それぞれの機能に特化したハローファミリーシリーズ
現在「ハローファミリー」のデバイスは4つ。まず、丸い手のひらサイズのデバイスは「はろぽち」。形と名前の通り、ポチッと押せるボタンになっており「手洗いうがい」や「宿題」など目的を設定し、それを押すと通知が来ます。
画面がついたこちらは「はろもに」。カメラとマイクが内蔵されていて、ここから親のスマホへ音声を送ったり、親の居場所を確認できるのだそう。スマホを持たない子どもとの連絡ツールや、お留守番中の子どもの不安を軽減できそうです。ゲートウェイなど他の機器はが不要※で、Wi-Fiがあれば繋げられるのもポイントです。
※スマートフォンに登録したスポット内にいる場合、そのスポットにいることが画面内に表示されます。
丸っこい四角型の「はろここ」は子ども用のGPS。持っているだけで現在地や移動経路がわかり、アプリ上でよく行く場所を登録しておくと、到着したときに通知が来るよう設定できます。真ん中のボタンを押すと、親へ現在地を共有できる機能も。
さらに小さい丸型の「はろたぐ」は「はろここ」とセットで使用し、大事な持ち物を管理できます。水筒やお財布などに付けておくと、スマホ上で子どもが忘れ物をしていないか確認できます。
そして紹介したすべてのデバイスをスマホアプリ「ハロファミアプリ」で管理でき、メッセージ交換やスケジュール管理なども一括して確認できます。
ハローファミリーの製品はどれも、機能がシンプルかつ端的。難しい設定などは必要なく、子どもが持ち運びやすいサイズ感なのが印象的でした。でも、わざわざここまで機能を絞ったのは、なぜなのでしょう。開発背景やコンセプトについて、さらに詳しくお伺いしていきます。
親の都合に左右されず、自由な放課後を過ごしてほしい
――プロダクトのご紹介、ありがとうございます。ハローファミリーシリーズの開発の背景を教えてください。
最初は「おはよう」「宿題できたよ」「ごはん食べたよ」とか、些細なコミュニケーションを取れるデバイスってできないかな?という疑問から始まりました。
というのも、共働きで子育てをしていると、学校から帰ってきた子どもを毎日は見守れません。だから帰宅して子どもがテレビを観ていると「宿題やってないでしょ」と先に決めつけてしまう。それだけで、子どもは会話する気が失せちゃうじゃないですか。
あるいは「留守番していて」「学童へ行って」と行動を制限してしまうこともある。私の場合は、一人目が小学校に上がったときは本当に余裕がなくて、自発的に「やりたい!」と言った習い事や興味に付き合ってあげられなくて。
でも子どもにとって、放課後は自由に過ごすための大切な時間。親の都合に左右されず、何がしたいかを自分で考えて、決めることはすごく重要だと思うんです。だから「離れていてもコミュニケーションできる形ってどうあるべきかな」と話す中で「『何かできたらボタンを押し、通知が来る』みたいなデバイスであればいいんじゃないか」みたいなアイデアから出発しました。
――ハローファミリーには「家族の“いま”は、もっとつながる」というコンセプトがありますね。どんな意味が込められているんでしょうか。
今の感情・今の思いを抽出できるデバイスにしたかったこともあり、このコピーが生まれました。ついつい「先のことを考えて行動しなさい」と言いがちですが、子どもたちには「今」しか見えてませんから(笑)。行動の見通しをつけることって、成長過程で身につけていく術ですし。
ハード面の形・機能についても、子どもが続けることに無理が出ない、かつワンアクションでコミュニケーションを取れるようこだわりました。促されるのではなく、能動的に自分からやることを前提にしています。子どもも大人も関係なく、フェアでありたくて。
フェアである上で重要なのは、一方的に親が子どもを監視・管理するのではなくて、親子の接点を作ることが見守りになること。離れていても簡単な動作でコミュニケーションを取ることができ、それが見守りに繋がる商品を考えていました。
――ということは、子どもから親にも連絡が取れたり、位置情報が見れるんですか?
