美術館で歴史上の偉人との対話
現在、アート業界でのAIの利用場面が増えています。特に今後の期待が高まるのが、画像認識を活用した真贋判定です。鑑定者のバイアスがかからずに絵を分析できることはAIの強みであり、今後さらにアート業界に影響を与えると考えられています。また、美術館への来館を活発化するためにAIを活用することで、来館者の行動パターンやウェブサイトの利用データを用いた、サービスの改善・向上への寄与も期待されています。
このようななか、アート業界における新たなAIの活用法として、いま注目されていることの一つが、歴史上の芸術家との「対話サービス」です。従来は主に作品鑑賞の場であった美術館は、AIの活用を通して新たな体験の場へと変わる可能性があるのです。
今回は、フランスのオルセー美術館と、アメリカのサルバトール・ダリ美術館における、AIを使って歴史上の芸術家と対話できるサービスを紹介します。
ゴッホと話せる…仏オルセー美術館
印象派の絵画を数多く所蔵することで知られるフランスのオルセー美術館では、後期印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホと対話できるサービスが展示されました。
ゴッホは亡くなる最後の70日間に、最も多くの作品を残したといわれています。ゴッホ最後の70日間に焦点を当てた特別展が2023年に開かれた際、美術館の一角に、ゴッホと対話できるコーナーが展示されました。このコーナーで使われているアプリケーションは、フランスのスタートアップ「Jumbo Mana」社が開発した生成AI「Bonjour Vincent(ボンジュール・ヴィンセント)」です。
ゴッホが書いた手紙のデータをもとに訓練され、さらにはゴッホ専門家の監修で当時の性格を再現したAIゴッホが、訪れる人の質問に答えます。好きな色や、ゴッホが自分で耳の一部を切り落とした「耳切り事件」に関する質問など、彼の人生や作品についての対話が可能です。固有名詞はまだ学習段階ではあるものの、来館者との対話を通して、さらなる回答精度の向上が期待されています。
ダリの声が復活…米ダリ美術館
サルバドール・ダリは、シュルレアリスムで有名な、20世紀を代表する芸術家です。アメリカ・フロリダ州のセントピーターズパークにあるサルバドール・ダリ美術館では、AIダリと対話できるコーナーがあります。
美術館に訪れた人はダリの代表作、通信機器とプラスチックでできたロブスターが組み合わされた「ロブスター電話」のレプリカを手に取ることでAIダリと対話できます。
このアプリケーションはダリ美術館と、Goodby Silverstein & Partners (GS&P)がコラボレーションし、美術館にコレクションされている音声記録と著作物のアーカイブを利用して開発しました。AIダリは、ダリのユーモアある文章やインタビューデータをもとに訓練されています。来館者が投げかけるさまざまな質問に対して、ダリの音声データを利用し、ダリの話し方を模倣して答えます。
20世紀の巨匠と対話できるこのアプリケーションは、来館者にとって新たな体験となるでしょう。
偉人と気軽に話せる!? スマホを使った最新技術
美術館まで足を運ばずとも、自宅にいながらスマートフォンなど身近なものを使って気軽に偉人たちの考えに触れられるサービスもあります。ここからは、リアルタイムな対話に特化した生成AIによって、現代によみがえった偉人たちと個人的な話ができるサービスについて紹介していきます。
もし、歴史上の人物と友達のようにチャットで悩みを相談したら、どのような答えを返してくれるのでしょうか。偉業を成し遂げた人物たちの言葉には、現代を生きる私たちにも通じる考え方や学びがあります。
四聖人ソクラテスに人生相談
名古屋大学の岩田直也准教授、桜美林大学の田中一孝准教授、国立情報学研究所の小川潤特任研究員ら研究チームは、西洋古典学に特化した生成AIシステム「ヒューマニテクスト(Humanitext Antiqua)」を開発しました。ヒューマニテクストは、西洋古典のデータベースを参考に、AIが質問に対して回答するシステムです。
データベースには四聖人ソクラテスをはじめとして、プラトンやアリストテレス、ヘロドトスなどの作品が含まれており、古代ギリシャ・ローマ時代の偉人たちとの対話を擬似体験することも可能です。
ヒューマニテクストは、回答の最後に典拠や引用元の原文を明記しており、実在する作品にもとづいて回答する点が特徴です。AIの偽情報の生成課題に対処したこのシステムは、今後、学術研究や学習ツール、創作のインスピレーションとしての活用が期待されています。
いまを生きるあなたの悩みをヒューマニテクストで相談することで、西洋古典をもとにした素晴らしい助言をしてもらえるでしょう。
聖徳太子、太宰治、レオナルド・ダ・ヴィンチ…偉人たちと友達感覚で会話する
歴史上の偉人と友達感覚でチャットができるサービスもあります。「語り部チャット」は、株式会社Creatopiaがリリースした、偉人とチャットができるアプリケーションです。聖徳太子(厩戸王)や織田信長、太宰治、ピカソ、レオナルド・ダ・ヴィンチなど、幅広い時代の偉人たち100人以上と気軽に会話ができます。偉人たちの個性的な人柄が反映されているため、飽きることなく楽しめます。
会話を通して、偉人たちの人間性や時代背景に触れられるでしょう。歴史上の人物について記憶に残りやすいと、現役の学生からも大きな反響を得ています。偉人たちを身近に感じ、楽しみながら歴史への理解や関心を深めることが期待できます。
歴史理解を深めることにも役立つAI技術の今後
今回は、歴史上の人物と対話できるテクノロジーをいくつか紹介しました。データをもとに再現された偉人との対話体験は、偉人たちの人間性や時代背景に触れられる、新たな体験となるでしょう。会話や人生相談・作品への質問などを通して歴史に対する関心を深め、過去の偉人を身近に感じることにもつながります。
ドイツの鉄血宰相ビスマルクは「賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残しています。先人たちのさまざまな経験を聴くことで、あなたの人生がより豊かになるかもしれません。生成AIで現代によみがえった歴史上の偉人たちと対話をしてみてはいかがでしょうか。
<執筆>
株式会社DreamLab