デジタルアートと生き物が融合する、マクセル アクアパーク品川の展示空間
視覚や聴覚といった五感を通じ、エンターテインメント世界に浸って楽しむ体験型施設が近年続々と増えていますが、「マクセル アクアパーク品川」(東京都港区)はプロジェクションマッピングなどの先端技術を用いた演出で海の世界や生き物たちの魅力を伝える都市型水族館です。
2024年のクリスマスシーズンも「NAKED STAR AQUARIUM」(11月23日~12月25日)と題してイマーシブ体験を提供します。イマーシブとは、没入感があるという意味。企画・演出・制作を手掛けるのは、二条城や、東京、香港などでも開催された花の体感型アート展「NAKED FLOWERS」やAI(人工知能)が生み出す音楽体験「HUMANOID DJ」、「G7広島サミット 社交夕食会」などの演出を手掛けたNAKED(ネイキッド)。
NAKED STAR AQUARIUMでは、星空の中で輝く魚たちや、ツリーに触れるとオーナメントが飾りつけられるクリスマスツリーなど見て触って楽しめる仕掛けが用意されています。クラゲが漂う大空間では幻想的な光のほかに、音の演出も。生演奏と掛け合わせるなど、デジタルとリアルの融合を体験できます。また、目玉のドルフィンパフォーマンスではダイナミックな音楽に乗せたイルカたちのパフォーマンスをあえてMCを入れずに展開。深い没入感を演出します。
ペンギンの個体識別システムを水族館で実証実験、手描き入力した模様から類似度を算定
マクセル アクアパーク品川と並び東京で人気の水族館、サンシャイン水族館(東京都豊島区)。ここでの人気者は「空飛ぶペンギン」です。頭上に水槽が設置され、羽を広げて自在に泳ぐペンギンを眺めることができる人気のコーナー。サンシャイン水族館のペンギンは個体数が多く、どれも同じに見えてしまうために個別のペンギンを愛でるという体験はしづらい面がありました。
しかし最近の動物園や水族館のトレンドは、「個」を発信して「推し」を見つけてもらうことで、愛着を持ってもらうこと。ひいてはそれを生物への理解や保全へとつなげていく取り組みが始まっています。
サンシャイン水族館では、2024年10月に明治大学と共同でペンギン個体識別システム「ペンさく」の一般客型の実証実験を行いました。「ペンさく」は、スマートフォン画面上のペンギンのイラストに、観察したい個体の特徴となるお腹の模様を塗り絵感覚で入力することで個体識別を行い、類似度が高い順に検索結果が表示されるしくみで日本初のサービスです。実現できたのは、ペンギンを至近距離で観察できるサンシャイン水族館ならではの環境があったからとしています。従来の画像識別とは違い、観察をしながら能動的に特徴を捉えることで、ペンギンに愛着を持ってもらったり、個体を覚えてもらったりという狙いがあるそうです。
同システムを開発した明治大学総合数理学部の中村聡史研究室は、ペンさくは将来的なサービス化により日本全国・世界各地の水族館への展開を見据えたもので、個体の特徴や性格といった詳しい情報も提供していくことができるようになるそうで、「野生環境下における生態調査へ応用することで野生生物の詳細な行動調査が可能となるなど、研究分野への貢献も期待できる」としています。
サンシャイン水族館の飼育スタッフ・ 芦刈治将さんも「もう一歩、もう少し、このペンギンのことを伝えたい。日々、飼育スタッフはそんな思いを持ちながら、お客様の発見の手助けをしています。ペンギンは、観察をしていると色々な疑問が湧いてきます。その疑問に少しでもアプローチできるのが、このペンさくだと感じました」と話し、「自然界のペンギンの個体識別も可能となり、生態や行動の調査などにも活用できれば、絶滅が危惧されている生き物を救う一助になれるのではないか、とも思っています」と期待を寄せています。
生物・業務管理システム「ハマスイ+」桂浜水族館のDX
エサの準備や給餌、生物の成長把握や飼育環境の整備、来館者向けのガイドやイベント企画など水族館業務は多岐にわたりますが、DX化も進んでいます。
古参のファンが多いことでも知られる高知県の桂浜水族館(高知県高知市)は兵庫ベンダ工業株式会社海洋水産技術研究所(兵庫県姫路市)、リベラ株式会社(東京都渋谷区)と共同で水族館業務のDX化を目的とした生物・業務管理システムを構築し、それらを応用したサービス「ハマスイ+」を公開しました。
生物飼育にはもちろん責任を持って人がやらなければならない業務がありますが、デジタル化できるものもあります。まずはこれまで人力で行ってきたデータ入力、給餌や監視など夜間業務の負担軽減から着手し、館内スタッフの行動把握、生物の成育把握、水質データの自動取得、遠隔給餌、24時間リアルタイム監視ができるシステムを構築しました。
また、ファン向けに新サービスサイト「ハマスイ+」を立ち上げ、スタッフが歩いている場所をリアルタイムで可視化したり、遠隔からの餌やり体験「オンライン餌やり(回数制限あり)」、特典映像などを用意。こちらもインタラクティブな体験から、実際に足を運んでもらうなどリアルな体験へとつなげたい考えです。
沖縄美ら海水族館公式アプリ 美ら海アプリに「かざすAI図鑑」機能が追加!
沖縄の人気観光スポット「沖縄美ら海水族館」(沖縄県国頭郡本部町)でもAIテックを活用した取り組みが始まっています。公式アプリ「美ら海アプリ」に、「かざすAI図鑑」が搭載され、スマートフォン等の端末のカメラを生物にかざすだけで、生物名と解説が表示されます。
水族館で認識した生物は自動的に記録でき、自分だけの美ら海図鑑を作ることができます。生物は登録した時系列で見返せるほか、系統樹式があり種類別にも表示。生き物のつながりを知りながら、フルコンプリートする楽しみも。帰宅後もゆっくり見返すことができ、また新たな楽しみ方が広がりそうです。ちなみにこのAI図鑑機能、マクセル アクアパーク品川、アクアワールド茨城県大洗水族館、市立しものせき水族館 海響館、ネオパークおきなわでも展開。各施設の飼育員さんが解説を行っており、それぞれ見比べるのもいいかもしれません。
リアルな体験の場である水族館も、DXによって新しい価値創造の舞台となっています。働き方改革だけでなく、新たなファンや楽しみ方を増やしている水族館テック、今後遊びに行ったときにぜひ注目してみてください。
有馬美穂
ライター・エディター。2004年に早稲田大学第一文学部を卒業。『VERY』等、さまざまな雑誌媒体で女性のライフスタイル、健康、教育、ジェンダー、ファッションについての取材執筆・構成を行う。