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自分の体を“見える化”する健康トラッカーのイノベーションと未来

2024.10.28(最終更新日:2024.10.28)

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自分の健康状態、どれくらい把握できていますか?

年に1回の健康診断や人間ドックは重要ですが、それだけで日常の健康状態がすべて把握できるわけではありません。たとえば、病院で血圧を測ると緊張して普段より高い値が出てしまう白衣性高血圧もあります。また、不整脈の一種である心房細動には、日常的には正常な状態なのに、時々発作が起きるというケースもあります。その場合、病院での心電図検査の際に発作が起きていなければ異常を検出できません。

こうした課題を補うイノベーションとして、健康トラッカーへの注目が高まっています。健康トラッカーとは各種の健康データを日常的に計測、記録するデバイスを指します。代表的なものにはスマートウォッチ、ウェアラブルバンドがあります。時計型の手首につけるデバイスで、製品ごとに違いはありますが、心拍数、ストレスレベル、血中酸素濃度、活動量、皮膚温度、睡眠の質、心電図、血圧などを測定することができます。

医療機器レベルで使える製品は一部の高価格帯端末に限られますが、低中価格帯端末でも自分の身体の変化に気づくきっかけを与えてくれます。アラフィフの筆者も健康が気になる年齢なので、お酒を飲み過ぎた日の翌日に睡眠の質が悪かったと反省したり、外出時にちょっと心拍数が上がる程度に早歩きしたり、ストレスレベルが高い時は散歩したりと、毎日スマートウォッチを使って生活改善に取り組んでいます。今回は、健康トラッカーの最前線についてお伝えします。

より小さく、安く、そして多機能に…スマートリングも登場

かつてのスマートウォッチは大きく重たく無骨、すぐに電池が切れてしまう、健康データ測定の精度が低い、高価という欠点が目立ちましたが、近年では技術の発展に伴い大きく進化しています。普通の時計とさほど変わらないほど薄くコンパクトになり、稼働時間も伸びました。医療機器の認定を受ける端末もあるなど精度も高まっています。価格も安いものならば3,000円代から購入できるほどお手頃になりました。

さらに、腕時計型のデバイスよりもっと自然な装着感のある指輪型の健康トラッカーも登場しています。これらのスマートリングと呼ばれるデバイスは、スマートウォッチやスマートリングとほぼ同じ種類のデータを測定できます。腕時計型のデバイスでは、24時間装着し続けることが前提なので、バンドが肌にあうかどうかが。シリコン素材であれ金属素材であれ、合わない人はかぶれてしまうこともあります。また、窮屈さを感じて長時間装着できない人もいるでしょう。そうしたケースではスマートリングのほうが有効でしょう。

また、健康トラッカーはスマートフォンと連携して記録を残せる点も長所です。ノートに取らなくても、過去の記録をチェックすることができるわけです。連携できる健康トラッカーは複数あります。代表的なものは体重計でしょうか。スマートフォンと連携するIoT(モノのインターネット)体重計を使えば、スマートウォッチやスマートリングで収集した健康データと体重計のデータを1つのアプリで統合的に管理できてとても便利です。ここからは注目されている健康トラッカーの種類を紹介していきます。

血糖値測定デバイス

今、注目を集める健康トラッカーが血糖値測定デバイスです。米製薬・ヘルスケア大手アボットの「FreeStyleリブレ」は大きめのボタンのような形の機器ですが、腕に貼り付けておくと24時間リアルタイムで血糖値を測定します。1度貼り付ければ2週間はそのまま装着し続けて利用できます。糖尿病患者のための医療機器として使われているほか、最近ではダイエット目的で利用する人も増えています。何をどれだけ食べたら、どのぐらい血糖値が上がるのか。どんな運動をすれば血糖値がどう変化するのか。こうした情報がすべて可視化されます。ダイエットの第一歩は体重計に乗ることだと言われます。日々の体重の変化は、食生活を改めるための情報となるからです。血糖値測定端末はもう一歩進んで、体重に変化が生じる前、血糖値のレベルから食生活をあらためるきっかけを与えてくれるというわけです。

FreeStyleリブレ® 2(提供:アボット)

