GO」を活用したコミュニティファームの設置・運営も行っています。といっても、登録者同士がアプリを通じて日々の水やりや野菜のケアをコメントや写真でやりとりすることが目的なので、私たちはそのためのプラットフォームを作ったという言い方が正しいかもしれませんね。企業に出資や協働いただくことで、都市部のマンションや商業施設、学校の屋上などを中心にコミュニティファームを展開しています。

アプリ上の画面では、同じファームを所有するメンバー間で写真とコメントのやり取りができ、リアルタイムで農園の様子を共有できるという。

──畑をデバイスで管理できる時代の到来ですね。このアイデアって、いつ生まれたものなんでしょうか?

私の祖父は、プランターを発明した会社の創設者で、そのプランターを再発明しようと思ったのが始まりです。
プランターって、日本で発明されたもので「plant(植物)」に「er」という接尾語をつけた、和製英語なんです。祖父が戦後の高度経済成長期に「都市化していく街中でも人が土と植物に触れられるように」という思いで、庭のない軒先やベランダでも栽培ができるサイズで作ったものが始まりです。

1964年の東京オリンピック開催時の広告

祖父のプランターは、グローバルで累計で10億台ぐらい出荷されてます。もう70年やってますから。そんな世界中のプランターが IoT化され、どこで・誰が・何を・どれくらい育てているかが全部可視化したら…実は、農業よりすごいんじゃないかと思ったんです。

──家庭菜園をする一般市民が増えたら、すごいことになるぞと?

そうです。海外の動きも見ながら、「アーバンファーミング」と呼ばれる、農業ではない「農的な活動」っていうのがこれから広がるのも直感的に分かっていて。ぼくは前職で、iモードのアプリを制作する会社のプロデューサーだったんですね。プロデューサーって、異質なものをうまく組み合わせて、 その時代に合わせてマッシュアップするとヒットしたりするじゃないですか。だから、ぼくの持ち味のITと、家業のバックブランドをかけ合わせるしかないなと。現代はあらゆるものに対して、テクノロジーやインターネットは絶対入り込むと思っていて。だってもう、テクノロジーやインターネットって、空気のようなものじゃないですか。

呆然とする中で再確認した、アーバンファーミングの重要性

開発当初は「スマートプランター」という、プランター型デバイスを作ることにかなり躍起になっていました。先ほど話した、どこで・誰が・何を・どれくらい育てているかが可視化できる機能が全て備わっているようなプランターのことで、太陽光によってセンサーがデータを送り続けるという夢のデバイスですね。

資金調達をしてシステムを開発し、2017年にプランター型デバイスのプロトタイプができました。そこで事業最大の出資者でもあり、共同経営者の孫泰蔵さんのところへ見せに行ったら、「手段にこだわってばかりいるなら、お金全部引き上げるよ」とめちゃくちゃ怒られまして。ぼくが一番ショックを受ける言葉で伝えてくれたんです。「君のおじいさんの発明の本質は、プランターを作ったことではない。人がアグリカルチャーに触れる機会を作ったことでしょ」と。

それに衝撃を受け、3ヶ月ぐらい呆然としました。海や山に行って、とにかくボーっとしてみたんですよ。そのボーッとしていた期間に、「でもやっぱり、アーバンファーミングは必要だよな」という気持ちになりました。

──ものすごい衝撃を受けたんですね…。ところで、アーバンファーミングって何でしょうか?

従来の農業はマクロファーミング。それと対局する「どこでも、誰でもできる」民主的でオフグリッドなものを、マイクロファーミングっていうんです。それを都市部で行うことをアーバンファーミングと呼んでいます。

──なるほど。自立的に行うもので、それが家庭菜園だったり、コミュニティ菜園にも当てはまるんですね。

そういうことです。これからの時代はアーバンファーミングの方が社会的インパクトも大きいし、 やるべきなんじゃないかなと。あと数年で農家が70万人を切り、いよいよ日本の台所が危ないというデータもあります。でも、プランター型ではなぁ…と思っていたタイミングで、出資いただいた企業から「17年ぐらい使ってない遊休地があるんですけど、どうにかなりませんかね」とご相談いただいたんです。最初はその敷地に「プランター型を並べてください」って言われたんですが、当時のプロトタイプは一台32万円ぐらいだったんですよね。 そんな値段のものを、開発途中の段階で並べられるのか…と思った時に、形にこだわるのはやめようと踏み切って。そこから、現在の土に挿すタイプの開発に切り替えました。

土に挿す部分に温度計があり、土中温度を計測。上端の丸い部分はカメラになっていて、植物の生育状況をAIが分析する。

──大きな方向転換ですね。社内から反対されたりしないんでしょうか?

