復興を願う全ての人へ「電子住民票」を発行するために
――Nishikigoi NFTプロジェクトをスタートした山古志住民会議とは?
中越地震で被災した山古志で、仮設住宅での生活が続く2007年7月に発足した団体です。ちょうど同じ頃、平成の大合併で山古志村は長岡市と合併したのですが、村の人々は「山古志に帰るのであれば長岡市としてではなく、自分たちの村(※)としてもう一度創り上げたい」という強い意志を持っていました。山古志としての復興プランを立てるために立ち上がったチームが山古志住民会議です。
(※本インタビューでは、現在は合併により「山古志地域」と言われる旧山古志村を「村」、その旧住民を「村民」と表記しています。)
――竹内さんが山古志住民会議に参加したきっかけは?
ちょうど就職活動をしていた私は、ハローワークで災害ボランティアセンター職員の募集を見つけて。すごくやりがいがありそうだなと思ってすぐに応募しました。「帰ろう山古志へ」というスローガンのもと、希望する人々がみんな山古志へ帰れるよう、生活支援相談員として仮設住宅の見守りやサロン活動を行い生きがいづくりを促したりしていました。その後、「山の暮らし再生機構」という財団に所属したことで山古志住民会議の事務局メンバーとして関わるようになりました。
――これまでの山古志住民会議の取り組みは?
ボランティアセンターの職員として、長岡市内各所に設置された仮設住宅と山古志を行き来して家屋の片付けを手伝ったり、学生ボランティアを車に乗せて各集落を回ったりしていました。その後の山古志住民会議としては、帰村してからも山古志を元気にしようと、住民の方々や集落を復興団体と結ぶ橋渡しとなって地域のプラン作りに力を入れてきました。産業福祉や人口交流などの仕組み作りにも力を入れています。
――Nishikigoi NFTの構想はなぜ生まれたでしょうか?
山古志住民会議として取り組みを続けるなかで、実際の村民に限らず、私のようなよそ者や学生ボランティア、民間団体やさまざまな有識者の方々も、みんな一緒になってトライ&エラーを繰り返してきました。リアルな村民ではないけれど、一緒に山古志の地域づくりのために汗水流して一緒に挑戦してくれる仲間がいる。「それって、もはや山古志の村民だよね」という気持ちが高まり、仲間としての証になるものを創出したいと話し合うようになりました。それと同時に、人口減少は加速する一方で、移住定住促進や、ブロードバンド基盤の整備など、さまざまな対策を取ってきたものの、それでも状況を変えることができませんでした。いよいよ人口が1,000人を切るというタイミングで「これだけやってもダメなんだ。人口減少を食い止めるという目的そのものを変えてみてはどうか」という話になりました。
そこで、「村民だけではない、地域づくりに関わる人」つまり居住の有無にとらわれない「地域の主体者を増やす」ことを目指して、山古志に住んでいなくても地域に参加できる証としてたどり着いたのが、NFT(*)を活用した電子住民票「Nishikigoi NFT」です。
*NFT(非代替性トークン):偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータのこと。写真や絵画など、デジタルコンテンツを購入することでその権利を得ることができる。
心を動かした山古志スピリット。コロナ禍で見つけた新たな一手
――山古志の現在の人口は?
2024年春時点で740人台。総人口の56%以上が高齢者です。地域おこし協力隊や、結婚がきっかけで移住すること、お子さんが産まれることもありますが、それ以上に亡くなる人が多いのが現状です。地震の後、仮設住宅から帰村した時点で1,700人の村民がいましたが、そこから17、8年かけて1000人を割る形となりました。
――全村避難からほとんどの村民が戻ってきたのはすごいですね。
村民全員が仮設住宅を経験し、山古志村で家を再建する、もしくは、別の地域で家を建てるか、アパートを借りるかという選択を迫られました。それでも、7割程の人が帰ってきて、「ここで子育てをしたい」「ここで死んでいきたい」「ここで生きたい」という人が1700人もいた。村を誇りに思う村民の姿はすごくカッコよく見えましたね。
――そこから、どのように世界初のNishikigoi NFTが完成したのでしょうか?
状況を変える方法はすぐに浮かびませんでしたが、山古志を想ってくださったり、これまで共に挑戦をしてくださった人たちを仲間として認められるシステムやツールを作ろうと思ったのが2020年頃。リリースするまでの2年間は幅広い業種の企業へ出向き、アイデアを集める日々でした。
――山古志住民会議にシステムに強い方がいたのでしょうか?
