更年期は誰しもに訪れるもの
ーーTRULYが現在提供しているサービスについて教えてください。
弊社は更年期に特化したフェムテックカンパニーとして、更年期をテーマに情報発信をするメディア「TRULY」の運営や、法人向けにe-ラーニングと医師・専門家とのチャット相談が可能な「TRULY for business」を展開しています。
また2024年6月には、ホルモン量の検査キット「MENOPO CHECK」という検査サービスの展開も始めました。
ーーそもそも、更年期とはどのような時期・症状を指すのでしょうか。
「更年期」とは閉経を挟んでその前後の約10年ほどの期間を指します。日本人女性の閉経の平均年齢は約50歳といわれているので、更年期は概ね45~55歳頃を指すことになりますが、閉経年齢は個人差があるので、早い人だと40歳台前半から更年期にあてはまるという人もいます。
急激なホルモンの減少によって、脳の視床下部にある自律神経の中枢へ影響を及ぼすため自律神経失調症を起こしやすくなり、いわゆる「更年期症状」がおこるのです。さらに、こうした年代では職場や家庭など身の回りでおこる環境変化も加わることが多く、更年期症状の病状をより複雑にしています。
ーー更年期を包括的に支える事業というのは、とても珍しいですよね。どのような経緯があって、起業されたのでしょうか。
もともと、前職の広告代理店で新規事業創出部門にいたので、そこで自分が起案したのが、TRULYの原型になるような事業でした。起業をするために課題を探したというよりは、新規事業のアイデア出しをするなかで、自分が強い興味を持っていた課題が女性の健康課題だったり、男女の相互理解でした。
一番最初は、ホルモンにまつわるあらゆる内容を扱うメディアを考えていたんです。美容はもちろん、トータルインナービューティを医療の力も含めてケアしていくような構想でした。ただ網羅すべき範囲が広すぎて、実際にサービスに落としていく難しさを感じてた時に、更年期に行きついたんです。
妊娠期に経験したホルモンと心身の関係性と、相互理解の壁
ーーホルモンに対して興味を持ち、更年期に焦点を絞ったとお話にありました。そこにはなにか理由が?
約15年前に経験した妊娠がきっかけです。私には14歳の一人息子がいるんですが、妊娠をした当時は今のように「女性が働きながら子育てをすること」はまったく当たり前ではなかったんです。私自身は産休まで働き続けるつもりだったんですが、重いつわりで水も飲めず、電車も耐えられずで。通勤が困難になり、やむをえずキャリアを中断しました。今みたいにリモートという選択肢があったら良かったんですけどね。
妊娠すると出産に向けて、女性ホルモンの分泌量が急激に増加していきます。つわりは、その変化に身体がついていけず現れる症状。その原因を知ったとき、ホルモンによる心身への影響は馬鹿にできない、と初めて感じました。出産というたった1つのイベントが、自分の人生を大きく変えました。
当時はキャリアの中断による社会からの疎外感はもちろん感じましたし、それ以前に自分の状態を理解してもらうのがとても困難でした。 特に現場の営業職は妊娠を機に退職する女性社員が多く、当時入社して3年目だったので「何をしに会社へ来たの?」みたいな空気感はまだまだ残っていましたし、なぜこんなに辛いのか、いつ復帰できるのか…自分自身でも全然分からない。そうするとパートナーや職場の同僚、上司にうまく説明できず、理解してもらえない。相互理解の壁を感じました。
今後の人生で、同じようなホルモンバランスの大きな波がやってくるとしたら次は更年期ではないか…そういう漠然とした不安も持ち続けていました。それが、35歳で社内事業を起案するときに思い浮かび、試しにリサーチをしてみたんです。
どんなサービスがあるんだろう、当事者はどうやって乗り越えているんだろう?そんな疑問をもとに調べ始めたら、人に話せず、抱え込んでしまっている方が圧倒的に多かった。実際にインタビューなどを実施し、女性の悩みとしてペインの大きい課題であること、ソリューションがニーズに対して全然揃っていないことが明らかになりました。こんなに我慢して凌いでいる人が多いのなら、と使命感みたいなものへ変化し、更年期に絞った事業になっていったというのが経緯です。