ありがたいことに、誰もNOとは言わなかったですね。 普通ならめちゃくちゃ言われるはずなのに…ぼくの周りには天使みたいな人しかいないので。むしろ、全員がなんとなくモヤモヤしながら作っていたのが、一気に晴れたって感じでした。今も紆余曲折ですが、そういう経緯でこのデバイスは完成しました。
ただようやくスタートって時にコロナの感染拡大が始まって。屋上農園を予定していたテナントも、感染拡大防止のため自由に出入りできなくなることが多発しました。それで事業が完全にストップしてしまいましたね。

アグリテインメントへの気づきと「農」への危機感

──そこまでの熱量とスピードを持ってやれたのは、芹澤さんの身近に家庭菜園やプランター栽培があったからなんでしょうか?

そうでもなくて。小さい頃は、よく祖父と庭でプランター栽培をしてました。膝の上にぼくを乗せて、プランターの図面を引く姿が記憶にあります。ただぼく自身はIT業界に入って、バブルの時代を享受し六本木あたりでワイワイしていたタイプ(笑)。「農」は縁遠かった。
でも、大学の頃にできた北海道出身の友達には、季節毎に実家から野菜が送られてくるのを知って「自分の実家は渋谷。なんもねぇな」と。生まれながらに「農」が近くないことに違和感はありました。

30代になって自分で野菜栽培をしてみたら、 まあ面白くて。エンターテインメント業界にいたのにこの楽しみを知らなかった。「これってすごく素朴だけど、めちゃめちゃエンターテインメントだ」って気付いたんです。

海外には「アグリテイメント(agritament)」、つまり農芸(agriculture)と娯楽(entertainment)がくっついた造語があります。ぼくらの会社でもその言葉をよく使っていて、野菜を育てること自体が楽しくて、そこからさらに、育てた野菜を食べることも楽しい。この楽しみって元々はとても身近に置かれていた営みだと思います。

──大人になってから農業を体験したことで、「農業=楽しい」という実感がさらに大きくなったのかもしれませんね。

いや、農業以前の「農=楽しい」ですかね。すごく似ているんですが、この考え方の違いがとても大事なんです。

──「農」と「農業」って違うんですか…?

農業を正しい英語で言おうとすると、「agriculture industry」。つまり、産業(industry)って単語をつけないといけないんです。だから、「agriculture」という単語自体は本来「農」という意味なんですよ。農は、土地を耕して作物を作ることそのものを指します。でも、多くの人が「agriculture=農業」だと思っていて、ごちゃごちゃになってしまっていて。

なぜごちゃごちゃになるかというと、本来の「農」と人とが離れすぎてリテラシーが落ちてるんです。そもそも最初に「農」があって、安定的な量を生産・流通・販売したいから「農産業」になったはず。今、それすら忘れられているから、伝えて、アップデートしないといけないんですね。

──ここまでお話を聞くまで、「アーバンアグリカルチャー」は農業ができない都会暮らしのための、代替品のようなものなのかなって思ってました。そうではないんですよね。

そう。ぼくらが管理している農園も、農業ではなく農的活動なんです。

(写真:プランティオ提供)

──「農」と「農業」という言葉の違いが、芹澤さんの事業と強く結びついてることが見えてきました。改めて、プランティオが運営している農園についてお話を伺ってもいいでしょうか。

ぼくらが企業と共に運営している農園は会員によって管理されています。民主的に農園の皆さんが話し合ってやってるので、それを支えるシステムとしてアプリ「grow GO」やデバイス「grow CONNECT」を提供しているだけですね。 農園には何を植えるか話し合いがありますし、採れたハーブティーをみんなで飲んだりもしますし。中央集権的ではない、web3.0的な「相互でみんなが緩やかに見守り合う」というコミュニティを我々は目指し、アプリとデバイスでフォローするようにしています。

──農園を基点としたコミュニティが広がっていくことで、どんな未来が来るのでしょうか?

思い描いているのは、街中のそこかしこに農園がある未来です。地図上で、自分の家から近い農園を探し、そこを農的活動の拠点にする。そこでは地域の皆さんと一緒に自立的に農的活動を行いつつ、他の農園でイベントがあったら参加したり、レストランとの「Farm to Table(農場から食卓へ)」に行ってみよう、みたいなイメージですね。

つまり、農的活動を可視化して、どこにでも誰でも農的活動にアクセスできる世界を思い描いてるんです。そのプラットフォームとしてのマイクロファーミングを本当に細かく、街中に泡のように散りばめることで、おそらく現在の農業と同じぐらいの生産量を保つ世界が必ず来るんですよ。

──市民それぞれの農的活動が、農業の生産量を越えるってことですか。

本来は、人間ってそれぞれが小さな畑や田んぼで自給自足していたので、そっちがあるべき姿とも言えるんです。その証拠に世界では環境貢献という名の元に、どんどん脱農業していますし。

(写真:プランティオ提供)