それが……いないんです(笑)。山古志を今日まで一緒につないで来て下さった人々を仲間として認めたいと思いつつも、それを実現するためにはどのようなシステムを当て込めばいいのかは全く分かりませんでした。とにかく「当たって砕けよう!」という気持ちで、最初にアポイントを取ったのはファンクラブを運営する芸能事務所さん。ゲームのように仮想空間を作って交流できる仕組みはないだろうかと、メタバース制作会社やゲーム制作会社等に相談をもちかけました。動き始めた時はコロナ禍だったので、現地にいなくても山古志を疑似体験できる空間を作って、山古志のデジタル村民を集めたいとアタックし続けてきました。
電子住民票×デジタルアートの役目を持つ「Nishikigoi NFT」
――それでは、NFTという発想はどこから?
発行当初は、NFTプロジェクトを得意とする株式会社TART(東京都)さんと、約10年前に出会った地域づくりの仲間であり、ファーストキャリアがシステムエンジニアでもある林篤志さん、そして山古志住民会議の3者で発行しました。何の知識もなかった私が、林さんに「こんなことをやりたいんだよね」と相談した時に教えてもらったアイデアがNFTです。そこから、NFTを最前線でやっている株式会社TARTさんを紹介いただき、web会議で思いを伝えてご一緒いただくことになりました。各分野の専門家のお力を借りながらシステム構築を行い、作品づくりを行うアーティストの選定の最終決定などは山古志住民会議メンバーとともに進めてきました。
――Nishikigoi NFTを購入するメリットは?
コミュニティへのアクセス権、デジタル村民としてのアイデンティティの象徴、ガバナンストークン(投票権)、デジタル資産という4つの権利を手にすることができます。Discord(ディスコード)というチャットツールを使い、リアル村民とデジタル村民のコミュニティを運営していて、購入すると参加することができます。また、NFTをもちいることで一人ひとりがデジタル上でのアイデンティティを持ち、NFT自体が、コミュニティ内のモノゴトを決める際の投票権にもなります。NFT自体が、コミュニティ内のモノゴトを決める際の投票権にもなります。デジタル村民には、山古志の仲間として自律的にアクションできるよう、NFTの売上から一部の予算 執行権限をデジタル村民に与えて、彼らのプロジェクトに活用できる取り組みも試験的におこないました。例えば、村での暮らしや文化が存続するためのプランをデジタル村民が提案して人気投票で選ぶなど、コミュニティの意思決定に参画することができます。デジタル資産の面では、NFTをリリースしたての頃は1点1万円くらいの価値でしたが、コミュニティとしての魅力が高められると資産価値も上がっていく現象がみられました。
――デジタル村民同士が交流できる機会も?
メタバース空間で集まって交流することもできます。思い思いのメタバース内のキャラクターが集うのですが、ダイコンやナスといった野菜(デジタル村民が制作した、山古志野菜アバター)が多いので少しシュールな絵面だったり(笑)。2022年からは中越地震の追悼式をリアル空間とメタバース空間のハイブリッド開催で行えるようになりました。リアル・デジタル関係なく思いを共有しています。
――竹内さんが考えるNFTの魅力とは?
デジタル上でアートを所持できるという価値もあるし、仲間の証としての意味合いもある。ファンクラブ会員の会員証のようであり、世界的に評価される山古志の錦鯉をNFTとして所持しているという愛着や誇りを持てる。購入したデジタルアートをTシャツやマグカップにプリントして愛用する人もいます。電子住民票としてだけでなく、デジタルアートとしての価値も楽しんでいただけたらうれしいです。
グローバルなデジタル関係人口を創出。新たな共同体「山古志 DAO(ネオ山古志村)」
――今後の展望は?
