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スポーツから教育・医療へ躍進。固定概念を覆すSPLYZAの挑戦

2024.11.21(最終更新日:2024.11.21)

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「もっと上手くなりたい」。スポーツの経験者であれば誰しも一度は思ったことがあるだろう。スポーツという答えのない世界で必要なのは、自分で分析し、考え、試行錯誤を重ねることだ。今回お話を伺った株式会社SPLYZA(スプライザ)は、そうした試行錯誤をサポートし、上達を実現させるツール「SPLYZA Teams」と「SPLYZA Motion」を展開している。世界的に見てほかにない技術を独自で開発し、それがさらに医療などでも使われ、ますます発展していくSPLYZA。これまでの軌跡とこれからの展望について、代表取締役社長の土井さんに伺った。

スポーツ、教育、ヘルスケア。活躍する独自の技術

――はじめに、御社の事業について教えてください。

映像解析や画像認識の技術を強みに、アマチュアスポーツマンの「上手くなりたい」を叶えるための支援をするアプリケーションを開発しています。主軸となっているサービスが、課題発見から課題解決までを主体的に行うための映像振り返りツール「SPLYZA Teams」と、カメラ1台でAIによる3D動作解析が可能なモーションキャプチャアプリ「SPLYZA Motion」です。

3年ほど前からはスポーツだけでなく体育や総合学習の授業などでも使われ始め、SPLYZA Motionの技術は2023年末から医療機関などにも採用していただいています。

――それぞれの特徴や強みを教えてください。

SPLYZA Teamsには、一人ひとりの考える力を伸ばし、かつチームの共通理解を高めるための10の機能が備わっています。例えば、映像に矢印や曲線、テキストを書き込む機能やシーンにタグをつける機能、コメント機能、プレーを分析する機能などです。一つの映像を通じてチームみんなでコミュニケーションを取り、選手自ら「課題発見」から「課題解決」までを行うことができるのが特徴です。

▲映像に書き込むことで、プレーを言語化し、共有することを可能にしている
▲プレーを集計してくれる。Excelにエクスポートすることも可能で継続的な分析を支援

動作解析をするSPLYZA Motionの大きな特徴が、「脊椎や骨盤の可視化」と「3次元認識」の2つです。

1つ目の「脊椎や骨盤の可視化」は、運動の上手さを可視化するに当たってどうしても必要だと思い、技術的なハードルが高かったもののなんとか実現しました。

運動が上手か下手かを、「バネがある」「しなやか」や「ぎこちない」「動きが硬い」などと表現することがありますよね。これは、体の柔軟性のことではなく、胴体の使い方の上手さを示しています。だから、上手い人は胴体がすごく柔軟に動いているのに対して、下手な人は動いていない。上手くなるためには、胴体の動き、ひいては脊椎や骨盤の動きが重要ではないかと思いました。

そこで、脊椎や骨盤を可視化したいと考えたのですが、従来のモーションキャプチャーの技術のほとんどが、胴体を真四角にして真ん中に1本の線を引いているだけなんですね。それでは脊椎の動きが分からず、胴体の柔軟性も分かりません。そこで脊椎をみえるような技術を実現したのが画期的なポイントの一つです。

2つ目の「3次元認識」については、従来のモーションキャプチャーの技術は基本的に2次元認識なんです。そこで、1台のカメラだけで3次元の奥行きのある立体的なデータとして認識できるような独自のアルゴリズムの開発に成功しました。これは世界的に見てもなかなかない技術なんです。

▲静止している様子
▲バドミントンの素振りをしている様子

――ヘルスケアにも使われているというお話がありましたが、どのように活用されているのでしょうか?