そうなんです。「はろもに」から親の現在地が分かるんですよ。 普通は、子どもの居場所を親が一方的に知るだけが多いですが、子どもも親の居場所が分かることも、安心にも繋がると考えています。
「持ちたい」と愛着が持てるような色・形を3Dプリンターで模索
――かわいらしい丸っこいフォルムやカラーリングには、どんなこだわりが?
「“持たされているもの”ではなく、愛着を持ってもらうには、どんな要素が必要なんだろう?」とすごく考えましたね。自然な動作ででき、子どもが面倒に感じないアクションも考えて。
開発の初めから意識していたのは、家電みたいに見えないようなビジュアルとカラーです。なるべくインテリアに馴染むようなカラーリングを探し、置いておきやすさを考えました。
あとは、なるべく持ちたくなる、触りたくなるものにすれば、子ども自身が毎日使いたくなる要因になるんじゃないかと。なので「はろもに」は、お椀みたいな手に持ちたくなる形をしているんです。また「はろここ」はカバーケースを何種類か作り、子どもが好きな柄を選べるようにしました。
とはいえ、この中には基盤と電池が入らないといけないので「使いやすさ」だけではデザインが決まりません。社内の3Dプリンターでプロトタイプを作っては、子どもたちに使ってもらって、感想を聞いて、また形変えて…という形で何度もブラッシュアップして。自分の子どもたちにも使ってもらって話を聞いたり、使ってる様子を観察したり…使い方・操作性も含めて、100個以上はプロトタイプを作りました。
アプリを見ながら家族同士で褒め合える
――見守りデバイスの多くは、子どもが持つキッズケータイやスマホと連携していることが多いですよね。
そうなんです。もしかすると「新しいプロダクトにせずとも、スマホで完結するのでは?」という意見もあるかもしれません。でも、小さいうちからスマホを持たせることに抵抗がある親御さんは多いですよね。あと何をしてるかは知りたいけれど、電話するほどじゃない場合もあって。
心配であるがゆえに電話をかけすぎちゃうと子どもの不安にも繋がるし、信頼されていないかもという感覚になるかもしれない。親のほうも「今は出れないんだよなー」という場面があったり、本当は些細な用事なのに「何か悪いことが起きたのでは?」とハラハラすることもあるし。
あと、大人にとってはスマホを持ち歩くって必然性がとても高いんですけれど、子どもにとってはそんなに必然性がないんです。我が家の場合だと、キッズケータイを充電切れのままランドセルに放置していて、連絡が取れなかったこともあって(笑)。
「充電した?」って毎日聞かなきゃいけなくなると、本末転倒ですから。いつでも連絡を取れるようにするには、 子どもがいつも身に付けられる形・機能で、かつ充電が長続きするのが重要なのかなと考えています。
――ハローファミリーアプリにはどんなこだわりが?
アプリでは「ハローポイント」が貯められて、王冠がゲットできたり、家族内で競えるようになっています。ポイントは「はろここ」を持ち歩いた距離や、「はろぽち」を押した回数、「はろもに」でメッセージ回数ごとに獲得できます。それを貯めるために、デバイスを肌身離さず持ち歩いたり、ボタンを押すのを忘れなかったりしてくれるので。
もう一つの狙いとして、アプリ上ではなるべくいろんなポイント条件を設けて、いろんな子を褒めてあげる機会を作りたいと思っていて。コツコツやる子、一日で超頑張っちゃう子、どちらのがんばりもハローファミリーシリーズで可視化してあげる。それぞれが何気なく積み重ねたことをお互いに振り返れて、家族同士で褒めてあげられるようアップデートを続けています。
ハローファミリーは家族をチームにする
――ユーザーからの反応や、エピソードで印象深かったものはありますか?
