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Apple Vision Proで体感!現実世界と仮想世界をミックスしたXRが描く未来像【やさしいテック学】

2024.08.05(最終更新日:2024.08.06)

読了時間目安 19

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フィンテックやフェムテック、アグリテック、エドテック……日々進化し続けるテクノロジーと特定の領域をかけ合わせた、「◯◯テック」。最近よく耳にするけれど、実際、どのような技術が使われていて、なぜ注目されているのか? よくわからないという方も多いのではないでしょうか。

本企画【やさしいテック学】では、現役大学生の世良マリカさんが、気になるテック業界の有識者へインタビューを敢行。目まぐるしく変化するテックについて、学んでいきます。

第11回目は、株式会社STYLY(以下、STYLY)を訪問! VRやARの技術を誰でも簡単に創造・体験できるクリエイティブプラットフォーム「STYLY(スタイリー)」を提供している企業です。

プラットフォームの提供だけでなく、クリエイター育成や共創プロジェクトの取り組みも行ないながら「都市型XRエンターテインメント事業」を推進している同社。2024年6月28日に日本で発売された最新VR技術「Apple Vision Pro」を体験させてもらいながら、VR業界の実体や可能性に迫ります。

誰でも手軽にXR体験。作って体験できるSTYLYのプラットフォーム

今回世良さんが訪れたのは、渋谷区にあるSTYLYのオフィス。歴代のヘッドマウントがずらりと並び、扉を開けた瞬間から「 XRの会社だ!」と分かる佇まいです。

今回はSTYLYでプロデューサーを務める浅見和彦さんにお話を伺っていきます。

▲株式会社STYLY プロデューサー・浅見和彦さん(左)

世良マリカ(以下、世良):早速ですが、「STYLY」というサービスについて教えてください。

浅見和彦(以下、浅見):STYLYは、XR(ここではAR、VRの総称)のクリエイティブプラットフォームです。

AR(拡張現実)とは、スマートフォンのカメラなどを通して現実の世界にデジタルの要素を追加し、仮想的に世界を拡張する技術です。一方、VR(仮想現実)とは、ヘッドセットなどのデバイスを装着して360°の映像を見ることで、仮想の世界をリアルに体験することができるというもの。

私たちの運営するSTYLYでは、このARとVRのコンテンツを無料で作成したり、見て楽しんだりすることができます。プラットフォームとしての機能は大きく次の2つです。

1つ目が、Webブラウザで誰でも簡単に無料でARやVRのコンテンツを作成して配信することができる「STYLY Studio」。

▲「STYLY Studio」でのAR作成画面

2つ目が、STYLY Studioで配信されているコンテンツを見ることができる「STYLY Gallery」です。世界中のクリエイターが作った10万を超えるコンテンツを楽しめる、いわばXRを楽しめるYouTubeみたいなものですね。

▲クリエイターが制作したXRが体験できる「STYLY Gallery」

例えば、このような個人が作った作品を見ることができます。

▲「White Dragon」制作:Tokeidai

ほかにも、企業や自治体によって作られた作品もあります。例えば、「VR京急油壺マリンパーク」は、2021年9月末に閉館した「京急油壺マリンパーク」がバーチャル空間で再構築されたものです。

敷地内にあった水族館「魚の国」と劇場ファンタジアムをスキャンしたモデルが展示されており、当時の水槽の様子やショーの動画を追体験することができます。

▲「Virtual Keikyu Aburatsubo Marine Park」制作:Rojohaku

世良:これが手軽に楽しめるなんて、すごいですね! ブラウザ上でVRやARを作ったり見たりすることができるということは、ヘッドマウントのような特別な機械がなくても良いということですか?

浅見:そうなんです。ヘッドマウントディスプレイだけでなく、Webブラウザやスマートフォンなどのマルチデバイスで体験できるのがサービスの特徴です。それぞれの環境に合わせて、いろいろなXRのコンテンツを楽しんでいただけます。

▲Webブラウザの画面。作品タイトルの下にある「VRで体験」と「ARで体験」が切り替えられる

世良:XRの技術はハードルが高いイメージだったので、ブラウザで簡単にできるのは魅力的ですね。

浅見:先日、小学生向けにワークショップをしたのですが、その場でオリジナルのARコンテンツをサクサク作っていました。それくらい手軽で簡単なんです。今、実際にやってみますね。

最近は実際の街のデータと連動したコンテンツを作れるようにしていて。例えば、渋谷の街に3Dモデルや2Dの静止画、動画などをドラッグアンドドロップで配置をし、「Publish」のボタンを押します。これだけでSTYLY Gallery内にコンテンツが生成され、実際に渋谷へ行ってSTYLY Galleryのアプリを起動してスマートフォンのカメラをかざすと、その場所にデジタルコンテンツが出てくるんです。

▲渋谷の都市テンプレートを活用した「BOSO SCRAMBLE」というプロジェクト(クリックで外部サイトへリンクします)

世良:自分で作った渋谷の街を、実際にその場所に行って見ることができるんですか。

浅見:そうです。現実世界として配置し、見ることができます。「作る」と「見る」の2つの機能が揃っているプラットフォームを提供しているのは、世界中でも弊社だけです。

学びや産業にも広がる、XRのチカラ

世良:XR技術が学校や自治体でも使われているという話を聞いたのですが、実際にどのように使われているのでしょうか?