スマートトイレ

劇的な進化を続ける健康トラッカーですが、今後さらなる進化が期待されています。

注目分野の1つにスマートトイレがあります。尿や便には健康に関する多くのデータが詰まっています。病院ではなく、自宅で簡単にこの情報を取得、分析しようという試みです。仏ヘルスケア端末メーカーのWithingsは「U-Scan」という尿検査端末を開発しました。便器の中に設置すると、尿から取得した情報を検出します。現在は栄養や水分摂取の状態を測定する製品、ホルモンの変動から月経周期予測や排卵予測を行う製品があります。

大手トイレメーカーのTOTOも2021年の米展示会CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、ウェルネストイレを発表しました。普段通りにトイレを使うだけで、健康データを収集し、どのように改善すべきかを利用者に提案するというプロダクトです。ただ、コンセプトモデルにとどまっており、実用化にはもう少し時間がかかりそうです。

CES2021 プレゼンテーション動画より(提供:TOTO)

期待される非侵襲型の血糖値測定…課題も

未来の健康トラッカーで特に注目を集める分野がリアルタイムの血圧測定と非侵襲型の血糖値測定です。リアルタイムの血圧測定は光学センサーで血流を測定する手法が用いられていますが、精度が低いことが欠点です。日本オムロン、中国ファーウェイは一般的な血圧計と同じ、カフで加圧して血圧を測定できるスマートウォッチを発売しています。いずれも医療機器認証を受けており精度の高さは保証されていますが、カフがついている分、装着感は悪いのが難点。また、測定時には安静にし、手首を心臓の位置に上げて固定する必要があります。いつでも血圧計を装着している状態ですが、測定には1~2分の安静が必要で、リアルタイム測定とはいきません。

ファーウェイは今年、新たな血圧測定機能付きスマートウォッチ「ファーウェイ WATCH D2」を発売。光学式と加圧式の2つの測定法を導入し、日に数回加圧式で測定することで、そのデータによって光学式測定の結果を補正し、精度をあげるという手法です。「それなりの精度での、24時間リアルタイム血圧測定」は今まで実現していなかっただけに、注目のガジェットとなります。

ファーウェイが最初に発売した「HUAWEI WATCH D ウェアラブル血圧計」 (提供:ファーウェイ)

もう一つ、長年期待され続けているのが非侵襲型の血糖値測定です。先に紹介した「FreeStyleリブレ」はボタン型端末に小さな針がついていますし、端末は2週間ごとの使い捨てです。もし、スマートウォッチなどの一般的な健康トラッカーで血糖値を測定できれば大きな進化となります。国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の糖尿病患者数は2021年時点で5億3,700万人にまで増加しました。この数はさらに増え続け、2045年には7億8、300万人に達するとの見通しです。こうした人々に加え、ダイエット需要も含めると、非侵襲型の血糖値測定は巨大マーケットです。

米アップルや韓国サムスンといったビッグテックは長年、研究開発を続けてきました。「もうまもなく登場」という噂が流れたことも一度や二度ではありません。今年もサムスンの新型スマートウォッチに血糖値測定機能が搭載されるとのリークが流れましたが、実現しませんでした。血圧同様、光学センサーを用いて血糖値が測定できるという触れ込みの健康トラッカーもいくつか発売されていますが、いずれも大手ブランドのものではなく、正確性は疑問視されています。

光学センサーによる血糖値測定は誤差が大きいことに加え、検査ミスによる弊害が大きいことが課題です。米食品医薬品局(FDA)は今年2月、現在発売されている非侵襲型の血糖値測定機器をしないように呼びかけています。不正確な測定をもとにインスリンなどの薬剤を使用すれば事故につながりかねないとの危惧があるためです。血圧と違って一歩間違えれば大事故につながりかねないだけに、非侵襲型の血糖値測定実現のハードルはかなり高いのが実情です。

難しい技術もありますが、健康トラッカーの技術発展が急ピッチで進んでいることが事実です。どうなれば健康な生活を送れるのか、あいまいな直感ではなく、客観的な数字に基づいて生活改善できる健康トラッカー、今後もますます普及していく製品となるでしょう。


[プロフィール]
高口 康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。