当社サイトでは、サイト機能の有効化やパフォーマンス測定、ソーシャルメディア機能のご提供、関連性の高いコンテンツ表示といった目的でCookieを使用しています。クリックして先に進むと、当社のCookieの使用を許可したことになります。Cookieを無効にする方法を含め、当社のCookieの使用については、こちらをお読みください。

世界で和食ブームを生み出すカギはロボット! 食品製造機器の最前線

2024.07.30(最終更新日:2024.07.30)

読了時間目安 8

シェアする

和食が世界で本格的なブームになっています。海外で人気になっている和食を細かく見ていくと、寿司や天ぷらはもちろんのこと、おにぎり、ラーメン、カレーライス、牛丼など、日本で定番人気の料理が続々進出していることに驚かされます。しかしながら和食の海外進出において問題になるのが、製造ノウハウや職人の人手不足。寿司や日本蕎麦など熟練の技を必要とする料理となれば、誰でも気軽に開業・運営できるわけではありません。

ところがそのような問題を解決し、従来よりも気軽にスタートアップできる環境を後押ししてくれるのが、食品製造機器の技術進化なのです。そこで今回は、今年6月に日本で開催された「FOOMA JAPAN 2024(※)」で国内外から多くの注目を集めていた食品製造機器を厳選し、注目される最新技術の詳細をわかりやすくご案内していきたいと思います。

※FOOMA JAPANとは?
世界最大級の食品製造に関する総合展示会。食品製造に関する最新技術やソリューションが一同にそろい、2024年は国内外から11万人以上の来場者が集まった。

機器のコンパクト化で広がる寿司の世界

寿司ロボットという造語を作ったのが、鈴茂器工です。(著者撮影)

まずは、和食を語る上で絶対に欠かせない「寿司」を生み出す製造機器の話からはじめていきましょう。鈴茂器工(本社:東京都中野区、以降スズモ)は1981年に寿司のシャリ玉を作る機器「寿司ロボット1号機」を開発して以降、寿司ロボットのシェアナンバーワンを走り続けるパイオニア的存在。現在は世界80カ国以上に進出、国内では大手回転寿司チェーンの8割強がスズモの寿司ロボットを導入しています。


そして今年7月に登場したのが、「コンパクトシャリ玉ロボットS-Cube(エスキューブ)」。軽量かつコンパクト化を実現した設計により、様々な調理器具や食材が置かれるキッチン・厨房の中の小さなスペースでも設置ができることが最大の魅力。導入先の国はもちろんのこと、飲食店の業態問わずにプロ級のシャリ玉を作ることが可能になります。

スズモの寿司ロボットが圧倒的に評価されている理由は、作り出されるシャリ玉のクオリティにあります。口の中でほぐれる、絶妙にふんわりとした食感は機械が作ったものとは思えない、感動をともなうおいしさを生み出すのが、スズモならではの“米粒を傷めない”技術とアナログ的なノウハウの組み合わせによるもの。


S-Cubeのこだわりは、にぎりの硬さや密度を数値化し、炊かれたごはんの特性をふまえたパーツ素材を組み合わせるという、独自の技術を採用している点にあります。成型、計量すべてにおいて最高の状態を作り出すためには、緻密なデジタル技術だけでは実現しないそうで、熟練職人が持つ、お米を良い状態のまま扱うためのノウハウを機器の素材や動き方で再現することが重要になると言います。詳細は企業秘密とのことですが、シャリ玉は12g~20g まで1g 単位で大きさと固さの調整ができ 、1台で握り寿司から軍艦巻きなど、用途にあわせてシャリ玉の大きさを調整できます。


スズモではこれらの製造技術を寿司ロボットだけでなく、丼物やカレー、おにぎりを作ることができる「ご飯盛り付けロボット」にも活用しています。1台で多メニューを安定的に作れること、操作性の向上、コンパクトさの実現により、日本の米食文化が世界にますます広がっていくことが予想されます。

丼物の盛りつけができる米飯ロボット「Fuwarica」 は、海外でも大人気のおにぎりを誰でも簡単に作ることができる。(著者撮影)

職人の手打ちが必須だった「十割蕎麦」を簡単に作る世界初の製麺機

誰にでも使いやすく、いつでも高品質の十割蕎麦が打てるようになっている。(大和製作所提供)

続いては、「蕎麦」について。江戸時代に人々の胃袋を満たす日本を代表する食として、小麦粉のつなぎを2割入れた二八蕎麦が主流で広がりました。その流れの中で近年は、つなぎを使わない「十割蕎麦」が特別視されるようになり、本当においしい十割蕎麦は特別である一方、それを手打ちできるのは、長い修行を経た熟練職人だけに限られる状況になっていました。そんな状況を打開したのが、大和製作所(本社:香川県宇多津町)の新型そば製麺機「坂東太郎プラス」。最高品質の十割蕎麦を誰でも簡単に作ることができる“世界初の画期的な製麺機”です。

新型そば製麺機「坂東太郎プラス」(大和製作所提供)

この機器で大きなポイントとなるのが、「三本麺延ばし」。圧延を重ねて長く伸びる蕎麦生地を均一な厚さで伸ばすために一流蕎麦職人が行う工程で、生地の自動巻取りや巻き戻しの機能を駆使することで、本場江戸流の三本麺棒圧延の仕組みを機械で再現しています。その他、0.1mm単位のデジタル麺圧計を搭載することで生地を均一に仕上げ、ベアリング駆動を採用することで直角包丁切りができる仕組みを実現しました。その他にも蕎麦打ち工程の中で最も難しいとされる「水回し」や、生地中に含まれる空気を抜くように練りこむ「菊揉み」などの匠の技をロボットが再現することにより、修行を全くしていないようなパートスタッフでも簡単に美味しい十割蕎麦を打つことができようになっています。

和菓子から洋菓子や調理食品まで…さまざまな成形作業を可能にする「包あん機」

1時間で3,600個の豆大福の成型が可能になっている。(レオン自動機提供)

最後は、大福やまんじゅうを成形できる「包あん機」のご紹介です。世界で初めてまんじゅうやクロワッサンの自動成形機やシステムを開発したのがレオン自動機(本社:栃木県宇都宮市)。社名にある「レオン」は、物質のもつ「粘性」や「弾性」といった性質を基にその物質の流動を解明する流動学(レオロジー)に由来。このレオロジーを礎とする応用工学から 「粘性」と「弾性」の条件を巧みに利用して、食品のデリケートな味や食感を損なわず成形する自動化システムを開発、製造しています。

「火星人 CN700」(レオン自動機提供)

今回ご紹介する「火星人 CN700」は、一台で和菓子のみならず洋菓子やコロッケなどの調理食品まで様々なメニューが作れる万能型包あん機。手作りのような本格和菓子を1時間で最大5100個作ることができます。高性能の秘密は大きく2つ。サイクロイド式生地送り機構によって生地の流量が安定させて、豆大福やチョコチップクッキーなど粒上素材をスムーズに送り出すことが可能に。また2段コンベヤー仕様により、小さな形状の和菓子を高速かつ均一に生産することができます。さらに別のオプションを搭載することでクリームやジャム等の柔らかい素材や、栗やフルーツなどの固形物もつつむ事ができるため、洋素材を組み合わせたネオ和菓子の製造もできるようになると言います。国内のご当地食材を使ったその土地ならではの和菓子を製造することができ、お菓子や総菜の概念にも楽しい進化が期待されます。

食品を生み出す製造機器の技術は食文化の多様化やグローバル化にともなって、可能性は無限大に広がりつつあります。和食が世界中いろいろなシーンで花開く時代もそう遠くはありません。


<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。