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無人物流網で島暮らしを支える。ドローンベンチャー「かもめや」の挑戦とは?

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2022.07.28(最終更新日:2022.09.14)

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「24時間365日どこに住んでいても、いつでもモノが届く日常を目指して」。こんな言葉を掲げ、ドローンを使った物流サービスで離島の課題に向き合うユニークなベンチャー企業がある。香川県高松市を拠点に、企業や自治体に向けてドローンの運行サポートなどを行う「かもめや」だ。

瀬戸内海には大小727の島が浮かぶが、有人島はその約2割の138島。さらにそのうち49の島は人口100人未満だ。こうした島では極度の過疎・高齢化が進み、医療や物流に課題を抱える。「かもめや」はこれらの社会課題をドローンの力で解決しようとしている。

その画期的な仕組みとは何なのか?また、ドローンなどのテクノロジーは、どのように活用することで人の生活を豊かにしていけるのだろうか?また、「テクノロジーは暮らしを支える穴埋めでいい」という言葉の意味とは?「かもめや」代表取締役の小野正人さんに話を伺った。

「死ぬまで島で暮らしたいけど……」。島民が直面する島暮らしの課題

——早速ですが、「かもめや」が今取り組んでいることを教えてください。

簡単に言うと、ドローンを飛ばしたいという企業や自治体の実証実験のサポートや、実用化したあとの運行管理・実施などを主力事業にしています。

たとえば、2021年8月には香川県三豊市と粟島間の往復8キロをドローンが運行する「商用定期航路」を開通させました。午前中に粟島に住んでいる人から注文を受け、午後にはドローンが三豊市を出発し、日用品やお弁当などを届けるというサービスで、お客様から1回500円の利用料をいただいて運行しています。海を越えるドローンの長期定期航路というのは、世界初の試みです。

ほかには、2022年2月に「クオール薬局」などの保険薬局を全国で運営する「クオールホールディングス」と一緒に、広島県江田島市でドローンを使った医薬品配送の実証実験を行いました。オンライン診療後に処方箋を発行し、調剤を行ったあと、その薬剤を自宅まで届けるという一気通貫の取り組みです。離島や僻地などは、医療へのアクセスが十分ではないので、地域の医療を充実させることを目標に実施しました。

——今のお話から、離島には医療や物流の面でさまざまな課題があるのだと気づかされたのですが、そもそも小野さんがこのような点に気づき、「かもめや」を立ち上げるまでに至った経緯を教えていただけますか?

私は離島巡りや僻地巡りが好きです。高校生の頃から日本各地の島を巡り始め、これまで260島ほど訪れました。島のリアルな生活を知りたくて、昼間だけではなく夜も滞在しようと、ほとんどの島で一泊以上しています。離島はそれぞれに固有の文化を持っているから面白い。隣り合う島でも全く文化が違うことがあります。

転機は2010年の「第一回瀬戸内国際芸術祭」にボランティアとして参加したときに訪れました。芸術祭のディレクターである北川フラムさんのお話を聞いた時に、民俗学者の宮本常一さんのことを知ります。そのとき紹介されていた「忘れられた日本人」という本を読んだ時に「自分が求めているものはこれだ!」とピンときたんですね。昔ながらの日本の生活や原風景が残っている島というものに、自分は惹かれているのだと。そこから、島で暮らす人の生活をもっと詳しく知りたいという気持ちが強まり、芸術祭をきっかけにご縁ができた香川県の男木島へ移住。2014年から約1年間、男木島で暮らしました。

念願の島暮らしだったのですが、住んでみると色々と不便も感じて。例えば、島では自分で家を改修する人が多いのですが、ネジや釘が一本ないだけでも作業は進みません。買いに行こうとすると、島のなかにお目当てのものが売っている店はないので、フェリーに乗って40分かけて高松港へ向かうことになります。そこからまた車やバスに乗り換えてホームセンターに行くので、半日はかかります。スーパーでの日々の買い物も同じで、1日数便しかない船に合わせて生活しなくてはなりません。足の悪い高齢の方にとって、そのような移動はハードルが高いですよね。さらに、本土の病院に通院する方はかなり大変だと思います。

実は私が島にいた1年間だけでも、足が悪くなって島に住めなくなり、本土へ引っ越した方が3人いました。本土にいる家族と暮らし始めた方もいれば、施設に入った方も。しかし、ご本人としては島が好きで、島を離れたくないと思っているのです。実際にその方たちが「死ぬまで島に住み続けたい」と言っているのを聞いたことがあり、やはり仕方なく島を離れるんだろうなと感じました。そんな出来事があり、高齢の方が島で暮らし続けられるために何か方法がないか、ぼんやりと考えながら日々生活するようになりました。そのときはドローンの存在すら知らなかったのですが。

ドローン黎明期、クラウドファンディング元年に起業

——1年間男木島に住んだあと、「かもめや」を立ち上げるに至りましたが、起業までにはどのような経緯があったのでしょうか?