社内教育・福利厚生として、更年期を学ぶ機会の重要性
ーー企業向けサービスやコンサルタントといった事業は、どのような構想で発展していったのでしょうか。
まずは2020年6月にメディア「TRULY」と共に、一般利用者向けオンライン相談のサービスを開始しました。本当に偶然なんですが、2020年はフェムテック元年とも言われていて。事業開発してる時は、フェムテックの“フェ”の字も意識せずにやってきてたのですが、社会の盛り上がりを感じつつ「あ、TRULYもフェムテックなんだ」と気付いたんです。
それを機に、従業員向けにオンライン相談や講習会を展開できないか、といった法人からの相談や協業が動き出していき、「TRULY for Business」の原型が生まれました。現在はセミナーやeラーニング、オンライン相談、従業員の課題を可視化していく調査やホルモン検査といった、更年期に対するあらゆるものが含まれてるパッケージに成長しています。
ーーオンライン相談では、どのような疑問や悩みが寄せられていますか。
更年期を中心とした生理、pmsや妊娠、出産、デリケートゾーン、 パートナーシップの悩み、心の不安ですね。睡眠に関するお悩みも多いです。更年期だと自覚して相談される方ってそんなに多くないので、生理不順の悩みやおりものの変化をご相談いただき「あれ、もしかしたら更年期かもしれませんね」と気付くパターンも結構多いです。
ーー企業向けのセミナーでは、どういう内容をレクチャーしていますか。
女性の健康課題やホルモンバランスの変化といった、基礎的な内容はもちろん行います。さらに最近ですと、 男性更年期についてのニーズがとても増えていますね。男性更年期のセミナーと合わせて、職場でのコミュニケーション講習もご要望いただくことが多いです。男女の相互理解を通して、職場環境を良くしていき、健康経営を実現する。そういった企業課題まで含めたテーマですとか。
セミナーを受けた男性の感想で多いのは、「自分事化しました」という感想です。そもそも、男性の更年期について9割以上の方が知らないと言われているんです。今までは女性だけの問題と思っていたところが、自分自身の症状も更年期によるものでは?と気付く方がとても多いですね。もしかすると、認めたくないという心理は女性以上にあるのかもしれません。
ーーいま男性の更年期のお話が出ましたが、メディア「TRULY」の方でも、女性だけでなく、男女の更年期を扱う記事がだんだん増えているように見受けられます。
弊社はミッションとして「閉ざされた悩みに向き合い、男女が理解し合える社会へ」と掲げています。元々は女性の更年期課題に着目をし、女性のためのサービス開発からスタートしていますけれども、更年期=女性個人の問題にはしたくありません。自分が妊娠期に経験したように、体調不良だけ治れば良いという問題ではなく、周囲や社会との相互理解がなければ解決しませんから。
それに更年期の女性にお話を伺うと、ご自身だけじゃなくパートナーの男性側が抱える更年期の悩みも出てくるんですよね。相手がこういう辛い状況になって、自分はそれを支えてきたとか、一緒に乗り越えてきたとか。2022年にはテレビタレントのヒロミさんが、 朝のニュース番組でご自身の更年期体験をお話されたことも世間で話題になりましたし。そういう事象から、やっぱり男性の更年期も課題として認識されていくだろうなと思っていたんです。
そういった理由から、弊社は2022年7月にリブランディングを行いました。ロゴやサイトデザインをベージュトーンに変え、HPのキービジュアルに男性も加えるなど、全体をユニセックスな世界観にし、メディア内の記事も男性カテゴリーを強化していくようになりました。
本来は、男女二元論にすることも時代にそぐわないことも理解しています。ただ、そもそも更年期に対する理解がまだまだ進んでいないので、少しずつ認知を広げていくためにはどうしても「男/女」という視点から始めて、さらに発展させていく必要があるなと考えています。
当事者の声を読者に届けつつ、信用性の高い情報を増やす
ーーTRULYが公開している記事には、すべて医療監修がついていますね。どのようなこだわりが?