ヘルスケアに関しては、まさにこの脊椎の認識技術がきっかけとなりました。この技術を医療現場で求められる精度まで高めるため、2023年の末から京都大学医学部と共同研究開発を実施しました。

2024年9月現在で教育機関や医療系施設など約100施設で導入。脊椎や骨盤という胴体の軸となるところを可視化でき、3次元の情報として身体のねじれも可視化できるので、整形外科やリハビリ、高齢者のフレイル予防(※1)などでの活用が始まっています。ほかにも様々な大学や医療機関が興味を持ち始めてくださっていて、ヘルスケアとしてどこまで活用でき、精度があげられるかの研究が進んでいるところです。

※1:健康な状態と要介護状態のあいだの段階のこと。例えば、歩く際にスピードが遅くなったりフラフラしたりする。

毎日わくわくしたい。起業を決めたきっかけ

――もともとはエンジニアをされていたという土井さんが起業に至った経緯を教えてください。

起業にあたって大きな転機となったのが、26歳の時にウインドサーフィンにはまったことでした。地元でない浜松で就職し、休日に暇を持て余していた僕を見て、会社の同僚が連れて行ってくれたんです。試しにやってみたら、面白いのかと疑うほど難しくて。でも、プロの動画を見てみると、風の力だけで海の上を縦横無尽に動いていて自然とシンクロしているようで、ものすごいスポーツなんだと知ってハマり始めました。

僕はフリースタイルという種目をしていて、トリック技を習得するのに、どうやったら風の力で回転できるか、自分で仮説を立てて検証しながら練習していました。そうして、半年ほどたってようやく最初の大きな技ができるようになったんです。その時、今までに感じたことのない衝撃が走ったのを覚えています。それまで、一歩も前進していないような日々の繰り返しで先行きが全く見えなかったので、とにかく嬉しくて雄叫びをあげて喜びましたね。その時に初めて、スポーツってこんなにわくわくするものなんだと知りました。

ただ、そこまでの経験をしてしまうと、楽しんでいたはずの仕事でもギャップが大きく、平日がつまらなく感じられるようになってしまって。ウィンドサーフィンは天候や風によってできる日が限られるので、毎日天気予報をチェックして、できると分かればわくわくして前日は寝られない。日曜にはもう来週の予報を見て、また長い平日を過ごすような日々でした。これって、僕の人生が1週間の連続だとしたら、最長で土日の両日わくわくしても、残りの5日間はしないじゃないですか。そうでなく、残りの5日もわくわくするものにしたいと思ったんですよね。

でも、仕事でウィンドサーフィンと同じくらいわくわくできるイメージがわかなくて。もう毎日ウインドサーフィンをするしかないんじゃないかと、メッカであるオーストラリアの西海岸に行くことを決めました。29歳でワーキングホリデービザを取得して、現地ではウィンドサーフィンの道具が置いてある家にダメ元で飛び込んでホームステイをさせてもらい、憧れの生活が始まりました。

▲土井寛之さん

でも、1~2週間ウインドサーフィンをしていたら「意外と面白くないな」と思い始めたんですよ。考えてみると、僕はウインドサーフィンをすることだけじゃなくて、目標を共有した仲間とそこに向かっていくプロセスが好きだったんです。そこに「スポーツ」も「ウィンドサーフィン」も必須じゃなかったんですね。

それなら、気の合う仲間を集めてやりたいことを決めてお金を稼いだら、ウインドサーフィンと同じぐらいわくわくするかもしれないと思ったのが起業しようと思ったきっかけです。

ただ、当時はまだ来て1ヶ月ほどでしたし、英語も喋れるようになりたかったので、最初の4ヶ月はウインドサーフィンを満喫。その後は西オーストラリアのパースという都市で旅行代理店と日本語授業のアシスタントといった仕事をして、1年後に浜松へ戻ってきました。

でも、当時は所持金が1万円しかなく、会社の設立以前に生活ができなかったので、まずは日雇いバイトを1ヶ月してから名古屋の会社に就職しました。ただ、お金を貯めようと働き始めたは良いものの、また以前のように仲間とウインドサーフィンがしたくなり、のめりこんでしまって。起業したいんだよな、と思いながらも毎週のように出かけていました。

そして半年ほど経ったある日、当時乗っていた車が盗まれてしまったんです。そこにはウインドサーフィンの道具が丸ごと入っていたので、移動手段もウインドサーフィンの道具も全てなくなってしまいました。働き始めで貯金もなく、またウインドサーフィンを始めることも難しかったので、そこでようやくスイッチが入って起業に踏み切りました。

――そこからアマチュアスポーツに関する事業にたどり着いたのは、どういった経緯だったのでしょうか?

