年間200回以上、女子高生にインタビュー!最新プリ機の企画の裏側
今回世良さんが訪れたのは、渋谷にあるフリュー株式会社の本社。「AI歴代バズプリ」の企画者でプリントシール機事業部に所属する小野実夏(おの・みか)さんと、研究・開発担当の海苔威(のり・たける)さんにお話を伺いました。
世良マリカ(以下、世良):本日はどうぞよろしくお願いします! オフィスにも、こんなにいろいろなプリ機が並んでいるんですね。お店みたい!
小野実夏(以下、小野):そうなんです! フリューでは今、年に最大9台の新機種が登場しています。プリ機のメインターゲットは、今も昔も中学生~高校生の女の子たちなので、夏休み、冬休み、春休み時期に合わせて新しい機種をリリースしているんですよ。
世良:そうなんですね。プリ機によっても、写りにいろいろな特徴があると思うのですが、どうやって企画しているんですか?
小野:フリューでは、 自分たちの中にある10代の女の子たちの感覚を損なわないために、年間200回ほど女子高生たちに実態調査や商品力向上を目的としたグループインタビューを実施。実態調査では、最先端で流行っているものや、どんなことで遊んでいるのかをヒアリングしています。グループインタビューやマーケティング調査などの内容をもとに、企画チームは新機種のテーマや写りの特徴を考えて、海苔さんの所属する開発チームと細かなすり合わせを重ねて仕上げていきます。企画者自身に企画力とJKに寄り添う力があり、それを失わないためのグループインタビューを通して提案型の商品作りをしている点が特徴です。企画から、実際に市場に出るのは、企画からだいたい1年半後くらいですね。
世良:へえ~! 1年半後を見据えて企画するんですね。最新のプリ機はどんなものなんですか?
小野:今一番新しい機種が、この「わたウサ」になります。ビビットな色味でくっきりとした写りの“ビビかわ盛れ”と、自分で遊び方を選べるカスタムメニューが特徴ですね。
世良:カスタムメニュー? どんなことができるんだろう。
小野:まずはぜひ、世良さんには最新の「わたウサ」で撮影しつつ、「AI歴代バズプリ」で過去の人気プリ機の写りを体験してもらえたらと思っています! ちなみに世良さん、最後にプリを撮ったのはいつ頃ですか?
世良:今年の年明けに撮りました! ちょうど髪色を変えたので、記念に撮影しましたね。それ以来なので楽しみです!
小野:ぜひ存分に楽しんでください!
令和の最新プリから、平成の人気プリにAI変換。写りはどう変わる?
小野:ではさっそく、「わたウサ」の撮影を始めていきましょう! 最初にチュートリアルが流れて、その後にカスタムメニュー機能で撮影枚数、見本にするポーズ、落書きの有無、シール編集の有無が選べます。目的や予定に合わせて、撮影工程を自由にカスタムできるのが「わたウサ」最大の特徴です。たとえば、サクッと撮りたいときは、落書きやシール編集をスキップすることで、最大4分短縮 (※)することもできるんですよ。
※撮影枚数は同じ枚数に設定し、落書き・シール編集を行った場合との比較、多重接客時を除く
世良:なるほど、状況に応じて自分で選択できるのがいいですね。撮影枚数は1~12枚の間で自由に選べるんですね。
小野:はい。記念にたくさん撮りたい子もいれば、集中してじっくり1枚撮りたいという子もいるので、いろいろなニーズに応えられるように枚数を選択できるようにしました。枚数が多くなると、それだけ連写に近いスピード感になるので、安定してしっかり撮りたい方には6~7枚が人気ですね。
世良:じゃあ、7枚にしてみようかな! では、撮影にいってきます!
撮影終了後、落書きコーナーに移動。
世良:アプリ感覚で、顔のパーツの大きさや輪郭などを細かく調整できるのがすごい……! 撮影した画像は白背景だったけれど、後から背景色や柄を付けられるのもいいですね。
そして、「わたウサ」で撮影したプリが完成! このプリ画をもとに、開発チームの海苔さんに「AI歴代バズプリ」を再現していただきます。
海苔威(以下、海苔):お待たせしました! 今撮影した写真を元に、過去のプリ機の写りをAIで変換したので、ぜひ見てみてください。
世良:わ~楽しみ!
