イオンのDX戦略
イオンは2026年度までにデジタル売上高1兆円の達成を目標に掲げ、DXを急速に進めている小売業界のトップリーダー的存在。同社が2021年に発表した2025年度までの中期経営計画においても、「デジタル・AIが 競争の必須条件」を真っ先に掲げ、顧客接点のデジタル化を進めるべく、新たな収益源の創出にチャレンジしているのです。ここでは、成長戦略の筆頭として取り組む“デジタルシフトにおける2つの具体例”をご紹介します。
日本最大のオンラインマーケット「Green Beans」
同社は2019年11月に英国テクノロジー及びネットスーパー企業Ocado Group plc(本社所在地:ロンドン、CEO:ティム・スタイナー)の子会社Ocado Solutionsと日本国内における独占パートナーシップ契約を締結。その4年後となる2023年7月、千葉県千葉市緑区誉田町に日本初の顧客フルフィルメントセンター(以下、CFC)の稼働を開始。オンラインマーケット事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」を本格稼働させました。
顧客が注文してから商品が手元に届くまで、すべて同一のプラットフォームで稼働するエンドツーエンドのシステムで全体を最適化、注文を管理しています。注文が入ると、最大約1,000台のロボットが秒速4メートルで移動し、生鮮食品や加工食品、日用品など最大約5万品目の商品の中から6分間あたり50個の商品をピッキング。ピッキングもシステム化されており、商品がつぶれたり傷んだりしないよう重いものや固いものを先に、また常温、冷蔵、冷凍の順番でピックアップするようプログラムされています。そして注文された段階で、配送のルート計算がスタート。同じ地域の顧客がどれくらいの商品を購入し、どのように配車するのがもっとも効率的かをAIが最適化。そしてあらゆる工程において常温、冷蔵、冷凍の3温度帯管理を徹底し、顧客の手元へ高鮮度な商品の配達を実現しているのです。
最新テクノロジー・AIを活用したDXプラットフォームの強化
イオンは顧客の体験価値向上を目的として、2020年からDXを推進するITインフラを担う「イオンスマートテクノロジー株式会社(AST)」を設立。最新技術を活用してイオングループのデジタルシフト戦略を具現化するためのプラットフォーム構築や、ID統合などを進めてきました。一方、同グループには、IT機能を担う「イオンアイビス株式会社(AIBS)」があり、基幹系システムの更新と改善を進めてきました。そしてついに2024年12月、イオングループとしてあらゆるデジタルサービスを一体運営するためにASTにAIBSのIT事業を分割・統合した新生「イオンスマートテクノロジー株式会社」が誕生。新生ASTは、「グループ全体のDXを推進するため、デジタル人材育成の拠点としての役割も担っていく」としています。
レジ待ち不要のスマホ決済!U.S.M Holdingsのアプリ「Scan&Go ignica」
マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の共同持株会社であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが2020年から立ち上げた独自のデジタルブランドが、「ignica(イグニカ)」。この中で顧客向けサービス「Scan&Go」(スキャンアンドゴー )というアプリに注目が集まっています。
サービスの主軸は、自分のスマートフォンがレジになる「スマホ決済サービス」。買い物カゴに入れるタイミングでスキャンすると会計に反映され、買い物から決済までスマホひとつで完結。つまりセルフレジさえも並ぶ必要がないのです。また機能は決済だけにあらず、例えば購入商品の栄養バランスをグラフ化し、不足栄養素を補う商品をおすすめしてくれる「栄養バランス確認機能」は画期的なサービスの一つとして顧客満足度の向上に貢献しています。
ライフ「ビオラル」 おいしいプラントベースフードを生み出す技術ノウハウ
上場する食品スーパーの中で2023年度における営業収益で業界1位に輝いたのが、ライフコーポレーション。首都圏・近畿圏を中心に312店舗を展開するスーパーマーケットです。この成長要因として挙げられるのが、ライフが持つ健康系プライベートブランド「ビオラル」の好調ぶり。“健康食品はおいしくないのに価格が高い”という従来イメージを大きく覆すようなヒット商品を続々提供しているのです。
ここでは、ビオラルの商品の中でも特に注目すべきプラントベースフード(植物性食品)のおいしさを実現するためのテクノロジーについて思いを巡らせてみることにしました。
動物性原料不使用なのに、濃厚で香り高いカレールー
植物性原料だけを使い、多くの人にとって確かなおいしさを実現するためには、熟練された製造ノウハウが求められます。ポイントは職人技と工場での製造技術を融合させて作りあげる点にアリ。
本商品の開発は、製造元であるエム・トゥ・エムの洋食屋時代に培った技術ノウハウを活用し、五味(旨味、酸味、塩味、苦味、甘味)のバランス調整を徹底的に追求しながら、最適な原料と加工技術を組み合わせて生み出されているとのこと。
もう一つは、「BIO-RAL 国産野菜で作った野菜だし 5g×9袋(429円)」。塩や砂糖を使わず、野菜(玉ねぎ、人参、にんにく、セロリ)の旨味と香りを生かしたシンプルなだしパックです。実際に飲んでみると、あまりのおいしさに驚いてしまいました。原料の足し合わせに注力される時代の中で、引き算の発想から生まれた稀有(けう)な名品と言って過言ではないでしょう。
これらの商品について、ノウハウや技術をどのようにデータ蓄積しているかは非開示とのことですが、熟練職人の勘や技をスーパーのPB商品として具現化している背景には、デジタル技術なくしては考えられません。
最新デジタルやAIを活用したスーパーマーケットの進化を実感いただけたでしょうか? その事例はますます多種多様になりつつあります。今後私たちの日常がますます便利になり、想像できないようなおいしさや楽しさが登場してくることは間違いありません。今後も引き続き注目していきたいところですね!
<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。