「AIエージェント」とは?
AIエージェントは、複数のAIモデルを統合し、特定の目標を達成するために必要なタスクを自動で計画・実行するソフトウェアプログラムです。例えば、ユーザーが、「○○をしたい」という目標を設定するだけで、タスクの洗い出し、実行順序の計画、各タスクの実行を自律的に行い、目標達成までのプロセスを遂行します。コンテンツ生成を目的とした従来の生成AIとは異なり、必要な情報を自ら収集してタスクを実行するため、ユーザーは細かな指示をする必要がなく、業務を効率的に進めることができます。
AIエージェントの3つの特徴
自律的な活動ができる
最大の特徴は、自律的に判断しながら目標を達成すること。AIエージェントは、ユーザーが設定した目標に向かって、タスクを細かく分解し、その実行順序を計画。各タスクを実行していくなか、必要に応じて、自ら情報収集やプログラム生成なども行います。そのため、ユーザーが介入することなく、複雑なタスクを効率的に処理することが可能です。
学習能力や修正能力がある
AIエージェントは、過去の経験やデータから学習し、パフォーマンスを向上する能力を持っています。そのため、試行錯誤を繰り返し、目標を達成するための最適な行動を導き出すことができます。また、タスクを実行していくうえで、修正すべき点が見つかれば、課題解決のための新たなタスクを試行。その結果を確認しながら、自己修正を行います。
複数のエージェントが連携できる
AIエージェントは、単独行動だけでなく、複数のAIエージェントが協力することもできます。マルチエージェントシステム(MAS)を使えば、個々のエージェントでは困難だった課題が、エージェント間の相互作用によって達成可能に。リーダーやアナリスト、マーケティングなど、エージェントごとに役割を与えることで、一連のタスクをチーム全体で効率的にこなします。
大手テック企業による「AIエージェント」の最新事例
Salesforceの「Agentforce」が国内提供開始、CMSとシームレスに連携
米・Salesforce(セールスフォース)は、2024年10月に、AIエージェント「Agentforce(エージェントフォース)」を日本で提供スタート。Agentforceは、顧客管理システム(CRM)とシームレスに連携し、セールスやマーケティング、コマース領域におけるタスクを自律的に実行するAIエージェントです。これにより、従来手作業で行っていた多くの業務が効率化され、従業員がより戦略的な仕事に集中できるようになります。
Agentforceの具体的な機能としては、例えばセールス領域では顧客の購入履歴や行動データを基にしたリードの優先順位付けやフォローアップメールの自動作成、マーケティングではキャンペーンのパーソナライズやパフォーマンス分析、コマースでは在庫状況に応じた価格調整やパーソナライズされたおすすめ商品の提示などが挙げられます。
また、個々にパーソナライズされたアシスタント型のAIエージェントも組み込まれており、データを収集・分析してタスクを実行することで、ユーザーの業務をサポート。さらに、コミュニケーションツール「Slack」と連携することができるため、AIエージェントを利用して、メール作成やコンテンツ生成などを自動化できるようになります。
現在、国内提供されているものは、構築済みの顧客サービス向けAIエージェントAgentforce Service Agentなど。従来のチャットボットとは異なり、事前にプログラムされたシナリオがなくても、自然言語で正確な会話ができる点が特徴です。このほか、企業のニーズに合わせたAIエージェントをローコードでカスタマイズできる「Agent Builder」も利用可能です。
Microsoft「Copilot Studio」でAIエージェントの構築が可能に
米・Microsoft(マイクロソフト)は、生成AIアシスタント「Copilot(コパイロット)」を、Microsoft 365アプリケーションに統合した「Microsoft 365 Copilot」をリリース。WordやExcel、PowerPointなどと連携し、文章作成やデータ分析、コードの補完、図表やプレゼンテーション資料の作成など、ユーザーの指示に従って日常的な業務をサポートしてくれます。
2024年10月には、最新アップデートを公開し、AIエージェントを構築できる新機能の提供を発表。11月中にパブリックプレビュー版(新しいソフトウェアやサービスが正式リリースされる前に、限定的なユーザーや一般の利用者が試用できるように公開されるバージョンのこと)がリリースされる予定です。Microsoft 365 CopilotをカスタマイズできるAIプラットフォーム「Copilot Studio(コパイロットスタジオ)」で、企業のニーズに応じたAIエージェントを作成できる新機能で、チーム全体の業務支援が期待できます。
また、業務の効率化を支援するSaaS型ツール「Dynamics 365(ダイナミクス365)」にも、セールスやカスタマーサービス、サプライチェーンといった10種類の新しいAIエージェントを追加。2025年には、幅広い業務に対応すべく、より多くのエージェントが提供される予定です。
「Gemini」に注力するGoogle、新たなAIエージェントを開発中
米・Google(グーグル)の生成AIアシスタント「Gemini(ジェミニ)」は、文章や画像、音声など、さまざまな情報を組み合わせた高度な判断ができることが特徴です。「Google Workspace(グーグルワークスペース)」と連携すれば、Gmailやドキュメント、スプレッドシート内の情報を自ら参照し、メールの作成やプレゼンテーションの資料作成などの業務をサポートしてくれます。
2024年10月には、Googleマップに「Gemini」を搭載することを発表。ユーザーの検索の手間が減り、知りたい情報をすぐに得ることができそうです。また、同年5月に本国で行われた開発者会議「Google I/O 2024」では、Geminiと自社ブラウザ「Chrome」が連携する新たなAIエージェントを開発していることを示唆。早ければ、2024年中にプレビュー版が公開されるのではと期待されています。
開発が進む「AIエージェント」の課題と今後
ユーザーの指示が必要な従来の生成AIとは異なり、自己判断で次のステップに進むことができるAIエージェント。ビジネスシーンにおいて、業務の効率化や生産性の向上、作業の負担軽減などのメリットがあり、今後も大きなニーズが期待される新しい技術です。
ただし、発展途上の技術のため、実用化にはいくつかの課題もあります。AIエージェントは、誤った情報を生成するリスクがあり、不正確な情報をもとに作業を進めてしまうと、目的とは異なる結果になる可能性があります。また、情報保護に関する問題もあり、十分なセキュリティ対策が求められています。
現在のAIエージェントは、あくまでサポートツールとして使われ、最終的な判断や結果の確認には、ユーザーの関与が必須。今後、研究が進み、これらの課題が解決されれば、人間と同じように業務を担う“AI社員”としての役割が期待できそうです。
文/渡邊晃子
フリーライター。1983年生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て、2010年からフリーランスのライ
ターとして活動。WEB媒体を中心に、エンタメ、ライフスタイル、テック、子育てなどの分野で
執筆を行う。