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変わる歴史…AIとGoogleが主役に 2024年の「ノーベル賞」

2024.11.15(最終更新日:2024.11.15)

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2024年10月7日の生理学・医学賞を手始めに、今年もノーベル賞が発表されました。授賞式は12月10日。受賞者らのスピーチではなにが語られるのでしょうか。今年のノーベル賞では、特にAI関連の受賞が目立っています。これらの結果に、研究業界の人々は衝撃を受けました。ノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルの存命時(1833年〜1896年)には、コンピューター化学という学問自体が存在しなかったため、ノーベル賞に「コンピューター化学賞」や「情報科学賞」といった類いの賞は現状ありません。受賞対象分野にすらなっていないコンピューター化学の手法におけるAIの機械学習が、ノーベル物理学賞と化学賞を獲ったのは異例のことなのです。さらに、受賞者5人中3人がGoogleの関係者であることにも注目が集まっています。今回の授与が示唆するものとは? 今年のAI関連の受賞内容を振り返ってみましょう。

AIがノーベル賞の対象になったのは、今回が初めて

ノーベル賞120年余りの歴史のなかで、AIの研究に関してノーベル賞が贈られたのは初めてのことです。これまでノーベル物理学賞は、多くの年で機械装置を製造販売している企業が受賞してきました。しかし、2024年はGoogleなどソフトウェア開発企業出身者が3人受賞する結果となったのです。ノーベル賞にはまだ情報分野が存在しないため、物理学賞に当てはめられたわけですが、それに対しての驚きの声も聞かれています。

2024年は革命の年

そもそもノーベル賞とは、スウェーデンの発明家アルフレッド・ノーベルの遺言が発端となり創設された賞です。ノーベルは自身の遺産をもとに「人類に最大の貢献をもたらした人々」へ栄誉を与える賞をつくりました。創設時は物理学、化学、生理学と医学、文学、平和の各5分野においての功績を評価する者でしたが、のちに、経済学分野も追加され、現在では6つの賞があります。

AIの研究が始まって70年。とうとう「世界で最も権威のある賞」ともいえるノーベル賞を取るまでになったことは、AIがもたらした社会変革の影響の大きさを考えると、後世では当然の結果とされるかもしれません。今回、AIや機械学習もノーベル賞を受賞できるという認識が世界で共有されることとなりました。今年受賞に至ったのは、AIがいよいよ次元の異なる革命を起こしたからにほかなりません。

物理学賞は「機械学習の基礎原理の発見・発明」へ

今回の物理学賞は、アメリカのプリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授とカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授が2分の1ずつ受賞する結果となりました。人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明が受賞理由です。

ヒントン名誉教授はニューラルネットワークの研究を行い、AIの父と呼ばれるAIの第一人者の1人です。ホップフィールド教授は、ホップフィールド・ネットワークとも呼ばれる連想型ニューラルネットワークを発明した人物。そもそもニューラルネットワークというのは、生物の学習メカニズムを模倣した機械学習の手法のこと。

ヒントン名誉教授は、ホップフィールド・ネットワークを基にしてボルツマンマシンを考案しました。データ中における特徴的な要素を学習するこの手法により、機械学習が爆発的に飛躍発展する基礎となったとされています。また、ヒントン名誉教授は、AIの急激な進化に対して警鐘を鳴らしており、今後どのように倫理的な仕組みを作っていけるかという点でも、今回の受賞はマイルストーンとなるはずです。

化学賞は「コンピューターによるタンパク質のデザインと構造予測」へ

化学賞では、アメリカ、ワシントン大学のデイビッド・ベイカー教授と、Googleのグループ会社である「DeepMind」社のデミス・ハサビスCEO、研究チームのジョン・ジャンパーの3氏に贈られました。ベイカー教授は、AIにより新たなタンパク質を設計することに成功。ハサビス氏とジャンパー氏は、アルファフォールドというAIモデルを開発し、これまで研究者たちが特定してきた2億個にのぼるタンパク質の構造を予測することに成功したのです。タンパク質がなければ生命は存在できず、タンパク質の構造を予測・独自の設計ができるようになったことは、人類の最大の利益であると評価されています。

Google、ノーベル賞を席巻…先端科学研究における産業界の役割が増大

アルファフォールドによりタンパク質の構造が予測・設計できるようになり、たとえば創薬の場面でも、実験をして調べなくても素早くコストをかけずに研究が行えるようになりました。すでにAI研究者たちだけのものではなくなり、生物を研究している人が実際に使用している段階になっています。

ハサビス氏は2010年にDeepMind社を立ち上げ、2014年にGoogleの親会社、アルファベットの傘下に入りました。2015年には囲碁コンピューターソフト、アルファゴーを発表し、世界トップクラスの棋士に勝利したことを記憶されている人も多いかもしれません。技術の飛躍発展には、学術界と産業界が協力していくことがますます必要になりそうです。

日本企業では、いまだ外との交流をよしとせず自前で創り上げようとする気風が残っており、アメリカのようにアカデミアと企業が一体的に研究を進める雰囲気とはまだ違い、課題が感じられています。AIにおける競争においても、官民上げて協力・協創関係を築くことが、今後日本が勝っていくために必要になりそうです。

21世紀の科学を暗示?

AIは今後も発展し続け、画像診断技術の精度向上により疾患検出が容易になったり、自動運転や翻訳サービスが高度化したりするなど、私たちの生活にもさまざまな恩恵をもたらすでしょう。第4次AIブームといわれる現在、ますます人間の役割がAIに代替されていき、各分野の研究が飛躍することは確実です。2027年に生成系AIの市場規模も1,200億ドルにのぼるという試算もあります。

12月10日の授賞式では受賞者たちから一体なにが語られるのか、注目したいところです。


<著者>
有馬美穂

ライター。2004年早稲田大学卒業。『VERY』をはじめ、さまざまな雑誌媒体等で主にライフスタイル、女性の健康、教育、ジェンダー、ファッションについての取材執筆を行う。