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AIを活用して新たな「ナスカの地上絵」を発見!考古学で活躍するテクノロジー

2024.10.25(最終更新日:2024.10.25)

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2024年9月、南米ペルーの世界遺産「ナスカの地上絵」について、山形大学などの研究グループがAIを活用して半年間で303にのぼる地上絵を発見したことを発表しました。このように考古学の分野でもAI技術を利用した研究が進んでいます。いくつかの事例を見ながら、どのような技術が考古学におけるデジタル革命を可能にしたのか、最前線をお伝えします。

空中写真をAIが分析、半年間で303の「ナスカの地上絵」を発見

はじめにご紹介するのは、AIを「ナスカの地上絵」の発見に活用している事例です。

南米ペルーの「ナスカの地上絵」を研究する山形大学の「山形大学ナスカ研究所」は、IBMワトソン研究所との共同研究プロジェクトで、ナスカの地上絵の調査にAIを活用。AIに空中写真を分析させ、わずか6カ月間で303個の新しい具象的な地上絵を発見するなどの成果をあげています。


山形大学ナスカ研究所はこれまで、人工衛星や航空機、ドローンなどによるリモートセンシング技術・AI技術を用いて、動物や植物、道具などを描いた318個の具象的な地上絵を発見していました。ただ、ナスカ台地は約400平方キロメートルにもおよぶ広大な地域であることから、高解像度の航空写真をすべて目視で確認して現地調査することは時間的に難しいという課題も。効率的な現地調査を行うためには、地上絵が分布している可能性が高い場所を同定する必要がありました。

そこで同大学ではIBMワトソン研究所と提携し、IBMが開発した少量のトレーニングデータで高いパフォーマンスを発揮する強力なAIモデルを活用。飛行機から撮影した膨大な量の空中写真をAIが分析することで、地上絵が存在する可能性の高いエリアを特定できるようになったのです。

ナスカの地上絵「ナイフを持ったシャチ」(提供:山形大学ナスカ研究所)

調査では、合計1,309件の有望な候補が特定され、その約4分の1の候補を現地調査した結果、6カ月間で303件の新たな具象的地上絵を発見。IBMのAIを使用することで、地上絵の発見速度は16倍にも高まりました。さらに、今後、地上絵の可能性が高いと特定した968の候補地についても現地調査を行うことで、より多くの新たな地上絵が発見される可能性も。同大学では今後、IBMの地理空間基盤モデルを活用してAIの能力をさらに向上させることでより多くの地上絵の発見が期待できる可能性があるとしており、これからますますAIを活用した地上絵調査の取り組みは注目を集めそうです。

AIが古墳の形状を学習、立体地図上から未発見の古墳を発見

次にご紹介するのは、3次元地形デジタルデータと機械学習の解析プログラムと膨大な遺跡情報を組み合わせ、遺跡を新発見する試みです。

従来、山中での遺跡踏査は労力がかかり危険度も高いため、山間部の遺跡は未発見の場合がありました。そこで、効率的に遺跡を発見する手法を確立できれば、歴史研究を加速させ、文化財保護にも貢献できると考えた奈良文化財研究所は、「高密度な地理データ」と「機械学習プログラム」と「大量の遺跡情報」の組み合わせが調査手法のブレイクスルーとなり得ると発想。機械学習プログラムを活用する研究を進めました。

研究は、2021年7月から2023年3月の期間に実施。同研究では、地形デジタルデータは兵庫県が公開している高精度地形データを活用。研究工程としては、既知の遺跡を参考にしながら前方後円墳や円墳などの形を特徴形状として整理し、教師データを作成。そして、県内全域でその特徴に適応した新発見遺跡候補を自動解析して位置情報と画像をアウトプットするプログラムを作成し、AIによって出力された新発見遺跡候補を絞り込んだのち、確度が高そうな候補を現地調査する……というのが大まかな流れです。

遺跡調査の工程(提供;奈良文化財研究所)
遺跡の存在確率が高い地区(提供;奈良文化財研究所)