実はつい先日、社内のママ・パパたちに使ってもらって、調査をしたんです。そうしたら、特にお父さんたちのコミュニケーション満足度がすごく上がったんですよ。
生活が仕事中心になって子育てに参加できていない、何から話しかけていいか分からない…そういうお父さんは多いと思います。それが重なって、さらに育児参加に消極的になるという負のスパイラルもあります。
――その場合、お母さんが全員分の情報共有を担わざる得ない状況になりそうですね。
実際そういうこと多いんですよ。でも「いま下校したんだ」とか「宿題やったんだ」と子どもの今がわかるようになるだけで、状況が改善するのが分かりました。ほかにも「宿題やったの?」と確認する会話から「宿題やってたね、がんばって偉かったね」というポジティブな会話からスタートできるというレビューもいただいています。
あと、うちの子どもからは「はろもに」を介して「お仕事頑張ってね」とメッセージが届くんですよ。親の現在地を確認して「帰りにアイス買ってきてね」とか色々頼むこともできるのに、彼らは離れていると応援したくなるんだなって。
――ものすごく勇気づけられますね。
親としては「家に居れなくてごめんね」と思っているんだけれど、子どもは「がんばってね」って応援してくれるんだなって。
こういう話を専門家の先生にしたら「ハローファミリーは家族をチームにする」っていう風に言ってくれたんです。
――チームですか?
例えば職場での業務だったら、何かが起きたあとに「何があったの」「どうしたの」って聞いても遅いですよね。常に細かなコミュニケーションがあるからこそ、何かあったときに対応できるわけで。きっと子育ても一緒で、日々ちょっとした気づきを得て、それに対して子どもに話しかけてあげることで、チームの一員だと思えて、満足度の高い暮らしができるって。
共働きは当たり前、だからこそ
――ハローファミリーシリーズは同じ場所にいない家族を思いやる仕組みをつくり、相互にとって良いコミュニケーションを生んでいるんですね。
そう言っていただけると嬉しいです。子育てをしながら働くことは、現代において当たり前ですから。だとすれば、学校帰りの子どもを見守れないことや、行動を制限してしまう申し訳なさを感じたり、負い目に感じるのは良くないと思うんです。「子育てがあるから仕事が思いっきりできない」って、子どものせいみたいで申し訳ないじゃないですか。
親側も満足する生き方ができて、親子間の信頼のもとに好奇心を育むような生活を送らせてあげたい。子どもも親が働いていることに縛られず、やりたいと思ったことを、その場に居なくてもやらせてあげられるサポートが少しでもできてればなと。そうすれば子ども自身もより活動的に遊べるし、私自身は安心して見守れますよね。
今後もそういった気持ちでハローファミリーのプロダクトをこれからも改良していきつつ、次は子ども自身の好奇心がワクワクドキドキするような商品について、少しずつ構想を練っているところです。
編集後記
共働きって大変そうだなあ、と子を育てる友人たちを見ながら思います。でも、母親だけ時短勤務しているのも、なんか納得いかない。自分のキャリアを諦めないで働くって、ワガママ?もしくは超体力が必要?…じゃなくて、社会のシステムや機能、あるいはデバイスが”共働き”に照準を合わせていない可能性がすごく大きいな、と取材を通して感じました。ハローファミリーのプロダクトのように、温かな気持ちで、当たり前に、キャリアも家族も諦めないでいい解決方法が、さまざまな分野で開発されていくことこそ、一番望まれる技術と知識の進歩だなと思います。
(プロフィール)
山本容子
2004年コクヨ株式会社に入社。オフィス家具の設計・開発を5年、マーケティングを4年、オフィス家具の事業企画に従事。
2020年にコクヨ社内の新規事業創発プログラムに応募し、優勝。その後、オフィス家具事業の企画と兼務しながら、経営に事業投信を進める。
2023年3月に子ども向け見守りIoTブランド「Hello! Family.」の事業を開始し、事業責任者として事業運営とサービス開発を進める。
(取材・執筆:ヤマグチナナコ、撮影:村上大輔)