浅見:例えば学校では、英会話の練習として使われており、「生身の人間だと緊張してしまい上手く話せない」という課題の解消につながっているんです。

また、ARで惑星の大きさを現実世界と比べてスケールを体感するなど、視覚的な学びも教育現場では少しずつ取り入れられてきています。

自治体でもいろいろな用途で使われていますが、弊社がよくご一緒しているのが新潟市です。地方都市は若者の流出が多いので、Webに次ぐ新しい産業として、XRの産業づくりとそれによる地方活性に取り組まれています。

世良:新潟市では具体的にどのような取り組みをしているのですか?

浅見:先ほどお見せした渋谷の街の新潟市バージョンのものを作っています。ただ、そのインフラを整備しただけでは、まだ皆さんは作り方が分からないので、私たちがお手本コンテンツを作ったり、スクールで教えたりしながら、一緒にプロジェクトを進めているような形です。

そこでXRに目覚めて、もっとやりたいという方も多いですし、それを見た他の自治体さんからお声がけをいただくこともあり、好評をいただいています。

▲自治体でのスクールの様子

リアルとバーチャルをミックスする、Apple Vision Proの革命

世良:XRの技術を使ったり広げたりすることの先に、思い描いている社会像はありますか?

浅見:私たちは「空間を身にまとう」時代を作ることをコンセプトに活動をしています。

少し遡りますが、1970年代にソニーがウォークマンを出しました。それまでは家で聞いたり、クラスメイトとみんなで聞いたり、ライブハウスで聞いたりするものだった音楽が、自分だけが聞くものとして持ち運べるようになったんですね。これは「音楽を身にまとう」時代になったからです。同じ場所にいても、聞く音楽によってそれぞれが持つ感情も全く違っているような社会になりました。近年はスマートフォンを一人一人が持ち歩くようになりましたが、これは「情報を身にまとう」時代になっています。

そして、次に訪れるのが、「空間を身にまとう」時代だと私は考えています。それはXRによって、それぞれが見ている世界や空間が異なるような社会です。例えば、同じ空間にいても世良さんにはこのキャラクターが見えていて、私には違うキャラクターが見えている。こんなふうに、それぞれが空間を身にまとう社会に向けて、私たちは活動しているのです。

世良:同じ場所にいても空間が違う……。どんな感覚なのか、なかなか想像がつきません。

浅見:そうですよね。では是非、世良さんも体験してみましょう。これはXR業界に革命を起こした、「Apple Vision Pro」です。

世良:すごい!初めて使います。

浅見:親指と人差し指でつまんで操作して、このアイコンを選択してみてください。

世良:わあ、クジラが出てきました!

浅見:今度は、左手を少し上げてみてください。

世良:時計ですね!すごい、本当にリアルの空間にあるみたいです。さっきチョウが出てきたのですが、あまりに綺麗すぎて少しびっくりしちゃいました。

浅見:解像度が片目で4Kずつあるので、すごくリアルで綺麗なんですよね。影もちゃんと落ちて、自然光も反映されるので、クジラやチョウのような3Dオブジェクトを置いた時も実在感がすごいんですよ。現実と区別がつかないようなレベルまできています。

世良:先ほど、「XR業界に革命を起こした」とおっしゃっていましたが、このApple Vision Proの技術力の高さが感じられますね。

浅見:映像の綺麗さや優れた技術が、これまでのデバイスとは一線を画し、XR界に革新をもたらしたんですよね。それに加えて、私が素晴らしいと感じたのが、周囲の人とのコミュニケーションを想定した設計です。このApple Vision Proには外側にカメラが付いているのですが、実は内側にもついているんです。どういうことかというと、装着している方の目が外側のディスプレイに映るんですよ。

例えば、今までのヘッドマウントを被っている人がいると、なかなか話しかけにくいと思いませんか?でも、このApple Vision Proは装着している方の目が外の人から見えることによって、話しかけやすくなったんです。装着している間のコミュニケーションまで考えて組み込んできたところは、さすがだなと思いましたね。

また、これまでは「テックに詳しいギークな人たちが使うものでしょ」と言われてきたヘッドマウント型のXR機器が、Apple Vision Proが登場したことにより、社会に普及する流れが出来てきていたと思うんです。そういう期待もこもった、まさに革命的な商品が登場したんです。

XRの普及で変わる、私たちのライフスタイル

世良:XRが普及していくと、生活の中のどんな部分がこれから変わっていくのでしょうか?

