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日本人女性でもっとも多い乳がん…早期発見・治療に貢献する最新テックとは?

2024.10.25(最終更新日:2024.10.25)

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毎年10月は、乳がんの正しい知識を啓発する「ピンクリボン月間」。30代前半から急増する乳がんは、女性が患うがんの中でもっとも多く、罹患率も増加の一途をたどっています。生涯において約9人に1人が乳がんになる時代とも言われており、早期発見はもちろん、早期診断、早期治療が重要な課題です。そこで今回は、がん検診や疾患への理解、治療効果の予測など、乳がんに関する最新テックをご紹介します。

AIを活用したスクリーニングシステムで、乳がん検診の精度と効率が向上

マンモグラフィーの様子。(※写真はイメージです/PIXTA)

乳がんの早期発見に欠かせない乳がん検診。がん研有明病院とGoogleは共同で、AIを活用した乳がん検診の研究に取り組んでいます。Googleは、マンモグラフィ画像から乳がんを特定するためのAIモデルを開発。その後、がん研有明病院との共同研究で、AIモデルの有効性を日本人女性で検証してきました。

2024年6月に発表された共同研究では、乳がん検診を受けた日本人女性のマンモグラフィ画像を使い、AIモデルのパフォーマンスを分析。その結果、AIモデルを用いたスクリーニングシステムは、乳がん検出の精度を7.6%向上させることがわかりました。精度が上がれば、早期発見はもちろん、治療の選択肢が増えるというメリットにもつながります。

また、現在の日本では、2人の異なる読影医によって、マンモグラフィ画像を二重読影することが推奨されており、人的負担が大きな課題になっていました。そのため、第2読影者をAIモデルに置き換えることで、人的負担を軽減するとともに、診断の質の統一化や見落としリスクの軽減などが期待されています。

さらに、AIを活用したスクリーニングシステムは、検診プロセスの効率化にも寄与。第2読影者にAIモデルを用いることで、通常の二重読影に比べ、医師による追加確認が71%削減できる可能性が示唆されています。作業負荷のかかる追加確認の大幅削減が実現できれば、医療システムへの負担軽減に貢献できそうです。

東大発のベンチャー「リングエコー撮像法」で、“痛くない”乳がん検診が可能に

COCOLY(提供:リリーメドテック)

乳がん検診には、視診や触診、マンモグラフィ、超音波検査など、さまざまな方法があります。東大発のベンチャー企業「Lily MedTech(リリーメドテック)」は、東京大学医学系研究科・工学系研究科の医用超音波技術をもとに、新たな乳房用リング型超音波画像診断装置「COCOLY(ココリー)」を開発。2021年5月に国内の薬事認証を取得しております。

COCOLYには、同大学で研究されていた散乱像再構成技術「リングエコー撮像法」を実装。360度からの画像を合成して1スライスずつ撮像するため、均質で解像度の高い画像が得られます。撮像開始ボタンを押すだけで自動撮像できるので、検査者のスキルに依存することもありません。

同装置はベッド型になっており、受診者はうつぶせで乳房を開口部に入れるだけで、乳房内を撮像。マンモグラフィのように乳房を圧迫することがなく、痛みもないのが特徴です。乳房を下垂させた状態で撮影するため、自然な形に近い乳房全体の3D画像を撮影できます。

撮影の様子(提供:リリーメドテック)

また、アジア人女性は乳腺比率が高いといわれています。マンモグラフィでは、乳腺も腫瘍も白く映るため、乳がんの判別が困難な場合も。その点、同装置では、超音波を採用しているため、乳腺比率に影響を受けずに検査が受けられます。さらに、マンモグラフィのようなX線撮影ではないため、被ばくの心配もありません。

再現性の高い3D画像が撮影できるだけでなく、誰にも見られたり触られたりすることなく検診が受けられるCOCOLY。今後は、AIを活用した診断支援ツールの開発も進めており、さらなる検診精度の向上が期待されています。

AIアバターが疾患説明、乳がんの疑問点もチャットボットで回答

「対話型乳がん疾患説明生成AI」の画面(提供:日本IBM)

医薬基盤・健康・栄養研究所、大阪国際がんセンター、日本アイ・ビー・エムは、2024年8月より、乳腺・内分泌外科の外来初診患者に向けた「対話型乳がん疾患説明生成AI」の実運用をスタート。AIアバターと生成AIチャットボットを組み合わせた双方向型の会話システムで、疾患と治療に対する理解を深めることが目的です。

患者は、受診前にQRコードからWEBブラウザにアクセスすると、診療前の待ち時間中に疾患の説明動画を視聴可能。疑問点があれば、キーボードや音声でチャットボットに入力して、生成AIと対話形式で質問することもできます。なお、同システムには、IBM watsonx.aiがサポートする最新の大規模言語モデル(LLM)が活用されています。

これまでの乳がん診療では、患者のライフスタイルや希望に合わせた治療法を選択するなど、内容が複雑なため、疾患説明と同意取得に約1時間を要していました。今後は、対話型乳がん疾患説明生成AIの導入で、疾患説明と同意取得にかかる時間を30%軽減することを目指しています。

また、乳がんの罹患数が増加するなか、全国の乳腺専門医は減少傾向にあり、十分な診療が行えない地域も多く存在しています。今後は、オンラインの対話型乳がん疾患説明生成AIを活用することで、全国どこでも標準的な専門治療を受けられるようになることが期待されています。

早期発見・治療が重要視される「乳がん」、日本の検診受診率は47.4%

早期発見し、早期治療を行うことができれば、完治する可能性が高い乳がん。しかし、日本での乳がん検診受診率は47.4%にとどまっており、諸外国に比べて低いのが現状です。今後は、AIをはじめとする最新テックを活用した技術が、乳がん診療の要となりそうです。


文/渡邊晃子
フリーライター。1983年生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て、2010年からフリーランスのライターとして活動。WEB媒体を中心に、エンタメ、ライフスタイル、テック、子育てなどの分野で執筆を行う