先ほどの課題を頭の片隅に入れて過ごしていた時期に、Amazonがドローンを使った荷物配送を始めたというニュースを見ました。それが大きな契機になりましたね。当時はまだドローンという言葉が浸透しておらず「荷物を運べる空飛ぶロボットがある」ということをそこで初めて知りました。同時に、これを使えば島に荷物が運べるんじゃないかと直感しました。

まずはドローンがどこで手に入るのか、どのくらい費用がかかるのか、どうすれば飛ばせるのかを調べ始めました。国産のドローンメーカーはまだなく、輸入も本格的には始まっていなかったので、まずはラジコンヘリコプターを扱っているメーカーに片っ端から電話をかけてドローンについて聞きました。ありがたいことに、何十件と電話したうちの1社、名古屋にあるメーカーさんが、私が島でやりたいと思っていることを「面白い」と言ってくれて、協力してくれることに。

その社長さんから直々にドローンの組み立てや飛ばし方などを1ヶ月かけて教わりました。ただ、ドローンを一回飛ばすのに100万円はかかるんですね。ドローンの機体費(レンタル費)、船で追跡する必要があるので小型船舶のレンタル費、保険料など。

資金が潤沢にあるわけではなくどうしようかと考えていたところ、ちょうど2014年は「クラウドファンディング元年」だったんです。Readyforのクラウドファンディングに挑戦し、およそ111万円の支援をいただきました。それを資金に高松市から男木島までの約9キロの距離でドローンの飛行実験を行い、ガーゼやピンセットを含めた医療物資など500グラムの荷物を運びました。

実験は無事に成功し、メディアからも注目されました。しかし一回飛ばして終わるのではなく、もっと本格的に取り組みたいと思うように。そこで、芸術祭関連で知り合った地元企業の経営者や投資家などに会って相談したところ、「(ドローン事業の)規模が個人のプロジェクトでやれる範囲ではないから、会社をつくったほうがいい」とアドバイスを受けました。私の経歴は技術者で、リーダーとして仲間に囲まれるというよりは一人が好きなタイプですし、起業したいという思いは今まで一切ありませんでした。しかし、目的のためには挑戦するしかない。複数の投資家や経営者から出資を受け、会社を経営することになりました。

多島美を壊さない、島の景色に溶け込むドローン

——「かもめや」を起業して、最初に取り組んだことはなんですか?

創業初期は、オリジナルのドローンを開発しました。こだわっていたのは、陸・海・空すべてに対応して、島の人が住んでいるラストマイルまで荷物を届けられるようにすること。だから空を飛ぶドローン「KamomeAir(かもめエアー)」に加え、小型船輸送機「Donbra.co(どんぶらこ)」、地上走行カート「Smart.ONBA(スマートおんば)」の3つを開発しました。

——それぞれ名前がユニークですね。デザインにもインパクトがあるのですが、このプロダクトはどんな発想から生まれたのでしょうか?

私は瀬戸内の風景が好きです。多島美というんですかね。だから、ドローンがその景観を壊すようなことがあってはならないと思っていて。瀬戸内国際芸術祭に関わっていた時に、総合プロデューサーの福武總一郎さんから聞いた「在るものを活かし、ないものを創る」という言葉に感銘を受け、プロダクトのデザインにおいても大きな影響を受けました。今あるものは大事に残していくけれど、新しい風を入れることでまた違った世界を作ることができる。そんなことをおっしゃっていたと思います。それを受けて、どのプロダクトもその土地にもとからあるものを題材にして、風景に馴染むことを意識して作りました。

KamomeAirは空を飛ぶカモメの形に。遠くから見たら、海鳥が翼を広げて滑空しているように見えるようにしたいとスロベニアにあるドローンメーカーと共同開発しました。

KamomeAirの機体

Donbra.coは、昔話の「桃太郎」から着想を得て、桃が乗った船をデザインしました。「桃が海を流れていたらおもしろいんじゃないか?」という発想です。香川県高松市沖の女木島が鬼ヶ島として描かれているので、桃は島の人にも馴染みがあると思って。桃がパカッと開いて、中に荷物が入れられるようになっています。ちなみに、荷物は少ししか入らないので輸送効率は悪いです(笑)あくまでデザインを優先させました。

