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医療ICTの現状や課題を知って、今後について考えよう

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2022.05.17(最終更新日:2022.09.15)

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通信技術の発達や少子高齢化による人手不足の影響により医療ICT(情報通信技術)の普及促進が進んでいますが、解決しなければならない課題も残されています。
日本政府では厚生労働省や総務省が自治体、医療現場や介護現場などとの連携によって、医療ICTの普及促進に向けたさまざまな取り組みを行っています。
そこで今回は、日本の医療ICTの現状と課題について紹介します。

医療ICTに関する基礎知識

ICTとは、「Information and Communication Technology」の略称であり、情報通信技術を活用したコミュニケーションのことです。
医療現場において情報通信技術を活用したコミュニケーションは、医療ICTやスマート医療と呼ばれています。
医療ICTの事例としては、電子カルテや電子処方せん、電子お薬手帳、オンライン診療などがあります。

医療ICTのメリットや将来性についての詳細は、下記関連記事をご覧下さい。
/article/medtech/1/

医療ICTの現状を分かりやすく解説

まずは、医療ICTにおける日本の取り組みの現状や、普及状況について解説します。

電子カルテ

電子カルテとは、これまで紙で運用していたカルテを、パソコンやタブレットで入力・閲覧ができるよう電子化したものです。
カルテを電子化することで、患者の過去の診察記録や検査結果、画像情報が簡単に確認できるようになるだけでなく、外部の医療機関ともスムーズに連携ができるようになります。
医療ICTの代表的な存在でもある電子カルテは、厚生労働省が主導して導入を促進してきました。
その結果、病床数400床以上の大規模病院の電子カルテ普及率は、2017年に85.4%に達しています。
病院の規模が大きくなるほど電子カルテの導入が進んでいる傾向にありますが、400床以下の病院や診療所を含めても、2017年の電子カルテ普及率は46.7%と順調に普及が進んでいることがうかがえます。

地域医療ネットワークの構築

医療ICTにより、地域の病院や診療所、薬局などの医療機関が連携して患者のカルテを電子化し、保存された電子データの共有・閲覧ができる医療情報連携ネットワークが構築されるようになりました。
現在、さまざまな地域で医療情報連携ネットワークの実証事業が進められています。
例えば長崎県では、県全域における医療機能の分担や診療の質の向上を目的とした「あじさいネット」を展開しています。
長野県では、山や川が多く交通が不便な地域に住む患者の通院負担軽減を目的とした「信州メディカルネットワーク」を進めています。

電子版お薬手帳

医療ICTによって電子版お薬手帳の普及促進が進んでいます。お薬手帳は、医療機関で医師や薬剤師に提示することで、薬の重複を防いだり、飲み合わせの悪い薬を避けたりする役割がありますが、電子版お薬手帳はそれ以外にもスマートフォンなどに服用歴を保存することもできます。

そのため、受診時にお薬手帳の持参のし忘れを防ぐことができ、長期に渡る薬の服用歴の管理ができるといったメリットもあります。また、緊急時や災害時における活用も期待されています。

しかし、電子版お薬手帳の普及率はまだ高いとは言えないのが現状です。2019年に厚生労働省が公表したアンケート調査結果によると、電子版お薬手帳に対応した薬局は全体の約48.1%と、半数以下であることが明らかになっています。
厚生労働省では、電子版お薬手帳の普及促進に向けた取り組みとして、電子処方せんとの連携の必要性やメリットを伝えるとともに、運用ガイドラインの整備を進めています。

医療ICTの推進に向けた現状の課題

医療機関におけるICT化は、新型コロナウイルスの影響で急速に加速してはいるものの、さまざまな側面で課題があります。
ここからは、医療ICTの推進に向けた現状の課題について解説します。

ICT人材の不足

医療ICTの普及促進に向けた現状の課題として、ICT人材の不足が挙げられます。
医療機関でICTの導入を進めるためには、医療とICTの両分野に精通した人材の投入が不可欠です。
しかし、医療機関・システムメーカー双方において、医療分野でICTを有効活用できる技術と知識を有する方は未だに少なく、多くの医療機関ではICTの導入をマネジメントできる情報管理者が存在していません。
そのため、医療機関で新たな医療ICTを導入しても、医療ニーズに合わせた効率的なシステム運用が実現できるとは限らない点が現状の大きな課題とされています。