創業メンバーはみんなスポーツ好きだったので、最初にみんなで100個ほどアイデアを出し合ったところ、スポーツのアイディアが一番盛り上がったんですよね。それならスポーツでやってみようと満場一致で決まりました。

そうして最初にできたのが「Spoch(スポック)」という、動画を投稿してアドバイスし合える、SNSのようなサービスでした。でも、これが大失敗しまして。3年もかけて作ったのに、誰からも使われることなくサービス終了したんですよ。開発に時間をかけすぎたのと、ただ単に自分たちが欲しいものを作っただけだったのが失敗の要因でした。

その後、反省を生かして2ヶ月で開発し、2つ目と3つ目のサービスをほぼ同時にリリースしましたが、マーケティングを何もしなかったのでこれも失敗しまして。ここで、一旦開発するのをやめようと思いましたね。

――そこからどのようにしてSPLYZA Teamsの開発に至ったのでしょうか。

Spochをリリースした時、1ヶ月間とにかく調べて、大学や部活へのメールや掲示板へサービス案内の書き込みをひたすらしたんですよ。全部やりきったと思ったんですが、実際にアカウントを作ってくれたのは2人だけ。その時、知ってもらうのは本当に難しいことなんだと実感したのが忘れられなかったんですね。

だから、まずは開発することよりも、とにかく知ってもらうための基盤作りが必要だと思ったんです。それに、僕らはプロスポーツ選手でもなければ、スポーツの指導をしていたわけでもなく、スポーツのコネクションがない。そこで、直接スポーツ関係者に会って人脈を広げていこうと、毎週東京に行きスポーツ関係の交流会イベントに参加して3年で3,000人に会いました。そうしてスポーツ関係の人脈が広がってきてようやく、会社やサービスを知ってもらうための基盤ができてきたんですよね。

そこで、Spochのチラシを会う人みんなに見せていたら「個人じゃなくてチームの中で使えるものにしてくれたら使いたい」という声が結構あったんですよ。それで作り変えたのがSPLYZA Teamsです。

――最初は上手くいかなかったSpochを起点としているのですね。SPLYZA Teamsはどんなところが支持されたと考えますか?

実は、SPLYZA Teamsも最初はうまくいかなかったんです。ベータ版のリリースとして当初は完全無料にしていて、正式リリースで月契約のサブスクリプション型に切り替えることにしていました。当時、KDDI株式会社のアクセラレータープログラムに採択されたのをきっかけに約150チームが無料登録をしてくれていたので、どれくらい契約してくれるかドキドキしていました。

そして正式リリースをしたところ、契約してくれたのはたったの5チーム。最初に登録していた150チームは全て、それまでの3年間で2~3回は直接会っていた人だったので、これでもだめなのかと絶望しましたね。

ただ、契約してくれた人たちを見てみると、5チーム中4チームが高校部活動。そして5チーム中3チームがサッカーだったんですよ。最初は、どんなスポーツや年代でも使えるようなサービスにしていたのですが、結局お金を払ってくれたのは高校のサッカー部だった。それなら、その人たちだけのために全て作り直そうと思ったんです。クリエイティブは全てサッカーに寄せ、サッカーに不要な機能も全部はずし、これならいけるだろうと意気揚揚と高校のサッカー部の先生方に営業しに行ったんですよね。

しかし、そこで言われたのが「忙しすぎてこれ以上何かできない」と。当時、スポーツの分析は、コーチがしてアドバイスをするのが常識だったんですよね。だから当然そういう作りにしていたし、僕もそう説明していたんです。これもだめかと。これ以上何ができるかと考えてみたところ、最後のアイデアで思いついたのが、生徒たちが自ら分析する方法でした。

ただその時思ったのは、なにより自分自身が、指導者がいない中で仮説検証して課題解決してきたし、自分で考えて試したからこそ上手くできた時に感動するという経験をしてきていたんですよね。それに、スポーツ経験が全くない僕が26歳でできたんだから、高校生にもできるという確信がありました。