「TRULY」という名前には、“信じられる”とか、“真実の”という意味を込めていて。更年期のテーマで記事制作を行い、情報発信していく上で、信頼性を本当に大事にしていきたかったのです。そのためTRULYには現在15名のメディカルチームがいて、すべてのコンテンツに医療監修をつけています。
メディア開始当時の2020年はキュレーションサイトの著作権侵害問題が大きく報じられ、インターネットメディアの誤情報による被害が問題視されるようになっていました。そういった情報に傷ついてる方や、詐欺被害に遭ってしまう方もいることが許せなくて。人のデリケートな悩みを扱うなら、医療サービスと同じくらいの慎重さで記事を発信していきたい。それでこそ、本当に困ってる人への助けになるのではないでしょうか。
同時に、当事者による生の声を伝えていきたいという思いもありました。すでに多くある教科書的内容の記事や症状解説よりも、アンケートやインタビューを通して、実際にどうやって更年期を乗り越えたのか…これまで人に話せなかった体験談を引き出していくようにしています。そういう場合にも医療監修をつけている理由として、個々人の対策方法が間違っていたり、医療的根拠がない場合もあるんですよね。インタビュー内容をそのまま公開して、間違ったやり方が拡散されて欲しくない。読者が「わかる」や「私だけじゃなかった」と安心できるよう個々人の体験談を尊重しつつ、正しい情報も合わせて発信することには特に力を入れています。
更年期は誰にでも訪れる、だからこそイメージをもっと前向きに
ーー今後予定している新たな試みはありますか?
「TRULY select」という、更年期のケアに有効な商品やサービスを厳選し、集めたページを新たにオープンしました。
今までのサービスは「知る→調べる→相談する」までで、その先のケアについては網羅できていませんでした。というのも更年期の悩みに対して「これをやっておけば大丈夫」みたいな万能薬はないし、症状も多岐にわたります。なので各個人が、それぞれに合った更年期対策をしてセルフケアをしてほしい。そのための信頼できる商品をセレクトしておくことにはきっと意味があるよなと。例えばですが、弊社のホルモン検査を使用いただいた方に、結果に合わせて「こういう商品でケアすることもできますよ」というレコメンドをしたり。
たくさんの商品をご紹介するというよりも、エビデンスがしっかりしていて、尚且つ製薬会社さんやメーカーさんがTRULYに共感してくれている商品を紹介していきたいなと考えております。
ーー最後に、社会における更年期への認識は変化しているのでしょうか。
サービスを開始した2020年当時に比べれば、フェムテックも浸透し、その追い風もあって更年期にも光が当たってきたかなと実感しています。とはいえ、まだまだ後回しにされている分野でもありますね。この状況を変えるには、いま苦しんでる方の悩みにしっかり光を当てることと同時に、今後更年期を迎える人たちの意識も変えていかないと。
このムードを変えるには35歳前後のプレ更年期世代にもっとアプローチをする必要があると思っています。更年期について知識を得て、自己管理できるようになれば、更年期世代への理解が深まるでしょうし、社会にとってもいい循環が生まれそうですよね。
あとは更年期の野暮ったい、古めかしいイメージも変えていきたいです。例えば海外だと、イギリスは更年期に対する先進国で、広告のビジュアルがかっこいいんです。女性がおっきな口を開けて笑っているビジュアルだったり、ポジティブなコピーが付けられていたり。そうやってクリエイティブな力で、イメージを変えていくことを私としては大事にしていきたい。
更年期だって思春期と同じく、誰しもに訪れる期間なんですよ。みんなが通過するその時間に、個人差はあるにしろ100人いたら100人がいろんな変化を経験する。思春期にいいイメージを持てるなら、更年期だって青春みたいな捉え方もできると思うんですよね。そういうカルチャーみたいなものを生み出していけると、本質的に根深くある課題が解決されていくのかなと思っています。
編集後期
更年期を迎えると心身の変化が起こることは知っていたけれど、社会全体で見つめるべき課題ほどではない…みたいな空気が未だにあるように感じます。苦しさやしんどさが透明化されてしまったり、「更年期(笑)」みたいに揶揄される光景を未来の自分に重ねて、中年になっていく恐怖や不安もありました。今回のインタビューを通して、更年期に対するイメージがガラッと変化したし、40代後半からの人生を楽しみにしても良いんだなと期待が生まれた取材でした。
代表取締役CEO
二宮 未摩子
2007年に博報堂に入社。営業職として通信キャリア、大手エステティックサロン等を担当。入社3年目の妊娠時、働くことが困難なほどの激しいつわりを経験し女性の心と体は女性ホルモンの影響を強く受けることを痛感。職場復帰後、社内の事業開発部門で女性向けの商品開発プロジェクトを発足。2020年更年期の課題解決に取り組む「TRULY」を起業し独立。中学生男子の母。
(文:ヤマグチナナコ、写真:ノムラタツヤ)