Donbra.coの機体

Smart.ONBAは男木島で日常的に使われている手押し車である「オンバ」に着目して、これを自動化しようと思いつきました。島は意外と起伏があるので、坂道を登るのは大変なんです。KamomeAirやDonbra.coで港に荷物が届いても、重い荷物を坂の上の自宅まで運ぶのは一苦労です。必要な人の手元まで届けるために活躍するのがSmart.ONBAです。

Smart.ONBAの機体

——陸・海・空のドローンを展開されているのですね。

海に囲まれた島国で、地形も変化に富んでいる日本では、陸・海・空のすべてを融合したハイブリッドの無人物流プラットフォームが必要だと思います。この3つのプロダクトは航空法や道路交通法の兼ね合いで、まだ実用化には至っていませんが、冒頭でお話ししたような事業の準備段階として、大きな役割を果たしてくれました。KamomeAirは機体が大きく重量があり、日本では法律上飛ばすことができないので、現在事業で使用しているドローンは別のメーカーのものを使っています。しかし、自社プロダクトを開発して旗を立てたことにより、「かもめや」が空を飛ぶドローンだけではなく、陸・海・空のすべてに取り組む会社なのだということが広く伝わったと思います。

——ほかには何かサービスを手がけていらっしゃいますか?

「かもめや」では、リアルタイムで気象データを分析し提供する自社ソリューション「OceanMesh」を展開しています。「無人移動体運用包括支援システム」というものなのですが、噛み砕いて説明すると、ドローンを安全に運行するためのシステムです。30秒ごとの風の状況をスマホのアプリで確認することができるように、地上に設置した小型基地局とドローンに搭載したカメラと無線伝送装置で気象データなど様々な運行状況データをリアルタイムで監視します。ドローンによる無人物流を実装するには国土交通省が取り決めたいくつかの条件を満たさねばなりません。周辺の気象状況を常時監視するというのと、機体の周囲状況を確認するという条件があるのですが、「OceanMesh」によって、その条件を満たし、ワンストップでのドローンの運行が可能になりました。

——このサービスはどんな団体が導入しているのですか?

主に今後ドローンの自動運航を導入したいと考えている企業や自治体ですね。数年後と予想されているドローンの規制緩和を見越して、大手物流会社をはじめ様々な企業や自治体がドローン運行の実証実験を行っています。そんなときに先ほどのソリューションを提供したり、ドローン本体も含めて必要機材を貸し出したり、実証実験のすべてを請け負う場合もあります。

「ドローンを飛ばす」と一言で言っても、事前調査や飛行計画の作成、様々な申請、地元調整など非常に複雑な手順があります。「かもめや」がこれまで様々な実証実験で蓄積してきたノウハウを活かして、案件ごとに異なる場所や条件に対応します。ドローンは新しい領域ですから、前例がないものに常に挑戦しています。

今あるものを邪魔しない。テクノロジーは「穴埋め」でいい

——今後のドローンを取り巻くニーズや環境はどのように変わっていくと予想していますか?

昨今、ドローンの法整備が急速に整いつつあります。個人的な見解ですが、2025年の大阪万博で「空飛ぶクルマ」を飛ばす計画があることが影響していると思います。それにより、人口集中地区を避けたエリアでの自動運転やドローンによる物資輸送のガイドラインはすでに整っており、それに沿って準備・申請をすれば実証実験ができる状況になっています。

冒頭でも述べたように、薬局など物流とは異なる業界からのドローンへの関心も高まっています。たとえば大手ゼネコンや電力会社、通信キャリア会社、飲食系の会社など。さらに、需要は物資輸送から資材輸送へシフトしつつあります。最近のドローンは、数十キロの輸送重量にも対応できるようになってきました。山間部などアクセスしづらい場所にドローンで資材を運ぶ需要が高まっています。建築資材を海上輸送する需要もあり、「かもめや」でもすでに実績があります。

社内にある、アイディアボード

おそらくその次の流れが、いよいよ「空飛ぶクルマ」などの乗客を運ぶ自動運転ですね。そんなに遠い未来ではなく、ここ数年で実現するのではないかと見ています。私たちは「空も海も陸も使って、どこに住んでいても行きたい場所へ自由に行き来ができる」というインフラを作っていきたいなと。