現代の農業は、特定の農法・農薬・肥料が揃ってないと大量生産できません。大量生産できないと商業として成立しない一方で、フードロスが生まれ、労働問題も発生します。農業になったことにより、がんじがらめになって、環境負荷も高くなってる。それをもう一度、アンインストールしてやり直すことが必要なんだと思います。

──市民自ら、自分たちの消費について考え直さないと未来がないんですね。

そうなんです。それにね、国民の約半分は何かしらの方法で野菜栽培にトライしてるんですよ。でも、そのうち6割が情報不足だったり、難しいと感じてドロップアウトしてるというデータもあります。だからこそ、デバイスを活用して即時的にインサイト分解ができると、畑の手入れがしやすくなって楽しむことができる。元々農園に興味がある人ならなおさら、通知を元にみんなで手入れを行い、食べるまでを楽しんでいただきたいんです。

3年後、農業従事者とコミュニティ農園のユーザーが同数になる?

──どんな人がターゲットなんでしょうか?

日本に住んでいる1億2000万人のうち、都市部に住んでいるのは約半数。日本のスマホ普及率は67%。さらに、その中でコネクティブな世界に入れそうな人たちが、3000万人いるんです。その3000万人がぼくらのターゲット。その人数に対応したマイクロファーミングがあったら、野菜をスーパーで買うという行為だけではない、新たな選択肢が世界に生まれるはずなんです。そうしたら、社会も変わると思いませんか?

(写真:プランティオ提供)

──変わりそうな気がしてきました…。最近は、出光興産と共同したプロジェクトも始まったんですよね。

千葉県市原市の出光興産が所有する遊休地に、IoTセンサーや栽培ナビゲーションシステムを備えた「apollo cultivatepark」を開設しました。その敷地内にある「Kronosfarm(クロノスファーム)」を皮切りに、今後は近くにある遊休地、特に耕作放棄地とも関係を繋いでいく予定です。

出光興産系列のサービスステーションは、全国に6,000店舗以上あります。そのネットワークを活用すれば、3年で全国に3000ヶ所のクロノスファームを作ることができ、アクティブユーザーは70万人前後になる予想です。冒頭でもお話ししましたが、今から数年後には農業従事者が70万人。つまり、日本の食料自給率を大幅に変えるだろうというボーダーラインと同じ数の人たちを生み出せるんです。

──そのままマイクロファーミングが進めば、農家の数はどんどん減るんでしょうか?

そうでもないと思います。ロンドンだと、マイクロファーミングの広がりによって街中に300ヶ所ぐらいの農園があるんですよ。その中から生まれた農家さんも増えてます。ぼくらもそれでいいと思っていて、「とにかく農の入口を作る」ってことを大事にしています。何と言っても、それを祖父の代からやってきてる訳ですから。入口から足を踏み入れた先は、農家になるなり、街中でコミュニティとして農を楽しむなり、もうお任せです。

現在、完全屋内型ファームの実現に向けた開発も進行中。3Dプリンターで作られたパーツと水循環システムにより、気候変動の影響を受けない栽培を可能にするというもの。

ただ、おそらくぼくらの農がずっとスタンダードになれば、それが波及した先にはまた、農業のようなものは、何かあるはず。おそらくその頃には従来の経済優先の農業とは離れていて、もっと地球を大切にするようなアースコンシャスなものになっているでしょうね。それが暗号資産なのか、ポイントなのか…。わかりませんがけど、そんな新しい農業の形になっていくと思います。

編集部コメント

「都市型農園をIoT化されている会社」という認識で伺った今回の取材。お話を聞いていくうちに、想像していたスケールを遥かに超えるお話がどんどん飛び出してきて、とにかく自分の知識を総動員し、質問とメモに必死になった取材でした。社内には「3年以内にマイクロファーミングに関わる人口を70万人にする」とおっしゃっていた芹澤さんの言葉を裏付けるように、3年間のスケジュールやミッションがびっしりと細かく書き込んだホワイトボードが。本当にこの人たちなら未来を手繰り寄せるのかもしれない…という期待が高まりました。世界スケールで地球の環境と私たち人類の未来を見据え、科学的根拠と最新鋭のデジタル技術が集結したプランティオのコミュニティ農園は、これからどんな広がりを見せていくのか。他人事ではない気候変動や食糧危機を想像しながら、まずは自分がコミットできる農的なことを探しています。

[プロフィール]

芹澤 孝悦 ●せりざわ たかよし
エンターテインメント系コンテンツプロデューサーを経て、「プランター」を開発し世に広めた家業であるセロン工業へ。2015年、元祖プランターを再定義・再発明すべくプランティオ株式会社を創業。祖父の発明の本質は高性能なプランターを開発した事ではなくアグリカルチャーに触れる機会を創出した事と捉え、2020年“grow”ブランドを発足、食と農の民主化を目指す。

(文:山口奈々子、写真:飯山 福子、編集:金澤李花子)