海苔:まず、こちらが今「わたウサ」で撮影していただいた最新のプリ画ですね。
世良:たしかにビビットな写りですね。つやっとしていて今っぽい!
海苔:このプリをベースに、平成の人気機種「KATY」、「SUU.」、「LADY BY TOKYO」の機種で撮影した場合の3つの写りを再現していきます。
海苔:まずは、第1弾の「KATY」の写りに変換してみました。こちらは2015年に登場した人気機種で、とくに涙袋や二重幅が強調されて写るのが特徴。当時は黄味肌ブームで今と比べると黄味が強く、肌をきれいにするために、肌の凹凸を抑えたなめらかな質感になっているんですよね。
世良:おお。なんとなく平面的で、ちょっと絵っぽいかも。リップもピンクっぽくなるんですね。
小野:そう、少し二次元っぽさがありますよね。当時はネオンカラーのリップが人気で、輪郭がはっきりわかるくらいしっかりめに塗るのがブームでした。これが、ちょうど10年くらい前の流行り顔ということですね。
海苔:プリの写りはその時代のトレンドをあらわす写りになっています。なので平成時代と今では好まれる写りが根本的に違うんですよね。「AI歴代バズプリ」では、現代の写りをベースに当時の機種の写りの特徴を再現するため、全体の色味やメイク感だけでなく、今の立体感のある写りをあえて平面的にするなどの調整を行っています。
海苔:続いて、こちらは第2弾の「SUU.」です。時代は少し新しくなりますが、2018年に発売した機種ですね。
世良:あ、これ半透明のシールで出てくる機種ですよね! たしか私が高校1年生くらいのときに、めちゃくちゃ流行ってました。
海苔:おお、嬉しいです。この頃から、写りは透明感重視という時代に入ってきました。「SUU.」は透明感を出すために、光の当たり方や加工感の調整などにかなり苦労した機種になります。白くてさらっとした肌質や、髪の毛に天使の輪がきれいに入るのが特徴のプリ機だったので、その辺りの再現に注力しました。
世良:色味も青っぽいですね。たしかに、「SUU.」ってこんな感じだった気がします! ちゃんと再現されていてすごい。
海苔:そして、第3弾が一番古い機種で、2011年に登場した「LADY BY TOKYO」です。
世良:わ~! これは全然違う(笑)。
海苔:「LADY BY TOKYO」は「自然な盛れ感」を提案した機種で、ストロボの陰影でその人ならではの顔の立体感を引き出すことが特徴なんですが、この頃のプリ機は、画像サイズ自体が今よりも小さいから、表現しきれない部分がたくさんあったんです。寄って見てみると、今のものと比べたら画質がめちゃめちゃ粗くて(笑)。その粗さを再現するためにわざと鮮明さなどをなくして、この当時っぽさを出してみました。
世良:メイクの雰囲気にも時代を感じます。今、逆にこういう雰囲気が流行りそうですけどね。
海苔:アイメイクをがっつり濃く出すというのが、平成時代に好まれた写りで。最近のプリは、涙袋のぷっくり感が強めに出るようになっているんですが、当時はとりあえず強い光を当てて肌を綺麗にするという要素が強かったので、どうしても目元の影は消えてしまいますし、あとから足す技術も不十分だったんです。でもアイラインなどのメイクをしっかり出して、強い光で、肌の質感を均一にするというのが、当時は「盛れるプリ」になっていたんです。「盛れる」の定義が今と全然違うんですよね。
世良:へ~! プリを通して、その時代の流行が見えてきて面白いですね。そもそも「AI歴代バズプリ」というイベントは、どんな背景から企画されたものなんですか?
