多くの人が関心を寄せるAGV(自動搬送車)
「物流」と聞いて、あなたはどんなイメージを持つでしょうか?
高速道路を走る長距離トラック、早朝に全国各地から新鮮な魚介類が集まる東京豊洲市場での荷下ろし風景、またはオンラインショッピングで購入した商品を自宅に配送する軽貨物車など…。
日常生活のなかで、物流との接点は人によっていろいろあると思います。
そんな物流の最新事情を知るため、国際物流展(2024年9月10日〜13日、東京ビッグサイト)を訪れてみました。
各種企業の出展のなかで、多くの人が関心を示していたのが、AGVです。
AGVの形状は、棚や小型ディスプレイを搭載したものや、輸送用のパレットの下に入り込み、持ち上げて移動するタイプなど、大きさや仕様が違うモデルがすでに導入されています。
稼働している場所は、自動車の最終組立工場や物流倉庫など、基本的には屋内を想定したものが主流です。
狭い斜面を素早く移動するだけではない…収納・ピッキングもあっという間
そうしたAGVの性能で注目されるのは、動きの「速さ」と「正確さ」です。
まず「速さ」ですが、パレットの下に入り込んで移動させるAGVが動く様子を見て、これまで取材で多くのAGVを見てきた筆者も「相当速い」と感じました。
出展した各社関係者によりますと、一般的には最高速度が時速1.5〜2.5km程度で、モデルによっては時速4km以上にセッティングすることも可能だといいます。
時速4kmというと、人が歩く速度のなかでも「速歩き」に近い速度ですが、今回見たモデルは、時速4kmに到達するまでの時間も速いのです。つまり、加速がよく、停止した状態からスーッと速やかに動きます。
移動する場所は、平坦なところだけとは限りません。平坦な場所から斜面がある狭い誘導路にそのまま進入するケースもありますが、それでも誘導路の壁面に接触することなく、実に正確な動きを見せます。
さらに驚くのは、平坦な場所から倉庫の棚の下に移動し、そのまま棚に沿って上下左右に一気に動き、収納とピッキングを極めて短時間に終えることです。
技術的には、いわゆる自動運転に属しますが、物流業界では「自動認識」と呼ばれる領域になります。
使われるのは、日常生活でも馴染みのある二次元バーコードや、路面に貼るマーカーをAGVが認識して走行するケース。または、AGV自体にレーザーを使って周囲の状況を検知するライダーを装着するケースなどがあります。
AGVと連動するテック、「RFID」とは?
また、AGVが運ぶパレットを正確に選ぶためには、RFID(アール・エフ・アイディー)が重要なテックとなります。
これは、電波を用いて無線で通信を行い、データの読み取りをする技術のことです。このRFIDタグをAGVとパレットに装着することで、その周囲に設置したセンサーがパレットを認識し、その場所とAGVの動きが連動するのです。
物流倉庫内を速い速度で、しかも正確に荷物を移動するには、各種センサーやRFIDを駆使して、AGVの動きのパターンを総合的に制御するアルゴリズムが必要だと感じました。
こうした自動認識技術を含めたAGVの総合制御の領域で、日本企業の活躍の場が広がりそうです。
たとえば、日系大手電機メーカーは、中国のAGVメーカーと合弁事業を始めていますが、その理由について「中国では一定の性能を、コストを抑えて実現することができるが、メインテナンスを含めた持続的で総合的なシステム制御と管理で、我々の知見が大いに活きる」と指摘します。
また、パレットを運ぶAGVは、パレットの大きさやパレットに積む荷物の重さに対応して、モーター出力やタイヤサイズが大きいAGVもすでに市場導入されています。
今後はAGVとフォークリフトの機能を合体させたタイプが続々と導入されそうです。
AGV需要の高まりの背景にある「2024年問題」
近年、フォークリフト業界では従来のディーゼルエンジンからバッテリー駆動のモーター、または水素を燃料として使う燃料電池フォークリフトの需要が高まっているところです。
物流倉庫内で排気ガスが出ないことで、作業する人たちの健康や、商品に対する臭いへの対応などの面で電動または燃料電池フォークリフトに注目が集まっています。
関連するメーカー関係者は「SDGsからも近年、受注が確実に増えている状況だ」と市況を分析しています。
さまざまな技術を連携して、多様化が進むAGV。
物流業界関係者の声を拾ってみると「この数年で一気に需要は伸びたが、市場の動きを見れば今後も着実に市場は拡大していく」という見方が主流です。
需要の高まりの背景には、いわゆる「2024年問題」におけるトラック物流における法改正や、物流業界全般における慢性的な人手不足があります。
そうした社会情勢に対応するため、物流業界では物を運ぶ動線を大きく変えてきました。都心周辺部で高速道路の出入り口に近い場所に、大型物流拠点を構えるなかで、物流拠点内での作業効率化をゼロから設計する際、AGV導入は必須アイテムになっているのです。
さらに、AGVの活用は中小物流事業者向けとしても徐々に浸透し始めているようです。
インターネットでのB2CやB2BのEC市場が今後も拡大することが予測されるなか、物流業界のDXの必要性は益々高まり、それにあわせてAGVの活躍の場も広がることでしょう。
桃田 健史
自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。