そこで、生徒たちが使えるよう、それまでは指導者1人が編集する想定で作っていたものを、複数人の生徒が同時に編集できるように作り変えました。それがすごく受けたんですよ。しかも、当時は1人1台タブレットやパソコンを持って子どもが自分でアクティブラーニングをする教育の流れもあって、時代に合っていることからも徐々に広まり始めました。

加えて、コロナ禍によってもその流れが前倒しになりました。オンライン授業の流れが進む中で、体育の授業も対面での運動だけでなく、スポーツサイエンスもしていこうという動きがあったんですね。それによって、小中学生の体育の授業でも使っていただけるようになりました。

そして、それと同時に「個人向けのツールも欲しい」という相談が増えてきまして。もともとSPLYZA Teamsは球技が得意なので、チームスポーツ向けなんです。それが個人種目でも使えるようにと作られたのがSPLYZA Motionなんです。

スポーツは教育的な価値のあるもの。概念を覆す挑戦

――スポーツ関連の事業って、マネタイズが難しそうなイメージがあります。その点に関して、どのように考えていますか?

確かに難しいです。ただ、アマチュアスポーツって一般消費者向けのスポーツじゃないですか。つまり、ターゲットが何億人といるので、プロスポーツより市場が大きいんですよね。そういう意味では、イメージするような難しさとは違うかもしれません。ただ、ビジネスの構造という部分では難しくて。

僕たちが注力している高校部活動は、お金を出しているのは保護者です。だから、部活の先生や生徒はもちろんですが、保護者にも良いと思ってもらえないといけないんですよね。ただ、小学生の場合は子どもがやりたいことへの出費は教育の一環として“投資”。でも、高校生になると、教育の枠から外れて“消費”になってくるんですよ。

でも、スポーツはすごく価値のあるものです。よく言われるのは「根性」や「礼儀」ですが、それだけでなく、スポーツという正解のない問題を解くことは「考える力」を養ってくれると思うんです。今まさに学校教育で使われているのも、その証明だと思います。

しかも、それは社会に出てからも必ず活きますし、社会に出てから初めて正解がない問題に取り組むのでは、失敗した時のお金と時間のリスクが大きい。だからこそ、それを子どものうちにしておくことに意味があります。

だから、僕たちは「スポーツは考える力を育む」というメッセージを掲げて、そのコンセプトをサービスの中にも取り入れています。保護者からの「これが将来役に立つのか」という厳しい目線にさらされるので、スポーツによる教育としての価値を伝え、概念を覆していきたいです。

――今後の展望や目標を教えてください。

今はまだ教育の方が主軸になっているので、ヘルスケア領域においても世の中で広く使ってもらえるようなサービスへとバージョンアップさせていきたいです。

また、日本だけでなく海外でも使ってもらえるようにしたいと考えています。当社はアメリカ人の役員をはじめとし、メンバーの3分の1以上が外国人です。多国籍な会社であることを活かしていきたいと思っています。

加えて、SPLYZA Motionの特徴である「脊椎の可視化」と「3次元認識」をさらに発展させていきたいです。以前、世界最大のバイオメカニクスの学会である国際バイオメカニクス学会で先生方に話を聞いたのですが、こうした技術はほかにまだないそうです。あっても全部CGアニメーション向けの3Dモーションキャプチャーなんですよ。当社は解剖学的な領域で挑戦をしているので、技術の目的が違うんですね。スポーツや医療という舞台で技術を活かし、トップランナーを目指して走っていきたいと思います。


[プロフィール]
土井寛之
株式会社SPLYZA 代表取締役社長
兵庫県神戸市出身。元ソフトエンジニア。人生のテーマは「7分の7ワクワクする日々」。
社会人3年目にウィンドサーフィンと出会い、その情熱から単身オーストラリアに渡る。日本帰国後「アマチュアスポーツマンの『もっと上手くなりたい』を叶える」という理念で起業を決意し、映像を活用した「ITxスポーツ」のサービスを実現するため、2011年に株式会社SPLYZAを創業。



【文:安藤憧果、写真:秋山愛子(花渕浩二写真事務所)、編集:高山諒】