今、日本で黒字経営している僻地や離島の公共交通機関は少ないと思います。離島の定期船はその最たる例かもしれません。いつまで赤字が許容されるのかはわかりませんが、いつかは減便されて、なくなってしまうかもしれません。利用者も減少している上に、船の操縦士の高齢化が進み、担い手が不足しているとも聞きます。

もし本当になくなってしまったとき、すぐにそれを補えるようなものを準備しておきたいという思いがあります。維持するだけで赤字になってしまっている状況のなか、私たちの仕組みをどう使っていただけるか、そこがテクノロジーの使い所です。テクノロジーで無人化し、人件費を削減できればと思います。

ただ一方で、何から何まで無人化すればいいとは思っておらず、無人コンビニのような無機質なシステムは作りたくありません。人と人との繋がりをつくる仕組みは必要で、人が集まりハブとなる場所はなくてはならないと思っています。いずれはまた男木島に住み、私自身が生活者となってそのような場所を作っていきたいとも考えています。

今、「かもめや」の社員がいくつかの島で全戸を訪問し、島の人にヒアリングをして、暮らしのニーズを拾い出す活動をしています。島の生活者が何に困っていて、どんなサービスがあると本当に便利になるのかを調査しています。究極的にはその解決策がドローンではなくてもいいと思っています。

テクノロジーは「穴埋め」でいいんです。また福武さんの言葉をまた借りると、私たちは今あるものに干渉するつもりは一切ありません。島でドローンの配送サービスを利用してくれている方々からは概ね好意的な意見をいただいていますが、島内には商店もあります。私たちはそのお仕事を邪魔しないようにしたいと思っています。島の人にとって、大切な場所ですから。ただ、その商店もやはり高齢の方が運営しているので、継続が難しくなった場合にきっと島の人が困るだろうなと思います。そんなとき、私たちの技術を穴埋めに使っていただけたら嬉しいなと思っています。


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株式会社かもめやについて
株式会社かもめやの公式サポーターチーム「かもめーず」のインタグラムはこちら

編集部コメント

テクノロジーは誰のため、何のためにあるのか?そして、どのように人間の生活を豊かにできるのか?という問いを深めてくれるような、示唆に富んだインタビューになりました。
瀬戸内海の多島美を邪魔しないドローンのデザインにこだわること。今あるものを大切に残しつつ、島の人が困らないように未来を見据えてテクノロジーで補っていくこと。“具体的な誰か”を思って設計されるデザインやテクノロジーからは、人の血が通ったようなあたたかさが感じられます。名前もコンセプトもユニークな「KamomeAir」「Donbra.co」「Smart.ONBA」はまさにそれを体現しているプロダクト。島の人も思わず笑顔になってしまうのではないでしょうか。
そして、溢れ出す小野さんの“島愛”!これまで260島ほどを訪れたというお話にとても驚きましたし、島での過ごし方も興味深かったです。こぼれ話ですが、小野さんは島巡りのとき、一泊して昼と夜両方の島の顔を見るようにしていたそうです。小野さんの統計上「昼間は島の人がいないことが多い」。島の外へ働きに出たり、漁に出ている地元の人は、夕方の船で島へ戻ってくるからです。小野さんは夕方以降の時間に地元の喫茶店やスナックに足を運び、島の人とたくさんお話をしたそうです。

今、小野さんと同じように島の生活や課題に興味がある人が「かもめや」やサポートスタッフ団体である「かもめーず」に続々と集まってきています。瀬戸内海を「KamomeAir」が羽ばたく姿、いつか見たいですね。

[プロフィール]

小野 正人●おの・まさと
株式会社かもめや
代表取締役

1977年生まれ、香川県出身。インターネットプロバイダや移動体通信事業者において、国内インターネット黎明期よりインフラエンジニアとして日本の情報通信網の普及に貢献。ライフワークである離島めぐりを続けるうち、僻地における交通・物流事情の悪さを目の当たりにし、2014年にドローンによる離島間物資輸送プロジェクトを着想する。2015年1月、香川県高松市において、日本初のドローンによる8キロ離れた離島に向けた海上物資輸送実証実験の成功を皮切りに、商用化に向け、物資輸送・危機管理・遠隔医療分野との横断的取り組みを進め、サービスの早期実現を目指している。2017年 総務省異能(Inno)vationプログラムにおいて、物流部門ジェネレーションアワード受賞。

(文:橋本安奈 写真:飯山福子 編集:金澤李花子)