小野:実はAIを使った生成プロジェクトは以前にもあって、「プリを似顔絵にする」というイベントを実施したことがありました。そのときに、メディアさんにも多数取り上げられて、ユーザーさんにも喜んでいただけたので、その知見から今後、よりAIを活用できるんじゃないかと。
小野:また、このイベントとは別で実施した、平成時代に発売した人気機種を限定復活させるというプロモーションも好評だったことがあり、平成レトロブームがユーザーにも浸透しているのだと考え、今回AIと掛け合わせて、昔のプリ機の写りを再現できないかと思ったんです。
世良:なるほど。過去のプリ機にも、きっと根強いファンがいますもんね。
小野:そうなんです。プリ機は発売から5年を経過すると、修理などに必要な部品確保が困難となり、安定的な動作を保証することが困難になるため保守サービスを終了します。そのため、5年以内に市場から撤去されるケースがほとんどです。なので、今はもう世の中にない、お気に入りだったプリ機の写りをAIで再現できれば、話題になるのではないかなと考えて、このイベントを企画しました。
画像生成の技術を活用。地道な検証と確認の末に辿り着いた再現性
世良:こうした過去の人気プリ機の写りを再現するにあたって、具体的にどのようなAI技術が使われているのでしょうか?
海苔:基本的には、「画像生成」と呼ばれるAI技術を用いています。AIには、画像生成をするために膨大な量の画像データを学習した画像生成モデルがあって、そのモデルにテキストで指示を与えると、こちらが望む画像を生成してくれるというイメージですね。もし、「犬のコーギーの写真が欲しい」と指示すれば、架空のコーギーの画像を簡単に生成してくれます。
世良:画像生成、最近よく聞くワードですよね。
海苔:そうですよね。その技術を用いると、たとえば「サングラスをかけたコーギーの写真」といった指示でも、“架空のコーギー”でいいので簡単に生成できます。でも、「うちで飼っているコーギーの写真」は、ベースのモデルが一般的なコーギーしか学習していないから生成できないんですよね。そこで、“うちのコーギー”の情報を新たに学習させたモデルを作成し、ベースのモデルと合体させることで、「うちで飼っているコーギーの写真」も生成できるようになるんです。
「AI歴代バズプリ」ではそれと同様の考え方で、まずは過去に撮られたプリ画を入力して、肌の色味や髪の質感などを学習させることで、専用のモデルを作成します。その専用モデルを通して指示をすることで、今のプリから過去のプリを再現するために必要な情報をコンピューターが自動で考えて、写りを作り上げてくれるという仕組みになっています。
世良:なるほど。特定の概念をコンピューターに学習させるために、実際にその機種で撮ったプリ画が使われているんですね。そうしたデータはどうやって集めたんですか?
海苔:弊社には、社員たちがプリ機の改良のために撮影した膨大な数のプリ画のデータがあるので、それを使用しています。ただ、やはり2011年の機種「LADY BY TOKYO」になると、もう10年以上前の機種なので、社内には今みたいに整った状態でデータが残っていなかったりして。プライベートで撮って手元に残っているものがないか社員に聞きまわって、かき集めました(笑)。
小野:昔の機種になればなるほど、学習に使えるデータ収集が難しいということで、一番古い「LADY BY TOKYO」は特に時間をかけて、リリースしましたね。また、それぞれの写りを再現するまでには、社員からの膨大なフィードバックと、AIのチューニングをしていきました。
海苔:そうですね……。もともとユーザーとしてプリを撮り続けていた社員たちが確認してくれるので、写りに対してものすごい厳しいんですよ(笑)。
世良:皆さんユーザーだったからこそ、見る目がシビアなんですね(笑)。
海苔:さらに、生成AIはものすごく自由なので、それゆえに制御するのもすごく難しいんですね。たとえば、ピースの指が3本になってしまったり、目だけ変えたいのに別の部分も変えてしまったり。あとは、たしかに「LADY BY TOKYO」の写りではあるけれど、全然違う人になってしまったり……。
過去のプリ機の写りに近づけた上で、その人らしさもちゃんと残すということを大切にして、当時のメイク感などを何度も繰り返し検証しては確認していただき、今の写りに辿り着きました。
徹底的なリサーチと技術力で、エンタメをエンジニアリングしていく
世良:想像以上に地道な確認と検証の末に完成したものなんですね。イベント開催中の、ユーザーからの「AI歴代バズプリ」の反響はいかがでしたか?