古墳が存在する可能性が高いエリアをAIが予測してスコア化し、立体地図上で可視化できるのが特徴で、同研究では4回の現地踏査を経て、30以上の遺跡を新たに発見しました。

奈良文化財研究所では、今後、地形データのさらなる高精度化や、教師データとなる遺跡位置情報の増加、機械学習ライブラリの性能向上などにより、さらに的確に遺跡候補地を抽出できるようになるとしています。成果報告書はこちら(リンク https://sitereports.nabunken.go.jp/132481)で公開されています。

古文書の“くずし字”をAIが解読

提供:TOPPAN

最後は、古文書の解読にAIを活用する事例です。

熊本大学とTOPPANは、歴史資料「細川家文書(ほそかわけもんじょ)」の “くずし字”で書かれた約5万枚の未解読の古文書を、文書画像に含まれる文字を読み取ってテキストデータに変換するソフトウェア「AI-OCR」で解読する試みを実施。2024年7月に、AIが専門家でも解読が困難な難易度の高いくずし字を解読し、約950万文字のテキストデータを生成することに成功したと発表しました。

くずし字解読の流れ(提供:TOPPAN)

細川家文書とは、江戸時代に小倉藩主・熊本藩主をつとめた細川家に伝来した約288万枚の歴史資料群です。今回解読の対象となったのはそのうち、細川家奉行所の執務記録「奉行所日帳(ぶぎょうしょにっちょう)」や藩主細川忠利の口頭での命令を日次に記録した「奉書(ほうしょ)」、さらに「御国御書案文(おくにごしょあんもん)」「方々(かたがた)への状控(じょうひかえ)」など約5万枚の古文書でした。

解読に活用されたAI-OCRは、蓄積した字形データベースをAIに学習させることで精度を高めていく仕組みで、TOPPANでは2014年から「くずし字AI-OCR」技術の研究を開始していました。同社が独自開発したくずし字AI-OCRは、学習データの質と量が他社製品より高く、搭載されているAIモデルが優秀であることなどを特徴としており、今回の取り組みでは、TOPPANグループが開発したくずし字AI-OCRエンジンに古文書を読み込ませることで、約5万枚、約950万文字もの全文テキスト化に成功しました。

くずし字の解読(提供:TOPPAN)

さらに、解読システムと連動するキーワード検索システムを構築したことで、江戸時代前期の細川藩領国の約90年間にわたる社会的事件や統治制度の変容を示す記述を含んだ資料の検索収集が可能に。実際に、くずし字AI-OCRで作成したテキストデータに対して「地震、大雨、洪水、虫、飢、疫」などの災害に関連するキーワードで検索・調査した結果、300件以上の記述を発見したとのことです。

TOPPANでは今後、グループ会社のTOPPANデジタル、TOPPANエッジとも連携してAI-OCRによる古文書解読支援システムの精度向上を目指すとともに、全国の教育機関、博物館・資料館、地方自治体と提携して、全国各地に眠る貴重な歴史的資料の研究・活用の支援に取り組んでいく考えを明かしています。AIを活用する同社の取り組みにより、これまで解読されていなかった、日本国内に数十億点以上残存すると言われているさまざまな古文書の内容が明らかになる日も近いかもしれません。


写真の分析、地図の解析、古文書の解読……これまで見てきたように、考古学の分野でもAIを活用したさまざまな取り組みが進んでおり、著しい成果をもたらしています。これまで未発見だった遺跡を発見し、判読できなかった文書を解明するAIは、今後も研究者のよき相棒となり、考古学における課題を次々に解決してくれる可能性が高いと言えるでしょう。次はどのような謎を解き明かしてくれるのか、AI活用による“新発見”を楽しみに待ちたいと思います。


<プロフィール>
カワハタユウタロウ
フリーライター。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、Eコマース・通販関連業界紙の編集部に約7年間所属。その後、新聞社系エンタメニュースサイトの編集部で記者として活動。2017年からフリーランスのライターとして、エンタメ、飲食、企業ブランディングなどの分野で活動中。