浅見:身近なところで言うと、例えば部屋の内装ですね。「今日はこういう壁紙にしよう」とか「好きなブランドに囲まれたオフィスにしよう」とか。あとは街中でも、自分好みに建物をラッピングするとか。そういう使われ方は今後増えていくと思います。

そういう世界のイメージに近いものが、Keiichi Matsudaさんのコンセプトムービー「Consequences of Augmented Reality for Architecture and Urbanism」です。例えば、スーパーで商品を手に取ると、その商品の周りにARの広告が流れたり、手元には買い物リストが表示されていたり。こんな世界がいつか来るのではないかと考えています。

(クリックで外部サイトへリンクします)

世良:ということは、いずれ一人1台でヘッドマウントなどを持つようになる時代が来るということですか。

浅見:そう思っています。でも、もっと小さくなったり、眼鏡型になったり。私たちはコンタクトレンズまで行くんじゃないかと思っていますね。

世良:それって、いつ頃になるんでしょう。結構先の未来なんでしょうか。

浅見:一般的には、2027年~2030年くらいだと言われていますね。実はそんなに遠くないんですよ。

世良:近いですね! でも、こうしたXRの機器は、高価でなかなか買えないイメージがあります。

浅見:そうですね。Apple Vision proは今は55万円ほどします(2024年6月現在)。2024年2月にアメリカでの発売開始から4か月、ついに日本でも発売が始まりました。今後さらに普及していけば価格も下がるかもしれませんし、その第一歩ですね。

相乗効果で感覚を広げたい。XRが持つ可能性とこれから

世良:コロナ禍など、ここ数年で世界ではさまざまな変化がありましたが、XR業界は近年どのように変化しているのですか?

浅見:コロナ直前くらいからVRが少しずつ話題になってきていたのですが、コロナ禍によってオンラインでの学習や打ち合わせが当たり前になり、次はVRがくるんじゃないかと一気に注目度が上がりました。

私たちはそのときに「絶対街に人は戻ってくる」と逆張りして、現実世界で体験できるARに注力していましたが、 狙い通り、それから数年たった今、最近はARの施策を増やしていこうという機運が高まってきています。というのも、コロナ禍が落ち着いたこともあり、「その場所でしか体験できないこと」の価値が高まってきているんです。

商業施設も自治体も自分たちの場所に来てもらいたいので、そこにARを掛け合わせていこうという動きが増えてきている感じがしますね。

世良:なるほど。リアルにARを掛け合わせることで相乗効果を生み出す、といったイメージですね。

浅見:「家から一歩も出ずに、VR空間上で同じライブハウスに行って、同じミュージシャンのライブを観れるようになればいいじゃん」という人が多いんですが、私たちはそうは思っていません。

逆に、このヘッドマウントをつけてライブ会場に行くんですよ。それで、会場へ実際に足を運んでヘッドマウントをつけるからこそ楽しめる演出があるという。これまでになかったような楽しみ方が増えたり、その場にいる人と共有できる感覚をさらに広げてくれたりするような存在だと思っています。

世良:確かに、アーティストのライブは特に幅が広がりそうですね。リアルな場面でどう使えるのか気になります。これまでにそれが実現したプロジェクトがあれば知りたいです!

浅見:例えば、VTuberのキズナアイちゃんの声から生まれた「#kzn(キズナ)」 とコラボレーションし、渋谷のスクランブル交差点をライブステージに見立てたXRライブをスマートフォンで見られるようにしたプロジェクトですね。


JACKSON kakiさんなどのクリエイターとも一緒に空間演出を作り、XRで表現の幅を広げながらkznちゃんを魅せるという、XRの可能性を体現した取り組みでした。

参考:https://www.youtube.com/watch?v=mNigPBt9G1g (クリックで外部サイトへリンクします)

世良:すごい! キズナアイさんが渋谷でライブをしていて、バーチャルとリアルの融合を感じます。今後が楽しみになってきました。

浅見:やはり、「空間を身にまとう」時代になってくれればいいなと思いますね。そして私達としては、そういった「空間を身にまとう」ことが当たり前になった時に、「STYLY」を文化的な活動と経済的な活動、両方の土台にしていたいです。それを目指して、クリエイターの育成もずっと続けているので、いろいろなクリエイターたちがXRの世界に羽ばたいていってほしいと思います。

〈Profile〉

[聞き手]
世良マリカ(せらまりか)

神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学3年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、関心を持ち、学業にも励んでいる。

【X】
https://twitter.com/seramali_jsmn

【Instagram】
https://www.instagram.com/seramali_jsmn/

[話し手]
浅見 和彦(あさみ かずひこ)
2018年にSTYLY、パルコ、ロフトワークのクリエイター発掘・育成プロジェクト「NEWVIEW(ニュービュー)」の立ち上げや運営に携わり、21年に株式会社STYLYにプロデューサーとして入社。「NIIGATA XR PROJECT」を始めとして、STYLYを活用したプロジェクトデザインからマネジメントまでプロデュース業務を幅広く担当している。
STYLY公式サイト:https://styly.inc/ja/

(文・安藤憧果、写真・飯山福子、編集・高山諒)