小野:やはり20代の方を中心に、SNSで「懐かしい」とか「もう一回撮りたい」って言っていただけることがかなり多かったですね。とくに2011年の「LADY BY TOKYO」に関しては、その当時女子高生でユーザーとして撮っていた20代後半の皆さんに、SNSでワーッと拡散いただきました。逆に今10代の方にも、この写りがかなり新鮮に見えたみたいで、“平成プリ”として楽しんでいただけたのかなと思います。
海苔:この生成技術というのはどんどん進化しているので、技術者としてもいろいろ探求しがいのある分野だなと思っています。今回、これだけ過去の写りの再現ができたので、新機種の写りの開発にもこうした技術やデータが活かせないかなと、今検討しているところです。
世良:いいですね。たとえば今、人気のアイドルの顔に近づけるメイクとかも流行っているじゃないですか。そういうのが写りで実現できるプリがあったら流行りそう!
海苔:面白そうですね! 今後の開発の参考にさせていただきます(笑)。
世良:楽しみにしています……! 今後の取り組みとして何か新たに考えていることはありますか?
海苔:フリューは技術とユーザーニーズを大切にしてきた会社です。ですので、最新のテクノロジーやトレンドを踏まえて日々開発を行っています。今年の10月頃には通常のカメラに加えてプロジェクターを採用した新しい体験が楽しめるプリ機が登場します。プリには最新のテクノロジーが詰まっているので、今後も様々なプリ機に注目してほしいですね。
小野:私としてはこのプリという文化が、このまま長く発展していくといいなと思っています。冒頭でお話したように、25年前からメインユーザーは中高生のまま変わっていませんが、今後5年、10年経つと、お孫さんと3世代でプリを楽しんでくださるという方々もどんどん増えていくのかなと。
フリューとしては今後、家族全体の思い出を支えていけるような商品を提供していきたいですし、今まで積み重ねてきた技術の研究を、プリ機以外のエンタメ事業にも発展させていこうとしているところです。女の子の気持ちがわかる、そしてそれを技術的に表現できる、というのが弊社ならではの強みなので、より多くの方々の生活に寄り添っていけたらいいなと思いますね。
世良:何気なく撮影していたプリだけど、技術の素晴らしさや進化を存分に感じられて、すごく面白かったです。本日はありがとうございました!
[聞き手]
世良 マリカ(せらまりか)
神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学2年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、学業にも励んでいる。
【X(旧Twitter)】
https://twitter.com/seramali_jsmn
【Instagram】
https://www.instagram.com/seramali_jsmn/
[プロフィール]
小野実夏(おのみか)
プリントシール機事業部 デザイン・ブランド戦略部
プリ文化の価値向上を目指したプロモーション業務時従事。「AI歴代バズプリ」の他、レトロなデザインをプリで楽しめる「放課後ジェネプリ」など、ユーザーが思わず話題にしたくなるようなコンテンツとプリを掛け合わせた企画を届けている。
海苔威(のりたける)
プリントシール機事業部 マーケティング戦略部 研究開発課
プリ文化の発展のための技術開発研究に従事。商品化に向けた技術提供だけでなく、将来的な観点での研究も行う。「AI歴代バズプリ」では、AI技術に着目した研究を行っていることをきっかけにプロジェクトに参加。技術力とプリへの理解力を発揮し、過去機種の写り再現の実現を担当。
フリュー株式会社
10代から20代の女性をメインターゲットとしたプリントシール機やwebコンテンツなどの事業を行う「ガールズトレンドビジネス」と、人気キャラクターの版権を獲得し、幅広い分野の商品を提供する「世界観ビジネス」を展開する。プリ機メーカーとしての側面もありながら、キャラクターマーチャンダイジング事業やゲームアニメ事業なども手掛けるなど、エンタテイメント領域において幅広くビジネスを展開している。
公式サイト:https://www.furyu.jp/
(文・むらやまあき、写真・Ban Yutaka、編集・高山諒)