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「Save the Sweet Potato」代表、株式会社welzoの後藤基文さん(提供:welzo)

サツマイモの危機を救え!九州の農業課題を解決する最新イノベーション事例

2024.10.29(最終更新日:2024.10.29)

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「Save the Sweet Potato」代表、株式会社welzoの後藤基文さん(提供:welzo)

2024年10月上旬、福岡・博多で開催されたあるイベントに参加をしてまいりました。その主旨は、「日本のサツマイモの大ピンチを救え!」というもの。えっ、いつも食べているサツマイモに何か問題が起こっているの?と当初は疑問でいっぱいでしたが、実態を調べていくとその状況は深刻であることがわかりました。実は今、サツマイモの一大産地である鹿児島・宮崎を中心にサツマイモ特有の病気「基腐病(もとぐされびょう)」が蔓延しており、関わる産業が大打撃を受けているというのです。

そこで今回は、サツマイモの一大産地である南九州を基点として2023年に発足したプロジェクト「Save the Sweet Potato」を取り上げ、最新の取り組みや開発・研究内容をご紹介。合わせて現代の農業課題を解決するために、九州を中心に産学連携で推進されている農業技術の最新事例をお届けしていきたいと思います。

サツマイモの大ピンチを救うために発足した「Save the Sweet Potato」

サツマイモ畑の様子(提供:welzo)

日本におけるサツマイモの生産量は1位が鹿児島県、4位が宮崎であり、九州のサツマイモの半分は焼酎の原料です。つまり基腐病蔓延によって大打撃をくらっているサツマイモ産業の中で特に影響が大きいのが、サツマイモを原料にして製造されるイモ焼酎ということに。最も影響を受けた2021年には焼酎用サツマイモの生産量の47%が失われ、300億円もの市場が失われたそう。この事態を解決するためには、何よりも基腐病を克服し、サツマイモ自体の生産量を増やす取り組みが重要となります。

対策の一つとしてはじまったのが、DNA解析によって基腐病のかかりやすさを診断する土壌分析。サツマイモ基腐病は土壌や植物のなかに潜伏していて発症するまでに時間がかかり、その原因となる基腐病の菌はDNA分析をしても検出しにくいという特徴があります。この問題に対して、京都大学発のベンチャー企業であるサンリット・シードリングス株式会社は、その病原菌だけを分析するのではなく、さまざまな微生物の出現頻度を計算することによって、その土壌がどのような微生物環境(ネットワーク)にあるのかを分析・診断するという手法を確立。これは、サツマイモ基腐病の病原菌そのものを見るのではなく、その土壌全体を俯瞰して環境分析するということになります。

鹿児島県で採取した土壌微生物の培養株コレクション(提供:サンリット・シードリングス)

実際に鹿児島県内の圃場調査では、この分析と合わせて生産者の方へのアンケート調査を実施。「この圃場には有害なネットワークがあり、有用なネットワークがない。ということは基腐病が発生する可能性が高い」という判断ができるようになり、非常に高い精度で発病リスクを判定することが可能になってきたと言います。

現時点では実証実験段階であるものの、今後は土壌の簡易診断キットの提供や、有用微生物の資材化による土壌改良のアプローチによって、基腐病を含めた病害予防の実用化が期待されています。

現在九州のみならず日本の農業が抱えている課題は年々深刻化。高齢化や後継者不足による耕作放棄地の増加や経営問題、農産物の効率的な生産や安定供給、価格変動への対策など、早急に解決していく課題が山積み状態になっています。そこでここからは、今回のサツマイモをきっかけとして、九州において進みつつある農業技術研究の最新事例をご紹介します。

空気中の窒素を利用した新しい肥料の製造技術「プラズマグリーン農業」

welzo研究農場 新ハウス(福岡県福岡市西区今津)(提供:welzo)

ここで紹介するのは、持続可能な農業への新しいアプローチである「プラズマグリーン農業技術」という画期的な肥料製造の技術について。現在国内で使用される農業用肥料は、ほぼ全てを海外に依存している深刻な状況に陥っています。今後予想される世界人口の増加や食糧不足に並んで肥料原料の不足が表面化し、農業分野において深刻な影響を及ぼすと言われています。この課題を解決すべく、福岡県福岡市に本社を置く農業・園芸のイノベーションカンパニーであるwelzoと九州大学による共同研究がはじまっています。

具体的には、九州大学大学院システム情報科学研究院 プラズマナノ界面工学センターの古閑一憲教授による“プラズマ技術”を応用することで、国産でありながら、環境にやさしいクリーンな肥料製造が可能になるというもの。プラズマとは、固体、液体、気体にならぶ「物質の第4の状態」のこと。私たちの身の回りから宇宙に至るまでさまざまなところに存在していて、蛍光灯や半導体製造技術、人工衛星のエンジンなどに活用されています。プラズマの中では室温程度で化学反応を高い活性で起こすことができるため、空気中でプラズマを発生させることで、空気を原料にした窒素肥料を製造することが可能になるのです。

また両者は2022年より、少子高齢化による農業従事者の減少や安定的な食糧確保などの課題解決に向けて、労働力軽減と安定的な供給を可能にするスマート農業として、「キュウリの自動栽培システム」の開発を進めています。福岡市西区にあるwelzo研究農場では現在3つのハウス内でキュウリの実験栽培を実施。換気や日照のコントロール、水やりや施肥、暖房機やCO2発生機の稼働などを可能な限り自動化させることで、作業者1人で1日100キロ(千本)の生産が可能となっています。今後はこの環境制御技術を施設園芸全般の作物を対象として活用することを目指し、実証実験が進められています。

環境制御技術を活用したハウス内の様子(提供:welzo)

農産物の安定的な生産はもちろんのこと、これからの時代において農業従事者が無理なく生産活動を行えるための研究開発は本格的に進んでいます。そして農産物栽培における多くの工程をAIに託す時代はもう目の前に……。小規模農家の多い日本において、これらの技術がどう浸透普及していくか、今後もしっかり注目していくべき分野であることは間違いないでしょう。


<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。