Nishikigoi NFTを始めた当初は、デジタル村民が1万人誕生することを目標に発行しました。これは“1万人のデジタル村民コミュニティ”を目指していましたが、山古志という過疎地域の取り組みはまだまだ国内はもちろん、海外の方まで知れ渡っていません。デジタル村民という濃い地域との関わりとしての価値はもちろんですが、国境や言葉の壁も越えてデジタルアートが愛されてほしいですし、今Nishikigoiを求めて世界中から山古志へ来てくださる方と「山古志っていいよね」「山古志のNishikigoiが好き」という思いを共有したいですね。
――Nishikigoi NFTは今、第三弾まで発売されていますね。最新のNFTについて教えてください。
現在、株式会社クリプトヴィレッジが中心となって、NFTとローカルの組み合わせによって生まれた新たな共同体の形を「Local DAO」(*)と定義し、その概念を確立するために活動が行われています。
運用してから改めて感じるNishikigoi NFTの最大の特徴は「山古志の関係人口の最大化」です。第三弾からは、このNFTによって偶発的に生み出されたデジタル村民たちで構成されるLocal DAOを「山古志DAO(ネオ山古志村)」と呼び、ほかの地域で生まれるLocal DAOとの行き来が自由にできるパスポートの役割を追加しました。
*DAO(分散型自律組織):ブロックチェーンを活用した新しい組織形態・共同体のこと。従来の中央集権型組織とは異なり、参加者同士が協力し合いながら組織運営を行っている。
2023年8月から発売している第三弾からは、山古志と同じようなローカルな共同体(Local DAO)と双方向の入り口にもなるパスポート的な役割をNFTに含んでいます。第三弾を含めNishikigoiNFTの購入された方は、山古志のデジタル村民になれるだけでなく、過疎化という大きな課題を抱えつつも魅力的な地域、独自の文化を持った山古志以外のLocal DAOにも気軽に参画できるようになりました。独自の文化を持ったLocal DAOへ気軽に参画できるようになりました。
――山古志のほかにも、Local DAOになっている地域があるのですね。
今年の春先、長野県天龍峡と、宮崎県椎葉村(しいばそん)が国内のLocal DAOとして仲間入りしました。ありがたいことに山古志DAO(ネオ山古志村)の取り組みを知った国内の80地域から「仲間に入りたい!」と相談があったようです。そこで、まずはその中から2地域をLocal DAOとして認めるかどうか、デジタル村民による投票で決定しました。
デジタル村民の数が増えれば、Local DAOにできることの幅は必然的に広がります。リアル村民の人口が減少し続ける今、デジタル村民の人口を増やし続けること、そしていずれは海外にまで繋がる関係人口を増やすことが私たちの狙いです。
――竹内さんが思い描く山古志、そしてNishikigoi NFTから生まれた山古志DAO(ネオ山古志村)のこれからとは、どんなものでしょうか?
2024年5月、山古志小・中学校の運動会として「山古志小中学校大運動会」が開催されました。生徒数は20人ほどですが、未就学の子も大人も、デジタル村民も、みんな一緒になって行った運動会です。山古志の小・中学校には学校運営委員会という団体を設けていて、そこに地域の人や、各種団体が入り、子どもたちの学校生活を地域全員で一緒に考えています。自分の子どものように山古志の子どもたちを見守るのは今の山古志にとって、とても重要なこと。山古志の住民も、デジタル村民も、立場を超えて「みんな村民」というウェルビーイングな関係をこれからも築いていきたいです。今はまだ運動会をようやく実現できたところですが、今後は各集落の行事や地域の維持管理、ライフラインに直結する大切な事業にも、全ての人が村民として関われるように変えていきたいです。
〈編集後記〉
「NFTで地方創生」という大胆かつセンセーショナルな提案が、なぜ新潟県の限界集落で生まれたのか。徐々にその謎が解明されると同時に、「未来はもっとおもしろくなりそうだ!」という高揚感が沸き起こったことを今でもはっきりと覚えています。「山古志 DAO」のようなWELL-BEINGな共同体が拡大したら、世界はもっと幸福感で満たされる。そう信じています。
〈プロフィール〉
竹内春華
新潟県魚沼市出身。2004年中越地震をきっかけに、旧山古志村(現長岡市)で災害ボランティアに参加。仮設住宅で暮らす人々を支援する生活支援相談員として活動した後、財団法人山の暮らし再生機構に所属。山古志住民会議事務局の一員として活動を展開してきた。2021年4月、同団体3代目代表に就任。同年12月に「Nishikigoi NFT」をリリースし、リアルとデジタルを融合した新たな地域づくりへの挑戦を始めたばかり。
Nishikigoi公式サイト:https://nishikigoinft.com/ja
(文:松永春香、写真:坂井優斗、編集:金澤李花子)