ライオンやキリン、マレーバクも! ロボットを通して実物に触れる感触が得られる「感触再現ロボット」
はじめに紹介する「アニマルタッチメカランド in 多摩動物公園」では、通常の動物園の営業中には体験することのできない“動物たちの感触”を再現したロボットが活躍します。
こちらは東京都が手がける事業「西新宿先端サービス実装・産学官コンソーシアム」における「大学発先端技術開発プロジェクト」の企画。医療やものづくりの分野などでロボット制御技術の開発を手がけるモーションリブがもつ感触制御技術「リアルハプティクス」と、一般的なVR(仮想現実)・AR(拡張現実)の技術を組み合わせて“触覚”と“視覚”に訴えます。新しい“動物と人間の触れあいの形”から動物について学ぶことができる、次世代のエデュテインメントです。
「アニマルタッチメカランド in 多摩動物公園」は、2024年7月に2日間にわたって開催。事前に採取したデータをもとに「マレーバクの足裏」や「キリンの食べるときの引っ張る力」をロボットが再現します。動物園にある柵の外側からは知ることのできない“動物の感触”を、来場者が専用のロボットで体験しました。
同イベントは2日間で延べ552人がコンテンツを体験。体験者の95%が好意的な印象をもっており「子どもたちにとってもいい経験や学びになった」「機械が斬新で本当に触っているかのようだった」といった感想が寄せられています。
モーションリブはこうしたアンケート結果を受けて「今後も先端技術を活用したサービスが展開される」ことへの期待度の高さを感じており、「これからも感触制御技術を活用した新たなエデュテインメントを提案していきたい」と、建設的な姿勢を示しています。
AI搭載自動運転ロボットが園内を巡って案内するオンラインの動物園「ZOOトリップ」
次にご紹介するのは、AI搭載の自動運転ロボットを使った動物園の事例です。
1人乗りの自動走行ロボット「RakuRo(ラクロ)」を開発したZMPと商社の双日が組んで「ZOOトリップ」(千葉市動物公園にて2023年10月から今年3月に開催)をローンチしました。
ZOOトリップは来場者がラクロに乗車して動物園内を周遊できるサービス。ラクロにあらかじめ走行ルートの3Dマップを読み込ませ、必要な条件を入力すると、AIが最適なルートを導き出して目的地まで自動で移動します。
走行を妨げる障害物はセンサーが認識して迂回することができる、頼れる“歩行速モビリティ”です。
ZOOトリップには「チーター、ライオン、レッサーパンダなどがいるAコース」と「ゾウ、キリン、カンガルーなどがいるBコース」が用意されています。利用者がどちらかのコースをタブレットで選択すると、ラクロが自動走行を開始します。走行中は音声による動物ガイドを聞くことができます。
2台のラクロが前後に並んで移動する“ペアリング走行”で、親子や友人同士で一緒に楽しむことも。
コロナ禍には自動走行ロボットを活用した「オンライン動物園」を開催
コロナ禍にはそんなラクロを活用した「オンライン動物園」(千葉市動物公園にて、2020年5月17日開催)がローンチされました。オンライン動物園は次の2つの企画から成ります。
1つ目は、職員がラクロに乗って園内を走行しながら撮影した動画をインターネットで生配信することで、ユーザーがリアルタイムで“360度ビュー”の動物観察ができるコンテンツです。スタッフによる撮影映像に加え、ラクロ自身が搭載しているカメラによる撮影映像も観ることができ、多角的に動物園を楽しむことができます。動画の再生数は2万回以上(2コマ合わせた3時間の総数)を記録しています。
2つ目は、オンラインユーザーが1人1分ずつ、早押し方式でラクロの遠隔操縦ができる「ラクロ操縦室」です。計2,000人以上が参加し、こちらも大きな注目を集めました。
オンライン動物園の他にも、ラクロを開発したZMPは2024年に、NTTコミュニケーションズやフューチュレック、博報堂らと共同で動物園の枠を飛び越えたイベントを開催しています。ラクロに乗った参加者がMR(複合現実)専用のゴーグルを装着すると目の前に動物たちが出現するナイトサファリパーク「TOKYO NIGHT SAFARI」です。アーバンドックららぽーと豊洲にて行われました。(2024年3月15日~24日)、
チケットは即日完売という人気を博し、今夏にもTOKYO NIGHT SAFARI(8月29、30日)がZMP World 2024にて開催されることが予定されています。
物理的な工事をせずに、園内をインタラクティブ空間へと変えるMRプラットフォーム「Auris」
最後に紹介するのは、MRプラットフォームAurisを活用した動物園の事例です。
ファミリー層をメインターゲットとする愛媛県立とべ動物園は、近年、少子化による「集客低減」や「施設の老朽化」という課題に直面しています。また、「若年層を中心とした新たなファン獲得のために動物園の魅力を積極的に発信したい」という想いがありながら、スタッフは既存業務に日々追われて、満足な発信ができていませんでした。
そうした状況に一石を投じたのがAurisを活用した2つのコンテンツです。1つ目が多言語音声ガイド。2つ目が謎解き体験イベントです。
1つ目の多言語音声ガイド「どうぶつガイド」は、今年4月から常設されています。参加者はAurisアプリをダウンロードしたスマートフォンを手に、イヤホンをつけて動物園を散策します。園内5ヵ所にある対象エリアを歩くと、動物の生態やプロフィールなどを教えてくれる音声コンテンツを楽しむことができます。
従来の専門機器による音声ガイドと異なり「推しの動物」に投票したり、「動物に関連したクイズ」に答えたり、ユーザーが能動的に参加して楽しめるのも魅力です。
2つ目の謎解きイベント「とべ動物園謎解き周遊『ひらめき! とべ動物園探偵団〜3つの事件と隠された真実〜』」は、園内を周遊しながら謎解き体験を楽しむことができます。
どうぶつガイドと同じく「特定の場所へ実際に足を運ぶことで、その場所にひもづいたコンテンツの視聴」ができる “現地体験型”というAurisの特性が活かされています。
園内にある手がかりから謎を解いていく新感覚のアトラクション(有料)で、あらかじめ音声が登録された“指定の場所”でコンテンツを視聴しないと、謎を解くことができないという仕掛けになっています。Aurisの開発を手掛けたGATARIは「体験者が主体的に学びながらコンテンツを楽しめる仕組み」と語っています。
両コンテンツは、それぞれローンチから1ヵ月間で利用者が100人を超え、いずれも高い注目を集めています。ともに施設を増設したり、スタッフの負担を増やしたりすることなく動物園と動物たちの魅力を発信し、来園者の満足度向上に寄与しています。
動物園は最新テクノロジーでますます魅力的に
いつもは触れることのできない動物の感触を再現するロボットや自動走行ロボット、MRプラットフォーム――最新テクノロジーを取り入れることで、近年の動物園はより魅力的な場所へと変わりつつあります。
テクノロジーの進化のみならず、動物学・教育学等の研究の進歩に伴って変わり続けるであろう動物園から、これからも目が離せません。
文/カワハタユウタロウ
フリーライター。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、Eコマース・通販関連業界紙の編集部に約7年間所属。その後、新聞社系エンタメニュースサイトの編集部で記者として活動。2017年からフリーランスのライターとして、エンタメ、飲食、企業ブランディングなどの分野で活動中。