統合型医療情報システムの普及促進

統合型医療情報システムとは、医師の指示や患者の診療情報などをリアルタイムかつ正確に共有し、業務の効率化を実現するシステムです。

医療機関や地域医療における統合型医療情報システムの普及促進には、個々のシステムの電子化が必要です。
しかし、多くの医療機関では、段階的にシステムの導入や増設が行われているため、データ統合が不十分であったり、ユーザーインターフェース(機器やソフトウェアの操作画面・方法)が統一されていなかったりと課題が多いのが現状です。
さらに、病院内でのシステム連携ができていないと、情報共有や各種診療データの分析にも支障をきたしてしまいます。
そのため、統合型医療情報システムの普及促進を行うためには、異なるメーカー間でもシステムの互換性を確保できる標準マスターなどの採用、統合に伴う業務フローやシステム構成の見直しが課題と言えるでしょう。また、2004年の経済産業省の報告によると、400床未満の医療機関の医療ICT初期導入費用は約3億円、400床以上の医療機関では約7.5億円、さらに保守などのランニングコストがかかっています。

医療機関のなかでも、小さな病院や診療所では電子カルテやオーダリングシステムなどの導入率が低い傾向にあり、厳しい財務状況のなかで医療ICTの導入にかかるコスト負担が医療ICTの導入を妨げる要因となっています。

在宅医療の普及促進

在宅医療においても医療ICTの普及促進が行われていますが、生涯を通じた健康管理や予防医療の実現に向けても、現状ではさまざまな課題があります。
例えば、家庭で使用している健康医療機器については、医療機関などで使用している健康医療機器などとの互換性が確保されておらず、データが連携できない可能性が問題視されています。
患者の情報を適切に共有できなければ、医療機関や介護施設、薬局などと連携を図ることは難しくなるでしょう。
在宅医療の普及促進には、必要なときに必要な医療を受けられる体制の構築が必要となるため、医療ICTによる患者の病歴・診療データなどの各種機関での連携が不可欠です。また、災害・緊急時において医療機関への早期搬送を実現するためには、地域内の空床情報や専門医師の宿直状況を医療機関や救急・消防隊、行政機関などのさまざまな関係者がリアルタイムで瞬時に情報共有できるデータサーバやネットワークを構築・運用しなければないことも課題となります。さらに、災害・緊急時の医療では扱う情報がプライバシーに関わるものであるため、プライバシーの配慮やセキュリティ対策も必要と言えるでしょう。

医療ICTの今後、課題解決に向けた取り組み

厚生労働省や総務省では、住み慣れた地域で安心して質の高い医療サービスを受けられる社会を目指して、医療ICTを活用したさまざまな実証事業や調査研究、情報発信などの取り組みを行っています。
例えば、通院が困難な患者に対し、ビデオ通話を使用したオンライン診療を移動診療車で提供するモバイルクリニック事業(長野県伊那市)や、自動運転車を活用して車内で心拍数などの計測や、病院をつないだデジタル問診を体験できる「ヘルスケアMaaS」の実証実験(神奈川県藤沢市)など、医療ICTとMaaS(※)を掛け合わせた地域課題の解決につなげる取り組みも行われています。
医療ICTの普及促進には課題もあるものの、MaaSをはじめさまざまなサービスと連携することで、課題を解決していこうという動きも見られています。医療ICTの動向について、今後もぜひ注目していきましょう。

※MaaS…「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の略称。一人ひとりの移動ニーズに対応して、複数の公共交通機関やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせ、検索・予約・決済などを一括で行うことができるサービス。

医療ICTの現状や課題を理解することから始めてみよう

今回は、日本の医療ICTの現状と課題について紹介しました。

住み慣れた場所で質の良い医療サービスを受けることができる社会を実現するためにも、私たち一人ひとりが医療ICTの現状や課題を理解し、まずは電子版のお薬手帳を利用するなど気軽に始めてみてはいかがでしょうか。